春風吹けば(前編)
さらさらと・・・ゆらゆらと風が流れる。
ふわふわと・・・くるくると花びらがそこに舞う・・・
「パパァ・・・どうしたのぉ?」
「パパ、なに見てるの?」
くすっ・・・俺が真顔で寝っ転がったまま空を見てるから玲音と玲那が不思議そうに見下ろしてる。
桜にも負けない可愛い天使が俺を見てる・・・つくしそっくりの大きな目をして。
「パパァ、玲那も横に寝ていい?」
「・・・いいよ、おいで、玲那」
「あぁーっ!ぼくも、ぼくもパパのこっちの手、これぼくのだからね?!」
「あはっ、この手は玲音のものじゃないよ」
「そうだよ、玲音!パパの手はパパのものだよ!」
くすっ・・・残念でした。
俺の全部はつくしのもの・・・この手はつくしのものだよ。なんて、子供に判るわけ無いから言わないけどね。
右側に玲那、左側に玲音が寝転んで桜の木の下で「川」の字・・・秋より少し成長したって言うけどまだまだ子供だよね。
ほら・・・寝っ転がったらもう本当に寝てる。
昔、寝坊助だった俺にそっくり・・・小さな可愛い寝息が両隣から聞こえてくる。
すぅすぅ・・・ ふわふわと花びらが1枚落ちてきた。
すぅすぅ・・・ ゆらゆらとダンスを踊るみたいに・・・
でも、俺は寝られないんだ・・・この春風に誘われても、この桜に誘われても。
どれだけ双子が俺を誘っても、今日はこのまま目を開けて待ってなきゃ。
もうすぐだから・・・きっと、もうすぐだから。
「類様!お急ぎくださいませ!!」
加代の声が聞こえた。
俺は急いで飛び起きて、まだ眠気眼の双子を同時に抱えて屋敷に戻った。
「つくしは?」
「もうお車の方に!大丈夫ですよ、ご経験がおありだからしっかりしておいでです」
「うん、玲音と玲那を頼む!」
「畏まりました!」
急いでガレージに行くとそこには既にエンジンをかけた車が待機していて、落ち着かない様子の執事がドアを開けて待っていた。俺が飛び乗ると同時に車は静かに動き始める・・・今から新しい命をこの世に送り出そうとしてるつくしをすぐに抱き締めた。
「大丈夫?つくし、頑張れ!」
「はぁはぁ・・・うん、大丈夫だよ、このぐらい・・・はぁ、いたたたっ・・・」
「だから言ったのに・・・もう少し早くから病院に入れって。あんた、我慢ばっかりするから」
「だって可哀想じゃない。玲音と玲那、病院には泊まれないもん」
「そのぐらい我慢するって・・・馬鹿だな」
「うふふ、ギリギリまでお屋敷に居たかったのよ。はぁ・・・うっ!」
「頑張れ!もう少しだから!」
つくしが臨月を迎えていて、何度言っても「ギリギリまで家族と一緒に」を繰り返すから、屋敷にいても会社にいても気が気じゃなかった。
玲音と玲那の時はフランスに居て立ち会えなかった・・・だから今回は絶対に傍に居るって決めていたから。
だから居眠りなんて出来やしない。
仕事のメールも会議資料も頭になんか入らなくて、最近の俺は回りから呆れられてたんだから。
「早くお生まれにならないと業務が進みませんね!」って藤本に言われたら素直に頷いて、やっぱり呆れられてあいつに全部仕事押し付けたんだから。
「玲音と玲那は・・・?」
俺の腕の中で苦しそうな顔しながら子供達の心配をしてる。
額に汗を浮かべて、大きなお腹を自分で支えるようにして、指先が熱くて震えてる・・・時々襲ってくる陣痛はこれでもまだ軽いらしいけど、初めて見るつくしの歪んだ顔に俺のドキドキが止まんない。
「すぐに加代が連れて来てくれるから大丈夫。桜の下で昼寝してたんだ。だからきっと今頃泣いてるよね・・・何が起きたか判ってないんだと思うよ。俺、寝てるあの子達を引っ抱えて屋敷に駆け込んだから」
「あはは・・・!類は寝なかったの・・・?」
「寝られないでしょ?こんなあんたを置いといて」
熱っぽい頬にキス1つ・・・擽ったそうに笑う時も眉が寄っちゃう。
だから今度は眉根にもキス、そうしたら普通の顔になって腕の中で目を閉じた。
病院に着いたらすぐにつくしは分娩待機室に運ばれた。
凄く辛そうで、凄く痛そうで苦しそうなのに、凄く幸せそうに笑って俺に手を振ったんだ。
「後でね・・・類、後でね」って小さな声で呟きながら・・・それを見たら胸が苦しくなった。
病院の特別室・・・まだ誰もいないこの部屋で窓から桜の花を見下ろしていた。ここからだと桜の舞い落ちる様子は見られなかったけど、暫くしたら桜の妖精が2人、枝の間からくるくると踊るように現れた。
揺れる枝の間から、玲音がうさぎのように飛び跳ねる。
