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インターホンが鳴ったとき、西門さんかもしれないって思った。
思い切ってばっさり切った髪、なんて言われるかと思ってドキドキした。

案の定・・・すごく驚かれた。
多分、西門さんはこんな髪、キライなんだろうと思う。前に切ろうかなって言ったとき止められたから。
「長い方が好きだ」って言ってたから。

私も自慢は髪の毛ぐらいだったから切りたくはなかったんだけど、どうしても気分を思いっきり変えたかったの。
それに今度は・・・好きな人のために伸ばそうって思ったから。でも、そんな言葉は出せなかった。

私の中にあるモヤモヤした気持ちがはっきり固まるまでは誰にも言えない。
美作さんのこと、忘れられたかどうかさえ自分ではわからないんだもん・・・そのぐらい自分で自分の事が今はよくわからない。


「で?西門さん、どうしたの?なんで来てくれたの?」
「・・・いや、牧野が飯作れないほど具合悪かったらいけないと思ってさ・・・料理長に頼んで作ってもらったんだ」

そう言って差し出してくれた重箱に詰めたおかず・・・思わず笑いが出た。
きっと私が何も食べてないと思って急いで作らせたんだろうなぁ・・・西門に入った時、毎日のようにお皿にのせておかずを運んできた彼のことを思い出した。

「病人が食べるような量でも中身でもなかったよ?あんなに豪華なのに病人食なの?」
「うるせぇよ!わかんなかったんだから仕方ねぇだろうが!」

「ありがとう・・・気にしてくれて」

ほんの少し照れたような顔をする西門さんにお礼を言うと「素直なお前は気持ち悪い!」って怒ったような口調で横を向いたまま返事をされた。


「こんなに短くしたの、小学生の時以来だよ。耳にかけてもすぐに落ちちゃうなんてさ。首が寒くて風邪引きそう!」
「・・・切っちまったもんは仕方ねぇよ。でも、着物の時は・・・ま、いいや!牧野が茶事の仕事するわけじゃないもんな。普通の使用人はどんな髪型でも問題ねぇし」

「・・・そう、だよね。普通の使用人だもんね」

西門さんのその言い方には少しだけショックを受けた。
何となく自分は少し特別なのかもしれないって思っていたから。着物の色だけじゃなくて、お稽古のことも食事のことも、西門さんに近いところにいるような気がしていたのは気のせいだったかな・・・。

つい、癖で髪を触ろうとしたらそこに髪がなくて、慌ててその手を引っ込めたら西門さんがクスクス笑った。


「今時失恋したからって髪切るヤツなんかいねぇぞ。バカだな・・・せっかく約束のもん、買ってきたのに」
「約束?なんの?」

「忘れたのか?パーティーに行くって時にお前がおもちゃみたいなものしか持ってねぇっていうから買ってやるって言っただろ?まぁ・・・短くなっても見えりゃいいし」

西門さんがポケットから出してきたのは小さなケースが2つ・・・。
でもこれって指輪とかが入ってるヤツじゃない?私、そんな話したっけ?指輪と髪・・・関係あるのかな?なんて思いながらそのケースを開けたら、中に入っていたのは1つがプラチナの、1つがピンク色のピアスだった。

「うわっ・・・!これ、可愛いけど、た・・・高そうっ!ダイヤモンドじゃないの?こっちは・・・なに?ルビー?」
「こっちはティファニーの一粒ダイヤ。こっちはピンクゴールドの薔薇の中にルビー。小さいから事務所でも大丈夫だろ」

「え?でも・・・いいの?2つも?」
「気分だろ。そういうのも意味があって元気になりたいときはゴールド、落ち着きたいときはシルバーをつけるといいらしいぞ」

そして西門さんがどっちかつけてやるって言うからダイヤの方にしたら驚かれた。

「え?今は元気になりたいんじゃないのか?シルバーの気分?なに・・・興奮してんの?」
「違うわよ!そうじゃないけど綺麗・・・だったから!こんなの持ったことないもん!980円のおもちゃしか!」

980円?って相当ドン引きされたけど、それがホント。それが今までの私だから。
こんな風にピアスもらったり、前みたいにドレス着たり、パーティー行ったりエステに行ったりなんで想像出来なかった。

そう・・・お茶、点てたりなんてね。


確かに元気になりたいし、笑顔になりたい。
だけど今は何だかわかんないドキドキした自分を抑える事の方が先・・・そんな気分だったのよ。


*********


その日から牧野の様子が少しずつ変わってきた。

化粧をきちんとするようになって事務所で働く午前中はその耳にはピアスが光ってる。自分の給料で買ったのか右の指には指輪があったけどおもちゃなんかじゃなくてきちんとした物だった。
ゴールドとプラチナのコンビのもの。シンプルで石1つ入ってない物だけど品があって大人っぽかった。

