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牧野はあと半年で卒業する。
その先を悩んでいたのであっさりと西門への就職を薦めた。
当然、うちからの反対はなく事務局へ入ることとなった。そのうちに茶事にも関わらせていけばいい。
まだ、今のままでは婚約者として発表しても反対するヤツは出てくるだろうし、
もう少し茶についても西門についても勉強させなくてはならない。

後援会や支部の連中に認めてもらうまでにはまだまだ時間が足りない。
牧野も真面目に稽古に取り組んでいるが、その進歩も初めの頃に比べれば・・・という程度だ。
芸事の家の厳しさ・・・これを惚れてる女に教えていかないといけないとは。

****

「牧野、今日は正午の茶事の流れについての稽古だ。お前。正客をやってくれ」

「わかりました。よろしくお願いいたします」

稽古の時はあくまでも師匠と弟子の立場になる。牧野は決して総二郎とは呼ばない。

「ここで亭主が茶道口の襖を開けて入るから・・・このときに主客総礼をする・・・いいか?」

「はい。ここで正客はお礼と本席のお伺いでしょうか」

「そう。流れはそうだけど・・・」

こうやって少しずつ教えていく。慣れない作法や所作に戸惑うだろうが意外にも牧野は筋が良かった。
最近では少し難しいとされる事もやり始めた。本人はそんな事思いもしないだろうが弟子達の中でも
その内容に驚いているようだった。
俺が教えているのは、そのうち亭主を務めるためのもの・・・つまりは家元夫人の仕事を継ぐと言うことだ。
茶事そのものを亭主が組み立てていくのだが、そのために知らなくてはいけない流れを教えている。
掛け軸や茶花についても、その選び方や意味を説明する。

「この後に濃茶と薄茶と続いていくから、今日はそこまでを・・・」

「お願いいたします」

毎日がこの繰り返し。
いつかこれが当たり前になって、仕事になっていってくれたらいいと願いながらこいつに稽古をつけていく。


****


「今日もお疲れさん。稽古はここまでだ。着替えてこい、外で飯でも食おうぜ」

「お師匠様、今日もありがとうございました。・・・あー、ホントに疲れた!」

さっきまでの女らしさはどこへ行ったんだ?
外へ飯を食いに行くの一言で、急いで着替えに行った。

「総二郎!お待たせ。今日は何処へ行くの?」

「何が食いたい?何でもいいけど、俺は」

「じゃ、大学の近くにある居酒屋がいい!!」

「は?そんなとこ?」

いつも堅っ苦しい西門にいるから、たまにはそんな賑やかな場所でくつろぎたいんだろう。
俺の手を引っ張って嬉しそうに店までの道を歩いた。

店に入ると牧野は嬉しそうに自分の好きなものを注文した。
俺はあんまりこういう店は得意じゃないから、牧野が頼んだものを少しもらう程度。
飲み物もビールにしたが、はっきり言って美味くはない。

「もう!本当に総二郎は我儘なんだから!こういう味にも慣れないとダメだよ?」

「そうか?無理して慣れなくてもいいんじゃねーか?俺には俺の好みってのがあんだから。
食べ慣れてないもんはやっぱりどうしても苦手だな」


「・・・・・・そんな風に言うんだ」

「え?なに?」

急に牧野が大人しくなった。どうしたんだ?何か変なこと言ったか、俺?
今まで美味しそうに食べてたのに、箸を置いて下を向いた。俺が注文しなかったから?
そんな理由で怒るようなヤツじゃないのに。牧野の急な変化の意味が分からなかった。


「何だよ?どうした?俺、何か言ったか?」

「無理に慣れなくてもいいって・・・でも、私にはその無理をさせてるのに・・・」

俺の手も止まった。そういう事か・・・そんなつもりはなかったんだけど、毎日が窮屈なこいつにはマズかったか。

「悪かった・・・お前には確かに無理をさせてるのにな。ごめんな」

「もういいよ。帰ろう・・・総二郎も食べないし・・・」


牧野はそう言うと店を出た。

来るときとは大違いの俺たちの距離感。牧野は俺の前を振り向きもせずに歩く。
離れすぎないように後ろをついていく。こんな時は何を言ってもダメだから何も言わずに歩いた。
それにしても珍しいな。こんなに怒るなんて。もしかしたら、何かあったのか?

「なぁ、牧野!お前、誰かに何か言われたのか?」

牧野の足が止まった。やっぱりそうなのか?

