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plumeria

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「総二郎さん、武田様の所の小百合さん・・・今度の日曜日にここにいらっしゃるそうよ」
「武田の?あの掛け軸貸してやった家の?」

ある日、お昼になったからおにぎり持ってダイニングに向かったら、その入り口の少し手前で中の話し声が聞こえた。
家元夫人と西門さん・・・いつもの明るい家元夫人の声じゃなくて少しご機嫌の悪そうな感じ・・・西門さんの受け答えも嫌そうな声に聞こえた。

「そう。それを返しに来るらしいけど、その時にお見合いするらしいわ」
「・・・はっ!面倒くせ。本当にやるのか」


お見合い?・・・西門さんが?その、武田って家のお嬢さんと?

その言葉がズキッと胸に突き刺さった。
いつかは家の決めた人とって・・・美作さんが言ってたけど、このお見合いもそういう事?
麗華さんもそうだったのよね?断わっただけで、あの時も家が薦める縁談だったんでしょ?そんなに経ってないのに西門さんにはまた新しい相手が用意されたってこと?

何故か中には入れなかった。その前の廊下で立ったまま、西門さんが次になんて言うかを聞きたかった。


「あなた、前に会ってるでしょ?印象どうだったの?写真で見る限りお綺麗なお嬢様よねぇ」
「あぁ、そうだな。印象ねぇ・・・髪が綺麗だったなって事ぐらい?あとは控えめで大人しそうだったな。家元夫人には向いてるかもしれねぇな」

・・・この言葉のあと、私の足は向きを変えて事務所の方に歩き出した。

家元夫人には向いてるかもしれねぇな・・・ってことは西門さんが認めたって事?
髪が綺麗だったって事は長い黒髪してるの?私はばっさり切ったのに?
控えめで大人しそうって・・・私とは正反対ってこと?


その全部が悲しくなって、気が付いたら走っちゃいけない廊下を全速力で走っていた。


******


「あぁ、そうだな。印象ねぇ・・・髪が綺麗だったなって事ぐらい?あとは控えめで大人しそうだったな。家元夫人には向いてるかもしれねぇな。見た目だけはな。1回しか会ってねぇから決めつけられないけど、何となく俺には本性見せそうにないって気がする。心のガードがすっげぇ固そうだったな。何も言わなくてもそいつが今、何考えてるかわかるってのが理想だからやっぱり無理。会うのは仕方ねぇけど」

「つくしちゃん、今、何考えてるのかしらねぇ・・・」
「あいつは今頃腹が減ってこっちに向かってんじゃねぇの?そう言えば遅いな・・・どうしたんだろ」

「そうじゃないでしょ!もうっ、総二郎さんったら」

お袋と見合いの話をしていたけど、時計を見たらいつも牧野が飛び込んでくる時間をもう10分も過ぎていた。
休み時間には限りがあるから遅れた事なんてなかったのに。


結局牧野は来なかった。それはダイニングで一緒に食うようになってからは初めてのことで、何があったんだろうと気になってあいつが着替えをする部屋に向かった。
中で衣擦れの音がするから牧野がいるんだろうと思って声をかけた。

「牧野、昼飯どうしたんだ?食ったのか?・・・入るぞ?」

返事はなかったけど元々俺が着付けていたぐらいだから今更悲鳴なんてあげないだろうと思って障子を開けたら、もうほとんど着替えが済んでいて鏡で確認している牧野がいた。


「なんだ!返事ぐらいしろよ。飯食ったのか?お袋も心配してたぞ」
「うん、今日はちゃんと作ってきてたの。言えば良かったね。明日からちゃんと作ってくるからもうダイニングには行かないって家元夫人に伝えといて?」

「・・・そりゃいいけど、どうしたんだ?何かあったのか?」
「別に何もないよ。自分が社員だって事に今更気が付いたの。お家元のご家族と一緒に食事すること自体間違いだったのよ」

「なんだ、それ・・・誰かに何か言われたのかよ」
「だから!自分で気が付いたって言ってるでしょ?甘えちゃいけなかったのよ。いくら家元夫人に誘われたからっていい気になってちゃダメだってことよ」


