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「お帰りなさいませ、総二郎様・・・つくしちゃん、久しぶりねぇ!」
「志乃さん・・・!ご無沙汰しております。あの時は色々とありがとうございました」

もう一度この正面玄関から本邸に入ることが出来るだなんて思いもしなかった。
思えば考ちゃんとの婚約解消を頼もうと思って出ていった日以来だ。ここに色んなものも置いたまま逃げるように東京を離れたんだから・・・。

出迎えてくれた志乃さんは少し白髪が増えたかしら?でも、その顔は昔と変わらずに優しかった。
そして私の横に立っている蒼を見て涙を溢しながら抱き締めてくれた。

「まぁまぁ!本当に総二郎様の小さい時にそっくり・・・!おいくつになったのかしら?」
「蒼、ご挨拶しなさい。こちらはお父さんとお母さんが小さい頃からお世話になった志乃さんっていう方よ」

「はい!えっと・・・西門 蒼と言います!6歳になりました。宜しくお願いします!」

「まぁ!上手に挨拶が出来るのですね?それは家元ご夫妻がお喜びですわ。蒼様、奥に行かれてもそのようにご挨拶して下さいませね」

志乃さんがその挨拶に喜んで頭を撫でてくれたけど、蒼の方がポカンとしてる。総二郎も私も何に驚いてそんな顔をするのかわからなくて顔を見合わせた。

「蒼・・・さま?僕、さまとかつかないよ?」
「ま!ほほほ・・・そうですわね、あら、じゃあなんてお呼びしたらいいのかしら?」

「蒼、ここではそれでもいいんだよ。また後でちゃんと説明するから、ここの人達にその呼び方をされても言い返さないようにな」
「はい。お父さん」


北海道の家も元々は西門の別荘だから決して狭いわけじゃない。むしろ一般の家に比べたら大邸宅のようなものだけど、この本邸とは比べものにならない。
蒼は何処までも続く廊下と整った石庭と、擦れ違う人達が総二郎に頭を下げるのを不思議そうに見ていた。

「お母さん、なんだかいい匂いがするね!」
「そうね・・・」

日本家屋にある独特の匂い・・・気にしなければわからないようなこの匂いが蒼にはわかるのね?
私はこの匂いを子供の時はいい匂いだと思ったことはない。この匂いに加えて漂う張り詰めた空気が怖くて、他よりも温度が低いような気がして・・・息が詰まりそうでいつも裏庭に逃げていたような気がする。
それなのに蒼にはいい匂いだって思えるのなら、ここが少し穏やかな空気に変わったのかもしれない。


そして、私の心臓はドキドキしてきた。
家元のお部屋が近づいてくる。あの向こうにお二人が座っているかと思うと・・・背中に汗が伝うのがわかった。


総二郎の足が止まって、その障子の前で座った。
私も蒼を隣に座らせ総二郎の後ろに付いた。


*********


「失礼致します。総二郎です」
「入りなさい」

数年ぶりに聞く家元の声。すこし嗄れたような声に変わっていたが元気そうで安心した。振り向いたら不安そうなつくしが蒼の手を握っている。フッと笑うと眉を顰めた。


障子を開けて中に入ると、いつものように正面に家元夫妻、横に祥兄と千春、そこには小さな女の子も座っていた。
写真でしか見たことはなかったが中々可愛い子だ。
祥兄が離さないのもわかる気がする・・・俺がその子を見て少し笑うと恥ずかしそうに千春の陰に隠れた。


「よく来たな。何年ぶりだ・・・6年か?本当に一度も顔を見せないとは思わなかった。元気にしておったのか?」

「はい。家族全員元気に過ごしております。札幌に支部を置いて下さったおかげで少しは向こうでも茶会が出来ておりますよ。その節はありがとうございました。本日はつくしと長男、蒼を連れて参りました。蒼、前に・・・」

