幸せな夢の始まり(28)
ウィンリー夫人はもうあなたには会う気はない・・・アルフレッドさんの言葉は何となく予感していた事だったからそこまで驚かなかった。
ただそれが本当にウィンリー夫人の言葉なのか彼の計画なのかは判らない。
それに私に別の仕事をさせると言った・・・類を敵に回すようなマネをしてまでここに連れて来た、その仕事って一体何?
食事の手が止まり、私は黙って彼を見つめた。
「・・・流石花沢家の方ですね。このぐらいの事では驚かないんだ?」
「驚きはありますよ。でも、おかしいと思っていました・・・こんなやり方は企業家のする事ではないわ。私の仕事って何ですか?あなたの目的はなに?」
「企業家のやり方じゃない?はっ・・・この世界は綺麗事だけでは成功しないんですよ。時には人を騙すこともあります。花沢が幸せな企業なだけだ」
「それの何処が悪いの?お義父様は不正も嘘も捏造も許さない方です。人を騙して手に入れる成功なんて有り得ないわ」
これまで優しい表情だったアルフレッドさんが険しい顔になった。
彼もまた飲みかけの珈琲を遠ざけてテーブルの上で指を組み、真正面から私の事を睨みつけるように見てきた。
すごい威圧感・・・私は思わず自分のお腹に手を当てた。
大丈夫、大丈夫ってこの子に言い聞かせながら、背中を流れる汗を感じていた。
「いいでしょう・・・あなたの仕事と言うのを教えてあげますよ。あなたには私が花沢物産を取り込むための材料になっていただきます」
「・・・は?私が材料?花沢物産を取り込むって・・・まさか本当にエバンスホールディングスが花沢を吸収合併するつもりなの?」
「そうです。花沢ほどの企業が私達の傘下に入れば心強い。そうなれば道明寺よりも遥かに大きな企業になりますからね。あなたを探しに来るだろうご主人にサイン1つしていただければいい・・・社員もそのまま雇用できますし、何の問題もないですよ。企業としてのトップが変わるだけで花沢の名前も残してあげますよ?ただその文字の中にエバンスグループと入るだけです」
「最初からそのつもりでこの案件を持って来たの?ウィンリー夫人もあなたの仲間なの?」
「いえ、この話は本当ですよ・・・ただ、花沢じゃなくてもいいのです。規模を縮小して現地の企業で行えば済む話ですから」
アルフレッドさんの説明は続いた。
エバンスとしてはグローバル総合企業として世界中に営業拠点をもつ日本企業を取り込みたい。
花沢物産はそれに相応しく、魅力的だったと・・・そして私の事に関しては我を失うと判断した後継者の類がターゲットになり、彼なら私の身の安全のためには会社を投げ出すだろうと思ったようだった。
そして海外事業部勤務の私を連れ出すなら当然外国企業を出してこないといけない・・・だからウィンリーコーポレーションの女性社長に協力を頼んだと言われた。
「随分類を甘くみてると思うけど?彼は確かに私には甘いけど、だからって花沢物産を投げ出したりしないわよ?」
「どうですかねぇ・・・あなたは既に私の手の中にありますからね」
「それに類の一存でそんな事は出来ないはずよ?社長はお義父様だし、承認機関の同意もいるはず・・・サイン1つでなんて・・・!」
「そんな事は判っています。私はこれまでに数多くの会社を取り込んできましたからね。ご主人にしていただくのはこの話の締結に関して同意していただくという証書です。それを頂いたら正式に花沢社長にご挨拶に行きますよ。それと彼には後継者としての地位を降りるという念書にもサインを頂きます。それが合併へと進んだ理由になりますから」
「理由?」
「そう。後継者の居なくなった企業は一気に不安定になる、その解決策がエバンスとの合併・・・そう言う事です」
確かに類は独りっ子・・・五十嵐の叔父様とは縁を切ったし、親戚筋の人達は色んな国の支社で取締役にはなってるし、そこには数人男性がいるわ。
万が一、類が後継者にならなかったらその人達が名乗りをあげてくる・・・そうしたら混乱が生じて企業全体に影響が出てくる。経営陣のトラブルは社内に緩みや不正を生じさせて、下手をすれば大打撃になる。
そうならないために類が頑張らないといけないんだって・・・ちょっと首を傾げたけど、兎に角頑張らないといけないのよ!
「で・・・でもこれはあなたが計画した誘拐みたいなものだわ。そんな犯罪行為で契約書なんか交わしても無効じゃないの!」
「何処にそんな証拠があります?あなたは自分の意思でここまで来たんですよ?そしてウィンリーコーポレーションとの契約書に花沢の決済印もあります。ウィンリー社長も日本を訪れて会議もした・・・それの議事録だってあるでしょう?
