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桜の茶会が終わったその夜、大広間に家元夫妻、祥兄と千春、俺とつくし・・・そして蒼が呼ばれた。
蒼の気持ちを確認する、それを本人の言葉で聞くためだった。
本人は中央に座らされて少し戸惑っているようだ。無理はない・・・今から聞かれることは何も知らないのだから。


家元が静かに口を開いた。

「蒼、本日の茶会はどうじゃったな?心に残るものがあったか?」
「はい。とても素晴らしい経験が出来ました」

「そうか。お前は北海道で父から茶道を教わっておるが、どうだ、ここで本格的に茶道をしてみる気があるか?」
「・・・えっ!ここで、ですか?」

いきなりの言葉に慌てて俺とつくしの方を見た。
つくしも俺も蒼の目を真っ直ぐに見つめた。「自分で答えろ」・・・それがこいつにも伝わったんだろう、また正面の家元の方に向き直った。


「お前の父はすぐれた茶人ではあるが訳あってこの家を出て、今は北海道に住んでおるのだよ。だが本来この家を継ぐべき立場にあった者だ。その意志を継ごうと思うのなら親元を離れここで修行してみないか?ここにおる祥一郎の後を蒼、お前に頼みたいと思っておるのだが・・・どうだ?」

「・・・お父様とお母様から離れて?1人でここに住むのですか?」

「家族とは離れてしまうが縁を切るわけでもないし、会えないわけでもない。ただ、この家を継ぐとなると本邸で暮らし、色んな方とお付き合いをし、まだまだ多くのことを学ばなくてはならない。それは子供の時から必要なことだ。この家に後継者がいるということは後援会の皆様を安心させることが出来るのだよ」

後継者・・・確かに祥兄の所に女の子しかいないことをすでに心配している年寄連中はいるだろう。
だが、俺達のように3兄弟いてもここまで揉めたぐらいだ。それを蒼1人に背負わせるのも随分酷な話、それは祥兄も言っていたがこの先は女性がその家を継いでも良くないか?

それを考えたら俺の後は花衣か蓮か、どちらかが継いでくれるのか?
蒼の返事を待ちながらそんなことも考えてしまった。


「・・・お父様のようになれますか?」

「それはお前次第だ。総二郎のようになりたいか?」

本人を前になんて会話をしてるんだ!とは思ったがここで蒼が俺のようになれるか、と聞いたことには驚いた。隣にいるつくしもその次の言葉が気になるのか心配そう眉が歪んでる・・・少し小突いたらハッとして表情を戻した。


「お父様は僕の師匠で、一番尊敬する人です。お父様のようにお茶を点てたいと思います。今日の茶会のように、お客様に喜んでもらえるようなお茶を点てたい・・・どうしてもここじゃないといけないのなら、僕はここに住みます」


つくしの目が潤んだ。
蒼が出す答えなんて初めからわかっていたはずなのにな。

俺のようになりたい・・・嬉しいような寂しいような、逞しくなったものだと思う反面、子供のくせに生意気な!など色んな感情で俺も苦笑いするしかなかった。


目の前に座る我が子がいつかこの家の長になるかもしれない。
俺には出来なかったことを蒼がしてくれるのかもしれない。


庭の桜が風に舞う・・・3月の終り、その日は穏やかで優しい日だった。



**********



蒼の部屋が空っぽになったのはそれから数日後だった。

小学5年からは英徳の小学部に入り、制服姿の蒼の写真が届いた。
こっちでは私服だったから子供っぽかった。流石に英徳の制服にはまだ馴染んでないからぎこちなくて、総二郎が「似合わねぇな!」って笑っていた。自分の方が着熟してたって・・・それでも何度も見ては嬉しそうにしていた。


