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「今日は出てこない・・・まだ、寝てんのかな」

私は時々、部屋の窓から双眼鏡で西門邸を見ていた。
もちろん毎日じゃない。気が向いた時だけ・・・西門さんの部屋をちょっと見てしまうことがあった。
何故かここに置かれていた双眼鏡。それに目がいった時だけ、ほんのちょっと・・・ホントにちょっとだけ。

まるで自分がストーカーみたいで嫌なんだけど、いつか見た西門さんの素の表情、あれを何となく見たかった。でも、あんな顔はあれ以来見てはいない。寝起きの大欠伸・・・上半身裸だったのは一応頭からは消去した・・・つもり。

「仕方ない、おにぎり作って仕事に行こう!」

おかずを作らなくていいから朝は随分楽なはずなのに、こうしてちょっと覗き見したりするからすぐに時間が経ってしまう!今日も目の前のマンションなのにすごい勢いで走って事務所に向かった。


「おはようございまーす!」
「あぁ、おはよう、牧野さん。今日は今からおつかいを頼んでもいいかな?」

「はい、何処に行くんでしょう?」

仕事での外出はここに来てから初めてだった。
事務長から頼まれたのはお祝いの品物のお届け。西門に長く務めていた調理師さんが新しくお店を持つために退職したらしく、そのお店に飾れるようにと九谷焼の高級な花瓶を贈るらしい。
こういうことは配達業者を使わずに持参するのが西門では当たり前らしく、本来は事務長が行くんだけど持病の腰痛が悪化して歩きにくいからと言うことだった。

「すまないねぇ、私の仕事なんだけど、ここまで痛いとその店まで行くのが辛くてね」

「はい!私は大丈夫ですよ。場所を教えて下さい」

そのお店の場所を聞いてお祝いの品を預かって、車を出そうか?と言われたのを断わった。久しぶりにバスに揺られて行くのもいいじゃない?いつも堅苦しいお屋敷の中で働いてるんだもの。たまには自由になりたいもん。
まぁ、私は堅苦しい仕事はしてないような気もするけど。


「あの、牧野さん。十分に気をつけてね?落とさないようにして下さいよ」
「大丈夫ですよ!心配しないで下さい。そこまでドジじゃないですって!」

「いや、まぁ・・・もし割れたら君が困るだろうしね。お給料2ヶ月分ぐらいの品物だから」
「えっ!これがっ?!」

その言葉に驚いてその場で落としそうになって、事務長が慌てて動いたら腰がグキッ!ってなって完全に動けなくなった。
「頼むよ!牧野さん!」って無茶苦茶苦しそうな顔で送り出されてしまったけど、そんなに信用されてないんだって思うと少し悲しかったわ・・・。


そうしてバスに揺られて30分。目的地に着いて無事にその品物を元調理師さんに届けた。

「ご丁寧にありがとうございました。後ほど私からもお電話入れますので、どうぞお気を付けてお帰り下さいね」
「はい、ありがとうございます。新しいお店、頑張って下さいね!」

「はい、先日は総二郎様もそう言って訪ねて下さいました。頑張りますからあなたも良かったら食べに来て下さね。美味しいもの、準備しますから」


「・・・西門さんが?」

「えぇ、個人的に何でしょうけどお祝いも下さってね。資金不足だったんで助かりました。あ、内緒ですよ?」


その人と簡単な挨拶だけしてその場を終らせ、1人で歩いていた。

西門さんが辞めた人のお店に言葉をかけに行ったの?頑張れって・・・そして手助けしてあげたの、お金って事だよね?
そんなことするんだ・・・西門さん。

何だかその行動と普段の彼が一致しなくて、首を傾げながらバス停までの道を歩いた。
その時、私が通過した綺麗なビル、そこの階段から1人の女性が降りてきて私に声をかけてきた。


「あの、あなた・・・いつかホテルでお会いした方ですよね?」

「・・・・・・はい?ホテル?」
「はい、あの1ヶ月半ぐらい前にホテルのロビーで、西門総二郎様とご一緒に」

1ヶ月半前・・・ホテル・・・西門さん・・・ってお花運んだときの?あの時会った人?こんな人いたっけ?
私が会ったのはホテルの従業員さんと怖い支配人さん、西門さんに美作さんと桜子さん。それと赤い着物の・・・あれ?

あの時の赤い着物の人っ!まさか・・・あの時の西門さんのお見合い相手のっ?!

