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牧野が小学部を卒業して中等部に入る年の3月末。
花沢では俺の誕生日パーティーが開かれる事になってた。

それはもちろん毎年の恒例行事だけど、今年は総二郎と一緒に牧野を招待した。
初めの返事は出席だったから誰にも言わなかったけど楽しみにしていた。こんなに自分の誕生日が待ち遠しいってことはないってぐらい、本当に楽しみにしていた。

普段、行事を嫌がる俺が喜んでスーツの採寸に協力するもんだから加代が驚いていたっけ。
「どうしたんですか、類様。何かいいことでも?」なんて聞いてくるけど返事はしなかった。

牧野に見せるためだなんて言えない。初めて真剣に選んだ気がするよ・・・自分に何が似合うか、だなんてさ。



それなのに当日は総二郎だけが来たから驚いた。表情には出さないのが得意技の俺だったのに流石に顔に出したんだろう、あきらや司がびっくりしていた。

「おい!類・・・どうしたんだ?なんで怒ってんだ?」
「何かあったのか?今日はお前の誕生日なのに」

「・・・総二郎、どうして?なんで1人なの?」

「・・・俺だけじゃいけなかったのかよ。つくしなら『場違いじゃないのか』って言ったら支度してたけど止めたんだよ。それが悪いのかよ!」
「支度までしてやめさせたの?」

「つくしも『恥ずかしいからやっぱりやめとく』・・・って、そう言ったんだ」

もしかしたらその言葉は全部本当なのかもしれない。
総二郎が”場違いじゃないのか”って言ったのも、牧野が”私も恥ずかしい”って言ったのも。

だけど、それは本心じゃないかもしれない。牧野は総二郎に言われて、そう答えるしかなかったのかもしれないじゃない!
いつも心の何処かで遠慮して、後見されてるのを”迷惑掛けてる”って言うんだから。それを「気にするな」って言うのが本当じゃないの?

総二郎・・・お前はただ俺にジェラシー感じてるだけだよね?

俺は自分に正直に態度に出してるんだから。
それが出来ないお前は、西門の宗家の人間として牧野の事を”使用人”扱いしたんだ。

「・・・いや、いいよ。西門のやり方に口出す気なんてないから」
「これだけは渡してくれって言うから預かった・・・ほら!」

差し出されたのはラッピングされた小さな袋。中を開けてみたら手作りのブックカバーだった。
綺麗な色の布で丁寧にミシン掛けされてて、後ろにはイニシャルが入れられてる。そこだけはよくわかんないけど手縫いなんだろうか?すごく綺麗に仕上げられていた。

「そんなもの、喜ばねぇぞって言ったのに・・・」
「なんで?すごく嬉しいよ。今日の中で1番嬉しいかもしれない・・・そう伝えといて」

みんなが会場で雑談して楽しそうにしてる中、俺はその袋を持ってすぐに自分の部屋に戻ってしまった。
そしてすぐに気に入ってる単行本をそれに入れてみた。

「ありがとう・・・大事にするね」ってこの言葉、牧野の目の前で言いたかったな。


その日のパーティーはもう会場に降りなかった。
俺の誕生日パーティーなのに。一応主役なのにね・・・俺にはこのプレゼントだけで胸が一杯だったんだ。
だから何度加代が俺を呼びに来ても部屋の鍵を閉めたまま、ブックカバーを抱いてベッドに寝転んでた。



すぐ後に牧野は英徳の中等部に入学してきた。
子供っぽい制服から一気に大人びたブレザーになって、入学式では少しだけ緊張した顔の牧野を見つけた。

「新入生入場!」ってアナウンスと同時に入ってきた新1年生。
1組目の後ろ側・・・すごく真面目な顔してる。まっすぐ前を向いて口をキュッと結んで・・・くすっ、ちょっと怖い顔に見えるよ?

俺はそれを在校生の席からじゃなくて講堂の2階の椅子に座って見ていた。そこからの方が良く見えるって知ってたから。
でも、総二郎もすぐ近くの窓際の隅で俺と同じように見てる。俺が堂々と座って見ているからなのかもしれないけど、あいつは柱の陰に隠れてる・・・バレてるんだけど。

俺は気がついたけど知らん顔して牧野だけを見てた。


入学式が終わってから在校生は退場して、今度は新1年生だけでオリエンテーションが始まった。

「それではご両親様は1名だけお子様の隣にお座りください。これより年間行事の説明を行いますのでご一緒に確認願います。海外研修などがありますからね」

教師の1人がそう言うと後ろ側にいた保護者達が一斉に生徒の横に移動し始めた。
牧野はどうするんだろうって見ていたけど誰も来ない。2つ並んだ席のひとつは空いたまま・・・牧野はそこをじーっと見ていた。そして不安そうに後ろを振り向いたけど西門からの出席なんてなかったんだろう。


誰かそこに座らなきゃ・・・!