それでも言葉なんかは全然かわんねぇ!むしろ前より近くなったのか家族のような話し方で俺には遠慮ってもんも師匠って感じもなくなってきた。
でも、もう今更それをギャアギャア言うのも面倒くさくなって、俺もこいつには素の自分を曝け出していた。
いや、初めから牧野にだけは素の自分を見せてる。何故かこいつの前では気取ったり飾ったりしなくてもいいような気がしてる。枷を外してもいいんだって・・・そう感じるんだ。

こいつの前ではすごく自由・・・最近、それを強く感じるようになっていた。

「西門さん、このお魚のフライと私のお肉、交換しようよ。そっちが好き!」
「何でだよ!食いもんの交換とか禁止だっていつも言ってるだろ?肉食え!貧相な身体してるんだから」

「えー?意地悪だなぁ!お肉食べてもお腹は出るけど胸は育たないってよ?」
「じゃ牛乳でも飲んどけ。それ以上腹が出たらスリーサイズに差がなくなるぞ?24でそれはもう気の毒としか言いようがねぇからな!」

「やぁねぇ!女の価値をスリーサイズでしか計れない男は!今はよくてもそのうちモテなくなるわよ?」
「ばーか!俺にそんな時が来るわけねぇだろ?自分こそあっと言う間に枯れてくぞ?まだ咲いてもないくせに!」

「いいわよ、見てなさいよ?すっごいデッカい花が咲くんだから!」
「へぇ!そんな花摘んでくれるヤツがいたら見てみたいもんだ!その時は言えよ?じっくり見てやるから!」


「やっぱり、仲がいいのねぇ・・・あなた達」
「「全然良くないからっ!」」

相変わらず俺たちの事を面白がってるのはお袋だったけど、急かすわけでもなく傍観していた。時々チクリと「まだ堕とせないの?」ってな脅迫めいた言葉はあったけどな。


そして茶の稽古も随分と進んだ。

意外と筋が良かったのか?言葉遣いとは裏腹に、こういうことには丁寧だった。あれだけ出来なかった帛紗さばきも出来るようになり一通りの流れはマスターしたようだ。
茶の味が格別美味いって訳じゃないけどそこそこのもの、優しい茶を点てるのには正直驚いた。

着物もやっと1人で着れるようになり、少しずつ所作も美しくなった。
短い髪の毛が気にはなるけど、幼くなると思った着物姿は逆に大人っぽくなった。廊下を歩きながら少し足を止めて遠くを見る姿は何とも言えない色気がある。

「どうした?何が見えるんだ?」
「ううん、風が気持ち良くなったなぁって思っただけ。向こうに薄紫の花が咲いてる・・・綺麗だね」

「あぁ、藤の花?親父が好きだからな。じゃあ今度の稽古では藤の花、生けようか。5月の茶花だからな」
「・・・切るの、可哀想だよ」
「ばーか、それ言ってたら茶席が出来ねぇって!」

そんな会話に軽く笑いながら口元を押える・・・それを目の端で見るけどまともに顔を向けられなかった。
もしかしたら・・・あきらの事があったから?あいつへの想いがこの変化を生んだのだとしたら・・・少し癪だった。


「つくしちゃん、夏のお着物を少し見てちょうだい?あなたに似合う物選んだのよ?」
「はーい!いつもありがとうございます。家元夫人!」

急に話しかけてきたお袋の言葉にくるりと向きを変えて小走りで行く。
その時にフワッと香ったのは牧野が気に入ってるフレグランス・・・フローラルな物じゃなくて柑橘系の爽やかな感じのヤツだ。


それが微かに香るとき・・・その香りを追いかけたくなる自分がいた。



そんなある日、もうすぐ牧野が来るだろうって時間に入ってきたお袋が機嫌悪そうに言葉を出した。

「総二郎さん、武田様の所の小百合さん・・・今度の日曜日にここにいらっしゃるそうよ」
「武田の?あの掛け軸貸してやった家の?」

「そう。それを返しに来るらしいけど、その時にお見合いするらしいわ」
「・・・はっ!面倒くせ。本当にやるのか」


この話を廊下で牧野が聞いてるとは思わなかった。



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2018/04/17 (Tue) 14:33 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・今晩は!

ふふふ、そうですよ。
恋人宣言してないのにピアスつける総ちゃん・・・無意識に彼女扱いしてるのね!

こりゃ、近いかも?いや・・・まだまだかも?
もうしばらく悶々としてて下さい。

2018/04/17 (Tue) 17:50 | EDIT | REPLY |   

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