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1年ぶりに訪れた旭川の病院。当時の担当医はまだそこに勤務していてさっそく検査が行われた。
つくしはほんの少し緊張していたようだけど顔見知りの看護師に俺との事を聞かれる度に笑顔になってきて、最後の検査では手を振って検査室に行くほどだった。


俺と2人で診察室に呼ばれたのは検査が終って程なくだった。

「お久しぶりです。お名前が変わられたのですね、おめでとうございます。お子様も無事にお生まれになって何よりです。だけど少し無理をしているんでしょうね。やはり指先の震えは続きますか?腕はかなり上がるようですがあまり握力の回復はないようですね」

「はい。あの・・・最近までそう・・・だ・・・しゅ、主人がいませんでしたので家事と育児を全部1人でしていましたから」

こんな時なのに噴き出してしまった。
総二郎って言いかけたな?おまけに「主人」だなんて言い慣れないから詰まりやがって!

「検査の結論から申し上げますと・・・ご本人の希望にお任せします、という感じでしょうか」

医者はさっき撮ったMRIの画像を俺達にも見せて説明をしてくれた。
つくしの腕の神経は繋がってはいるが、怪我の程度で考えると1年ぐらいではまだ感覚が戻らないのは普通だそうだ。むしろここまで腕が上がるようになった事の方がびっくりだったと。腕の再手術は正解だったと言うことらしい。

問題なのは首の神経根から飛び出てしまった腕の神経・・・以前は全身麻酔を拒否したから受けなかったが、今なら受けられると申し出てはみたけど答えは微妙だった。

「ここの神経根の手術ですが1年経っていますのでまわりの組織も安定しています。もう一度メスを入れることが望ましいかどうか、と聞かれれば答えは・・・半々、と言ったところでしょうか。どうしても機能回復に少しでも繋げたいと思えば行ってもいいのですが、こればかりは回復のお約束が出来ないのです。以前も「可能性はある」とお答えしたと思うんですよ。今も同じです。むしろ神経の密集地帯ですから、他の神経を傷つけるリスクもあります。これは奥様の怪我についてというよりは、ここを損傷された方全員に言えることです」

悪くなっているわけではない・・・確かに首の痛みは取れているし、左側も向けるようになった。
医者の言うとおり再び傷を作ることがいいのかどうか、俺が悩んでる間につくしがはっきりとした口調で答えた。

「先生、ありがとうございました。私はこの腕で大丈夫です。手術はしません」
「つくし!そんなに早く答えを出さなくても・・・」

「ううん、私はこのままでいい。もう入院して総二郎や蒼の傍を離れたくないし、痛い思いもしたくないの。結果が五分五分なら今のままを選びたい。ごめんね、心配してくれてるのに」

つくしは家にいたいのだと言った。俺達の傍にいたいのだと・・・。
医者もその選択も間違いではないと言った。挑戦者になるか安定した中でそれなりに暮らすかはつくしに任せると。

「もし手術してみようということであればもちろん全力を尽くします。でも、手術するならやはり早いほうがいい。ご主人とよく相談して下さいね」
「ありがとうございました。本当にお世話になりました」


つくしの選択は最後まで「このままでいい」だった。


***


総二郎の誕生日が近づいてきたある日のこと。

去年は熱を出してケーキを食べたのは次の日だったから今年はどうしてもその日に作ってあげたかった。そのケーキはどんなものにしようかとスマホで調べていたとき、蒼を抱っこした総二郎が声をかけてきた。

「つくし、12月3日・・・何も予定入れるなよ?」
「え?その日には何も入れないよ?だって・・・」

「俺の誕生日プレゼントだろ?何も作らなくていいから身体あけといてくれ」

「・・・は?う、うん。わかった」

ニヤッと笑って2人で散歩に行っちゃった・・・。なんだろ?変な総二郎。
何も作らないわけにはいかないでしょう?私はまたスマホで続きを調べていた。


そして12月3日

総二郎が朝早くに車の準備をしていた。
朝ご飯の後片付けをしながら何処かに出掛けるのかと思っていたら、やっぱり私を呼びにやってきた。

「つくし、今日は俺に付き合ってくれよ。すぐに出掛けるからさ、そのままでいいから車に来い。もう蒼は車で待ってるぞ」
「えぇっ?なんで?何処に行くの?・・・蒼の支度なんて何もしてないのに?」

