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4月、蒼は地元の小学校に入学した。西門からは祝いが届き、その中には子供用の少し小さな茶碗が入っていた。

「こんなものを・・・まだ、わかんねぇのにな」
「・・・深い意味はないって祥兄ちゃんのメールにはあったけど、家元夫人がどうしてもって入れたたらしいわ」

それ以外にも西門の紋付きの着物が数枚、子供なのに上質なものを送ってきた。つくしは東京で家元夫人と話して打ち解けたからなのか、今回の礼は自分で電話をかけていた。
その時も特に蒼をもう一度連れて来い、などという言葉もなく普通だったらしい。

仕方なく大棚の隅に蒼の茶碗はしまった。着物はつくしが蒼のいないうちに箪笥にしまい、それ以外の祝いの品は本人に渡すことにした。その中身は学用品がほとんど。ただし書道道具は一流品・・・6歳には必要ないんじゃねぇの?って代物だ。

「英徳じゃこれが普通でもこっちじゃ目立ってしまうのにな!やっぱわかんねぇもんかな」
「わからないと思うわよ?総二郎もそうだったじゃん。今でこそ一般の生活も慣れたようだけど」


蒼は学校から帰るとその品物を見てはしゃいでいた。

そんな姿はまだ6歳の子供。こんなに元気のいい蒼を茶室に押し込めることはしたくなかった。かつての俺がそうだったように。

「蒼、お婆さまにあなたからもお礼の電話をいれなさい。かけられるわね?」
「はい!僕、ちゃんとご挨拶出来るよ!」

つくしからスマホを受け取ると送ってもらったものを前に置いてお袋と楽しそうに話していた。つい耳を澄まして話してる内容を聞いてしまったけど、東京に来ないかという話にはならなかったようだ。
最後まで極普通に・・・何事もなく会話を終えた蒼はつくしにスマホを返した。

特にそれからも変わった様子はなく、蒼の小学校生活は平和に過ぎていった。


**


あっという間に春が終り、もうすぐ夏休み。蒼は7歳になっていた。

毎年植える裏庭の向日葵は、総二郎が作った茶道教室用の花壇との関係もあって30本ぐらいだったけど、咲きそろうと中々見応えがあった。
今ではそれを見たがるのは1歳になったばかりの蓮・・・弟を抱っこして見せてやるのは蒼の仕事だった。

花衣は水やりが自分の仕事だと言って毎日朝晩水をやる。あちこちに貼った絆創膏は総二郎の悩みの種だ。


そして1学期の終り、個人懇談があって私は蒼の担任の先生と向い合って座っていた。
優しそうな女の先生で、蒼はこの先生が大好きって言っていたから一安心・・・問題なく懇談を終えて帰ろうとしたときに先生の方から声をかけられた。

「あぁ!そう言えば蒼くん、お茶の先生になりたいんですってね!やはりお父様の影響でしょうか、将来の夢にお父さんと同じ職業って書かれてましたよ?嬉しいですね!」

「・・・え?蒼がそんなこと書いたんですか?」
「えぇ、なんでも”桜の茶会”って言うのを見た時に決めたんだって言ってましたよ。東京のお父様のご実家であったんでしょう?凄いですよねぇ・・・縁がないからわからないですけど、日本の文化ですもの、応援してあげて下さいね!」

「・・・はい、ありがとうございます」


蒼の夢が・・・茶道家。

驚く・・・というよりはやはりそうかって気分だった。
あの子の中で少しずつ変化があるのわかっていたけど、認めたくなかったのかしら。
私と総二郎の方が・・・親の方が逃げたのかしら。あの茶会から4ヶ月・・・蒼からそんな言葉を聞いたことはなかった。


それを夜、総二郎に話したら一言「そうか」って、それで終った。


*********


ある夜のこと・・・昼間の暑さが嘘のように気温が下がるこの土地では夜に稽古をすることも多かった。
1人で茶室に座り、茶を点てていたら後ろの方で人の気配がした・・・また蒼が見ている、そう思った。


「蒼か?そんなところにいないで、入りたいんなら入れ」
「・・・・・・はい」

小さな返事が聞こえてきて、蒼が茶室に入ってきた。
昼間の元気のいい顔じゃなくて少し緊張した顔だ・・・子供ながらにこの部屋が特別な場所だとわかっているんだろう。
春先に少しだけ作法を教えたから、歩き方も座りかたもその時の教え通りにしていた。

そして俺の手先を食い入るように見つめて、時々覗きこんでる。チラッと見たら慌てて姿勢を正す動作に思わず笑った。

「今は茶会でも稽古でもないんだ。楽にしとけ・・・父さんの手先が面白いのか?」
「・・・面白いっていうか、奇麗だと思うから見てしまうんだ・・・」

変な所が似るもんだな。俺も家元の手先だけは奇麗だと思ってよく見ていたっけ・・・でも、俺は手先だけじゃねぇけどな!って、そんなことは子供には言わねぇけど。


「蒼、お前、茶道をしたいのか?」
「・・・・・・」

「したいのかって聞いてるんだ。怒ってるわけでも反対しているわけでもない。蒼の気持ちを聞いてるんだ」
「・・・なりたいって思った。あの時に・・・」

「桜の茶会でか?そんなに面白かったか?子供にはわかんない世界だっただろう?」
「全然わかんなかった。自分でもどうして気になるのか今でもわかんないんだ。だけど・・・伯父さんもお爺さまも凄いって思った。よくわかんないけど、お父さんが1番格好良かった・・・」

