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蒼は来年から小学生になる。そろそろお茶を本格的に教えるなら始めた方がいいと思う歳になった。

それでも総二郎は特に蒼に稽古をつけることはなく、地元の人達の茶道教室と札幌に新しく出来た支部での講演会やお茶会に忙しかった。少しずつ地元紙のエッセイのようなものも書き始めて、こっちでも名前が知られてきた。

ここでは本格的な茶道は余り行われてなくて、初めのうち生徒もそんなには集まらなかった。
だけど、人の噂とは怖いもの・・・総二郎の見た目の評判からどんどん女性の生徒が増えて今ではこの家に毎日誰かが訪れるようになっていた。

「さすがだな・・・やっぱ見た目って大事なんだな!」
「自惚れや!あのね、総二郎目当てじゃ西門流のためにならないの!ちゃんとお茶を好きになってもらわなきゃいけないのよ?わかってる?」

「きっかけが俺ってのはダメなわけ?でもさ、酒屋の息子・・・お前の事気に入ってるだろ?あいつはどうにかしねぇとヤバいな」
「バカじゃないの?いいからほら、早く支部に行ってらっしゃい!」

「ははっ!ほら、機嫌直せ、つくし」

総二郎は子供達の前でも平気で抱き締めたりキスしたり・・・何度これで子供達からからかわれたかわかりゃしない!
「子供達に仲のいいとこ見せてやるんだ」・・・そう言ってたことを思い出す。

自分にはない親の思い出・・・自分の子供達にはその記憶を残すんだって、何度も言っていたよね。



忙しくなってからは西門から1人お弟子さんが来てくれて、総二郎が札幌で仕事の時はその人が稽古をつけるようになった。

蒼と2人だった時はどう使っていいのかわからなかったこの家も、今では教室とプライベートエリアに分けられ、蒼と花衣にはそれぞれ子供部屋を与えていた。蓮だけはまだ私たちと一緒・・・それを花衣が「狡い!」と怒っていた。
毎日賑やかで、笑い声が溢れた家・・・寒い土地なのに冬でも人が必ず来るから、私も忙しくて一日中ドタバタしていた。


そんな中、ちょっとした変化はあった。


蒼が総二郎の稽古を覗いてる。
生徒さんのいるときではなくて、総二郎が1人で茶室に入って稽古をするとき、蒼は襖の間からそれを見るようになった。

入りたいとも言わず、やってみたいとも言わず・・・ただジッと総二郎の姿を見ているみたい。
それに少しドキッとするけど私は何も言わなかった。もちろん、総二郎も気が付いているはずなのに何も言わない。

一通り総二郎がお茶を点て終ると、すっといなくなる・・・そんなことが何回かあった。


私たちも6年前、祥兄ちゃんから蒼のことで相談されてから少しだけ覚悟を決めて変えてきた事がある。

まだ蒼が言葉を話す前だったから、親の呼び方を「パパ」「ママ」から「お父さん」「お母さん」に変えた。季節の行事はきちんと行い、お正月には必ず着物を着せた。

3歳になる頃には食事の時の作法は厳しくし、生徒さん達にも挨拶だけは丁寧にするように教え、自分の身の回りのことは自分でさせた。
もしもここを出ていくようなことがあれば、蒼が苦労しないようにと思ったから。

総二郎達のように遊びにまで制限はしなかったから、外では大声を出して元気よく遊ぶ。それをいつも私たちは一緒に笑って見ていた。総二郎もサッカーやキャッチボールのような遊びに付き合ったり、たまには家族で旅行をしたり、それは幸せな時間だった。

そのうち花衣が産まれて、やっぱり完全回復しなかった私の腕の代わりに蒼は良く世話をしてくれた。妹思いのいいお兄ちゃんだった。今度は蓮が産まれて、同じように頼もしい長男になった。


その蒼が・・・総二郎の仕事に興味を示したんだ。


*********


その年の3月始め、1通の手紙が届いた。

西門からだった。

差出人は今は正式に次期家元として認められた祥兄ちゃんだ。
中に入っていたのは3月終りに行われる「桜の茶会」の案内状。総二郎には亭主として、私と蒼には客として来ないかというものだった。


「どう思う?つくし・・・気が付いてるよな?蒼のこと」

「そうね。今はどう思っているのかしら。珍しいってわけじゃないと思うのよ。だってここは茶道教室ですもの。お茶の道具は見慣れてるし総二郎の仕事も見てきてるわ。それなのに総二郎が1人でする稽古をわざわざ覗くだなんて・・・」

