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朝になって目を開けたら牧野が隣にいなかった。
すっかり冷たくなってるその場所にドキッとして、慌てて起き上がったら・・・キッチンから優しい匂いがしてきた。


なんだ・・・朝食の準備してたんだ。

ホッとしてまたドサッとベッドに倒れ込んだ。
真莉愛のことで牧野がまた変な方向に行くんじゃないかって・・・司の時の事があるから少し不安だった。

それにしても彼女の行動には驚いた。
山城と前田の不正の証拠を早く見つけないと次にどんな手段に出るかわからなくなった。そもそも昨日の事は真莉愛の独断かどうかもわからない。
ありもしない噂を流される前に藤本に動いてもらわないと・・・。幸いにも不正ルートに繋がりそうなものは見つかってるし。

ベッドの中でそんな事を考えていたら牧野が俺を呼ぶ声が聞こえた。

「類、もう起きてる?なんだ!起きてたのね、朝ご飯だよ!」
「うん、すぐ起きる。今日は保育園だよね?」

「平日の連休なんてバイトにくれるわけないよ。今日は仕事に行くよ」

無理に作ってるような笑顔だけど本人は必死なんだと思うから何も言わないでおいた。


今日の朝食はトーストとサラダにプレーンオムレツ、それにコーヒー。

コーヒーは俺が入れる担当だったからカップに注いで牧野に差し出したら、嬉しそうに「ありがと」って言葉が出た。
向い合って今日の予定の話をして、昨日の事なんか何もなかったかのように明るくしてる。かえってそれが牧野の悲しみが深かったのを教えてるみたいでイヤだったけど。

あんたの得意技・・・空元気、だからね。


「じゃあそろそろ行こうか!もうすぐ8時だよ?」
「あっ!いけない、今日はお弁当作ろうと思ってたのに忘れちゃった!バカだなぁ・・・」

「あはは!早起きしたのに抜けてるね!牧野らしくていいと思うよ」

急いでコートを着て鞄を持って靴を履いて・・・「カードキー持ってる?」って聞けば、案の定忘れていた。
今日は一日中こんな調子かもしれないね。

それでもいいよ、間違いなくこの部屋に戻ってくれるなら・・・それだけでいいんだから。


エレベータの中で手を差しだしたら恥ずかしそうに手を伸ばす。
「朝から手を繋ぐの?」って言うから「24時間繋いでてもいいよ?」って返事したらクスクス笑っていた。


知ってる?

本当は手を繋いでる時、いつでも俺はドキドキしてるんだって。


**********


保育園で子供達を前に暗い顔を見せるわけにはいかなくて、必死で笑顔を作って走り回ってた。動いていなきゃあの人の言葉が頭の中に蘇ってくるし、類との将来が不安になる。
何かしていないとまた余計なことを考えて自分の行き先を間違えちゃうから。

そう思うのにサッカーボールを手に持ったまま立ち止まって考え込んでしまう・・・子供達の声が聞こえなくなる。


類がどれだけ説明してくれても私の中の恐怖は消えていなかった。

まだ会ったことのない類の両親が怖かったのかもしれない。花沢家の事をなにも知らない私を受け入れてくれるのかどうか・・・そこだけは私の努力だけじゃどうにもならないところだから。

花沢の役には立たない人間・・・その事実は変わらないのだから。


「つくし先生、どうしたんだよ!ボールを持ったままだとサッカーできねぇだろ!」
「先生、手に持っちゃダメだよ?ほら、蹴らないと!」

「は?あぁ!ごめんごめん!行くわよーっ!!」
「今まで休んでたの、先生じゃん!」

子供達にまで散々バカにされて、それでも笑いながらまた園庭を走った。
昨日も仕事だったら良かったのに・・・そう思いながらひたすら子供達に交じってボールを追いかけた。


午後からは読み聞かせの時間。

今日は”世界の童話”ってことで選ばれたのは『シンデレラ』だった。
それを子供達を前にして一緒に床に座って、大きな紙芝居みたいにして説明するっていう時間。紙芝居は先輩保育士が持ってくれて、私はとにかく話す係。子供達にわかりやすくゆっくりと、時にはお芝居をするように絵本を読んでいた。

「・・・そして、シンデレラは継母さんとお姉さんを許してあげて、王子様と幸せに暮らしましたとさ・・・おしまい!」

読み聞かせが終ると子供達は拍手してくれる。そしてお決まりのようにこのあと感想を聞くんだけど、ここではいつも夢も希望もない言葉が返ってくる。でも、これが面白くて私は好きだった。

「はーい、どうだった?面白かった?」

「先生、ガラスで靴なんて作れるのー?歩いたら割れるよ?大怪我するよ?」
「先生、カボチャって中身どうなるのー?先に食べちゃうの?でさ、馬車の中って黄色いの?」
「階段とか走って降りちゃダメだって!靴脱げたあと裸足で走ったの?痛そーっ!小石踏むんだよ?」
「絶対、おんなじ足のサイズの人っているんじゃないのー?ぼく、たっくんと靴同じだもん!」