「そうか、格好良かったか?ははっ!・・・お前に言われるとは思わなかったな!」


一度、蒼の正面に向き直って正座すると、これまでの躾のせいか蒼も急いで正座をし直した。大事な話の時にはこうするんだと、もっと小さな時から教えてきたから何も言わなくてもそういう行動になるわけだ。

この時には言葉遣いも改める。自分より年が上の者には、例え親であっても敬語で話すようにと教えてあった。


「蒼、その気持ちは本気なのか、興味なのか・・・自分でわかるか?」
「・・・よくわかりません。でも、なりたいって思いました。お父さんのようになりたいって思いました」

「茶道は見た目より厳しい世界だ。難しいことは7歳のお前に言ってもわからないかもしれないが、一生自分と向き合って稽古し続けなくてはいけない。時には色んなものを犠牲にしてしまうかもしれない。何故、こんなことをするのかと不思議に思うことが多いと思う。それでもやりたいか?」

「・・・ぎせいってなんでしょうか」

「そうだな・・・例えば友だちと約束をしても守れないこともあるかもしれない。それが原因で友だちが少なくなるかもしれない。学校行事より茶道を優先しなくてはいけないことが出て来るかもしれない。すでに決まっている予定も変えなくてはいけなかったりするかもな。もちろん今じゃない、お前が続けていってこれを本業とするのならって話だ」

「・・・お稽古が一番って事ですか?」

7歳の子供が決められるわけがないと思う質問をする自分が嫌になる。
俺の時はこんな質問なんて初めからなかったから「迷う」という選択肢すらなかった。俺にこの選択をさせてくれていたら今頃何してんだろうな・・・なんて事を蒼が悩んでる間中考えていた。


「悩むぐらいならもう少し考えるか?お前が本気かどうか、お父さんが決めるわけにはいかないからな。考えが纏まってから気持ちを聞かせてくれてもいいぞ。大事なことだから」

即答させて間違えたらいけないと思うのか、ここまで来て俺の方が尻込みしてしまうのか・・・複雑なのは俺の方かもしれない。
だが、その後すぐに蒼が視線を上げて答えた。

「いえ・・・やってみたいと思います」


自分の子供ながら穢れのない真っ直ぐな目だな・・・逃げてるこっちが恥ずかしくなっちまう。

「それでは今日からお父さんの弟子になるか?一から教えてやる。初めに言っておくが厳しいぞ?そして、一度始めたらやめるのは自由だが二度と教えない。これが条件だ・・・どうだ?」

「わかりました。お父さんの弟子になります」


「わかった・・・それじゃ、明日からな」


この話を今度はつくしが襖の向こうで聞いている。
手で口元を押えながら・・・つくしの泣き声は俺の心の中にだけ聞こえた。




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2018/02/24 (Sat) 13:43 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

みわちゃん様、こんにちは。

はい、ここまで来ました!ワクワク♥
蒼はこれから総ちゃんの一番弟子です!自分の子供に教えるって実は一番難しいと思うんですよね。
感情がモロに出そうだし、出来ないとイライラしそうだし(笑)
私はいつも自分の子供に何かを教えるときは上手くいかなかったです。

知らん顔した方がいつの間にか出来るようになってるって事の方が多かったですね。

我が子のような気がする蒼・・・頑張れよっ!(笑)


雪・・・はい、キチンとそのうちしめますんで。

でもごめんなさい・・・書くのは一番楽なので好きなんです(笑)
だって気にせず書けるんですよ?嫌われてもいいんだもーん、みたいな!

類とかつくしちゃんとか書くときは凄く考えるんですよね~・・・。

この時どんな風に考えるだろうとか、どういう行動とるかなぁとか。
それが類に合ってるかとか考えると、なんども書き直すから時間がかかる・・・。
多分、総ちゃんより類の方が時間かかってるかも(笑)
元々類つくですからね(笑)凄く悩んじゃいます。

思い描いたラストに向けて・・・こっちも後半にすでに入ってます。

今日もコメントありがとうございました。

2018/02/24 (Sat) 15:55 | EDIT | REPLY |   
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2018/02/25 (Sun) 00:29 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様
おはようございます。

そりゃ一番格好いいですよね!総ちゃんですもの!
何だか凄く好きなのが、総ちゃん親子の会話(笑)

私、総ちゃんの子供にセリフ付けたの初めてなので凄く楽しい(笑)
類は何回かあるんですよ、パパ役が。・・・総ちゃんは初めて~♥
しかも「和」な感じでしょ!「お父さん」ですから。
波平さんとカツオ君が頭に浮かぶんですよね。なんでかな・・・。

正座して向い合うから?ははは・・・。

蒼の成長シーン・・・お楽しみに!

今日もありがとうございました。

2018/02/25 (Sun) 09:11 | EDIT | REPLY |   

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