俺の一言で蒼はつくしの手から離れて俺の横に座った。
さて・・・練習通りの挨拶が出来るかどうか・・・この家の大きさにビビってなきゃいいけど、なんて思いながら蒼の背中に手を当てて目の前の二人に紹介した。

「これが長男の蒼です。蒼、こちらがお前のお爺様とお婆様だ。ご挨拶しなさい」

つくしはハラハラして身を乗り出している。そんな母親の心配なんて気にもせず、蒼は深呼吸した後に大きな声を出した。

「初めまして!お爺さま、お婆さま。西門 蒼と言います。えっと・・・今度、小学1年生になります!この・・・この度はお茶会に招待して下さってありがとうございます!・・・んと・・・よろしくお願いします!」

何だか可笑しな挨拶になったが・・・まぁ、いいか!蒼の目は生き生きしてるし態度も堂々としてるし、度胸だけはあるようだ。

もう家元夫人はハンカチで目頭を押え、家元はうんうんと笑いながら頷いている。
つくしはホッとしたのか肩を落として自分の顔を手で覆った。

「あれ?お婆さま、どうかしたの?なんで泣いてるの?僕、ご挨拶失敗した?なんか言い忘れたっけ?お父さん」
「え?いや、そうじゃないと思うけど・・・」

これも急に大きな声で蒼が言うからその場が大笑いになった。

「はっはっはっ!中々元気のいい挨拶が出来る子じゃな!総二郎の小さい時とは違うようだ。蒼、よく来たな!」
「はい!僕、東京は初めてなので高いビルがいっぱいあってびっくりしました!」

「まぁ、そうなのね。蒼ちゃん、小学校は楽しみですか?」
「はい!仲良しのお友達が沢山いるから楽しみ!でもね、歩くと随分時間がかかるんだよ?幼稚園の3倍ぐらい!でも6歳になったから大丈夫!」

蒼の言葉遣いにつくしの方が後ろで大慌てしていたが、その様子をみて家元がつくしに声をかけた。

「つくしも久しぶりだな・・・お前には何かと苦労をかけたこと、すまないと思っている。今日はこちらからの無理な誘いを受けてくれて感謝している。蒼にも会えて嬉しいよ。ありがとう・・・」

「い、いえ!私こそ長い間ご連絡もせずご無礼致しました。こちらに入ることが出来るような立場ではございませんのに、ご招待頂きましてありがとうございます。蒼のご無礼も子供故お許し下さいませ」

家元に礼を言われたつくしの方が両手をついて畳に頭がつくほどのお辞儀をしている。それを見て蒼が不思議そうにしている。そこまで怯えなくてもいいだろうに、と思うがつくしにしてみれば当然のことなのかもしれない。
それほどあの時は家元も家元夫人も恐怖でしかなかったのだから。