表向きには何の犯罪も行われてないんですよ・・・我々の会話なんて誰も聞いていません」
「私が証言します!そうすればエバンスに調査だってなんだって入るでしょう?!人を騙して物事が成功すると思ったら大間違いよ!!」
「・・・元気がいいですねぇ。胎教に良くありませんよ?」
「放っておいて!類の子供だもん、このぐらい大丈夫よ!」
「調査・・・でも、どちらにしろ事業は行われるんです。問題ないでしょう?あなたとご主人が喚いても、逆にそれを証明してくれる証拠は何もありません。事実、日本を出る時には謝罪の為だと言って来たんでしょう?」
冗談じゃないわ・・・こんな馬鹿な話しが通用する訳がない。
それなのにどうしてこんな無茶をするんだろう・・・そこまでして花沢をエバンスに取り込む必要があるの?
そう考えた時、随分前に笹本さんが言っていた言葉を思い出した。
『だからあんな無茶をしてるんだよ、道明寺でも失敗したのにさ』
『金髪の彼がコソコソ誰かと電話で話していたんです。その内容が「情報がわかったらすぐに電話をしろ。誰にも見付かるなよ、それが終わったらエバンスに引き抜いてやる」・・・みたいな感じでした。 なんかスパイみたいじゃないですか?』
まさか・・・花沢の誰かがこの人と手を組んでるの?
*******************
総二郎が来るとしても早くて夕方。
だから業務開始時間になったらすぐにウィンリーコーポレーションに電話を入れた。
『はい、ウィンリーコーポレーションでございます』
『日本の花沢と申します。突然で申し訳ないが社長のアマンダ・ウィンリーさん、お願いできますか?』
『日本のハナザワさん?社長にどのようなご用件でしょうか?』
『どのようなって・・・ご存じないのかな、この度のホテル建設でそちらからの依頼を受けた花沢物産の者ですが?』
『・・・・・・少々お待ち下さい』
どういう事だ?
社の受付がそんな事も知らないで業務してるんだろうか・・・?
あまりにもあっさりと「花沢って誰?」的な発言をされて気分は最悪・・・どうでもいいから社長に繋いでくれ!とスマホに向かって睨みを利かせた。
『大変失礼致しました。ミスター・ハナザワ、社長は本日は終日外出ですのでこちらにはおりません。明日には出社致しますがどうしますか?』
『行き先は何処でしょう?うちの社員と本日会うはずですが?』
『・・・それはお話出来ません。社外秘、となっております』
『我が社と工事請負契約を交わしたあとで不明確な理由をつけて中止と言われたのです。とにかく連絡を取っていただきたい。こちらに来ている海外事業部の人間ではなく、専務である私が直接話をしたいんですが?」
『・・・そう言われましても・・・』
『一方的な決断をされるようなら、逆にこちらから損害賠償の訴訟を起こします。そうお伝え下さい』
『・・・判りました。またこちらから連絡しますわ』
なんて見え透いた嘘なんだっ!
終日外出・・・日本のイケメンアイドルがこっちに来てるのか?調べたりしないけど!
1度見たあの様子と、ネットで調べた彼女の素行から考えても経営に関する知識は然程持ってない。
多分ウィンリーコーポレーションの他の幹部が優秀だから現状維持出来てるだけで、彼女は家業だから継いでるだけの「お飾り」なんだろう。
それにアルフレッドが目を付けた・・・何となくそんなシナリオが浮かんできた。
道明寺を手に入れられなかった彼が花沢を買収するためにつくしを利用した。
そして運良く花沢が手に入ったら会長に自分の功績として報告・・・愛人の子供だからって馬鹿にするなって感情か、もしくは本当に父親に認められたいか、そのどっちかだ。
連絡なんてあるかどうか判らない・・・このまま乗り込んでみようかと考えていたら藤本から電話があった。
「もしもし!何か判った?」
『・・・さっきの電話からまだ1時間しか経ってないんですから判りませんよ。判ったのは江本課長のことですが』
「江本・・・何か変な動きしてる?」
『変な動き、と言いますか、エバンスのパーティーの翌日に有給休暇を取っていました』
「それだけ?二日酔いじゃないの?」
『それが江本課長はこれまで病欠もなければ私用での有給休暇も1度も取っていません。それに休んだ日には大きな商談があったので海外事業部は大騒ぎだったようです。彼の性格だと具合が悪いぐらいじゃその商談を放り投げるような事はしないだろうから余程の事情があったのでは、と聞きました』
「あのパーティーの翌日・・・気になるね。彼のパートナー誰だったか判る?」
『いえ、調べていませんが・・・探ってみます?』
「頼む。結構大柄でゴージャスな美人だった。うちの社員かどうかなんて判らないけど」
『結構大雑把な情報ですが調べてみます。それではまた電話しますね』
「・・・・・・宜しく」
仕方ないだろ?女性を覚えるのは苦手なんだから!!
