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plumeria

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何の会話をしたらいいのかわかんないぐらいシーンとした時間だけが過ぎた。
誰も怒ってるわけでもないんだけど誰も言葉を出さない。テーブルの上のお茶が冷めてしまうのに誰も動かない。

そうしているうちにバタンとドアが開いて一樹君が帰ってきた。

「ただいま・・・あっ!つくしちゃんだ!もう病院にいなくていいの?」
「お帰り、一樹君。心配かけてごめんね、もう大丈夫だよ。明日の準備をしにきたの。お誕生日会、するんでしょ?」

「うん!パパがさ、もしかしたらすぐに日本に帰るかもしれないって言うから最初で最後かもってこっちの友だちに言ってあるの」
「そうなんだ・・・じゃ、沢山ご馳走作らなきゃね!」

「あ!お兄ちゃんも来てる!こんにちは!」
「・・・こんにちは。一樹君、いくつになるの?」

「明日で5歳なんだ。お兄ちゃんは何歳?」
「え、俺?・・・えっと・・・25歳だけど」

類が歳を聞かれて驚いてる!そうだよね、こんな歳の子供なんて類には縁がなかったから。
一樹君は荷物を置いたら私じゃなくて類の隣に座った。それには私も山本さんも驚いて顔を見合わせた。

「お兄ちゃん、自転車乗れる?ぼくね、明日パパに自転車買ってもらうの!お誕生日のプレゼント!」
「自転車?乗れると思うけど、乗ったことがないなぁ・・・それが欲しいの?」

「乗ったことないの?!なーんだ・・・教えてもらおうかと思ったのに」

一樹君の無邪気な言葉や態度からは私がここを出ていく事や、山本さんの会社の状況なんかはわかっていないようだった。それが気になったけど一樹君の前では言葉に出来ず、類をチラッと見たら軽く頷いてくれた。

「一樹君・・・面倒だな、一樹でいい?外で遊ぼうか。サッカーする?ボールあるかな」
「ホント?あるよ!わーい!パパね、サッカー苦手なんだって。お兄ちゃん行こう!」

椅子から立ち上がって玄関で靴に履き替え、手を繋いで2人は庭に向かった。部屋を出る時に類が山本さんに「わかってるよね?」なんて釘さしてたけど。
すぐに窓から2人がボールを蹴っているところが見えて、気にするだろうからレースのカーテンを開けておいた。


「山本さん、一樹君・・・なんて言ってるんですか?私がここを出ていくこと」

「・・・嫌だって大泣きだったよ。どうして、どうしてって・・・どうしてもう帰るの?って泣くから、大事な人が迎えに来たんだって言ってある。そしたら自分の事は大事じゃないのかって言うから、大好きだけど大事な人の所に戻らないと牧野さんが悲しむんだよっていったらそのうち『わかった』って答えてくれたけどね。どうだろう・・・元気なふりしてるのかもね」

「・・・すみません。私がついてきたために余計な期待を持たせたんでしょうね」

「もう、真莉愛さんの妊娠が嘘だって聞いたんだろう?実はね・・・俺は初めからそうだって知ってたんだ。知ってて君をここに誘導したのは俺だよ?君は悪くない・・・俺にまで騙されたんだ。本当にすまなかった。今だから言うけど彼から君を奪える最後のチャンスだって思ったんだ。そして不正のことを知らなかったから、彼はあの嘘から始まった騒動と山城との提携で見動きが取れなくなると思った。卑怯な男だろ・・・」

その山本さんの言葉にはほんの少し驚いただけで、怒りなんてものは湧かなかった。
それに妊娠の事は類以外の人から「嘘だよ」って言われても信じなかったと思うし、それよりも私は何もかもが怖くなってしまっていたから。


