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「一樹、急いでくれよ!お父さん遅刻しちゃうじゃないか!」
「待ってー!つくしちゃん、行ってくるね!」

「行ってらっしゃい、気をつけてね!」

招待状を持った一樹君が元気よく学校に行った。いつものように山本さんが手を引いて。
その2人の後ろ姿を今日も手を振って見送る。

2人の姿が見えなくなってから私は家の中に入り、いつもの家事をする。
キッチンを片付けて掃除機をかけ、今日はシーツを洗おうかなって急に思いついた。
普段はしないんだけど山本さんの部屋に入ってシーツを交換して、部屋を出ようとしたらゴミ箱の中に日本語で書かれた書類を見つけた。

「なんだろ・・・これ、捨ててもいいのかな」

手に取ってみたら、それは山城商事の事業計画書で、案件名は「天然ガス火力発電所建設マニュアル」・・・この件名は花沢物産と共同でやるものじゃなかったかしら?そう思って拾ってしまった。

パラパラと捲るとそこに両社の事業責任者の一覧があって・・・花沢物産の方に彼の名前を見つけた。


専務取締役 花沢類


思わずその部分を指でなぞってしまった・・・類の名前、こうやって目で見るの、久しぶりだね・・・。

そのほかのページを見たけどやっぱり全然わかんない。でも類の名前が書いてあるのにゴミ箱に入れることが出来なかった。
これ・・・もう要らないのかな。山本さん、ここのお仕事に変わったんだもんね。
だから捨てたのかな?

忘れなきゃいけないのにそのページだけ切り取って小さく折りたたんでポケットにしまった。

無造作に脱ぎ捨てられてる服を集めて洗濯機に持って行く。
今日は一樹君のシーツも洗おうかな、なんて思って部屋に入ったらここでも服が脱ぎっぱなし!親子だなぁって思いながら一樹君の服も集めた。

今度は一樹君の机にプリントが一枚置いてあった。

「え?これ、忘れ物じゃないよね?ちょっともうっ!」

急いでそれを裏返して見たら参観日の案内だった。
出席か欠席か、出さないといけないのが明日まで。一樹君はわざと私に出さなかったのか、それとも本当に忘れてるのかしら。
でも、参観日に母親じゃないのに行くの?

もし行ったらこの辺りに住んでる日本人は私の事を山本さんの奥さんって思うのかしら。
「山本さん」って声をかけられたら私は振り向くことが出来るのかな。何も言われてないのにそんなことを考えて、またその紙は一樹君の机に戻した。
何か言われてから考えよう。もう色んな事を考える力は私には残ってないもの。


そうして2人のシーツを抱えて洗濯機の場所までいって、先に洗っていた服を干そうかと思って窓を見て驚いた。

「うわぁ・・・!いつの間にかすごい雪が降ってる!ここに来て1番酷いんじゃないかしら。って事は外に干せないのか・・・。仕方ないなぁ、シーツは明日にして服は室内に干しとこ・・・」

2人が出掛けるときには降っていなかったのに、急に降り始めた雪はかなりのものだった。
すぐに外が真っ白になって視界が悪くなった。庭なんて一樹君の遊び道具が地面と区別出来なくなってる。あっという間に家の周りは銀世界になった。


家事を全部終らせた頃になっても雪は降り続いてて、それを部屋の中からジッと見ていた。

ここは自然豊かな土地だからニューヨークや類のマンションで見たような雪じゃないのかな・・・。
結構降ってるのに穏やかで優しい雪に見えるのは庭の向こうに見える山や池のせい?アスファルトやビルに落ちる雪じゃないからそんな風に見えるんだろうか。

コートを着て外に出てみた。

さっきまで吹いていた風は治まっていて、雪はやっぱり優しく私の上に落ちてきた。


そっと手を出したら雪が私の手の平の上に落ちて・・・ほんの一瞬結晶を見せて解けていった。

「あはっ・・・やっぱり何処に行っても同じか。私の手の上じゃ・・・解けちゃうんだね。コホン!コホ・・・ん、まだ喉が痛いな」

そんな当たり前のことを呟いて部屋に戻った。


**


お昼が過ぎてから何だか身体が熱い事に気が付いて、熱を測ったら38度もあった。

「はぁ・・・久しぶりに熱なんて出しちゃった。昨日遅くまで招待状作ったりしてたから風邪引いちゃったのかな・・・薬、あったっけ」

薬箱を見たけど引っ越して間がないからその中には僅かな頭痛薬と絆創膏しかない。あとは子供用の薬。肝心の風邪薬がなくて当然解熱剤もない。仕方ないから買いに行こうと思ったけど、一樹君が帰ってこないと家を出ることが出来ない。
一樹君が帰るまであと1時間ぐらいかな・・・寒気が酷くなったので自分の部屋のベッドに入って寝ることにした。