「俺がしたから大丈夫!早くしないと間に合わないから急げよ!」

何が何だかわからなかったけど、急いで着替えて鞄だけ持って玄関に鍵を閉めた。
車にはもう2人が乗っていてエンジンまでかけられてて驚いた。慌てて後部座席に乗り込んだら凄い勢いで車は発進した。

「ねぇ!ちょっと何処に行くの?今日は総二郎の誕生日だよ?私、色々準備したいのに!」
「いいから!俺のためだって言ってるだろ?少し遅れたから急ぐぞ!」

「うわぁっ!蒼も乗ってるのに安全運転してよねーっ!」
「バーカ!事故るか!」

ヤケに機嫌のいい総二郎が運転する車は札幌方面に向かった。

**

1時間ぐらい走っただろうか、車が停まったのは札幌まであと少しっていう藻岩山の麓にある教会だった。
夏なら緑に囲まれているだろうけど今は12月・・・それでも凄く綺麗に飾られた素敵な教会が目の前にある。

だけどここに何しに来たんだろうって思ったとき、ちょっとだけ期待してしまった。
もしかして総二郎がウエディングドレスとか選んでくれるのかしら。もしかしたら今度、結婚式挙げてくれるとか?


「よし、じゃあ着替えてこい。俺も着替えてくるから。蒼はスタッフの姉ちゃんが見てくれるから心配すんな!少し遅れたから急ごうぜ!」
「はぁ?着替えるって・・・着替えるって何よ?着替えなんて持ってきてないもん!」


「何言ってんだよ!今から結婚式すんだよ、俺達の!」


「・・・・・・は?」

えぇっ!ドレス選びじゃなくて結婚式すんの?今から・・・今からっ?!
私はそんなこと聞いたこともなくて、急げと言われても足が動かなかった。だって・・・今からケーキ作るんだよ?

「何やってんだよ、早くしろって!ほら、係の人間がそこで待ちくたびれてんぞ!」
「えっ!誰を待たせてるって?」

総二郎に右手を引っ張られて中に入って行ったら、凄く綺麗なフロアが広がっていてまるでヨーロッパの教会みたいだった。
こんな所でする結婚式・・・夢にまで見たような気がするけど・・・って言ってる場合じゃなかった!

今度は総二郎とも蒼とも引き離されて、ここのスタッフさんに引き摺られて何処かの部屋に押し込められた!
そこには数人の女性スタッフが控えていてなんだか慌ただしく動いてる。一斉にかけられた「おめでとうございます!」の声にも反応出来なかった!

「いったい何が起きてるんですか?私、何も聞いてないんですけどっ!」
「ご主人様のサプライズウエディングみたいですわ。それでは着替えましょうか。本当は一日中、西門様の貸切なのでお時間はあるんですのよ?でも、ご列席の方の都合らしいですから」

「ご列席?」

そのスタッフさんがサッとカーテンを開けたらそこには真っ白なウエディングドレスがあった。


フワフワの・・・プリンセスラインのドレスだ。
裾に豪華なレースが施されていて、大きなリボンがついてて・・・わざわざこれを選んだのかしら、首は隠れるようにレースで覆われてる。

「それではお支度に取りかかりましょうか。先にメイクさせていただきますね」
「あ・・・はい。ありがとうございます」

全然お手入れなんてしてないのに・・・まさかこんな事を総二郎をが考えていただなんて思わなくて、お化粧してもらっているのに涙が出てきてスタッフさんを困らせた。
何度もハンカチを渡されて、あんまり泣くもんだから先に髪をやろうってなったほど。

「それにしても素敵な旦那様ですねぇ!こちらに何度か来られましたけど、それは嬉しそうにこのドレスを選ばれたのですよ?本当はオーダーされたかったようですけど間に合わないからって。ヨーロッパから取り寄せて急いで補正させていただいて・・・仕上がったのは一昨日でしたわ」

