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俺達が高等部だったある日のこと。

英徳では一応生徒による掃除時間ってものはあったけど、清掃会社も入ってることから真面目に掃除する人間なんて殆どいなかった。そんな中、牧野は毎回きちんと掃除をしていて、それをクラスメイトが「所詮は使用人の子供だから」って蔑んで見ていた。

俺はそれを知っていたけど牧野に実被害がない限りは傍観していた。
そうしないとどんどんエスカレートするってわかっていたから。俺が見守っているから大丈夫・・・そう思って箒をもつ牧野をずっと見てた。


その日も牧野は校舎横の通路で1人、箒を持って掃除をしていた。その時に誰かが牧野に声を掛けて、それを聞いた牧野が箒を投げ出して何処かに駆け出していったんだ。
何かが起きた・・・!そう思って急いで俺も走って行ったら、牧野は高等部を出てすぐ近くの小学部の裏口に入って行った。

そうか、さっきの人は小学部の用務員だ。リオンの世話をしてる人だ・・・。


牧野が入って行ったところに足を進めたら、彼女の泣き声が聞こえた。
リオンが死んだんだ・・・。

もう年齢からしても仕方なかったんだけど、牧野が唯一友達だと言って小学部を過ごしたリオン。中等部に上がっても、高等部に上がっても牧野は時間があるとここに来てリオンの世話をしていたから。

それを知ってるのは俺だけだった。
牧野は総二郎に心配かけたくないからって自分に友達がいないことを言わなかった。リオンの存在は教えてなかったんだ。

泣き声を聞いて俺が用務員室に入ったらすぐに帽子を取って頭を下げたおじさん。
牧野はまだ温かいリオンに縋って泣いていた。そして多分入ってきたのが俺だってわかったんだろう、後ろを振り向かなかったのに話し始めた。

「最近ずっと調子が悪かったの。時々心臓発作も起きてて・・・でも、病院に連れて行ってあげられなくて。誰かに言えばよかった・・・リオンを助けてって頼めばよかった・・・!」

「つくしちゃん、そんなことはないんだよ?リオンはもう18年生きてるんだ。犬にしては長生きなんだよ?これはね、寿命なんだよ」
「それでも苦しんでるのになにもしないで見てただけだもん!私がどうにかしてあげられたらあと1年ぐらいは生きたかもしれないのに・・・!ごめんね、リオン・・・なにもしてあげられなくて・・・」

落ちる涙を拭おうともしないでリオンの身体を撫で続けた。
まだ温かいからって・・・何度も、何度もリオンを撫でるから俺は牧野の背中を撫でていた。
眠るように横たわってるリオンの背中の毛が牧野の涙で濡れてる・・・そこをハンカチで拭いてやりながら謝り続けてた。

「つくしちゃん、もうお別れは済んだかな。リオンはね、この学園の中に埋めることが出来ないからもうすぐ業者さんが引き取りに来るんだよ。もう泣くのは止めなさい。最後に会わせてあげようと思っただけなんだから・・・」
「業者さん?リオンは・・・リオンはどうなるの?」

「え?いや・・・それは行政がすることだからおじさんにはどうにも出来ないから・・・」

こういう場合、学園が経費を出して火葬するって言ってくれればリオンだけの葬儀も可能だけど、おそらくなんとも思っていない学園は簡単に行政に任せろと言ったんだろう。
そうなると一番可能性が高いのは色んな動物の死骸を纏めて焼却するっていう手段だ。

もちろんそうなったら後に残った骨も纏めて何処かに処分。はっきり言えば可燃ゴミと同じような扱いをされる。
ペットの死後についてはすべて飼い主の判断・・・そして勝手に公用地に埋葬することは法律で禁止されてる。

「そんなの嫌だ・・・ねぇ、リオンをきちんとお墓に入れることは出来ないの?何処かにないの?」
「そんなことを言ってもねぇ。リオンほどの大きさだと火葬費用も動物霊園も個別だと随分掛かるからおじさんにはとても・・・」