でも、目の前にいる人はあの時と全然印象が違っていた。言われてみれば相変わらずの顔の形だったけど、黒縁メガネもなくて眉毛も繋がってないっ!そばかすだって目立たないし、髪の毛がサラサラ・・・それに超可愛いワンピース!
そのマスクはなんなのかしら?ここまで変わっておきながら大きめのマスクで口元を隠していた。

「あの時の着物の方ですか?全然わかんなかったです!ごめんなさい!あの、風邪ですか?」
「いいえ、そうではありません・・・あの、お茶、飲みませんか?今はお時間ないかしら」

「あっ、ごめんなさい。実は私、あの後ひょんなことから西門さんのお屋敷で働くことになって、今はおつかいの途中なんです。勤務中になりますから。それにバスだから時間かかるでしょ。のんびりは出来ないので」

そう言うと彼女は後で自分の家の車で送るから少しだけ・・・ってお嬢様らしい我儘を言うもんだから、仕方なく一杯だけお茶に付き合うことになった。
今日はお役所を休んだらしい。このビルの上の階にあるデンタルクリニックに通っているとか・・・。


すぐ近くのお洒落な喫茶店に入ると1番奥のテーブルについた。
そして彼女は紅茶だけ、私にはケーキセットなる贅沢なおやつを頼んでくれた。もちろん確認したら彼女の奢り。
お互いの自己紹介なんてことをして、私はその名前にもびっくりした。


「牧野さん、西門流で働くようになったのはあの日の事がきっかけですの?」
「あっ、いいえ!実は私、西門本邸のすぐ側に住んでいたのに西門流のことは知らなかったんです。あのホテルでの出来事の後、偶然家元夫人と出会ってしまったことがきっかけなんですよ。あの事件のせいでお花屋さん、クビになったって言ったら雇って下さったんです」

あらら!なんて笑ってるけど、本当にあの時の暗いイメージの人と同じ人物なのかしら?あの時は全然喋らなかったからわかんなかったけど、この人の声はすごく可愛らしかった。

「じゃあ牧野さんもあの日から少しご自分の生活が変わったんですね・・・実は私もですの」
「麗華さんも?どうかしたんですか?」

「このマスク、実はこういうことなの」

麗華さんはマスクを取って、少し恥ずかしそうに私に口元を見せてくれた。それは歯列整形・・・さっき施術をしたため少し腫れてるからってマスクをつけているらしい。
出っ歯って言ったら失礼だけど確かに酷かったっけ。その歯並びが悪いのを矯正中らしい。

「私ね、子供の時から自分の容姿が嫌いで嫌いで・・・ホントに人前に出るのも写真に残すのも嫌で閉じ籠もっていましたの。学校でさえ行くのが嫌で不登校になった事もあるんです。親でさえ私を見ると溜息で・・・その話をしてはいけないような空気すら家には流れててね、誰も私に姿形の話をしませんでした。だから、誰とも話さなくなって、笑わなくなって・・・」

麗華さんはお茶を一口飲んでクスッて笑った。

「総二郎様が初めてでしたわ。こんな私に手入れをしろだなんてストレートに仰ったの・・・驚きましたわ」
「えっ!西門さん、そんな事を言ったんですか?手入れしろって?!」

「ふふっ!そんな言い方ではなかったようですけど、意味はそうだったようです。母に仰ったので私が直接聞いたわけではありません」
「はぁ・・・お母さんに?それもまた・・・」


じゃあ、あの時追いかけてまで言おうとしたのは「そんな顔で俺の前にくんな!似合わねぇんだよ!」ってな暴言じゃなかったって言うの?てっきりそうだと思って・・・拳骨で殴ったんだけど。

「総二郎様は母に言われたそうですわ。楽しい人生を送らせてやれって・・・。今は整形手術なんて普通の時代だから受けてもいいんだって言って、腕のいい病院を教えて下さったんですって。私が頑固で言うことを聞かない上に、両親もただ可哀想だって言うだけで何も動かなかったのです。私の周りも言ってはいけないことだと思ったのね、誰もそんなもの受けるようになんて言わなかったわ」

「それにしても男性に言われちゃショックだったんじゃないですか?」

「そうね・・・でも、今までの男性は私が綾小路家の娘だからって明らかに嘘だとわかる言葉を並べていましたから、その方が嫌でしたの。だって私が一番よくわかってるんですもの。毎日自分の顔を見てきたんだから・・・」

もうこの顔のことは諦めて、結婚も諦めて、何もかも諦めて仕事に没頭しようと勉強を頑張ったと麗華さんは話していた。人生は寂しいかもしれないけど、これも運命・・・変えることは出来ないんだって思っていたって。

「でもね・・・総二郎様はせっかく女性として生まれたんだからお洒落して楽しめって言って下さいました。その為にお金を使ってやれって。母もびっくりしたらしいですけどすぐに動いてくれました。私もね、総二郎様を見た時にあまりの美しさに驚いてドキドキして、すごく好きになったんです。でも今の私じゃ絶対に受け入れて下さらないだろうって思って、思い切って変わってみようって思いましたの」


・・・いま、さりげなく西門さんの事を好きになったって言ったよね?
私は口に入れたケーキを喉に詰まらせて思いっきり咽せた!慌てて紅茶を飲んだら熱くて噴き出しそうになった!