牧野らしからぬ言い方に驚いた。

今までこんな言い方は一度もしたことがない。こいつは俺達を家元一家だと言って特別な目で見なかったヤツなのに・・・。
しかも俺の方を見ようともしない。もう支度は出来上がってるはずなのに鏡ばかり見て振り向きもしなかった。

「少し髪が跳ねてる・・・括ったらどうだ?結えるようになるまで」
「・・・ちょうど肩に当たるぐらいだから跳ねるのよ。もっと短く切ればいいのかもね」

「・・・なんでそんなに怒った言い方をするんだ?俺が何かやったのか?」
「別になにも覚えがないんならいいんじゃないの?悪かったわね、長くて綺麗な髪じゃなくて・・・あ!」

その一言でハッとした。

こいつ、さっきの話を立ち聞きしたのか?武田の娘の髪が綺麗だったって言ったあの時、ドアの所まで来ていたのか?


「牧野、さっきの・・・」
「ごめん!仕事時間になったから!・・・先に行くね」

俺が説明しようとしたのにその横を目も合わさずに通り過ぎて、牧野は本邸の方に走っていった。擦れ違うとき、少し目が赤かったような気がしたのは気のせいか?
でも、もしそうだとしてもなんで牧野がそんなに怒るんだ?


「・・・てか、どこまで聞いたんだ?最後まで聞いてたら怒ることねぇと思うんだけど!」


************


「牧野さん・・・お湯、溢れてますけど?」
「へ?あああっ!ご、ごめんなさい!すぐに拭きます!」

「それにそのお茶はほうじ茶です。今から出すお茶は玉露でお客様は5人です。・・・お湯呑み、8個も出てますけど・・・?」
「え、5人?・・・あ、そうでしたっけ?」

「あぁっ!牧野さん、それ食器用の布巾じゃないです!」
「はっ?・・・あ、あれ?私、何やってんの?・・・あ、熱っ!」

「えーと、ここは私がやりましょう。牧野さんは正門付近のお掃除、お願いできますか?」


昼からの仕事でミスばかり。しかもいつものように笑えないからみんなが可笑しな顔して顔を覗き込むけど、それにも反応出来なかった。
軽く火傷までしちゃったから手当てしてもらって、箒を持ってトボトボと歩いていた。
このままだとお客様に何かしでかすんじゃないかって思われたんだろう、庭掃除の方に回されたけどその方が良かった。

今は・・・誰とも話したくなかったから。


西門さんがお見合いをする。しかも今度は美人で家元夫人向き・・・。
何となく西門さんはお見合いなんかで結婚を決めないような気がしていたから少し・・・いや、かなりショックだった。

「日曜日なんて来なきゃいいのに。どんな人なのかしら・・・小百合さんって名前からしてお嬢様じゃない。つくしと百合・・・既にここで差がつきすぎだよね」

ブツブツ言いながら足元の草を引き抜いていた。
こんな所に大きな草なんて生やして、今まで何処を見ていたのかしら。この先は茶室でしょう?綺麗にしとかなきゃダメじゃないの!って、自分がイライラしていたから無心で草取りをしていたら志乃さんが悲鳴をあげて近寄ってきた。


「きゃあぁーっ!牧野さん!それは家元夫人が大事にしてる竜胆の苗ですっ!!抜かないでーっ!」

「・・・・・・え?草じゃないの?」



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2018/04/17 (Tue) 14:01 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様・・・こんにちは

そうそう、この会話の聞き漏らしが大変なことに・・・。
2人の間に急にヒビが入った的な感じ?

ヤバーーーいっ!総ちゃんピーンチ!
モタモタしてるからだよっ!って言ってやって!(笑)

あらら!大丈夫ですか?
実は私も今日は全然ダメ・・・寒気がするの。

昨日と温度差がすごいんですよね。
春は体調が悪いときが多くてイヤだなぁ・・・花粉症はないんですけど。

やっぱり冬生まれなので冬は好き。
これからの季節、私は苦手です~💦

早く良くなってね!

2018/04/17 (Tue) 17:55 | EDIT | REPLY |   

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