流れる春の風の中、玲那が小鳥のように歌ってる。
2人が手を繋いで駆け回る・・・その後ろには黄色いタンポポが咲いてて、桜の花はまるで観客みたいに2人に拍手してる。
くすっ・・・やっと来た。
「パパァ!ママは?ママはどこぉ?」
「あれぇ?ママが居ない~!どうして居ないの?」
加代に連れられて入ってきた双子は、部屋に入るなりつくしの姿を探してキョロキョロしてる。俺が手招きすると急いで寄って来たけど、不安そうな顔で今にも泣き出しそうだった。
「そんな顔しなくてもいいんだよ。ママはね、今すっごく頑張ってるんだ。もうすぐ新しい家族が生まれてくるんだよ」
「赤ちゃん、もうすぐ?男の子?女の子?」
「弟だよね?パパ!ぼく、いっしょにサッカーするんだもん!」
「どっちなのかは聞いてないんだ。でも、どっちが生まれても嬉しいだろ?」
「うん!玲那、おせわするの~!」
「ぼくも抱っこする~!」
加代がつくしのものを片付け始めて、双子は部屋の中で遊んでいた。
実は俺が1番落ち着かない・・・本当は今すぐつくしの所に行って支えてあげたくて堪らなかった。
部屋の中をウロウロすると加代に窘められ、机を指で叩くと玲音に顔を覗き込まれ、腕組みして窓から空を見上げてると玲那も同じ事をした。
珈琲を出されても冷めてしまうし、玲那にもらったキャンディは包みも開けずに手に持ったまま・・・いつの間にか玲音に食べられていた。
「類様、大丈夫ですから」・・・加代がそう言ったらしいけど、聞こえてなかったみたい。
陽が暮れ始めて時計を見たらここに来てから3時間・・・随分時間が経ってしまったから、玲音も玲那もつくしのベッドでスゥスゥ寝ていた。
その時、廊下からパタパタと足音が聞こえた。
ノックされる前に急いでドアを開けると・・・
「花沢様、どうぞこちらに。間もなくですよ」
今日は類君のお誕生日♥イベントも楽しんでいただけてますか?
明日もお話しの予定があります。最後まで宜しくお願いします~♡
本日のお話しは秋にお届けしました「秋風吹けば」の続編です。
本当は年末出産予定でしたが(笑)多忙につきここまで延ばしました。
なので秋に大きかったお腹なのに今かいっ!って言わないで下さいね💦
後編は15:00です♡
ふわふわと・・・くるくると花びらがそこに舞う・・・
「パパァ・・・どうしたのぉ?」
「パパ、なに見てるの?」
くすっ・・・俺が真顔で寝っ転がったまま空を見てるから玲音と玲那が不思議そうに見下ろしてる。
桜にも負けない可愛い天使が俺を見てる・・・つくしそっくりの大きな目をして。
「パパァ、玲那も横に寝ていい?」
「・・・いいよ、おいで、玲那」
「あぁーっ!ぼくも、ぼくもパパのこっちの手、これぼくのだからね?!」
「あはっ、この手は玲音のものじゃないよ」
「そうだよ、玲音!パパの手はパパのものだよ!」
くすっ・・・残念でした。
俺の全部はつくしのもの・・・この手はつくしのものだよ。なんて、子供に判るわけ無いから言わないけどね。
右側に玲那、左側に玲音が寝転んで桜の木の下で「川」の字・・・秋より少し成長したって言うけどまだまだ子供だよね。
ほら・・・寝っ転がったらもう本当に寝てる。
昔、寝坊助だった俺にそっくり・・・小さな可愛い寝息が両隣から聞こえてくる。
すぅすぅ・・・ ふわふわと花びらが1枚落ちてきた。
すぅすぅ・・・ ゆらゆらとダンスを踊るみたいに・・・
でも、俺は寝られないんだ・・・この春風に誘われても、この桜に誘われても。
どれだけ双子が俺を誘っても、今日はこのまま目を開けて待ってなきゃ。
もうすぐだから・・・きっと、もうすぐだから。
「類様!お急ぎくださいませ!!」
加代の声が聞こえた。
俺は急いで飛び起きて、まだ眠気眼の双子を同時に抱えて屋敷に戻った。
「つくしは?」
「もうお車の方に!大丈夫ですよ、ご経験がおありだからしっかりしておいでです」
「うん、玲音と玲那を頼む!」
「畏まりました!」
急いでガレージに行くとそこには既にエンジンをかけた車が待機していて、落ち着かない様子の執事がドアを開けて待っていた。俺が飛び乗ると同時に車は静かに動き始める・・・今から新しい命をこの世に送り出そうとしてるつくしをすぐに抱き締めた。
「大丈夫?つくし、頑張れ!」
「はぁはぁ・・・うん、大丈夫だよ、このぐらい・・・はぁ、いたたたっ・・・」
「だから言ったのに・・・もう少し早くから病院に入れって。あんた、我慢ばっかりするから」
「だって可哀想じゃない。玲音と玲那、病院には泊まれないもん」