「に、西門さんの為に整形しようとしてるんですか?!」
「いえ、そういう訳でもないんですけど、牧野さん、総二郎様の事、好きなんですか?」


「・・・・・・はい?」

今度は私が西門さんを好きか、ですって?
口に入れてたフォークを咥えたまま固まってしまった。

「私はね、総二郎様のお写真を見た時からの一目惚れですの。でもあの人の噂は知っていますし、連れていらっしゃる女性も美しい人ばかりって聞いています。とても私が手直ししても太刀打ちは出来ませんわ。ですからすごく好きなんですけど、もうこの気持ちは西門に持って行く気はございません。新しい自分に生まれ変わったら、新しい恋が出来るように頑張りたいの」

「・・・そうなんですか。新しい自分、ですか」

「はい。すぐに眼科でコンタクトに変えて、皮膚科で医学的に調べてそばかすの治療をしましたの。髪の毛は縮毛矯正して・・・そしてやっと歯の矯正に入りましたわ。これが終ったら顎のラインの矯正に入ろうかと・・・うふふ、忙しいわ!」

そう言ってニコッと笑った麗華さんは、確かにまだ世間的には・・・その、残念な感じなんだろうけど、それでもあの時に比べたら明るくで印象は良かった。
色んな矯正や整形には時間がかかって「自分が生まれ変わるのは2年ぐらい先かもね」なんて言っていたけど、それが辛そうじゃなくて前向きに聞こえた。

西門さんがこの人を変えたんだ・・・純粋に麗華さんの事を思って言い辛いことをサラッと言って・・・そして彼女は本当に変わろうとしてるのね?私にはいつも乱暴で意地悪で、怒らせるような言い方しかしないくせに。


そんな西門さんの一言で・・・?


そして約束どおり綾小路家の車で西門まで送ってもらい、お昼前には事務所に戻った。
花瓶、割らなかったって言ったら事務長は本気で泣きながら喜んでくれた。・・・それって、どうなの?

**

お昼になって、おにぎり片手にダイニングに行ったら西門さんが隅っこの椅子に座って雑誌を読んでた。変な雑誌かと思ったら経済誌・・・そんな部分もなんか意外。


「お!もうそんな時間か。じゃ、俺も食うか・・・あれ、どうした?変な顔して」

「・・・・・・麗華さんが、宜しくってさ」
「麗華?誰だ、そりゃ」

「ホテルでお見合いした綾小路麗華さんだよ!今日、偶然外で会ったの。ありがとうって言ってたよ」

「見合い?あぁ!あの強烈な女か!思い出した・・・とんでもねぇ不細工の!どうだった?変わってなかったか?」

西門さんはいつもと変わらない感じで椅子に座り直した。雑誌は横に置いて、綺麗な所作で食事を始めた。
でも私は何故かその場に居辛くて、おにぎり持ったまま立っていた。

「どうしたんだ?座って食えよ。昼からの仕事に間に合わねぇぞ?お前、人より余計に食うから時間かかるし!」


「麗華さん、ちゃんと色んな病院行ってるって。少し可愛くなってたよ」
「そうか、そりゃ良かった。あいつもそれで少しは楽しい人生になるんじゃねぇの?」

「・・・ごめん。あの時殴って。何にも知らなくて・・・ごめん」
「はっ!いつのこと謝ってんだ?ほら、さっさと食え!腹が鳴るぞ!」



私はこの人の隠れた部分を何も知らない。
西門さんの本当の姿を見てみたい、そう思った。



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2018/04/01 (Sun) 08:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

mizuka様、了解しました♥

頑張りますっ!!
応援宜しくです!

2018/04/01 (Sun) 08:30 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/02 (Mon) 09:21 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・今晩は!

事務長のお見舞いありがとうございます。

出てきましたけどね、この麗華ちゃん、また出てくるかも?
どんどん綺麗になって出てきたりしてね!
最近はホント、プチ整形なんて普通ですもんね。会社の若い子はそのためにボーナス使ってましたよ。

私なんて全部生活費なのに・・・。

だんだん・・・その気が見えてきたかしら?
うーん・・・でもまだ友だち止まり?

雪とは違うじれったさ(笑)ですよね。
そろそろ色んな事件やら罠やら誘惑やら仕掛けていきますね。

連載どうしようといいながら1ヶ月が経ちました。
例の件、落ち着いてきましたのでお知らせしておきますね。
あの時はご心配いただきありがとうございました。

2018/04/02 (Mon) 19:24 | EDIT | REPLY |   

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