「つくし、頭を上げろ。蒼がおかしな顔してるから・・・お前も今は西門の人間だから立場なんて言葉を出すな」
「は、はい・・・ごめんなさい」

俺は怒ったつもりなんてないのに、つくしが「ごめんなさい」と言ったからだろう、蒼が俺を睨んだ。

「お父さん、なんでお母さんが謝ってるの?なにも悪いこと言ってないよ?こんな所で喧嘩しちゃダメだよ!」
「はっ?・・・いや、喧嘩なんてしてないって!」

それを聞いてまた皆が大笑いして、蒼はどうして全員が笑っているのかわからなくてキョトンとしていた。


「蒼ちゃん、お父さんとお母さんは好きですか?」

家元夫人が優しい声で聞いた。こっちからしたら俺達の前でなんて質問するんだって思うけど。

「はい!お父さんもお母さんも大好きです!僕の自慢なんだ、仲良しだから!いっつもくっついてるんだよ!」
「うわっ!蒼、なんて事言うのっ!」

「だってそうじゃん!お父さんは毎朝お母さんに抱き付いてるでしょ?もう寒くないのに・・・花衣もそう言ってるよ?」

家元は呆れて家元夫人はクスクス笑って、祥兄は頭を抱えて千春は赤くなっていた。
つくしは当然両手で顔を隠していた。

俺は「さすが、俺の息子!」と、内心ニヤリとしていた。


**********


この家の中庭で蒼が新菜ちゃんと遊んでいる。
その姿は小さい時の総二郎のようで、遠い昔を思い出しながらそれを見ていた。

厳しいことは言っても自然の中で伸び伸びと育っているから、総二郎の子供の時よりは表情も豊かで暴れん坊だと思う。
新菜ちゃんはここで育っているからどちらかというと大人しい。新菜ちゃんを泣かすんじゃないかと思ってハラハラしていたけど、よく考えたら花衣にも優しいお兄ちゃんだから心配はなかった。

あまり喋らない新菜ちゃんを上手に誘って遊んでいるように見えた。


「つくしさん・・・もう緊張は解けたかしら?」
「千春さん、あっ!お義姉さん・・・はい、もう大丈夫です」

「いやだわ!千春の方がいいわ・・・蒼ちゃん、可愛らしいわね。新菜は大人しいからいつも室内なの。こんな風に外で遊んでくれるなんて嬉しいわ」

「そうですか?うちは妹を連れて一年中外で暴れてますから・・・花衣なんて新菜ちゃんみたいに上品じゃないですよ?怪我ばっかりして総二郎がいつも怒ってますから!」

「・・・ふふ!祥一郎さんはもう少し元気よく遊んで欲しいっていつも言うわ」


明日はここで「桜の茶会」が行われる。
蒼は参加すると言ってもお茶の事は何も知らないから傍で見るだけ・・・でも、その時にこの子がどういう反応をするのか・・・。


この庭で遊ぶ蒼の後ろに、25年前の総二郎の姿が重なって見える気がした。



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Comments 4

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2018/02/22 (Thu) 12:52 | EDIT | REPLY |   
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2018/02/22 (Thu) 13:06 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・今晩は!

泣いちゃいや!(笑)
泣かないで、さとぴょん様!

蒼は総二郎とそっくり設定ですからね!つくしには「総ちゃん」に見えるのよ。

子供の挨拶って可愛いですよね。目が泳いでてね!「・・・です!」だけが凄く大きかったりしてね。
私はバレエ教室で幼稚園児をよく見るんですが面白いです。

絶対にしちゃダメよ?って言うことを凄く簡単にやっちゃいますからね!
うちの子にもそういう時代があったなぁ・・・今では大人の女みたいな喧嘩するんで可愛くないですけど。

この蒼がこのお話のエンドになるのでどうぞ最後まで応援宜しくです!
これからは流れが速いよ?すぐ5年とが10年とか・・・総ちゃん、何歳で終るんだろ(笑)

2018/02/22 (Thu) 21:43 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

みわちゃん様、こんばんは♥

何とか穏やかに時間が過ぎております。
祥兄の所に・・・ですよね、でも今からはもう(笑)何か起こしたらイヤでしょう?

予定を大幅に超えるのは私の纏め不足なので申し訳ないです。
確かに2月中頃と言いましたのに(笑)

でも、すでに私は書き終えました。はい!2月には終ります。

もう思い残すことはございません・・・ってか、書きすぎました!


雪・・・(笑)

どうなるんでしょうねぇ!このお嬢様、困った人を書くのが好きなので楽しんでいるんですが
類君ファンの方は激怒でしょうか?申し訳ないです(色んな所で謝る私💦)

私の中では山本さんは不器用な人・・・悪い人ではないんです。
類君同様一途な人なんです。

ただ、競う相手が悪かった・・・類君ではねぇ(笑)そりゃ、無謀というもの。

このお話の中の類君を言葉で表わせば・・・。

「ホントに仕方ないなぁ、牧野って。また迷子になったの?迎えに行くから待ってて?」

最初から最後までこれです(笑)

今日はありがとうございました。

2018/02/23 (Fri) 07:44 | EDIT | REPLY |   

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