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桜の茶会・・・3月になったら始まるこの茶会には各界の著名な人物が招待され盛大に行われる、西門の一大イベントだ。
午前は正式な茶懐石、午後は西門の東側庭園を使っての野点による茶会・・・一日中ここには客が溢れる。
今回は亭主には家元、その補佐に祥兄と俺が入ることになった。

何年ぶりかのここでの茶会・・・だが、特に緊張するわけでもなく気持ちは落ち着いている。久しぶりとはいえ向こうでも今は毎日茶を点てて暮らしている俺には茶会そのものに対する不安はなかった。


ただ1つ・・・これを見た蒼の気持ちの変化、それが気になっていた。

それはすぐに祥兄にも見破られて、茶会の始まる前に部屋に呼ばれた。
すでに今日のための新らしい着物に着替えていた祥兄・・・もうすっかり白衣を着ていた時とは顔つきが違っていて、更に穏やかな顔になっていた。

それでもまだ医学書が机の上にある・・・それに少し違和感を覚えたが。


「蒼に茶会を見せるのが不安か?向こうではこんな正式なものは見せたことがないんだろ?」

「北海道では茶道教室を庭から覗く程度だ。作法はまだ何も・・・今日のために簡単なことしか教えてはいない。やりたいと言い出せば考える、つくしとそうしようと決めてるからな。ただ、最近少し感じてる・・・あいつ、興味持ってんじゃないかな・・・」

「そうか。それでもこの世界は優しいもんじゃない。俺の気持ちも前に話したとおりだ・・・一番は蒼の気持ちを大事にしてやりたい。もし、これを見て本気でやりたいと言い出せばしっかり説明してやれ。中途半端ならやめていい。いいな、総二郎」

「わかってるって。父親のみっともねぇ姿は見せられねぇだろ?どうせ見るんならいいとこ見せなきゃな!」
「馬鹿野郎!茶会の時にはそのことは忘れろ。邪念が入るといいものが点てられないぞ!」

はっ!・・・流石「次期家元」だな!って、嫌味は言わないでおいた。


廊下に出てから俺の部屋に目を向けたらつくしが蒼の手を引いてこっちを見ていた。
なんだ、その顔・・・お前がそんな顔しなくてもいいだろう?今にも泣きそうな、ガキの時と変わんない情けない顔して・・・。

片手だけ挙げて「行ってくる」と合図したら、その顔のまま礼をした。蒼はそんな母親を真似てペコッと頭を下げた。


蒼・・・よく見ておけ。これがお前の父親の姿だ。
今日の俺を見てお前がどう思い、何を感じたのか・・・・・・いつか聞かせてくれな。


*********


「さぁ、これでいいわ。蒼ちゃん、お着物は大丈夫?キツくない?」
「はい!時々お父さんが着せてくれるから大丈夫です!ありがとうございました、お婆さま」

蒼に着物を着せてくれたのは家元夫人だった。
私は力を入れることが出来ないから着物の着付けは上手に出来ない。家では総二郎が着付けの担当だった。

だから今日は総二郎の代わりに家元夫人が申し出てくれた。だけど本当は孫に自分で着せたかったんだろうと思う。
産まれた時の写真を見て随分喜んでくれたとは聞いていたけど、こんなに長い間会わせてあげられなかったから。

今日の着物も総二郎の小さいときのものではなさそうだわ。おそらく蒼のために作って下さったんだろう。一時期しか着られないのにわざわざ遠く離れて暮らす孫のために・・・しかも、一級品だ。


「家元夫人、ありがとうございました。私が着付けてやれないので助かりました」
「とんでもないわ・・・それは私の責任ですもの。つくしちゃん、ごめんなさいね、いつか謝ろうと思っていたのだけれど、こんなに長い時間が経つまで言わなくて・・・。あなたの身体をこんな風にしてしまったのは孝三郎ではなく私なのよね。あの時の事は今でも悔いています。本当にごめんなさい」

「もういいんです。腕のことはもう気にしないで下さい・・・過去には戻れませんもの。それに、ある程度の家事はこなせていますし、総二郎さんがよく手伝ってくれます。蒼も色んなことをしてくれるんですよ?妹の面倒も私よりよくみてくれてます。いいお兄ちゃんになりました」

「・・・とてもいい子に育ってるわね。元気もいいし、挨拶もきちんと出来るし、頭も良さそう・・・総二郎さんにもよく似てるわ」


家元夫人は蒼を西門で育てたいとは一言も言わなかった。祥兄ちゃんとその話はしていただろうに。

昔のこの人ならご自分の気持ちだけでどんどん話を進めていっただろう。私が何を言っても、蒼が嫌がっても、それが西門の血を受け継ぐものの宿命だと言って無理を通しただろう。
もう、そんな雰囲気ではなくて、着物姿を鏡で確かめている孫をただ愛おしそうに眺めていた。


私たちの間には良い時間が流れていったんだ・・・そう思った。


***


茶事が始まると少し離れた所から私たちはその様子を見ることが出来た。

総二郎のお茶室にも数人のお客様がいて、優しい顔をした彼がお茶を点てている。話し声なんてものは聞こえないけど、とても穏やかな空気を感じる。
そこは確かに総二郎が作るお茶の世界が成り立っているのだと思った。蒼はそれを真剣な目で見ている。


そして午後からは野点が行われた。
庭園に咲き誇る何本かの桜の下で大人数によるお茶会・・・私と蒼はこの時参加させてもらった。
参加と言っても始めは隅の方でお茶会の様子を見るだけ。でも、こんなに近くで総二郎の亭主姿を見たことがない蒼はこの時も真剣な顔で父親を見つめていた。

