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数日後、山城商事の営業サイドでの初会合が花沢で行われた。
俺はオブザーバーとしての参加だから席は末席。そこから会議全体を見ることにしていた。

時間になって大会議室に行くと、すでに山城からの出席者は揃っていて俺が入ったと同時に全員が席を立って頭を下げた。
その中に1人だけ顔を向けたままの姿勢で挨拶をしたのは・・・山本だった。

ほんの少し眼を合わせた程度でそのまま無視して、自分の席に着くと会議資料に目を通す・・・だけど、完全に意識は山本の方に向いていた。あいつもおそらくそうだろう・・・俺はデスクに備え付けられているパソコン画面に視線を向けていたが山本は堂々とこっちを見ている。反対側に座るうちの社員達がコソコソと話し始めるぐらいだ。

それを見て堪りかねたのか隣の男が山本を諫めていた。


「それでは時間になりましたのでこれより花沢物産と山城商事合同事業についての初会議を行いたいと思います。まずは責任者の紹介から・・・」

司会者の声が響いて会議は始まった。


***


2時間後、初会合が終ってから会議室では名刺交換やアドレスの交換などをしながら和気藹々とした雰囲気が漂っていた。
俺は特に誰とも話す気もなかったから、さっさと執務室に戻ろうと席を立ったが、その時後ろから呼び止められた。

「花沢専務・・・少しいいですか?お話ししたいことがあるんですが」

もちろん呼び止めたのは山本樹・・・俺に直接声をかけられるような立場じゃない山本がそれをしたことで、一瞬周りの人間の動きが止まって会議室はシーンとなった。
山城の同僚が彼の腕を引っ張って止めようとしたが、山本はそれを振り払って俺の方を睨むように見てきた。

「・・・私には話すことは何もありませんが?それでも話があるというなら私の部屋に行きましょうか?」
「申し訳ない・・・助かります」

「そうですか。では、こちらにどうぞ」

俺が先に会議室を出ようとすると山本は少し間を開けてついてきた。

「山本部長!なんてことを・・・こちらは花沢物産のご子息だろう?一体君に何の話があるんだ!場を弁えんか!」
「本部長、申し訳ございません。失礼を承知で申し上げています。こちらの専務は話を聞いて下さるようなので行ってきます」

「山本!このプロジェクトから外されたいのか!」

山城の幹部は声を大きくして怒鳴り始めた。
無理もないけどこんな所じゃホントのことは言えないよね?話って言うのは・・・牧野の事だろうから。
仕方なく俺の方からこの申し出を誤魔化してやった。

「山城の営業本部長ですね?こちらの山本さんは個人的に共通の友達がいる人なんです。その人が少しトラブルを起こしているのでその相談・・・そうでしょう?山本さん」
「え?あ、あぁ、そうです。個人的なこと・・・なんです」

そういうことならと渋々引き下がった本部長は眉間に皺を寄せたまま、山本を睨んで元いた場所に戻って行った。


会議室を出て役員専用エレベーターの中で隣に立った俺達。こうして二人きりになるなんて思いもしなかった。

「意外と無茶するんだね。驚いた・・・俺の立場がわかったんなら引き下がるかと思ったのは思い上がりだったってわけ?」
「・・・無茶と言えばそちらもでしょう?あなたこそご自分の立場がおわかりではないんですか?」

「どういう意味さ・・・言っとくけど俺の立場を牧野は理解してるよ。そのことであんたにとやかく言われたくないな」


大会議室から役員フロアまではあっという間だったから、すぐにエレベーターの扉は開いて俺達は専務執務室に向かった。

**

森本には席を外させ、俺達はソファーに向い合って座っていた。
話があると言ったくせに何も言わずに目の前のコーヒーを見てるだけ・・・俺から聞くのもどうなのって思うけどこんな事で帰るのを遅らせたくもない。仕方なくこっちから切り出した。


「山本さん・・・話って何?牧野に何か伝えてってことなら断わるけど」

「・・・申し訳ないがここからはあなたを花沢専務としてではなく、1人の男として言葉を出していいかな」

「・・・どうぞ。勤務時間だけど大目に見てあげる。っていうか、あんたは俺の部下じゃないからどんな処分も出来ないけどね。わざわざこんな事を山城に報告もしない。言いたいことがあれば言いなよ」

ほんの少しネクタイを緩めた山本が大きく溜息をついた後に言葉を出した。


「山城真莉愛との婚約話が進んでるっていうのに何故牧野さんを側に置いてる?この話はほぼ決定していると噂で聞いている。それなのにあんたのしてることは彼女を傷つけるだけじゃないのか?結婚するまでの遊びってことじゃないよな。もしそうなら許さない・・・すぐに牧野さんを自由にするべきじゃないのか」

「あんた、家庭持ちでしょ?何言ってんの?」

「・・・牧野さんから聞いてないのか?俺は独身だ。離婚してもう2年になる」

独身?・・・じゃあ、子供はこの男が引き取って育ててるの?
牧野は何も言わなかったけど。いや、よく考えたら言う必要がないからって事か。


「まぁ、あんたが独身だろうと俺達には関係ないし、真莉愛とも婚約する気なんてないけど。周りが騒いでるだけだから、そんなことわざわざ牧野に報告しないでくれる?それこそ傷つくから」