「もう少し華道もさせときゃ良かったかな。着物は1人で何とか着れたよな・・・茶懐石、あれは何回かしてねぇけど覚えてるかな」

総二郎の独り言は私以上だった。
伝えたいことがあるのに中々言い出せない・・・まぁ、いいかって思っていたら思いがけず花衣が声に出した。

「お母さん、今日は病院行かないの?もう治ったの?」
「え?あっ・・・そうね、うん、今日は行かないわ。また今度行く時は花衣もついてきてくれる?」

「うん!花衣、赤ちゃん見るの好きだもん!」

その言葉に総二郎が振り向いた。

ポカンと口を開けて、眼を大きくさせて。
・・・でも、言葉も出さずに私を見てる。だから「そういう事よ!」って言うと「マジで?いつだ?」って笑った。

東京に行く前からもしかして?って思っていたけど、蒼のことが終ってからにしようと病院を先延ばしていただけ。
経験上その勘は当たっていて昨日わかったばかりだけど、下を向いてブツブツ言ってる総二郎には言いにくかった。

「なんですぐに言わねぇんだよ!久しぶり・・・4年ぶりか!つくしもちょい年とったから大事にしろよ?」
「一言多いわよ!でも・・・また忙しくなるわね。ちょうど年末か年始めの頃だって」

「そうか。楽しみだ・・・元気な子、頼むな」
「うん、またお風呂担当頼むわ」

「ははっ!もうプロだからな!任せとけ!」


これを総二郎がすぐに蒼に知らせた。
蒼は凄く喜んでくれたけど、今度産まれる妹か弟に自分の存在がわかってもらえないと不安がっていたそうだ。

「産まれる時だけは家元に頼んでここに戻って来い。家族で写真、撮ろうな」総二郎の言葉に私の方が涙ぐんだ。


蒼が家から離れたその年の終り、クリスマスイヴに私たちの4人目の子供が産まれた。蓮から4年目・・・総二郎は久しぶりの赤ちゃんに大喜びで、もちろん立ち会ってくれた。
今度は全部が私にそっくりの女の子で毬莉(まゆり)と名付けた。

寂しくなるかと思ったその年の冬だけど、また1つ希望が訪れたような気がした。

蒼はすぐに駆けつけてくれて、約束どおり家族写真を病院で撮った。6人での写真を祥兄ちゃんに送ったら、すぐに電話がかかってきて祥兄ちゃんの方が大泣きだったな・・・。





月日は穏やかに過ぎていった。

一番上の蒼は高校生。一番下の毬莉は小学校に入学した。

蒼は稽古に励み、泣き言1つ言わずお家元の指導を受けているという。
先日、初めて西門の現後援会長の前でお茶を点て、褒めていただいたそうだ。その後も小さな茶会の亭主代行を務めるようになったのは高校生2年の頃。総二郎が初めて亭主を務めた歳と同じになった。

総二郎は相変わらず札幌を中心に茶会や講演を行っていたけど、時には東京に呼ばれるようになっていた。
その時には蒼に稽古をつけて帰って来ることもあって、戻ってきた時には様子を教えてくれた。

「あいつ、もしかしたら西門の男じゃねぇのかもよ?女はいないんだと!おかしくねぇか?俺の息子なのに」
「はぁ?何の話よ!そんなのどうでもいいわよ!バカじゃないの?・・・ったく!ただでさえ顔が似てるんだから心配しなくても学校の様子は聞かなくてもわかるわよ!総二郎みたいに女の子ばっかり追いかけてないんなら安心ってモンよ!」

「うわっ・・・母親のヤキモチか!・・・みっともねぇぞ?こんな良い旦那がいるのに」

そんな事を言いながらも総二郎は嬉しそうにお酒を飲んだ。


花衣は本格的に茶道と華道を始めた。もちろん総二郎が師匠で、蒼の時同様厳しかったけど父に憧れる花衣は毎日頑張っていた。
花衣の初恋は総二郎だ・・・わからなくもないけど私は少し複雑だった。こればっかりは相談にも乗れないし。総二郎そっくりの花衣が彼と並んだら、残念だけど私よりは絵になる・・・溜息は私の方だった。