その目は何処を・・・何を見ているんだろう。
総二郎の動きを瞬きもせずに見る蒼の姿に、何故か嬉しくもあり、寂しさも湧いてきた。

私たちが総二郎の茶席に行く順番がきて、私は蒼の手を引いて彼の前に座った。この時、祥兄ちゃんやお家元の視線を感じたけど、とにかく初めて父親から点ててもらうお茶をこの子がどう感じるのか・・・私はそっちにドキドキしていた。

「どうだ?蒼、茶会なんて面白くないだろ?着物も窮屈じゃないか?」
「・・・そんな事はないよ。よくわかんないけど・・・」

「ははっ!よくわかんないか。そりゃそうだ・・・わかったフリをするよりはいい。自分の心に素直でいないと良い茶は点てられないんだ。お父さんも昔は全然ダメだったんだ。な、つくし」
「そうね・・・お茶は美味しかったけど、素直じゃなかったかもね」

茶事じゃないし他のお客様が側にいなかったからこんな会話も出来る。蒼に体験させるには野点はいい方法なのかもしれない。
言葉は「家族」だったけど、総二郎の手先は「茶人」になっている。
蒼はそこから目が離せないようだった。

「さぁ・・・飲んでみなさい。いただく方にも作法はあるんだ。ちゃんと感謝しながら飲むんだぞ」
「はい。いただきます・・・」

蒼がゆっくりと茶碗を口に運ぶ・・・その瞬間は何故か緊張して息が止まった。

ゴホッ!と咽せた蒼に総二郎がクスッと笑う。遠くで見ていた家元までもクスクス笑っていた。

「・・・えっと、なんて言うんだっけ、お母さん」
「は?あぁ、”結構なお点前でございました”って言うの!教えたのに・・・蒼ったら」

「忘れちゃった!あんまりにも苦いんだもん。えっと、結構なおて・・・おて?」
「お点前でした・・・」
「お点前でした!ありがとうございました!」

「お茶会では大声出さないの・・・蒼、小さな声でいいのよ」

肩を震わせて笑う総二郎を、昔から知っている人達は驚いたように見ていた。
あれが昔は刃物のように尖っていた総二郎君か?・・・そんな声が聞こえたけど、私たちは聞こえないフリをしてこの席を終えた。


そして総ての「桜の茶会」が終った。


その日、もう一晩だけ西門に泊まり、明日の朝北海道に帰ることにした。
家元夫人が唯一私に頼んだことは「1日だけ蒼と同じ部屋で寝たい」ということだったからだ。

「どうぞ、寝相が悪いかもしれませんけど宜しいですか?何処でもすぐに寝ちゃうから大丈夫だとは思いますけど」

「ごめんなさいね、我儘を言います。嬉しいわ、夢だったのよ」
「そうですか。宜しくお願いしますね。蒼、お婆さまを困らせてはいけませんよ?」

「はい!大丈夫だよ!お婆さま、行こう!」
「はいはい!」


家元夫人の手を引っ張って蒼が廊下を先に進んで行く。その光景は6年前には考えた事もないものだった。


「よかったのか?お袋・・・離さなくなるぞ?」
「あははっ!そんな事ないわよ。今日しかないんだもの・・・家元夫人に夢だって言われたら断わられないわ」


「今日だけ・・・かな」
「総二郎・・・?」


この人も感じてる。蒼の心の底にある「西門の血」が動き始めていることを・・・。


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2018/02/23 (Fri) 14:55 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・今晩は!

だって昭和なんだもん!仕方ないじゃん(笑)

昭和と言えば・・・この総ちゃんのセリフじゃないですが。

うちのお父さん、もう亡くなってるんですが、1度私が子供の時に夫婦喧嘩しましてね。
何故か怒って家を出ていったのがお父さんだったんです。

「○○(私の名前)、元気でな。お父さんはもう帰ってこないから」
「え?お父さん、どうして?」←これ私ね。

って言った途端、お母さんがお父さんに向かって半分に切ったスイカを投げつけたんですっ!!背中に!
そりゃもう、びっくりして大泣き!お母さんに凄く怒ったんですよ、「なんでそんなことするのーっ!」って。
凄く泣いて、泣き疲れて寝てしまったんですが、朝起きたらお父さんが隣でグーグー寝てたの(笑)

あの時のスイカのついたお父さんの背中が忘れられません。なんだったんだろう・・・。
父の背中って言われたらこれを思い出します。

一休さん!爆笑!

母上様~、お元気ですか~♪夕べ木々の梢に明るく光る星1つ、見つけました・・・あれ?こんなのだっけ?

もう、「総二郎様、お元気ですか?」って金沢に帰るとこでしたよ。危ない危ないっ!←慌てない慌てないのつもりね(笑)


あら・・・流石。そこ、見ましたね(笑)ふふふ、祥兄ですからね。

2018/02/23 (Fri) 21:36 | EDIT | REPLY |   
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2018/02/25 (Sun) 00:15 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、おはようございます!

天国の父、聞いてくれたかしら(笑)

・・・言ったことあるかな?
うちの父、結婚式で私のエスコート役、断わったんですよ?

「それじゃ、娘さんの手を持って、ここを真っ直ぐ歩いて下さいね」
「イヤです」

「は?」

式場の人と父のやりとりを(もちろん本番で)真横で聞いた私。

懐かしいなぁ(笑)
父の思い出は笑いで溢れてます。

2018/02/25 (Sun) 08:46 | EDIT | REPLY |   

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