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式が終ってから一樹を連れて聖堂を出たら、そこには山本が立っていた。
少し切なそうな顔して一樹を手招きして、タキシード姿の一樹は嬉しそうに父親に抱き付いた。

「牧野さん・・・おめでとう。本当にごめん。記念の結婚式なのにこんな外国の知らない教会で一樹1人の参列なんて思わなかっただろうね。みんな俺のせいだから・・・悪かったね。でも、すごく綺麗だよ」

「私の方こそごめんなさい。あなたのこと、利用してしまって・・・一樹君にも悪いことしました。いつかは離れるつもりだったのに期待だけさせて。私もあなた達に助けていただいた部分もあるんです。謝らないで下さい」

お互いに頭を下げ合って謝ったり照れたり・・・少しだけ俺が邪魔者みたいな気分になって不愉快だったんだけど。


「さっき控え室にいたら日本から連絡があったよ。来週俺達も日本に帰国する。山城は規模を5分の1ぐらいに縮小して、また1から出直すらしい・・・経営陣が総入れ替えされて社名も変更するんだそうだ。それに伴って希望退職者の受付を開始するってさ」

「どうするの?山城に残るの?」
「さぁ・・・どうするかな。まだ考えてない・・・締め切りはもう少し先だそうだからそれまでに決めるよ」

せっかく拡大した支店や工場や子会社を潰して売却、希望退職者には退職金の上乗せをして社員数を減らし人件費を削減。
あんな大規模な不正が明るみに出たらこれだけの犠牲を払わなくちゃいけないって、どうしてあいつらはわからなかったんだろう。富と名誉ってのは時々こうやって人を破滅に追い込む。

俺は牧野のためにも花沢をそんな風に腐らせるような事はしない・・・そう強く感じた事件だった。


「日本には俺たちの方が先に帰るけど気が向いたらでいい、連絡くれたら紹介してやる。とんでもない経営者がいる所だけどそれでもいいならね。言っとくけど花沢には入れないからね!」
「る、類ったらそんな言い方・・・」

「ははっ!そりゃありがたい話だな。気が向いたら・・・そうさせてもらうよ」

山本は少し離れた所に置いていた牧野の荷物を持ってきた。今朝早く、俺が頼んでいたからだけど。
もうここで山本親子とは別れる。それを初めて知った牧野はびっくりしていた。

「え?もうここで?あの・・・そんなに急に?」
「何言ってるの、本当は昨日だったでしょ?さ・・・一樹と話しておいで」

ドレスの裾を持ち上げて一樹の側に行き、その手を持って近くにあった椅子に座って2人は話し始めた。
思ったより一樹は元気そう・・・なのに牧野の方が泣きそうな顔をしていた。


「牧野はあんたを許したみたいだけど、俺はやっぱり許さないからね。でも一樹の事は俺も気に入ったから、さっきの話はあの子のためだから。間違わないでよ」

「へぇ、そりゃ良い息子を持ったもんだ。それにしてもあんたも変わってるな。あんな大企業の跡取りのくせに・・・初めて居酒屋の前で会った時、ただの気まぐれだと思ったのに」
「・・・負ける気なんてしなかったけど、そっちこそ最初っから挑戦的な目で見てたじゃん。油断ならない男だと思ってたけど、ホントにこんな所まで連れてくるとは思わなかったよ」

「牧野さんの優しさが嬉しかったんだよ・・・初めて会った時のな」


一樹と笑いながら話してる牧野の姿を見る山本は、最後に愛おしそうに目を細めた。


**********


教会の控え室でドレスから着替えた牧野は左手薬指にはめられた指輪を眺めていた。
何度も窓の外からの光に翳しながらその中の模様を確認していた。

「わかった?その中の模様・・・」
「うん、これ、雪の結晶だよね?・・・すごく綺麗・・・フランスで探してきてくれたの?」

「そう。本当は普通のお土産だったんだよ?婚約指輪、まだ出来てないからさ。偶然その店で見つけたんだ。それは「雪の華」っていうスノープレシャスダイヤモンド。これだと絶対に消えないでしょ?掌に落ちても消えない・・・ずっと牧野の指で光っててくれるでしょ?」

「うん。でもね、私も類がくれたクリスタルの「雪の結晶」・・・これだけは持ってきたの。これを毎晩手の中で抱き締めてた」
「あっ・・・チェーンだけ残ってた!切れちゃったの?まさか・・・切ったの?」