「それはもういいんです。逃げることを選んだのは自分ですから。ただ日本に帰ることになったとしてもそれまでの間、学校から帰ったら一樹君は1人に?」

「いや、何人かいる日本人の家庭に助けてもらうさ。それも僅かな期間だろうし、あの子を1人にしないから。日本に帰ったらまた前と同じように暮らせばいいし、どんどん大きくなっていくんだから」


庭からは楽しそうな声が聞こえてくる。
類が子供と走ってるところなんて初めてみる。あれは近い将来の彼の姿・・・だったらいいな、なんて思いながら窓の側まで行ってそれを見ていた。


**


「え?今なんて言ったの?類」
「うん、俺が一樹と自転車買いに行くから、牧野は山本と食材の買い物に行ってきなって言ったんだけど」

牧野のキョトンとした顔。無理もないよね、この俺が山本と行ってこいなんて言うんだから。
でも少しわかった気がする・・・牧野がこの子のこと可愛がってたの。ホントにすごく素直で元気で可愛い笑顔を見せるんだ。
だからもう少しこの子と一緒にいたいなって思って「自転車のプレゼント、お兄ちゃんがしてやるよ」って言ったら大喜びだった。

「類、早く行こうよ!」
「こら!一樹、そんな言い方して!それに花沢さんに買ってもらうなんて・・・」

「いいんだよ。俺がそうしてって言ったんだから。プレゼントも俺がしたいんだよ。それにあんたには牧野の事で負担させてるからね、このくらいしとかないと気が済まないんだ。金額に差はあるけど文句言わないでよね。牧野はまだフラフラなんだから荷物は全部あんたが持つこと。頼んだよ」

「類、本当に大丈夫なの?」
「え?なにが大丈夫?心配ないって。ほら、行くよ、一樹」


牧野の事はもう心配ないっていう自信があった。
だから、山本と買い物に行っても問題はない・・・それよりもこの子から牧野を奪ってしまうから、そっちの方が気になっていた。

一人っ子、そのせいかもしれない。幼い頃、いつも1人でポツンとしていた自分の姿と重なるから。


まだ小さな雪が降ってる。
そんな街の中を一樹の温かい手を持って、自転車を売ってるホームセンターのような店に向かっていた。途中出会う地元の人間に道を聞きながらゆっくりと歩いていた。

「一樹、自転車に乗れるようになったらいいな」
「うん!でも友だちに聞いたらすぐ乗れるようになったってみんな言うよ?だから大丈夫。たださ、ぼく1人だから誰かに見てて欲しいと思って。最初は怖いじゃん?」

「俺も一人っ子だよ。小さい頃は両親とも家にいなくて毎日1人だったな」
「類も?パパとママ、いないの?」

「いや、いるよ。でも日本にほとんどいなかったから1人だったんだ。学校で友だちといる以外はね」
「ふーん・・・類も寂しかったんだね。今でもパパとママは日本にいないの?」

「うん、いない。俺にいるのは牧野だけだよ」
「つくしちゃんだけ?そうか、喧嘩してたんだよね?類が苛めたの?つくしちゃん、元気ない時が多かったよ?」

喧嘩かぁ!って笑ってしまった。大人の醜い喧嘩に巻き込まれたって言えば当たりかもね。

「はは!俺と牧野は喧嘩なんてしてないよ。でも、ごめんな・・・一樹より先に日本に連れて帰るからさ・・・許してくれる?」
「うん・・・昨日、パパが言ってた。つくしちゃんは大事な人の所に戻るって。それって類のことでしょ?そうじゃないとつくしちゃんが悲しくなるからって。ぼくも悲しくなるけど・・・いいよ。ぼく、我慢する。慣れてるんだ、我慢すること」

僅か5歳で我慢を覚えるのは俺だけじゃないんだな・・・って思った。
俺も子供の時は何で俺だけって思うことがあったな。そしてあいつら以外の誰とも心を打ち解け合えずに、結構長いこと孤独ってもんと闘ったような気がする。