「そうなんですか?無理を言ったんですね、ごめんなさい!」
「いいえ!とんでもないですわ。あんなに幸せそうにご注文される新郎様は中々いませんもの。本日はご家族だけと伺いましたからお式の後は一番景色のいいお部屋でホームパーティーのようにするそうですよ?楽しんで下さいね」

家族だけ・・・?誰が来るのかしら。まさかお家元たち?いや、それは・・・まだちょっと・・・。

そうやって少しスタッフさんと話していたらだんだん落ち着いてきて、やっと私のメイクが終った。
最後にドレスを着せてもらって鏡で自分を見た。

これが私?嘘みたい・・・ホントにこんなもの、着ることが出来るだなんて。
泣きそうになるのを慌てて止めるスタッフさんに「大丈夫です」なんて言ったけど、ホントは涙が溢れそうだった。


「それでは後は新郎様にお任せしましょう。お呼びしますわね」
「は、はい!」


総二郎がここに来る・・・ドレス姿の私の所に?
ど、どうしよう、私、綺麗になってるかしら!総二郎、ガッカリしないかしら・・・似合ってる?可笑しくない?
私はもう一度鏡で全身のチェックをしたけど、自分ではさっぱりわかんない!

ただ、そこに映っているのはやっぱり自分とは思えない・・・真っ白な花嫁さん。


コンコンとノックがして総二郎が入ってきた。

うわ・・・凄い。ドキン!と心臓が高鳴った。急に耳が熱くなる・・・ドレスで見えないだろうけど足が震えてる。
シルバーグレーのタキシードに身を包んだ総二郎はすごく格好良かった。


どうしよう・・・目が離せない。

にっこり笑って近づいてくる彼に今更ドキドキして今度は全身が震えた。


「つくし・・・奇麗じゃん。もっとよく見せて?」
「あ、あの・・・ありがとう。このドレス、わざわざ気を遣ってくれたんだね。嬉しかった・・・こんなに奇麗なの、夢みたいで・・・」

首のレースを触りながらそう言うと「胸がねぇからその方がいいだろ?」ってふざけてた。それでも別人になった私を見て、彼の方が嬉しそうに目を細める。
タキシードにメイクが付かないように横から抱き締められて、耳元で囁かれたのは「最高・・・」って言葉だった。

口紅が付いちゃうからっておでこにキスされた。


「うしろ回ってくれる?」
「へ?う、うしろ?」

「へ?じゃねぇよ!最後の仕上げは俺ってことだよっ!・・・ったく、そんなもの着ても色気がねぇなぁ!」
「わ、悪かったわね!急だからまだ頭がパニクってんのよ!」

さっきまでは感動のハグだったのに!ドレスの裾を持ち上げて、言われたとおりに背中を向けた。
今から何するんだろうって思ったら、首元にネックレスがかけられた。真珠とダイヤが鏤められた豪華なもの・・・ちょうど胸の辺りまであって下の方は花を象ったデザインだ。

「ドレスが首まであるデザインだからネックレスはオペラタイプ・・・少し長めのタイプだな。それとこれもな・・・」

ピアスホールを開けてないからネックレスとお揃いのイヤリングを付けてくれた。
耳元でダイヤが揺れて凄く綺麗。


「総二郎、ありがとう・・・でも今日は総二郎のお誕生日だよ?」

「ん?だからお前が俺のプレゼント・・・だろ?その姿を見せてくれるだけでいいんだ。このぐらいしか俺も出来ねぇし」


このぐらいしかって・・・十分だよ。
着れないって思ってたもん・・・こんな場所に来ることはないんだって、思ってたもん。


「お父さんとお母さんに見せたかったな・・・私のウエディングドレス姿」
「心配ねぇよ。二人ともどっかにいると思うぜ?また泣いてるっておばさん、怒ってるぞ?」


総二郎が後ろから抱き締めてくれてる・・・その温かさで胸が一杯だった。



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2018/02/20 (Tue) 03:27 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、おはようございます。

待っててくれたんですか?あはは!ありがとうございます!
まぁ、何となくですがこのシーンは外せませんねぇ(笑)

どういう形であれ式はさせてあげたかったので・・・。
モデルになった藻岩山の教会があまりに奇麗だったので・・・もう、うっとり♥

お話しもあと10話切りました!
のんびりゆったりラストに向かいます。

どうぞ宜しくお願いします♥
今日もありがとうございました。

2018/02/20 (Tue) 08:49 | EDIT | REPLY |   
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2018/02/20 (Tue) 13:44 | EDIT | REPLY |   
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2018/02/20 (Tue) 14:56 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、今晩は!