そう聞くと「まさか!」って笑いながら、動物園から帰ってきたその日、自然と切れたんだと聞いた。
牧野はそれが自分と俺を切られたような気がして悲しかったと・・・置いていこうと思ったけどどうしても手放せなかったらしい。


「きっと俺の代わりに怒ったんだよ。他の男とデートなんかするから」

そういうとクスッと笑いながら自分の薬指を撫でてる・・・そして手を高く上げて「一生・・・解けないんだね」そう言った。


「明日、ここを出るよ。今日はホテルに泊まるからね。そろそろ行こうか」
「うん、行こう」


**********


教会から今度はドレス一式を日本の花沢邸に送る手続きを済ませて私たちは教会を出た。

いつかは泣きながらこの前を歩いたっけ・・・今日はすごく幸せな気分で同じ道を歩いた。
あの時は羨ましかった他の人の結婚式、悲しい涙を流したウエディングドレス。いいなぁって・・・あの時何回呟いただろう。

今は隣に類がいて、私たちの手は固く結ばれていた。


「あっ!ねぇ、牧野見て!すごく綺麗な湖がある!行ってみようか!」
「え?あぁ、そうね、そうだね!」

やっぱりね・・・ここを見たら類は絶対に「行こうよ」って言うと思ったの。類が好きそうな色なんだもの。
湖の畔まで行ける遊歩道を降りながら私はこの繋がれた手の温かさを・・・安心感を噛みしめていた。


真っ青な湖は風がなかったから湖面が真っ平らで鏡みたい・・・その向こうに聳え立っている山々を綺麗に映していた。
そして1つ・・・また1つ・・・雪が落ちてくる。

ゆっくりと私と類の前に雪が落ちてきた。

「雪・・・寒いはずだね」
「うん・・・そうだね。でもこの辺りももうすぐ雪は終わって春になるんだって。近所の人が言ってた。急に花が咲き出して緑が増えてもっと綺麗になるんだよって。でもそれを見ることは出来なかったね」

「いいんじゃない?いつかまた来ればさ・・・この先、一緒の時間は沢山あるよ」

いつものように手を伸ばして雪を掌に乗せた。
もちろんすぐに解けてしまう。

それでも何も言わずに雪の手を伸ばしていたら類が「解けても気にならない?」って聞いてきたの。


「だって消えてもいいんだもん。ほら・・・ここにずっと残る結晶があるから・・・ね!」

そう言って左手を高く上げたら、そのままフワッと抱き締められて・・・耳元で囁かれた。



「昔の牧野が戻ってきたね。お帰り・・・ずっと待ってたよ」




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2018/04/15 (Sun) 00:32 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、おはようございます!

カナダの夜再び(笑)

マキノ ナンノコト?カナダノヨルッテ・・・ナニガアッタノ?

飛んでもない経営者って言えばヤツしかいませんわねぇ。
いや、類もかなり変わった人ですけどね(笑)
”禿げ”が一番普通じゃないですか?(名前出してやれよ!)

資料室でね・・・(爆)
私、むかーし働いていた会社に倉庫があったんですが(某電機メーカーの卸会社にいたときなんですが)
先輩2人が冷蔵庫の箱が並んでる奥の方でシテおいでだったのを見たことがあります(笑)
足音立てずに逃げました。
電気屋さんで冷蔵庫を見るといまでも鮮明に思い出します(笑)

花沢物産資料室にて・・・なんかお話しが書けそうだ(笑)!

2018/04/15 (Sun) 09:10 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/15 (Sun) 15:37 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・こんにちは!

まだ若かったからそんなことは思わなかったですよ(笑)
ただそれからはそういう風にしか見られなくなって困りましたね。
ま、女性の先輩の方がすぐに辞められたのですが、これが「大人の世界」なのねぇ・・・って思っていました。

今じゃ平気でこんな話書いてるんだから人間って変わるのね(笑)

冷蔵庫置き場なんて可愛いわ~♥
総ちゃんだったら照明器売り場でスポットライトあてながらスルかもしれない・・・。
あきらなら空気清浄機の実演器の前かも。
類なら・・・類なら?(笑)もう少しで変態チックな事書きそうだった!ヤバい!止めとく!

2018/04/15 (Sun) 16:00 | EDIT | REPLY |   

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