笑いながら子供達の声を聞いていたら一樹君が手を上げた。

「はい!一樹君、どう思った?」
「・・・継母って絶対に意地が悪いの?先生・・・」

「・・・え?継母?」

今まで笑っていた私の顔が真顔になって固まってしまった。
そこで頭に浮かんだのが山本さんの顔・・・一樹の父親ではない俺と会ってもらえないか、その言葉が急に思い出された。

茫然として話せなくなった私の代わりに先輩がフォローしてくれたけど、なんて一樹君に説明したのかなんて頭に残らなかった。


そして帰り際、その先輩に注意されてしまった。

「あまり一樹君が父子家庭だということを意識しないでね。特に子供達の前であんな風に固まっちゃだめじゃない!それでなくても、あなた山本さんに気に入られてるでしょ?行動には注意しなきゃ。一樹君の事もよく気にかけてるようだけど、他の子と差別なんてしないでよ?」

「はい、わかってます。申し訳ありませんでした」


他の子と差別・・・そんなことはしていないつもりだけど、あの子をみたら山本さんを思い出してしまうだけ。
新しいお母さんが欲しい、そう言った一樹君の言葉も同時に蘇っていた。


**********

<side樹>
今日の業務終了後、営業本部長に呼び出された。

この前の花沢物産での事は散々文句を言われ「2度とするな!」と釘を刺されていたから、また何か言われるのかとうんざりしながら部屋に向かった。

そこには本部長の他に専務も来ていて俺にソファーに座るよう指示してきた。
この2人に呼び出されるような覚えはないが?怪訝な顔をして座ったら、向かいに2人も座って今日の内容を伝えてきた。

「山本企画部長、実はね・・・急な話なんだが君に転勤命令が出てね。しかも、海外なんだよ。今日はそのことで来てもらったんだがね」
「は・・・転勤?今頃・・・ですか?花沢との仕事が始まったばかりですが?」

「そうなんだがね、カナダのカルガリーに出来た新しいカナダ支社の出向先が優秀な人材を欲しがっていてね。勤務地はエドモントンなんだが来月早々に行ってもらうことになってね。子供さんもいるし大変だろうが会社の決定事項だから頑張ってくれたまえ」

「カナダ・・・?エドモントンといえば結構寒いところですよね?そこに子供を連れて行けと仰るんですか?無茶でしょう!」

「どなたか一緒に行ってくれる人はおらんのかね?君も独身になって2年だろう・・・お付き合いしている女性は?これを機会に自分の事も考えてみてはどうだろう?いや、もう日にちがないんだがね、そういう人がいればの話だよ」


急に出された転勤話は海外・・・あまりにも突然すぎて頭の整理が出来なかった。
ついこの前花沢に出向いて会議に参加したばかりなのに?

なぜ急に俺が出されるんだ?国内の転勤ですら経験のない俺が・・・いきなりのカナダ?
しかも「一緒に行ってくれる人」?それを言われれば1人しかいない。正確に表現すれば「ついてきて欲しい人」になるが。


「・・・そのような人はいませんよ。わかりました。転勤のことはご命令であれば・・・」
「家庭のこともあるだろうが申し訳ないね。社長の指示だから悪く思わんでくれよ?」

「業務命令ですよね。仕方ありません」


挨拶もしたかどうかわかならいが、俺は本部長室を出た。

年老いた両親を連れて行くわけにはいかない。じゃあ一樹を日本に置いていけばいいのか・・・でもそれは可哀想なのか?
誰かと一緒なら・・・どうしてもそれを考えたら彼女の笑顔が浮かんだ。




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2018/02/26 (Mon) 10:04 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: ジワジワ……

キャン様、今晩は♥

そうそう、じわじわと・・・(笑)
1人ぶれずに己の意思を貫き通す類君以外はオロオロしたりドキドキしたりイライラしたりしています。
類君・・・マイペースだから(笑)

「なんでみんなそんなに慌ててるの?牧野は俺のもんだよ?誰にもあげないよ?」って言ってるんだと思うけど。

山本さんがどう出るか・・・うーん(笑)好きなんですよね、私♥この人のこと。
類君を不幸にする気は一切ないんですが、山本さんにも幸せになってもらいたいんですけどねぇ!


あらら、わんちゃん・・・うちの犬は18年生きてました。
最後の1年ぐらいは大変でしたがそれまではよく遊んでもらいましたねぇ。

でも、犬はもういいかな(笑)
我が家にはインコが7羽もいるので(笑)

今日もありがとうございました。わんちゃんもお大事に♥

2018/02/26 (Mon) 19:34 | EDIT | REPLY |   
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2018/02/27 (Tue) 12:24 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・今晩は!

継母が出るわかりやすい昔話を必死に探したら・・・白雪姫とシンデレラになりました。
でも、白雪姫は・・・王子様のキスで目を覚ますでしょ?
ちょい子供には早いだろうと思ってこっちにしました。
(変な所で気を使う私)

一樹君書いてると私がこの子を利用してる気分になって「ごめんねぇ!」ってなる(笑)

山本の動きですか・・・どうすると思います?

つくしちゃん拉致事件・・・(笑)
あぁ、それは司にしか出来なかったわ!山本が俵担ぎしても萌えないですもんね。
黙って消えてくれればいいけど・・・そういう訳にもねぇ。

ってことでお楽しみに♥

2018/02/27 (Tue) 20:10 | EDIT | REPLY |   

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