紫陽花の恋物語 (前編)

西門さんのところに・・・西門流に入門してもうすぐ3年になる。
大学からの知り合いだから特別に西門さんが指導してくれていたけど、本当は次期家元と呼ばれる彼に
直接教えてもらえるのは本当に特別な・・・大事な生徒さんだけだった。

家元からのご命令か、重臣の娘さん、お孫さん・・・大企業のお嬢様とかね・・・。

いつもそういう人達は毎回違うお着物で綺麗に着飾って現われた。
それを遠くのお部屋から見ている私・・・お稽古が始まる前は西門さんに言われてお道具の整理をしていたから。
お嬢様達はいつも専用のお客様用に作られたお茶室で西門さんが教えているんだけど、私になると西門さんの
個人的なお稽古用の茶室を使っていた。つまりは彼専用の場所・・・決してお客様用のお茶室には入れなかった。
そして他の人達は数人で教えてもらっていて会話もあって楽しそうなのに私はいつも一人だけ・・・。

この差はなんなの?
私だと彼女たちの中では浮いてしまうから気を遣ってるの?

お着物は家元夫人が古くなったからといって私に下さったものが少しあるだけだから、それを交互に着ていた。
だって・・・とても新しいものなんて買えないんだもの。
就職はしているけど所詮は小さな会社・・・だから、いただいたお着物を大切に着ていた。

「総二郎様・・・今日もお稽古ありがとうございました。今度、うちの父が夕食にご招待したいと申しておりましたわ。
ぜひ我が家にお越し下さいませ」

「そうですか?では、都合が合えばお伺いいたします。お父上にもよろしくお伝え下さい」

そんな会話を今日も廊下の隅で立ち聞きしてしまう・・・なんて運が悪いのかしら。
今のは後援会長のお孫さんだ・・・確か名前は沙織さん。
西門さんと並んだらお似合いの凄い美人・・・上品でとても優しそうな人だ。
そして私に気がつかずに二人は和やかに玄関の方に向かう。


その後ろ姿を見ながら思った・・・確かにみんなが認める美男美女!入る隙間なんて見当たらないわ。

そして今日のお稽古は一段と厳しかった。


「気持ちを込めているのか?もし他に考え事でもしながらやってるのならやめてもいいぞ?
無駄な時間は作りたくないからな。どうするんだ?・・・牧野!」

「ごめんなさい。・・・もう一度、お願いいたします」

私の心が上の空だったらこうやってすぐに見抜かれてしまう。
少しでもお茶から気持ちが逃げると叱られてしまう。とにかく私には鬼のような稽古ばかり・・・。


「よし・・・!今日はここまで。牧野、この資料を見ておけよ。茶碗について書いてあるものだけど、形によっても
その使い方が変わってくるから、そういうところも覚えていけ。あと・・・秋には野点もするからお前も参加しろよ」

「でも・・・西門さん。私は着ていくような着物なんてないよ?」

「・・・それならお袋に頼んでおくよ。少し夏物もいるだろうしな。お前いつも同じの着てるだろ?」

あのお嬢様達のように綺麗な新しい着物は私には似合わない・・・そう言われたような気がした。


「送っていこうか?俺はこの後は仕事もないし」

「ううん。まだ、明るいからバスで帰るよ」


西門さんに恋をしてからもう何年になるんだろう・・・いつになっても友達か生徒のまま。
そしてチャンスらしい事があっても逃してばかりの臆病な私がいる。素直に送ってもらえばいいのにね・・・。


******


西門さんの自宅はお庭もとても綺麗に整えられていて、普段は足を踏み入れるようなことはなかった。
毎日のように庭師さんが手入れをしていて一年中乱れることがない日本庭園・・・それは見事なものだった。
でも母屋の方から裏庭に続くところには季節の花が沢山咲いている。
そこは私でも側まで行って花を見ることが出来る場所・・・

その中に一際綺麗な青い紫陽花が毎年咲いていて、私はその花が大好きだった。
小ぶりな手鞠紫陽花・・・少し薄暗い場所なのにその花が咲くととても明るく見えた。

「可愛いよね・・・凄く綺麗な青い色。でも・・・悲しそうにも見えるんだけど・・・」

目の前で座り込んでその紫陽花を眺めていたら、後ろから声をかけられた。

「つくしさん、どうしたのだね?紫陽花がお好きなのかな?」

「お家元・・・!申し訳ありません。勝手に入ってしまって・・・この紫陽花があまりにも綺麗だったので
近くで見たくて・・・すぐに出ますから」

「いいんだよ。・・・でも、もうすぐ雨が振りそうだ。せっかくの着物が濡れてしまうよ?」

家元に言われて部屋の方に入ってすぐに雨が降り出した。
顔を見合わせてお家元と笑っていた。西門さんはお母様似なんだけど、やっぱりお父様にもどこか似ているわ。


「その着物・・・懐かしいね。私はその着物がとても好きだったのですよ。大切に着て下さってるんだね。
嬉しいですよ。つくしさんにはよくお似合いだ」

「すみません!お家元からの贈り物なんですか?そんな大事なものを・・・」

「いいのですよ。もう彼女には着るのが難しくなったのでしょう。つくしさんに着てもらった方がいいんですから。
しまっておくだけでは着物が可哀想です。それではね・・・暗くならないうちにお帰りなさいよ」