「多分、一樹ももうじき日本に帰ると思うからさ。その時は遊びにおいで・・・牧野、貸してあげる」
「ほんと?つくしちゃんと遊んでもいいの?」

「いいよ、牧野も喜ぶと思うから。でも、牧野の1番は俺だからね?」
「じゃあ、ぼく、2番!」

随分と年の離れたライバルはそう言って笑った。
そして自転車を買って家に帰る途中も話は全部牧野の事、俺の知らないことを知っている一樹に少し嫉妬してしまった。


**********


明日の買い物を山本さんと済ませて、まさかこんな事が起きるとも思わなかったけど4人で夕食を食べていた。
山本さんと一樹君が並んで、向かい側に私と類・・・何とも言えない空気が流れるかと思ったけど、それを楽しい雰囲気に変えたのは一樹君だった。

それも私とじゃなくて類とばかり話して、今まであんなに懐いていたのに類に取られたようで何だか悔しい・・・。私が眉を顰めて2人を見ていたら山本さんの方がプッ!と噴き出していた。

「牧野、どうかしたの?そんな顔して」
「・・・別に何でもない」

「つくしちゃん、何かあったの?類と喧嘩したの?それとも類が遊んでくれないの?あ、ごめんね、ぼくが遊んでもらってるから」
「ううん!それはいいんだけど・・・」

「牧野は後で遊んであげるね」
「ちょっと、類!もうっ・・・」

山本さんが咳払いをして「子供がいるからやめてくれ」って言った・・・。
「何して遊ぶの?」って純粋な目で聞かれた類の方が答えられなくて焦ってる。この家で過ごす最後の夜はとても不思議で、でもとても穏やかで優しい夜だった。



夕食もシャワーも明日の下ごしらえも全部終って自分の部屋に戻ったら、類が先にベッドの上でスマホで何かを調べていた。

「ごめんね・・・。私の我儘でここに一晩泊まることになって。でも、ありがとう・・・一樹君の事、助かったよ」
「ん、いいよ。俺も一樹にヤキモチ焼いたけど牧野もでしょ?くすっ・・・さっきわかりやすかったよ」

そう言いながら私に手を差し出すから、その手に自分の手を重ねたらフワッと抱き締められた。


「くすっ・・・ここじゃ遊べないね。でも、離さないけどいい?」
「うん、こうしててね・・・これからもずっと。離れないけど・・・いい?」


「牧野、明日の昼過ぎ・・・俺に付き合って?」
「何処かに行くの?この街で?」

「うん、でも、まだ内緒」


今日もまたこの腕の中で眠る・・・類の大きな胸が私を包んでくれる。
時々くれるキスがすごく甘かった。


1christmas-214229__340.jpg
ヽ(≧∀≦)ノ ラストが見えてきました!
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2018/04/12 (Thu) 14:27 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・こんにちは。

いきなり笑った!・・・あの続きが出るとは!
もう一つ、「俺3番」・・・爆笑!どんな親子だーーっ!!
この3番には類も油断できんでしょうね。

一樹、可愛いでしょう?「どんな遊びするの?」に対して類の答えが「見に来る?」だったら怖いよね!
4歳で既に目撃してしまうという・・・(笑)

類が外したボタンを留めていきそう(笑)

「つくしちゃんが寒いって言うよ?類、苛めちゃダメだよ!」
「ここは外さないと遊べないんだよ?他にも外すところは沢山あるんだから邪魔しないで、一樹」

「あっ!そんなことしたらパンツが見えちゃうよ?女の子は隠さないといけないんだよ?」
「見ていい人もいるんだってば!お父さんに聞いてみな?」

「類が乗っかったらつくしちゃんが息できないって!降りなきゃダメだよ!」
「大丈夫、人工呼吸してるから!」

・・・Plu、最低!(笑)


樹の方は・・・(笑)想像しちゃったよ。お腹痛い!
今日はここで止めておこう・・・。

2018/04/12 (Thu) 17:23 | EDIT | REPLY |   

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