ただそれが本当にウィンリー夫人の言葉なのか彼の計画なのかは判らない。
それに私に別の仕事をさせると言った・・・類を敵に回すようなマネをしてまでここに連れて来た、その仕事って一体何?
食事の手が止まり、私は黙って彼を見つめた。
「・・・流石花沢家の方ですね。このぐらいの事では驚かないんだ?」
「驚きはありますよ。でも、おかしいと思っていました・・・こんなやり方は企業家のする事ではないわ。私の仕事って何ですか?あなたの目的はなに?」
「企業家のやり方じゃない?はっ・・・この世界は綺麗事だけでは成功しないんですよ。時には人を騙すこともあります。花沢が幸せな企業なだけだ」
「それの何処が悪いの?お義父様は不正も嘘も捏造も許さない方です。人を騙して手に入れる成功なんて有り得ないわ」
これまで優しい表情だったアルフレッドさんが険しい顔になった。
彼もまた飲みかけの珈琲を遠ざけてテーブルの上で指を組み、真正面から私の事を睨みつけるように見てきた。
すごい威圧感・・・私は思わず自分のお腹に手を当てた。
大丈夫、大丈夫ってこの子に言い聞かせながら、背中を流れる汗を感じていた。
「いいでしょう・・・あなたの仕事と言うのを教えてあげますよ。あなたには私が花沢物産を取り込むための材料になっていただきます」
「・・・は?私が材料?花沢物産を取り込むって・・・まさか本当にエバンスホールディングスが花沢を吸収合併するつもりなの?」
「そうです。花沢ほどの企業が私達の傘下に入れば心強い。そうなれば道明寺よりも遥かに大きな企業になりますからね。あなたを探しに来るだろうご主人にサイン1つしていただければいい・・・社員もそのまま雇用できますし、何の問題もないですよ。企業としてのトップが変わるだけで花沢の名前も残してあげますよ?ただその文字の中にエバンスグループと入るだけです」
「最初からそのつもりでこの案件を持って来たの?ウィンリー夫人もあなたの仲間なの?」
「いえ、この話は本当ですよ・・・ただ、花沢じゃなくてもいいのです。規模を縮小して現地の企業で行えば済む話ですから」
アルフレッドさんの説明は続いた。
エバンスとしてはグローバル総合企業として世界中に営業拠点をもつ日本企業を取り込みたい。
花沢物産はそれに相応しく、魅力的だったと・・・そして私の事に関しては我を失うと判断した後継者の類がターゲットになり、彼なら私の身の安全のためには会社を投げ出すだろうと思ったようだった。
そして海外事業部勤務の私を連れ出すなら当然外国企業を出してこないといけない・・・だからウィンリーコーポレーションの女性社長に協力を頼んだと言われた。
「随分類を甘くみてると思うけど?彼は確かに私には甘いけど、だからって花沢物産を投げ出したりしないわよ?」
「どうですかねぇ・・・あなたは既に私の手の中にありますからね」
「それに類の一存でそんな事は出来ないはずよ?社長はお義父様だし、承認機関の同意もいるはず・・・サイン1つでなんて・・・!」
「そんな事は判っています。私はこれまでに数多くの会社を取り込んできましたからね。ご主人にしていただくのはこの話の締結に関して同意していただくという証書です。それを頂いたら正式に花沢社長にご挨拶に行きますよ。それと彼には後継者としての地位を降りるという念書にもサインを頂きます。それが合併へと進んだ理由になりますから」
「理由?」
「そう。後継者の居なくなった企業は一気に不安定になる、その解決策がエバンスとの合併・・・そう言う事です」
確かに類は独りっ子・・・五十嵐の叔父様とは縁を切ったし、親戚筋の人達は色んな国の支社で取締役にはなってるし、そこには数人男性がいるわ。
万が一、類が後継者にならなかったらその人達が名乗りをあげてくる・・・そうしたら混乱が生じて企業全体に影響が出てくる。経営陣のトラブルは社内に緩みや不正を生じさせて、下手をすれば大打撃になる。
そうならないために類が頑張らないといけないんだって・・・ちょっと首を傾げたけど、兎に角頑張らないといけないのよ!
「で・・・でもこれはあなたが計画した誘拐みたいなものだわ。そんな犯罪行為で契約書なんか交わしても無効じゃないの!」
「何処にそんな証拠があります?あなたは自分の意思でここまで来たんですよ?そしてウィンリーコーポレーションとの契約書に花沢の決済印もあります。ウィンリー社長も日本を訪れて会議もした・・・それの議事録だってあるでしょう?