家元はそう言うとご自分お部屋に戻っていった。
雨が少し強くなって庭が暗くなったせいなのか、あの紫陽花は色を濃くしたように見える。

「涙の色って・・・あんな感じかしらね」


何となく・・・沢山のお嬢様に囲まれて優しく笑う西門さんの顔を思い出していた。
あの大輪のバラのような人達の中に私は入って行くことは出来ない。
かと言って目の前で咲いているこの可愛らしい紫陽花のようにもなれない。

「名前の通り・・・雑草なのね。まぁ、今更だけど」



「牧野?まだ帰ってなかったのか?もう薄暗いのに・・・バカだな!何やってたんだ?」

もう着物から普段着に着替えている西門さんが離れた廊下から声をかけてきた。
あれ?・・・そう言えばバスで帰るって言ったのはもう1時間ぐらい前?

「あ・・・あのね、紫陽花をみていたのよ。私、あの紫陽花が咲くのを毎年楽しみにしてるから・・・」

「ふうん・・・紫陽花ね・・・」

西門さんが私の隣に立っている・・・
しかも凄く近くに・・・もう少しで腕が触れてしまいそうな距離に心臓が爆発しそう・・・。

何でなの?こんな事初めてじゃないのに・・・
西門さんの香りに包まれたような気がして、雨が降っている庭をドキドキしながら眺めていた。
少し横を見上げたら綺麗な黒髪を風邪に揺らしながら紫陽花を見つめている彼がいる。

雨だけが私たちの回りで静かに音を奏でていた。
まるでこの恋心を急かすかのように・・・。



ajisai2.jpg

総二郎の雨SSでございます!
中編はこの後18:00
後編は明日の11:00
そして新しい総二郎のお話、
「正しい恋の進め方」が明日の12:00からスタートです!

花より男子

8 Comments

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2017/07/15 (Sat) 12:58 | EDIT | REPLY |   

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2017/07/15 (Sat) 13:03 | EDIT | REPLY |   

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2017/07/15 (Sat) 14:44 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: こんにちは

えみりん様、こんにちは~!

凄ーい!えみりん様、意外なところでこのSSのラストシーンを言い当ててる~!
感動しました!えぇ、SSですからお話しは筋としてはそうなんですけどね!

後編でわかりますよ?ふふふ!私どこかでバラしたかと思ったわ!(*^▽^*)

2017/07/15 (Sat) 15:08 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: タイトルなし

うかちゃん様、こんにちは~!

そうきましたか・・・どっちかって言うとそれはつくしちゃんかも?
総二郎は自分探しの旅をしております。いや・・・この話もじれったいかもですよ?
でも明るい話ですから。気楽に読んでいただけると嬉しいです!

夏ばてのご心配ありがとうございます!
すでに夏が苦手な私は半分死んでます。冬はね・・・結構強いんですけどね。

毎年お約束のようにかかる熱中症も今年はコレがあるのでかからないようにしたいです・・・。

お優しいコメントありがとうございます。お気持ち有り難く受け止めました~!

2017/07/15 (Sat) 15:17 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: タイトルなし

わんこ様、こんにちは~!

そうですね!同感です。
特にあきらに同感です!そのとおりっ!

SSはピンポイントで好きなことを書けるので好きです。
お話しが長くなると何か起こさないといけないのと毎回同じ雰囲気でやると飽きちゃう。
総二郎もね、本当はしっとりさせたいんですけどだんだんしっとりがどんよりになって
おしまいにはドロドロになりそうで怖いです。

適度に色気を混ぜて明るめがいいんだけど。
自分の理想と書いてるもののギャップに苦しみますね・・・。ごめんね、総二郎。

今日もありがとうございました!

2017/07/15 (Sat) 15:25 | EDIT | REPLY |   

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2017/07/15 (Sat) 18:02 | EDIT | REPLY |   

plumeria  

Re: タイトルなし

さとぴょん様!今晩は!

いきなり全然違う総二郎の登場でございます。
ただただ青い紫陽花を書きたかっただけ・・・雨に濡れる総二郎(お話しでは濡れませんけど)
ってなんかそそられるんですよね!
類だとふわふわのタオル渡したくなるし、あきらだとすぐにお風呂に入れたくなるし
司はもっと土砂降りの中に立たせたくなりますが、総二郎は優しい雨に打たれて欲しいです。
でね、濡れたままなの。風邪引きそうだけど。

着ているものが肌に張り付いてくれたらサイコー!

すみません。脱線しましたね。

いつもありがとうございます!今日もたくさん・・・感謝です!

2017/07/15 (Sat) 20:16 | EDIT | REPLY |   

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