しばらくしたら汗をかいてきて息が荒くなってきた。
身体のあちこちが痛い・・・もっと熱が上がったのかもしれない。喉が渇く・・・咳も酷くなってきて胸が苦しくなった。

「お水持ってくれば良かった・・・喉が痛いなぁ・・・ヤバいわ、一樹君にうつしたらお誕生日会が出来なくなっちゃう・・・コホッ」

ベッドから起き上がって家の中なのにコートを着てキッチンに向かった。
そこで一口水を飲んで時計を見たら、もうすぐ一樹君の帰ってくる時間になっていた。

「一樹君が帰ってきたら何とか頑張って薬だけは買いに行こう。病院に行っても英語で説明出来ないしな・・・。晩ご飯の支度は・・・今日は休ませてもらおう。こんなんでキッチンに立っても何も作れないや・・・」

そのままキッチンの椅子に座って、そこから窓の外を見たらまだ雪はちらちらと降っていた。朝ほどの勢いなんてないからこのぐらいだと歩いて行けそうだね・・・なんて独り言が漏れた。


「ただいまー!つくしちゃん、雪が降ってて・・・あれ?つくしちゃん?」
「・・・ごめん、一樹君、こっちだよ。ゴホッ!」

キッチンから声をかけると走って来た一樹君が私の真っ赤な顔にびっくりして泣き出しそうな顔になる。

「どうしたの!つくしちゃん、お顔が真っ赤だよ?どうしたの?」
「あはは・・・大丈夫だよ。あのさ、おやつの準備が出来なかったの・・・コホッ!ごめんね・・・熱が出ちゃったからさ、お薬買いに行ってくる。一樹君、1人でお留守番出来るかな?」

「ぼくが行ってあげようか?つくしちゃん・・・歩けるの?」
「うん。顔は赤いけど歩けるよ。ありがとうね。薬屋さん、近いと思うから行ってくるね」


部屋に戻ってお財布と・・・念のためスマホを持ってコートにマフラー、手袋をして帽子まで被った。全部ここに来て山本さんが買ってくれたもの。ブーツを履いて防寒対策はバッチリ・・・でも、熱のせいで全身が震えていた。

「ホントに大丈夫?つくしちゃん、大丈夫?」
「うん、大丈夫・・・一樹君、誰かが来ても入れちゃダメだよ?薬屋さんが閉まるまでに行かなきゃね・・・待っててね」

一樹君1人残して家を出た。


確か薬局は大通りを真っ直ぐ行った道沿いにあったはず・・・。
雪が舞い落ちる中、1人フラフラしながら大通りの歩道を歩いた。



**********



「あとどのぐらいでジャスパーに着く?もう結構乗ってるよね?」

タクシーの運転手に尋ねると、もうすでにジャスパーの街の中に入ってると言われた。
雪が積もってる山に囲まれた平坦な街・・・高いビルなんてものもなくて自然豊かな場所だった。はっきり言えばこんな場所に山城が観光施設と作るって計画を立てたこと自体不思議に思う土地だった。

確かにこんな所に本社の営業企画部長の山本が派遣されるだなんて思えない・・・明らかに真莉愛に頼み込まれて田舎の現場に追いやられたとしか思えない。
そこだけは企業人として少し同情する・・・経営者の命令に逆らえなかった気の毒な転勤だ。

「住所ってこれなんだけど、わかる?」
「住所なんて聞かれても私はここの人間じゃないからわからないですねぇ・・・観光案内所があるんでそこで地図でも見せてもらいましょう」

「・・・宜しく」

ナビすらついてないタクシーだからそれも仕方ない。
何にしても思うように行かない移動にイラついてしまう・・・もう時間は4時だ。早く着かないとまた今日も会えないなんて事に・・・



その時、道の反対側を歩いてる1人の女性を見かけた。ダークピンクのダウンコートにベージュのマフラー・・・同じくベージュの帽子被って・・・白い息を吐きながら俯いてる。

黒い髪の毛がその帽子の隙間から風に靡いてる・・・。


俺の知らない服に身を包んでるけどあの歩き方は・・・!


「止めて・・・車を止めてくれ!早く!!」




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2018/04/05 (Thu) 01:00 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、おはようございます!

あはは~!それでもいいんですけど、そうしたらアレがなくなるけどいい?
助かるなぁ(笑)
今からでも変更可能ですよ?ふふふ。

良かった!つくしレーダーが回復して!

でも・・・風邪じゃなかったらどうする?違う病気・・・ヤバッ!
また皆さんに叱られちゃう!

2018/04/05 (Thu) 08:04 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/05 (Thu) 09:56 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・大爆笑っ!!

謝ってるし(笑)

2018/04/05 (Thu) 10:21 | EDIT | REPLY |   

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