表向きには何の犯罪も行われてないんですよ・・・我々の会話なんて誰も聞いていません」
「私が証言します!そうすればエバンスに調査だってなんだって入るでしょう?!人を騙して物事が成功すると思ったら大間違いよ!!」
「・・・元気がいいですねぇ。胎教に良くありませんよ?」
「放っておいて!類の子供だもん、このぐらい大丈夫よ!」
「調査・・・でも、どちらにしろ事業は行われるんです。問題ないでしょう?あなたとご主人が喚いても、逆にそれを証明してくれる証拠は何もありません。事実、日本を出る時には謝罪の為だと言って来たんでしょう?」
冗談じゃないわ・・・こんな馬鹿な話しが通用する訳がない。
それなのにどうしてこんな無茶をするんだろう・・・そこまでして花沢をエバンスに取り込む必要があるの?
そう考えた時、随分前に笹本さんが言っていた言葉を思い出した。
『だからあんな無茶をしてるんだよ、道明寺でも失敗したのにさ』
『金髪の彼がコソコソ誰かと電話で話していたんです。その内容が「情報がわかったらすぐに電話をしろ。誰にも見付かるなよ、それが終わったらエバンスに引き抜いてやる」・・・みたいな感じでした。 なんかスパイみたいじゃないですか?』
まさか・・・花沢の誰かがこの人と手を組んでるの?
*******************
総二郎が来るとしても早くて夕方。
だから業務開始時間になったらすぐにウィンリーコーポレーションに電話を入れた。
『はい、ウィンリーコーポレーションでございます』
『日本の花沢と申します。突然で申し訳ないが社長のアマンダ・ウィンリーさん、お願いできますか?』
『日本のハナザワさん?社長にどのようなご用件でしょうか?』
『どのようなって・・・ご存じないのかな、この度のホテル建設でそちらからの依頼を受けた花沢物産の者ですが?』
『・・・・・・少々お待ち下さい』
どういう事だ?
社の受付がそんな事も知らないで業務してるんだろうか・・・?
あまりにもあっさりと「花沢って誰?」的な発言をされて気分は最悪・・・どうでもいいから社長に繋いでくれ!とスマホに向かって睨みを利かせた。
『大変失礼致しました。ミスター・ハナザワ、社長は本日は終日外出ですのでこちらにはおりません。明日には出社致しますがどうしますか?』
『行き先は何処でしょう?うちの社員と本日会うはずですが?』
『・・・それはお話出来ません。社外秘、となっております』
『我が社と工事請負契約を交わしたあとで不明確な理由をつけて中止と言われたのです。とにかく連絡を取っていただきたい。こちらに来ている海外事業部の人間ではなく、専務である私が直接話をしたいんですが?」
『・・・そう言われましても・・・』
『一方的な決断をされるようなら、逆にこちらから損害賠償の訴訟を起こします。そうお伝え下さい』
『・・・判りました。またこちらから連絡しますわ』
なんて見え透いた嘘なんだっ!
終日外出・・・日本のイケメンアイドルがこっちに来てるのか?調べたりしないけど!
1度見たあの様子と、ネットで調べた彼女の素行から考えても経営に関する知識は然程持ってない。
多分ウィンリーコーポレーションの他の幹部が優秀だから現状維持出来てるだけで、彼女は家業だから継いでるだけの「お飾り」なんだろう。
それにアルフレッドが目を付けた・・・何となくそんなシナリオが浮かんできた。
道明寺を手に入れられなかった彼が花沢を買収するためにつくしを利用した。
そして運良く花沢が手に入ったら会長に自分の功績として報告・・・愛人の子供だからって馬鹿にするなって感情か、もしくは本当に父親に認められたいか、そのどっちかだ。
連絡なんてあるかどうか判らない・・・このまま乗り込んでみようかと考えていたら藤本から電話があった。
「もしもし!何か判った?」
『・・・さっきの電話からまだ1時間しか経ってないんですから判りませんよ。判ったのは江本課長のことですが』
「江本・・・何か変な動きしてる?」
『変な動き、と言いますか、エバンスのパーティーの翌日に有給休暇を取っていました』
「それだけ?二日酔いじゃないの?」
『それが江本課長はこれまで病欠もなければ私用での有給休暇も1度も取っていません。それに休んだ日には大きな商談があったので海外事業部は大騒ぎだったようです。彼の性格だと具合が悪いぐらいじゃその商談を放り投げるような事はしないだろうから余程の事情があったのでは、と聞きました』
「あのパーティーの翌日・・・気になるね。彼のパートナー誰だったか判る?」
『いえ、調べていませんが・・・探ってみます?』
「頼む。結構大柄でゴージャスな美人だった。うちの社員かどうかなんて判らないけど」
『結構大雑把な情報ですが調べてみます。それではまた電話しますね』
「・・・・・・宜しく」
仕方ないだろ?女性を覚えるのは苦手なんだから!!