「じゃ、俺と行こうか。牧野」
「花沢類・・・でも」

「いいよ。俺もリオンとは遊んだんだから。最後のお別れは俺と牧野でしよう?」


用務員のおじさんに頼んで行政の回収を断って、動物の葬儀をしてくれる業者を呼んでもらった。
この後の授業は2人でサボってリオンを葬儀場に連れて行き、無理を言ってすぐに火葬してもらったんだ。

白い煙になって空に帰っていくリオンを俺達は並んで見送った。
牧野はいつまでも、いつまでも泣き続けて、遺骨は動物霊園に預けるのではなくて自分が持って帰るって言った。

「どうするの?西門で大丈夫?」
「・・・わかんない。でも、リオンがこんな所に1人でいるのは可哀想だから・・・」

「じゃあうちにする?うちなら裏庭に場所はいくらでもあるよ?牧野が会いたくなったら来ればいいし」
「本当に?いいの?花沢類・・・」


リオンを利用したわけじゃない。
ただ、リオンの事でまた西門で何か言われたらいけないって、そっちの気持ちが強かった。金魚や小鳥のような大きさじゃないから遺骨と言ってもそれなりの大きさの箱に入れられてるんだ。

その箱に入って牧野の腕に抱えられてるリオンは、そのまま花沢に来ることになった。
そして裏庭の一画、比較的明るい場所に小さな墓を建てた。今はまだ土だけだけど、きちんと墓石を建ててあげようねって言うと悲しい顔をしながら、それでも笑っていた。

「リオン・・・また、会いに来るからね。リオン、ありがとう・・・遊んでくれてありがとうね・・・」

俺と牧野だけのたった2人での葬儀・・・リオンは今頃空に向かって走ってるだろうか。
幼い頃の牧野の後ろ姿を追いかけていた時のように。


**


それからしばらくして大理石で作った小さな墓石がうちの裏庭に置かれた。

”Que son âme repose en paix Rion”
(リオン、安らかにお眠り)

そう書かれた墓石の前で牧野は静かに手を合わせてた。
俺も牧野と一緒に、そこに座って手を合わせた。

「リオンはね、あんなに綺麗な犬なのに捨てられてたんだって。ゴールデンレトリバーなのによ?どうして飼い主さんはそんな事したんだろうって昔から思っていたの。初めて会ったときは人間を怖がったらしいんだよ。おじさんが言ってたもん」
「虐待されたのかな・・・可哀想だね」

「わかんないけどね。でもさ・・・望みもしないのに1人にされるのは人間だけじゃないんだなぁって思ったの。私とリオン、似てるのよ。居場所はあるけど1人なの。だからどうしても私、リオンの傍にいたかったの」

「牧野は1人じゃないよ?」

「うん・・・わかってるよ。色んな人が傍にはいてくれる。花沢類もね・・・ごめん、ちゃんとわかってるよ」


うちの庭に咲いていた色んな花を集めて花輪を作ってリオンの墓に掛けていた。
その時、牧野の頭には誰がいたんだろう。


傍にいてくれる人、その1番目に浮かんだのは・・・きっと俺じゃないよね。


「牧野様、西門家より総二郎様がお迎えにいらっしゃいましたよ。玄関でお待ちですわ」

「総ちゃんが?ありがとうございます!」

急にスッと立ち上がって自分の服や髪を赤い顔して整えだした。くすっ・・・残酷なほど分かり易いね。


「心配したのかな?まだこんな時間なのにね」
「うん、総ちゃん、意外と煩いんだよね。少しでも遅くなるとすぐに怒るの。いやんなっちゃう!」

そう?その割には顔が少しだけ笑ってるよ?眉に皺は入ってるけどね。


玄関に行ったら面倒くさそうに総二郎がドアに縋って待ってて、俺達が行ったら何も言わずに西門の車の方に向かって歩き出した。それに小走りで近寄って時々振り向いて俺の方を見てる。

