plumeria

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9時が近づいたら何となく牧野が入ってくる入り口の方が気になって、何度も部屋から出たり入ったりを繰り返していた。
ちゃんと起きれただろうか。目が腫れてねぇかな・・・まさか、気が付いてねぇよな?

帰る前に思わずしてしまったキスに俺の方が動揺してどーすんだ!とは思うがやっぱり気になる。
それにあきらに振られた次の日だ。どのくらい落ち込んでるのかと、そっちも気になっていた。

「総二郎様、どうかしたんですか?今日はやけに落ち着かないのですね。このあと武田様のお屋敷に向かうのですが準備は出来てますか?」
「・・・そういやそうだっな。忘れてた」

「そうでしょうね。早く着替えて下さい。私は執務室におりますので」

和真が感情丸出しで俺の部屋から出て行った。
武田っていうのは少し前に親父がまた根負けして受けてしまった見合い相手の家だ。今日はその家に親父の名代で行くことになっていた。
武田家は先代から付き合いのある華道の家だが、西門に負けないほどの歴史を持っている名家だ。そこには美人と噂される3人娘がいるが男がいない。
長女の婚約者というのが婿養子に入ることが決まっているがどうもそいつの評判がイマイチ・・・だから次女にはどうしても有能な男をってことで俺に白羽の矢が立ったようだが、そんな理由で選ばれちゃ堪んねぇ!

「婿養子にとは言ってないぞ?」っていう親父の一言が既に信じられない。
何で俺が出来の悪い男のサポートみたいに選ばれなきゃいけねぇんだよ!冗談じゃねぇ・・・西門だけでも苦労するのに他の家の事まで知るか!

そして名代ってのも遠回しなやり方で、要はそこの娘と簡単に顔合わせをしておくためだ。全く・・・写真まで送り合ってるくせにこんな手の込んだ事しやがって!掛け軸の貸し借りなんてホントは全然する気なんてねぇくせに。

で、もってゲイの考えることはわかんねぇ。いつも俺が見合いをするって言うと機嫌が悪くなる。


「おはようございまーす・・・」

遠くから聞こえてきたのは牧野の声だった。良かった・・・ちゃんと起きたんだな。
和真がいなくなったことを良しとして俺は事務所に向かった。そしてたった今事務所に入った牧野を追いかけてドアを開け、事務長に「10分借りる!」と言って廊下に連れ出した。

「どうしたの?西門さん、あっ!そうそう、ごめんね、昨日の事・・・私、部屋まで運んでもらったんでしょう?」
「あぁ・・・まぁ、そうだけどそんな事はいいんだ。それより・・・落ち着いたのか?」

「うん、ちゃんと自分の口で伝えることが出来たから。大丈夫・・・うん!大丈夫だよ」
「アホか!無理してるだろ?何なら俺が飲みに付き合ってやろうか?店は鬱陶しいからここか・・・お前んとこでもいいけど」

「あはは!しばらくお酒はいいよぉ!昨日だってどのくらい飲んだかわかんないけどさ、弱いってわかったもん。もう、あんなお酒の飲み方はしないよ」

その言葉の最後の方はまだあきらへの未練が感じられた。
恋愛なんてした事ないヤツが急に燃え上がってあっさり振られたんだから仕方ないけどな。

今日はもういつもの超薄化粧で昨日とは全然違ってるんだけど、それでも失恋ってのは女を綺麗にするような気がする。
今までよりも少しだけ女の顔をした牧野を見るようだった。


「西門さん、私、頑張って次の恋を見つけるよ。背中押してくれてありがとうね!じゃ・・・」

「おぅ!よーく周りを見てみろ!いい男がどっかにいるかもしれねぇから!」
「あはは!見つけたら教えてねー!」


・・・・・・お前の目の前だよっ!馬鹿野郎っ!


***********


「総二郎様・・・あまり長居されませんように。次の仕事が押しておりますので」
「和真・・・俺はこういう仕事に長居したことは一度もねぇ。余計な心配すんな。で、少し近すぎるから離れろ」

武田の家に行って応接室で当主を待っている間に出た和真からの一言。
これは俺が好きでやってる訳じゃねぇんだから長居なんてするわけがねぇ。しかもどれだけ美人でもこんな家の娘なんて冗談じゃねぇっての!


「お待たせいたしました。これはこれは・・・若宗匠が持ってきて下さったのですかな?ありがとうございます」

ほんの数分後部屋に入ってきたのはこの家の当主で、親父と変わらないくらいの年の上品な男だった。

「いえ。家元が急用で東京を離れましたので私がお持ちしたまでです。こちらの「円相」を直にご覧になりたかったとか。お話しに寄りますとこちらのご隠居様が掛け物にご興味お持ちのようですね。お預けいたしますのでどうぞごゆっくりご覧いただきたいものです」

和真に目配せしたら桐箱に入れた”掛け物”を差し出した。

茶道では通常”掛け軸”と呼ぶものを正式には”掛け物”という。
掛け物はその日の茶事の「主旨・主題」が書かれたものを多く使うから道具のなかでも茶席の中心、とも言えるものだ。

「よく知られている「一期一会」、「和敬静寂」、「日々是好日」とは違って「円相」とはどんなものかと思いましてね。お時間取らせて申し訳ない、すこし拝見しますかな・・・」

ここで急にまた和真の顔にピキッと筋が入る。俺よりよっぽど怖い顔してんぞ?