「俺はあんた達みたいな家柄の人間じゃないが、こんな政略結婚のようなものは何度か見てきたよ。自分の意思に関係なく、断わることもしない結婚・・・果たしてあんたにその気がなくても話が消えるかどうかはわからないって所じゃないのか?」

「・・・どうかな。他の企業と比べられてもね。牧野以外を選ぶ気はないし、もし相手が彼女じゃないなら結婚なんて一生しない。俺は彼女のために生きてる、そう言ってもいいぐらいだから」

山本が膝の上の拳を硬くした・・・真莉愛の名前を出しても動揺しない俺の事が気に入らなかったのか?
山城がどれだけ前田に働きかけても不正の事実がわかった時点ですべて終り・・・山城との取引はその時の判断だけど、真莉愛の名前は確実にその時に消える。

それがわかっていたから改めて驚くようなことでもないんだ。


「・・・牧野さんが道明寺ホールディングスの後継者の婚約者だったって聞いたんだ。とてもこの世界ではやっていけない、自分の暮らしと掛け離れた世界が苦しいっていう理由だそうじゃないか。それでも同じ世界にあんたは連れて行く気なのか?それが彼女にどのくらい負担をかけるかわかってるのか?」

「それもちゃんと話し合ってお互いに近づこうとしてるよ。あんたには悪いけど俺達の間に入ることは出来ない。もういいかな・・・あ、それと子供を使って気を引くとかは止めるんだね。牧野は子供には弱いから。・・・もしそんな事をしたら自分の子供まで傷つけることになるって、わかってるよね?」

「・・・そんなことはしない!一樹を利用しようと思ったことは一度もない!」


山本はここまで話すとスッと立ち上がった。
緩めていたネクタイを戻すと俺に一礼して専務室から出ようと踵を返した。


「花沢さん。あんたが牧野さんの事を本気なのはわかった。だけど俺も本気だ・・・もし、あんたの行動に納得いかなかったり、牧野さんが傷つくようなことがあれば、その時は俺が守る。覚えておいてくれ」

「そっちこそ忘れないで。俺以外の人間が牧野を守ることはないから・・・。じゃ、お疲れ様」


パタンと静かにドアを閉めて山本は帰って行った。

思ったより情熱的な男・・・そして父子家庭。牧野がすぐに同情しそうな雰囲気に不安を覚えたのは確かだった。


**


山本のおかげで帰るのが遅くなってしまった。
今日はエレベーターが着いても牧野の足音がしない・・・もしかしたらうたた寝でもしてるのかな、そう思ってインターホンは鳴らさなかった。

カードキーでドアを開けて静かにリビングまで行くとローテーブルの上に夕食を並べたまま、その横に伏せて寝ていた。
今日は和食だったんだね。美味しそうなのに冷めてる・・・しかも2人分残されてるってことは牧野も食べてないんだね?

「牧野・・・牧野、ただいま。遅くなってごめん・・・連絡し忘れちゃった」
「うん?・・・あぁ、類・・・私、寝ちゃってた?あっ・・・!ごめん!」

「謝るのは俺だよ?連絡しなかったんだから。ごめんね、今から一緒に食べようか」
「・・・うん!私も食べずに寝てたんだね、お腹空いちゃった!温めてくるね」


キッチンに行こうとする牧野を後ろから抱き締めたら「どうしたの?」って笑ってる。
どうもしないよ・・・あんたがここにいる事を確かめてるんだよ・・・そう言うと「バカだね、もう何処にもいかないよ」って答えてくれた。


だけど不安になるからこうしてしばらく抱き締めさせて・・・。


小さな棘が何処かに刺さってるみたいな気持ちだった。



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2018/02/23 (Fri) 14:40 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・今晩は!

そうそう(笑)小さい棘がアソコに・・・って思ったんでしょ!もうっ!

抜いちゃダメよ?そんなとこの棘(笑)
でもそのままだと痛いか・・・(どうしても割り箸が・・・笑)

山本樹、意外と男っぽいぞ!勝ち目はないけど。
こういう情熱的な男に類のような飄々とした人はイヤでしょうねぇ・・・。
手応えないって言うか、遊ばれてるみたいで(笑)

どうしよう・・・だんだん雪の季節じゃなくなってきた(笑)
このままだと「10月の向日葵」同様、延び延びで春になっても書いてたりして。

イヤだなぁ・・・(笑)

2018/02/23 (Fri) 21:23 | EDIT | REPLY |   
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2018/02/25 (Sun) 00:00 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、おはようございます。

あはは!ごめんなさい!
衝撃的すぎて忘れられないのよ。

見たら思いだしてしまう・・・これをねぇ・・・って!
安物の場合、小さい棘が刺さりそうでしょ?

もうやめとくね(笑)

そりゃ、マメが相当必要じゃないですか!
そして出て行かないんでしょ?・・・ダメじゃん?(笑)
もう諦めて仲良くして下さい♥

2018/02/25 (Sun) 08:41 | EDIT | REPLY |   

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