「また会いにおいで。もうリオンは何処にも行かないからね」
「うん!花沢類・・・ありがとう!またね!」


うん・・・またね、牧野。

牧野の言葉を怒ったような顔して聞いてる幼馴染みは、それを許してくれるだろうか。




**




「37.8・・・少し下がったかな」

「ねぇ、花沢類・・・リオンが死んでもう10年だね。会いに行けなくて怒ってるかなぁ・・・」
「もうそんなになるっけ?俺が帰ったときは会いに行ってるから大丈夫だよ」

「そう?任せっきりでごめんね。いつか絶対に行くから・・・」


ベッドに横になって赤い顔してる牧野。今日は珍しく熱を出してる。
だから俺が看病してる・・・蒼のおむつだって初めて替えて、ミルクも飲ませてあげた。
熱はそんなに高くはないし、明日には普通になるだろうって祥兄が言うからその間だけ俺がこの家のことを全部してる。

総二郎みたいにはいかないけどね。なんと言っても初めてだから。
あいつもここに初めて来たときはこんな感じだったのかな・・・って思いながらキッチンでお粥を作った。


「コホ、コホ!・・・花沢類、火傷しないでね・・・私、やっぱり起きようか?」
「何言ってんの?ちゃんと寝てな。早く治さないと蒼が怒っちゃうよ?俺のミルクのやり方、気に入らないみたいだから」

「あは・・・!そんなことないよ・・・喜んでるよ」
「でもさ、飲ませてたら泣きそうな顔するんだもん。なんでかな・・・俺、嫌われてる?」

「違うよ・・・多分、いつもと違う手だからだよ。花沢類、男性だから力あるでしょ?私、力がないから・・・それでだよ。本当に助かっちゃう。ありがとう・・・」

「もう少しであんたのお粥も出来るから。味、よくわかんないけど・・・」

火を止めて皿に移して、牧野のベッドの横まで持っていく。
白い湯気の向こうににっこり笑う彼女の顔があって、背中を支えてやって起こしたら熱い身体が俺の方に寄り掛かってくる。その背中にカーディガンを掛けてやったら今度は蒼のミルクの支度をする。

えっと、何からしたらよかったっけ・・・ってここでいつも悩んでしまう。俺達は家事なんて一切出来ないから相当あいつも苦労したんだろうな。それでもなんでこんなに嬉しいんだろうね。


総二郎・・・お前もそうだった?
何も出来なくても、何もわかんなくても、牧野がここにいるだけで勇気が出て強くなれた?


食べ終わった皿を片付けに行ったら牧野はもうベッドに入っていた。
「ご馳走様・・・」って小さな声で言われて、照れくさくて頷くことしか出来なかったけど。


「いつか蒼を連れてリオンに会いにおいで。きっとあいつ、待ってるよ。あんたが家族増やして笑ってるの、きっと喜んでくれるよ」
「うん、そうだね。会いたいなぁ・・・」


本当に会いたいヤツは、今頃必死で闘ってるよ。
あんたのためにね・・・。

寝てしまった牧野の顔を覗き込んでいたら「小さな総二郎」が泣き出した。
くすっ・・・まるで牧野から俺を引き離したいみたい。


「仕方ないなぁ、今度はお前にミルクだね?・・・蒼、お前も嫉妬深いんだね。ホント、親子でそっくりなんだから・・・」




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2018/05/31 (Thu) 12:21 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

あはは!泣かせた?ごめんなさいね!
そんなつもりはなかったのですが、我が家も飼っていた犬が18年で死んでしまってすごく悲しかったのを思い出しまして。
兄が拾って帰ったんよね。雨が降ってる港で柴犬の赤ちゃんが捨てられてて、可哀想だって。

寒いときで、兄がセーターの中に入れて温めながら帰って来たんですが、父が喜んでその犬を飼いましてね。
ところが超ワルな犬でして家の中がとんでもないことになりました。

えぇ・・柴犬なのに室内犬で育てたんですよ、うちの父。で、拾ってきた兄は所謂不良でしたから家にはいないしね!
不良のくせにその後も犬一匹と猫2匹拾ってきましたよ!
流石にそれは飼えなかったので母が引き取り手を探しましたが、元々我が家にはインコがいたんだって!
犬とか猫とか拾ってくんな!っていう話ですよ!