「円相とは禅語ではございませんのでどう捉えればいいのか、と悩まれる方は多いのですよ。円相は空・風・火・地を含む世界の全体、究極の姿をあらわしています。悟りや真理を象徴的に表わしたものともいえますね」

「ほう・・・円は欠けることも、余すところもない完全な円満であり、始まりもなければ終わりもない、と聞きますがそのような意味ですかな」

「そうですね。 円相が無限をあらわすのならば、そこに至るための道もさまざまでしょう。見る人によって解釈が変わるのかもしれませんね」

イライラする・・・こんな会話はどうでもいいから早く帰りたい!
そう思っていたら「失礼します」というか細い声がして障子がスッと開いた。

そして茶を持ってきたのは噂通りのすげぇ美人。
見るからにお嬢様で大事に育てられたって感じだ。艶やかな黒髪を垂らして清楚なワンピース姿。化粧も派手すぎず、好感度抜群。どんな男でも一目惚れしそうな女性だった。

「いらっしゃいませ。お茶をお持ちしました」
「・・・ありがとうございます」

会話はこんなもの。聞きたいことも言いたいこともないから軽く頭だけ下げて視線を合わせるようなことはしない。それなのに当主の方が待ってましたと言わんばかりに娘の説明を始めた。

「若宗匠、うちの次女の小百合と申します。確か歳が近いのではなかったかな・・・どうぞ、宜しくお願い致します」
「こちらこそ宜しくお願い致します。良かったら西門の茶事にお越し下さいませ。お待ちしておりますよ」

「・・・ありがとうございます。でも、お作法にまだ自信がございませんのでいずれまた・・・失礼いたします」

それだけ言うとスッと立ち上がって部屋を出ていった。


「いやいや、恥ずかしがり屋なものですから!今度、茶でも教えてやっていただきたい。連れて行っても宜しいですかな?」
「はは・・・どうぞ、お待ちしてますよ」

いや、ホントは全然待ってないけどな!
「総二郎様、お時間です」、和真がわざと当主に聞こえるくらいの声で急かして、このあとすぐに武田家を後にした。


**********


「うわ・・・すごい顔。なにこれ、クマってヤツかしら」

事務所の中で鏡を覗きこんでいた。そこに映ってるのは疲れきった自分の顔。
昨日お化粧も落とさずに寝たせいだろうか、肌荒れもしてるし目の下が黒いような気もする。

こんな顔で西門さんに「頑張って次の恋を見つけるよ」なんて言っても説得力ないじゃない。
ダメだなぁ・・・こんなんじゃ全然切り替えられないよ。事務長が真横にいるのに机に突っ伏して落ち込んでいた。

「大丈夫かい?気分が悪そうだけど・・・なんなら半日有休ってのも取れるけど、そうするかね?そんなんじゃ着物が着られないんじゃないのかい?」
「半日有休?・・・取ってもいいんですか?」

「制度としてあるんだから構わないよ。具合の悪いときは仕方がないだろう?」


事務長の言葉に甘えてこの日、初めての半日有休ってものを取った。
具合が悪いのかって言われるとそういう訳じゃない。気持ちが沈みすぎて暗いのと、ほんの少しの二日酔い・・・だから罪悪感が多少はあるけど今日だけ自分を甘やかしてしまった。
夕方は西門さんのお茶のお稽古だったけど志乃さんにこの事を話して断りを入れ、お昼過ぎに西門を出た。

「でも、どうしよう・・・部屋で寝てようかなぁ。何もすることがないんだし・・・」

マンションへの道を歩いていたら風がさぁーっと吹き抜けていって私の髪を靡かせた。それが顔に当たって思わず耳に髪を掛けた時、自分の耳朶に触れてしまった。

最近ここで何度か揺れたピアス。
大人っぽくしたつもりなのに振られたんだなぁ・・・って、この瞬間また思ってしまった。

はぁっ・・・って深く溜息が出る。


でも、そんな自分は嫌いだ。元気・・・出さなきゃ!

そう思ったとき、あることを思いついて急いで向きを変えた。



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これが「円相」です。うーん・・・さっぱり(笑)
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2018/04/14 (Sat) 23:36 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・おはようございます!

一番初めに言うのもなんですが・・・なんで触らせるのーっ!ダメダメ!
それに”前”は見る機会ないから!総ちゃん、温泉とかでも個別のお風呂だし、何人も入れるシャワールーム持ってるけど
大奥方式でそこに入れる男は総ちゃんだけだから!

ここまで説明しなくてもいいんだろうけど、和真は女になりたい願望はないんですよ。
男のまま男が好き設定なの。え?聞いてない?だよねー!

総ちゃん、可愛いでしょ?
本気の恋には疎いってやつ(笑)

これからplumeriaの総ちゃん虐めが始まります。ふふふ。
総ちゃんにイライラしていただきましょう!

2018/04/15 (Sun) 08:57 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/15 (Sun) 15:13 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・こんにちは!

あっ!そうなのね!
その報酬・・・どうやってするんだろ(笑)

触っていいぞ?って言うの?お腹痛い・・・!
それか触られてるのを知ってて我慢するの?
つくしちゃんが飛んできて殴り倒しそうだけどね!

苛める・・・。ダメ?

もう終らせたい?いや・・・ムラムラしたいよね!( ´艸`)

2018/04/15 (Sun) 16:05 | EDIT | REPLY |   

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