「そうだよな。やってみたいのかな・・・あいつ」
「どうかしら。あなたの子供ですもの、そこは『西門』なのかもね・・・」


5日間考えた総二郎の返事は「3人で行く」・・・私たちと蒼で西門に行くことにして、花衣と蓮はお弟子さんが見てくれる事になった。私には7年ぶりのあの家・・・少し緊張するけどもう恐怖心はなかった。

それだけ私たちは安定した生活を送っているんだと思うと嬉しかったけど。


その日の夜、蒼だけを私たちの部屋に呼んでその話をした。


「今月の終り、お父さんの育った家にお前を連れて行くことにした。そこで「桜の茶会」というものが行われるんだが、お前が招待されたんだ。これもいい機会だからお前に正式な茶会を体験させてやろうと思ってな。どうだ?少しだけ作法をやってみるか?子供だから完璧じゃなくてもいいんだ。本当に大事なところだけでいい。覚えたいならお父さんが教えてやる」

「お茶会って、お父さんが時々札幌でしてるみたいなの?それを何処でするの?」

「お父さんの住んでいた家は東京にある。そこに行くんだ、お母さんと3人でな」

「お母さんも?」


蒼は少しだけ考えたあと、「行く」と返事をした。
「そうか、じゃあ明日から少しずつ作法をしような」・・・ほんの少し嬉しそうな、でも悲しそうな総二郎の顔がそこにあった。


次の日から1日に少しだけ、蒼の稽古、というか基本的な茶道の決まり事を話し始めた。
畳の歩きかた、座り方、お茶碗の使い方、挨拶の仕方・・・本当に簡単なことだけど6歳の子供には難しい。総二郎は失敗しても怒らずにすごく冷静に教えていた。
どちらかというと優しい顔で「気にするな」って言いながら。


そんな日が半月ほど続いた。
そして「桜の茶会」の行われる前の日、私たちは数年ぶりに東京に向かった。


**********


<東京>
空港には西門の迎えが来ていて、私たちは久しぶりに東京の街の景色を眺めていた。でも、北海道を出たことのない蒼はその都会の街並にびっくりして大きな目をして窓にへばり付いていた。
しかも、こんな車に乗ったこともないからリムジンの車内にも落ち着かない。それを見て総二郎がクスクス笑っていた。

「お父さんの家ってお金持ちなの?こんな車、僕、見たことないもん!」
「そうだな~、うちよりは金持ちかもな。それに家を見たら驚くぞ?楽しみにしとけ」

「えっ!何で驚くの?何か動物でも飼ってるの?」
「えっ?!ど、動物?えーと・・・いないと思うわ。動物はいないけど、蒼のいとこがいるわよ?初めて会うから楽しみだね」

「ふーん・・・いとこかぁ。けんちゃんのところにもいとこが沢山いるんだよ?よくいとこと遊ぶって言ってるもん!」


祥兄ちゃんと千春さんの間には女の子が産まれていた。
新菜(にいな)ちゃんという4歳のとても可愛らしい子で、祥兄ちゃんが写真を送ってくれていたから顔は見ていた。どちらかというと和泉家のおじいちゃんに似ているらしい。
ニヤニヤした祥兄ちゃんが抱っこした写真を見て総二郎が呆れていたっけ。自分だってかなり花衣の時にはニヤけていたのにね。

車は閑静な住宅街に入り、見慣れた風景が目の前に見えてきた。
もうすぐ西門邸・・・すこし緊張する私に総二郎が「心配すんな」って小さく声を掛けてくれた。


そして長い塀が続く道に入るとあの大きな門が視界に入った。


「蒼、ここがお父さんの家だよ」
「・・・ここ?」


蒼の大きな目が西門の門の奥を見つめていた。
桜の花びらが舞うこの大きな門の奥、重苦しくて長い歴史と伝統を受け継いできた西門の本邸だ。



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2018/02/22 (Thu) 12:19 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・今晩は!

やめて・・・エンドレスとか(笑)
もうお腹いっぱいですから。この冬の間、似合いもしない向日葵の画像出し続けたんでもういいです。
頭にえなり君が出てきたよ!

蒼がえなり君みたいだったら・・・きっとつくしはもっと早くに家から出したかも(笑)

私、覚えてないけど小さいときに親に聞いたそうです。
「うちって貧乏なの?だからエレクトーン買ってもらえないの?」

・・・何故かその後エレクトーンが来たんです!

高校生ぐらいの時に親から「あんたが貧乏って言ったからローン組んで買ったのよ!」
って怒られました(笑)

子供は素直であります・・・その通り!

いやいや、蒼・・・お父さんは隠し預金が何億円かあるんだよ?探してみな?ぷぷぷ!

2018/02/22 (Thu) 21:13 | EDIT | REPLY |   

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