「そのぐらい我慢するって・・・馬鹿だな」
「うふふ、ギリギリまでお屋敷に居たかったのよ。はぁ・・・うっ!」
「頑張れ!もう少しだから!」
つくしが臨月を迎えていて、何度言っても「ギリギリまで家族と一緒に」を繰り返すから、屋敷にいても会社にいても気が気じゃなかった。
玲音と玲那の時はフランスに居て立ち会えなかった・・・だから今回は絶対に傍に居るって決めていたから。
だから居眠りなんて出来やしない。
仕事のメールも会議資料も頭になんか入らなくて、最近の俺は回りから呆れられてたんだから。
「早くお生まれにならないと業務が進みませんね!」って藤本に言われたら素直に頷いて、やっぱり呆れられてあいつに全部仕事押し付けたんだから。
「玲音と玲那は・・・?」
俺の腕の中で苦しそうな顔しながら子供達の心配をしてる。
額に汗を浮かべて、大きなお腹を自分で支えるようにして、指先が熱くて震えてる・・・時々襲ってくる陣痛はこれでもまだ軽いらしいけど、初めて見るつくしの歪んだ顔に俺のドキドキが止まんない。
「すぐに加代が連れて来てくれるから大丈夫。桜の下で昼寝してたんだ。だからきっと今頃泣いてるよね・・・何が起きたか判ってないんだと思うよ。俺、寝てるあの子達を引っ抱えて屋敷に駆け込んだから」
「あはは・・・!類は寝なかったの・・・?」
「寝られないでしょ?こんなあんたを置いといて」
熱っぽい頬にキス1つ・・・擽ったそうに笑う時も眉が寄っちゃう。
だから今度は眉根にもキス、そうしたら普通の顔になって腕の中で目を閉じた。
病院に着いたらすぐにつくしは分娩待機室に運ばれた。
凄く辛そうで、凄く痛そうで苦しそうなのに、凄く幸せそうに笑って俺に手を振ったんだ。
「後でね・・・類、後でね」って小さな声で呟きながら・・・それを見たら胸が苦しくなった。
病院の特別室・・・まだ誰もいないこの部屋で窓から桜の花を見下ろしていた。ここからだと桜の舞い落ちる様子は見られなかったけど、暫くしたら桜の妖精が2人、枝の間からくるくると踊るように現れた。
揺れる枝の間から、玲音がうさぎのように飛び跳ねる。
流れる春の風の中、玲那が小鳥のように歌ってる。
2人が手を繋いで駆け回る・・・その後ろには黄色いタンポポが咲いてて、桜の花はまるで観客みたいに2人に拍手してる。
くすっ・・・やっと来た。
「パパァ!ママは?ママはどこぉ?」
「あれぇ?ママが居ない~!どうして居ないの?」
加代に連れられて入ってきた双子は、部屋に入るなりつくしの姿を探してキョロキョロしてる。俺が手招きすると急いで寄って来たけど、不安そうな顔で今にも泣き出しそうだった。
「そんな顔しなくてもいいんだよ。ママはね、今すっごく頑張ってるんだ。もうすぐ新しい家族が生まれてくるんだよ」
「赤ちゃん、もうすぐ?男の子?女の子?」
「弟だよね?パパ!ぼく、いっしょにサッカーするんだもん!」
「どっちなのかは聞いてないんだ。でも、どっちが生まれても嬉しいだろ?」
「うん!玲那、おせわするの~!」
「ぼくも抱っこする~!」
加代がつくしのものを片付け始めて、双子は部屋の中で遊んでいた。
実は俺が1番落ち着かない・・・本当は今すぐつくしの所に行って支えてあげたくて堪らなかった。
部屋の中をウロウロすると加代に窘められ、机を指で叩くと玲音に顔を覗き込まれ、腕組みして窓から空を見上げてると玲那も同じ事をした。
珈琲を出されても冷めてしまうし、玲那にもらったキャンディは包みも開けずに手に持ったまま・・・いつの間にか玲音に食べられていた。
「類様、大丈夫ですから」・・・加代がそう言ったらしいけど、聞こえてなかったみたい。
陽が暮れ始めて時計を見たらここに来てから3時間・・・随分時間が経ってしまったから、玲音も玲那もつくしのベッドでスゥスゥ寝ていた。
その時、廊下からパタパタと足音が聞こえた。
ノックされる前に急いでドアを開けると・・・
「花沢様、どうぞこちらに。間もなくですよ」
今日は類君のお誕生日♥イベントも楽しんでいただけてますか?
明日もお話しの予定があります。最後まで宜しくお願いします~♡
本日のお話しは秋にお届けしました「秋風吹けば」の続編です。
本当は年末出産予定でしたが(笑)多忙につきここまで延ばしました。
なので秋に大きかったお腹なのに今かいっ!って言わないで下さいね💦
後編は15:00です♡
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