あ、ごめんなさい(笑)興奮してしまった。

そうそう、類君の話でしたね。


私は個人的には最後に蒼が泣いて、類君がミルク飲ませるとこが好きです。
頭の中では類君が総ちゃんに飲ませてるのを想像しました・・・(笑)

2018/05/31 (Thu) 23:19 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/31 (Thu) 23:43 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

え?うちの兄ですか?
海の中に携帯落とすわ、コンビニのゴミにも携帯捨てるわ、犬猫を拾うわ、バイクで崖から落ちるわ
旅行先で後輩を海に落とすわ、ホテルのエレベーター破壊するわ、トラックの荷台に載って遠くまで運ばれるわ

そんな兄の話ですか?
えぇ、私の高校の合格祝いは50円でした。
私の初ボーナスから30万円持ち逃げしたのも兄です。(恐喝ですけどね)
それなのに私の子供にはメッチャ弱いですが・・・なにか?(笑)

どれだけ世の中に人間がいなくなっても兄とだけは会いたくないです。はははっ!

2018/06/01 (Fri) 14:02 | EDIT | REPLY |   
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2018/06/01 (Fri) 14:21 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・いや、性格怖いんだから!

嫁がいないのがその証拠。
顔だけの男なんですよ!

嫁、前はいたんですがとんでもない理由で別れたんですよ?!
教えましょうか?

・・・嫁よりクワガタが好きだったんです(笑)
うちの兄・・・クワガタが大好きなんです!早朝から捕りに行くのよ?4時とかに起きて!山の中に入って!

それとは別に菌糸瓶に卵入れて幼虫から育てるんです。もちろん、我が家もそれ、強制的にやらされたんです。
一冬中小さな電気マットの上で菌糸瓶暖めて、そして春から夏にかけて管理してサナギになってクワガタになって・・・!

そんなこと強制的にやらされてるんですよっ!!


で、嫁さんが一緒に住んでたときにゴキブリ駆除のためにバルサン焚いたんです。
そしたらクワガタが全滅してね(笑)・・・そのまま別れたのよっ!

そんな人・・・いる?(笑)

2018/06/01 (Fri) 22:43 | EDIT | REPLY |   
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2018/06/02 (Sat) 01:47 | EDIT | REPLY |   
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Re: タイトルなし

さとぴょん様、おはようございます。

クワガタのメスと出会ってるからいいんですよ。
もうこれで最後にしますが、とある病院の入り口にある木に朝早くいくとクワガタが来てるらしくて
頻繁に早朝行ってたから通報された男です。

恥ずかしくないのか!いい歳して!くそバカ!

2018/06/02 (Sat) 06:29 | EDIT | REPLY |   
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2018/06/02 (Sat) 17:30 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

実はね・・・私、ずっと長いこと、兄がゲイだと思ってたんです。

確かに顔はいいけど彼女っているって聞いたことがあんまりなくて、いつも家に来るのは男でした。
だからね・・・「この人ゲイじゃないの?」って。

結婚するって聞いたときはそうじゃなかったって事に驚いた私でした(笑)
別れたときは「やっぱりゲイか?」って思ったけどね。


和真ーっ!うちに来ーーーい!!

2018/06/02 (Sat) 23:48 | EDIT | REPLY |   
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2018/06/04 (Mon) 14:59 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

あはは!もうやめときます。
うんうん、いつ見ても幸せそうな男です!

2018/06/05 (Tue) 00:14 | EDIT | REPLY |   

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