「どうしてお父さんなんだろう・・・はぁ」
「何言ってるの!彼は別れるかもしれないけど、お父さんなら別れないからいいじゃない」

我ながらなんて慰め方だろう。何も知らない総二郎は今日もその凜々しい顔で花衣を呼ぶ。真っ赤な顔で総二郎の稽古を受ける花衣は私の一番のライバルだった。


蓮はあまりお茶には興味を示さず、むしろ最近の男の子・・・残念なことに性格は一番総二郎に似ているようだった。
まだ小学生なのに彼女が出来てて私を怒らせ、総二郎は「さすが!」って変な事を教え込んで笑っていたけど。

毬莉は子供ながらに医者になりたいと言って祥兄ちゃんを喜ばせた。7歳の毬莉に祥兄ちゃんから医学書が送られたときは総二郎と2人で大笑いした。


沢山の幸せな時間が流れた。

辛かったあの1年なんて忘れてしまうほど落ち着いた時間を家族で過ごした。

毎年沢山の向日葵が庭に咲いた。
私を励ますように空に向かって黄色い花を輝かせて・・・。



そうやって何年もまた過ぎていったある年、お家元が隠居して祥兄ちゃんが家元となった。

私たちの蒼は全員一致で次期家元の指名を受けた。
蒼がこの家を出て行ってから15年も経った春の日のことだった。



sunflower-2691845__340.jpg
長い間応援ありがとうございました。
明日が最終話になります。
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2018/02/27 (Tue) 13:29 | EDIT | REPLY |   
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2018/02/27 (Tue) 15:01 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは!

えみりん様~!今晩は♥表にコメントありがとうございます。

そうねっ!毬莉ちゃんは全部がつくしちゃん似だから!
花衣は全部が総ちゃん似の設定です。全然似てない姉妹じゃん(笑)

ん?でも類はここに来てないから恋が始まらないぞ?
会わせてあげなきゃいけなかったかしら・・・。
そうなったら総ちゃんが大変ですわ!つくしちゃんそっくりな毬莉ちゃんを類に・・・許さないでしょうねぇ!
相手が誰でも一発では許しそうにないわ(笑)

って、男の方もイヤでしょうね!
義理の父親が総ちゃんだなんて!比べられても勝ち目ないし。

はぁ・・・何とかこれで終われます。
3月?入りませんよっ!(笑)

どうしても2月に終らせたくて凄い早い展開になりました(笑)

2018/02/27 (Tue) 20:27 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・今晩は!

そ、そんなに泣かなくても・・・いつかは終らないと本当に400話いきますからね(笑)
長引かせすぎたので実は私も非常に辛いのですが・・・。

この総ちゃんに恋してますからねぇ・・・私。

お別れするのが悲しいです。

もうこんな話、書けないだろうしなぁ・・・。
何となくこの日が来なければいいのにって思って、泣けてきます。
1日前の方が寂しいなぁ(笑)何でだろう。

書き始めた頃のこと、もうすっかり忘れましたよ(笑)

さとぴょん様・・・本当に毎回コメント下さってありがとうございました。
こんな私を育てて下さって・・・感謝します。

それでは明日、同じ時間に最終話、お届けしますね(泣)

2018/02/27 (Tue) 20:44 | EDIT | REPLY |   
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2018/02/28 (Wed) 10:39 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: え”っ……

キャン様 こんにちは。

そうそう、いい加減終らないとね(笑)
もう書けって言われたら400話いきそうだったんで、ここらでさっさと終らせようかと。

あはは!でも、この総ちゃん、原作のキャラとはかなり違ってますけどね!

私もこの総ちゃんに恋してるので終るのが寂しいです・・・ほんの少し番外編があるのでそこで完全にお別れ・・・。
はぁ・・・しばらくなにも出来ないかも。

総つくにチャレンジしていただいてありがとうございました。

2018/02/28 (Wed) 15:53 | EDIT | REPLY |   

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