「黙ってないで話してくれよ。誰に何を言われた?」

牧野の横に立つと、泣きそうな顔で唇を固く結んでいる。
話したくないことなら仕方ないが、せっかくの息抜きがかえって苦しめた感じになってしまったな。

「話す気になったらでいい。何かあったんなら教えてくれ。お前を西門で守るのは俺の仕事だからな」

牧野の背中を押して帰ろうとした。
でも、いつもならそれでついてくる牧野が、俺の手を払いのけた。
その勢いにびっくりして俺もその場に立ち止まってしまった。

「総二郎・・・私は本当は総二郎の彼女じゃないってホントなの?今日ね、そう言われたの」



「誰が言ったんだ?」

「わからないの。お茶室の障子の向こうで話してるのが聞こえたの。本当は彼女じゃないのに
総二郎が無理に連れてきたんだって。無理矢理、お茶教えてるんだって!」

「牧野はそれを信じたのか?」

「信じたわけじゃないよ・・・だって、いつも一緒にいるんだから総二郎のことわかってるつもりだよ?
でも、そんな事言われたらどうしていいかわからなくなる・・・それじゃなくても怖いのに」

「お前は上達してきてるよ。よく稽古もしてるし、筋も悪くはない。それは心配しなくてもいい。
ただ・・・俺がお前を無理矢理連れてきたって話しは許せない。・・・本当にわからないか?」

まただ・・・
誰かがこいつの記憶を揺さぶっている。
一体誰が動いてるんだ?俺と牧野を引き離そうとするヤツがあいつ以外にいるのか?

「俺は京都でもお前にちゃんと話したはずだ。お前が信じるのは俺の言葉だけでいいだろう?
そんなはっきりしない声なんかにビビってんじゃねーよ。お前はいずれこの俺の横に立つ女だからな。
もう少し自信持てよ。俺の事が頼りねーってんなら別だけど」

「・・・ごめん。総二郎・・・そんなんじゃないの」

「そんなに不安なら今日は俺の部屋に来いよ。前みたいにこの腕貸してやるから!」

ちょっとだけ顔を赤くして、小さく頷いている。
京都以来たまにそうした夜もあった。本邸の中だから無茶なことはしないんだけど・・・
色んな不安を抱えている牧野を、せめてこの時間は何も考えないで欲しいと願いながら抱いてやる。

「やっぱり、総二郎の腕の中が一番安心する・・・」

そう言って牧野は眠りについた。

あの後も少し聞いてはみたが牧野は何もわからないらしい。ただ、その声が聞こえただけだと。
西門にそんな話しをする人間がいるとは思えないが、しばらくは牧野の様子を注意して見ていた。


特にそれからは何も起こらなかった。

****

秋の花が咲き始めた。2人で今日の花を選びに畑へ出向く。
牧野は自分で育てた花を自慢しながら、どれにしようかと悩んでいる。

ふと、牧野の手が止まった。

「牧野?」

まだ少し暑い風が、牧野の髪を靡かせる。その髪を押さえながら視線の先には春に住んでいたあの離れ・・・
建物は何の変わりもなくそこにあって、大きな桜の木が見えた。

そこをジッと見ている。

「どうかしたか?」

「何でもない・・・ただ・・・」

やはり、あそこに忘れ物をしたような気がするという。

「行って探してみるか?手伝ってやるぞ、忘れ物があるなら」

「ううん・・・いい・・・」

時々見せる無感情なその表情。
振り向いてあの離れを睨み付けてもそこには誰もいない。いるわけがない・・・。


「総二郎?今日はやっぱりこの花にしようかな?この花ね、育てるのに苦労したのよ?」

牧野は薄いピンク色の秋明菊を指さして俺の許可を求めてくる。

「あぁ、それがいいならそうしようか。鋏でこの辺から切って?初めから短く切るなよ?」

「わかってます!私だってそのくらいは知ってるのよ?初めは短すぎてお花ダメにしてばかりだったからね!
自分で育てたら植物でも可愛いものね。少しでも綺麗に生けてあげないとね」

嬉しそうに鋏を入れていくのを横で見ながら、どうしても俺の不安は離れに向かう。
忘れ物ってなんだ?類への気持ちだけじゃなくて本当に何かがあるんだろうか。

ますますここで牧野を1人に出来なくなった。
もし、1人で庭に来て・・・離れに行ってしまったら・・・何かが起きそうな気がする。


「牧野、早く戻ろう。もうすぐ稽古の時間だ・・・」


 ーーーーココニアルヨ ハヤクトリニキテーーーー

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2017/04/03 (Mon) 16:15 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

S様、こんばんわ~!

あらあら、今回はお怒りですね?
総二郎に変わって謝ります!ごめんなさいね!

まぁ、男ですもん。
気の利かないときもありますよ。いずれ総二郎にも天罰が・・・!

青い花ですか?一応毎回雰囲気に合ったものを選んでます。
バラで統一したかったんですが、バラってあきらみたいだから
途中で変えました。

ラストの花は・・・どうしようかな~!

今日もありがとうございました。

2017/04/03 (Mon) 19:28 | EDIT | REPLY |   

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