コメントありがとうございます。えっと、これは152話のコメントとして返信しますね。

えっとですね、「藻岩シャローム教会」って言うのがモデルです。画像もそこですよ。
一目惚れしましてね♥どうしてもここで挙げたくなったんです。私じゃないが・・・(笑)

ふふふ、このシーンはどうしても入れたいですよね!
ホントは総二郎が金沢にいる頃はこのシーンを考えてなくて、ヤバいっ!って思って追加しました。
総二郎に恨まれることだったわ・・・セーフ!

あら!行ってみますか?それを言えることが素晴らしい!
私は行けないなぁ・・・出来たらいつの日か北海道の名寄に行ってみたいです。

どうしよう・・・スゴい田舎みたいに書いたけどホントは都会だったら(笑)


これからまぁ、色々ありますが・・・もちろん、穏やかです。
最後まで宜しくです!ありがとうございました♥

2018/02/20 (Tue) 21:29 | EDIT | REPLY |   
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2018/02/20 (Tue) 22:29 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、おはようございます!

ね?奇麗だったでしょ?
都会の中じゃなくて緑に囲まれてて!
中の造りがスゴく素敵~♥こんなとこなら2人だけでもいいかも・・・って思ってしまった!

私は北海道にはスキーしに行った事があるだけで他の季節を体験したことがないんです。
出来たら富良野に行ってみたいなぁ・・・。
あとは小樽・・・遠く離れた所に住んでるので余計憧れます。東北とかも・・・。

関東から北にはそのスキー旅行しか行ったことがないんですよね!
娘が花沢でも西門でもいいから嫁いでくれたら行けるのに・・・。
と、子供の将来まで妄想の中に入れてしまう私です(笑)


あ!ご心配なく!
書き終えてるので追加とかないですから!(笑)

今日もコメントありがとうございました♥

2018/02/21 (Wed) 08:10 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、おはようございます♥

ねーっ!羨ましいなぁ!サプライズ結婚式!
自分たちなんか動かない男を引き摺って打ち合わせに行ったのに!

何を決めるのも面倒くさそうで私1人がハイテンションで進めた記憶があります。
で、当日は旦那が飲み過ぎて、キャンドルサービス(っていうんだっけ、テーブル回るヤツ)
が出来なくて私1人でやったみたいなもんでした!

私の結婚式、悲惨でね(笑)
美容師さんが当日の和装の着付けの後、倒れちゃって、急遽他の花嫁さんの美容師さんがドレスのメイクと着付けしてくれたんです。終って帰るとき美容師さんは起きてましたけどね。
誰にお礼言っていいのかわかんなかったですね(笑)ホント、忘れませんよ!
そして帰りに検問に引っ掛かって、シートベルトしてなくて捕まってね。
いや、私が悪いんだけどさ(笑)

色々あって大喧嘩したまま新婚旅行に行きました(笑)
懐かしいなぁ・・・旅行先で大喧嘩してホテルの部屋を分けた記憶もあります(笑)

相手が総ちゃんなら喧嘩しても5秒で謝るわ、私。

2018/02/21 (Wed) 08:20 | EDIT | REPLY |   
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2018/02/21 (Wed) 15:48 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・今晩は!

あはは!誰にでもありますよね!

私はイタリアで大喧嘩して「トレビの泉」の前で離婚寸前の顔で写真撮ってます。
今見ても笑える・・・どんだけ酷い喧嘩したんだろう(笑)

スイスの雪山で怒りのあまり旦那を崖から突き落とそうとしてガイドさんに止められました(笑)
この頃からサスペンスだったのかしら!

2018/02/21 (Wed) 18:31 | EDIT | REPLY |   

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