って思って立ち上がったとき、窓際にいた総二郎がいなくなってた。
ハッとしてもう1回牧野を見たら、そこに総二郎がドカッと座ったんだ。

あいつ・・・いつの間に。でも、やっぱりそうなんだね。
途端に嬉しそうにし始めた牧野。全く牧野を見ない総二郎・・・でも、その背中からは彼女を守りたいって気持ちが感じられて腹が立った。
じゃあ、初めから手を差し出せよ・・・天邪鬼!


この頃から知ってたんだ。
牧野の笑顔が本物になるために誰が必要なのかって・・・。

わかってたけど、俺も闘いたかったんだ・・・。
ほんの少しは自信があったんだよ?あいつより俺の方が牧野を早く笑わせてあげられるってね。

俺なら待たせないのにって・・・俺なら置いていかないのにって。
俺なら・・・俺なら・・・毎日何回もその言葉を呟いてたよ。


講堂を出てきてから偶然を装って牧野に会った。プレゼントのお礼を言いたくて・・・ただ、声を聞きたくて。

「牧野、入学おめでとう」
「あっ!花沢類。ありがとうっ!これからも宜しくね」

「うん・・・あのさ、ブックカバー、ありがとう。もう使ってるよ」
「ホント?良かったー!悩んだのよ?あんなもの使うかどうかわからなくて」

「俺さ、結構本持ってるよ?」
「・・・あら、それは足りないって事ね?わかった、色違いで作ってくるね!」

「うん、待ってるね」


いつも待ってるよ・・・あんたの言葉。
ずっと待ってるよ・・・あんたの笑顔。
俺だけに向けてくれるんなら凄く嬉しいのに・・・ね。


牧野の背中のずっと向こうには幼馴染みの姿が見えた。




**



「花沢類、本当にいいの?お仕事、ここだと出来ないでしょう?」
「大丈夫だよ。今まで結構働いてきたんだから少しぐらい地方でデスクワークしても誰も文句言わないって!でも、こういう時には便利だよね、ネットが繋がってるだけで何処でも仕事が出来て。いや、休めないから良くないのかな?」

「ふふっ、何言ってんの?私のためにそんな不便なこと、しなくてもいいのに・・・」


牧野が祥兄の病院を退院してから名寄に戻ってきた日のこと。
総二郎がすぐには戻れないってわかって牧野はここで蒼と2人で総二郎を待つことを決めたけど、腕が不自由な彼女には誰かがついてなきゃいけなかった。
それを他の誰にも任せたくなくて、俺は花沢に無理を言って重要会議以外は名寄で仕事をすることに決めたんだ。


小さな蒼を抱きかかえて部屋の窓から外を眺めてる牧野。
その腕の中ですやすやと眠ってる蒼。

「牧野、何か手伝おうか?急にここを留守にしたから時間が止まったみたいになってない?」
「あはは!そう言えばそうだよね。帰るつもりで出掛けたんだもん。玉子だけ買うつもりで・・・玉子だけ・・・ホントにそれだけだったのに・・・」

思い出させたんだろうか、急に牧野の目に涙が溜まって唇が震えだした。それを見てリビングで日用品を片付けていた俺の手も止まった。

「あの時、私が買い忘れなかったら・・・!」
「牧野・・・!あんたのせいじゃないよ。泣くな・・・蒼が寝てるよ?」


あの入学式の日、隣に座れなかった俺だけど、今はこうして隣で支えてあげられるよ。
出来たらその小さな身体を俺に預けて欲しいけど・・・それはきっとしないよね。

だから震えてる肩だけ抱かせて・・・。


あんたが少しでも穏やかに暮らせるように、どんなに辛くても俺が傍で守ってあげるから。


ドアが開いてて少しだけ見える夫婦の部屋。
そこにかかってる総二郎の服は今まであいつが着たこともないような安っぽい服ばかりだった。

それでも2人の服が寄り添うように並んでるのをみると、すごく羨ましかった。





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2018/05/29 (Tue) 12:48 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

切なかったですか?ははは!でも、控えめにしてるんですよ。
本気出したらもっと切ないの書けるけど(笑)書きながら自分が類君に謝らないといけなくなるからやめてるの!

で、5話って言ったのに調子に乗って7話になった!
なんでかしら・・・こんな可哀想な類くんなのに書こうと思ったらいくらでも書ける!鬼のような私・・・。

最後の7話目、お楽しみに~!つくしちゃんとの再会シーンです♥

2018/05/30 (Wed) 00:52 | EDIT | REPLY |   

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