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次の日、事務所で黙々と仕事をしていた。

事務長がチラチラ見てくるけど気が付かないフリして電卓をバンバン叩いて、ボールペンを握り締めていた。
その事務長の目が何処を見ているのか、なんとなくわかってるの。今日はお化粧を念入りにしているからだ。

少し濃いめのシャドーに赤いルージュ。いつもはつけないチークや下手くそかもしれないけどマスカラっていうものにも初めて自分で挑戦した。ただ・・・なんでこんな事するのか自分でもわかんないの。

わかっているのは、大人っぽくしてみたかったって事だけ。
「子供だな」って、もう言われたくなかった。


「こんにちは~!幸福屋ですが明日の和菓子をお持ちしました。牧野さん・・・あれ?どうしたの?なんか感じが違うね」

「こんにちは。そ、そうですか?そんなに違う?」
「あぁ、最初誰かと思った。どうしたの?そんなに綺麗にしちゃって。まさか、デート?彼氏出来たの?」

「えっ!そんなんじゃないです!でも・・・そういう風に見えます?あの・・・少しは大人っぽいですか?」

私がそう聞くと、幸福屋の配達のお兄さんはバカ正直に返事をくれた。

「いやぁ、牧野さんは今までの方が似合ってるでしょ?そんなにお化粧しても元々の顔の作りが子供っぽいから!なんの心境の変化か知らないけど自然な方が好きだけどなぁ!ははは、じゃ、これが今日の差し入れだから。後で食べてね!」

「・・・はーい。いつもありがとうございまーす・・・」

私がはぁっ・・・と溜息をつくと事務長までがクスクスと笑った。
やっぱり私はどうやっても大人っぽくならないのかしら。でもさ、パーティーの時も美作さんと飲みに行った時もわりと大人っぽくなってたのに。どうして今日はそう見えないのかな。こんなの・・・西門さんには見られたくないな。

あの人なんでも当てちゃうからさ。
「何をそんなに背伸びしてんだ?」って聞いてきそう・・・その時、なんて答えようかな。


「牧野さん、何かあったんですか?幸福屋さんの言うことは気にしなくてもいいけど、話ぐらい聞けるかもしれないよ?」
「・・・いえ、なんとなく自分自身、変わりたいって思ったんですけど・・・ダメみたいですね」

「ははは!お化粧で変わろうとするからだろう?綺麗に見られたいっていうならお化粧も練習すれば自分に似合った感じに仕上げられるだろうけど、内面を変えたいのならお化粧は邪魔じゃないかね?」

「内面から?・・・それにお化粧は邪魔ですか?でも、子供っぽいっていうのを卒業したいんです。いつもそう言われるから」
「誰に?」

「西門さんにです。いつも言うの・・・子供のくせにとか、ガキっぽいとか。昨日の人は大人っぽいみたいだったから・・・あ!」

事務長は少し驚いた顔をして、その後ににっこり笑った。
私は昨日、ここにいないのになんで知ってるの?って言われたらどうしようかと思って自分の口を塞いでいた。まさか双眼鏡で覗いてますだなんて言えない・・・上手く誤魔化さなきゃって思ったけど事務長はその事については触れなかった。

「・・・昨日の事は直接総二郎様に聞くといい。こういう家には何かと面倒くさい事はありますがね・・・なんでもかんでも古いものに縛られてばかりではないのです。若い人達で変えていくということもこれからは必要です。きっと、総二郎様はこの西門に新しい風を呼び込んでくれると思っていますよ」

「・・・・・・はぁ」

「そして、それは1人では難しい。いい風が吹いてきそうですがねぇ・・・ははは!」


私はこの事務長の言った意味がよくわからなかった。
昨日のこと、直接西門さんに聞くの?本邸で抱き合うほど彼女の事が気に入ったのかって?

そんなこと嫌だよ。
失恋したばっかりなのに・・・もう一回そんな思いはしたくない。


お昼時間になって作ってきたお弁当を広げた。
でも、その前にやっぱり気になって似合わない化粧を落とした。

ザバザバと顔を洗ってタオルで拭いたら、目の前の鏡にはいつもの「牧野つくし」が映ってる。
あぁ・・・これが自分の顔かぁ、なんて思いながらいつものすっぴんに近いメイクにやり直した。


「・・・やっぱり私は私か!背伸びは無意味・・・。なんかわかる気がするわ!」


**********


「つくしちゃん、本当にもうここでお昼ご飯食べないのかしら。総二郎さん、これ持って行ってくれない?」
「・・・来ないって言うもんをわざわざ呼ばなくてもいいだろう。放っとけ!よく考えたらここに来ることの方が元々おかしいんだから。あいつもようやくそれがわかったって言ってんだ」

「気にならないの?」
「気にしなきゃいけねぇの?」

昼になってお袋が本当に来なくなった牧野の事を心配して大皿に料理を集め出した。
確かに飯が美味くない・・・気はする。今まで目の前で大口開けて美味そうに食うヤツがいないんだから俺まで味がしなくなった。
それに時間が経たない。昼ってこんなに長かったっけ?って気がしてる。

『もう昼休みが終るだろうが!急げ!』・・・毎回そう言って怒鳴っていたもんな。

「さっき総二郎さんに言われたとおりに武田様にはお断り入れておいたけど、本当に良かったのかしら。親はともかくあのお嬢さんに問題なんてなさそうなのにこちらからお断りするだなんて・・・」

「いいんじゃねぇの?小百合の幸せのためなんだから。好きでもない男の所に来たくねぇだろ?あのおばさん、大丈夫だったか?」

「どこが問題でしたの?って怒鳴ってたわ。だから言われた通り本人同士の気が合いそうにないって言ったら、この世界はそんなもの二の次でしょ!ってまた怒鳴られたわよ・・・この私が悪者みたい。ついでに言われたわ。総二郎さんと気が合う人なら違う世界の方かしら?って・・・どういう意味よ!」

「ははっ、違いねぇや!」
「あなたの過去が笑われてるんでしょ!反省しなさい!」

武田のおばさんが言ったのは飲み屋の女って言う意味だろうけど、そんな事はどうでもいい。
あの家からこんな話が二度と来なかったらそれでいい。あとは小百合が勇気出して親を説得するかってことだろう。

家柄が違う者同士の恋・・・か。でも、あいつらは既に恋人同士だ。何とか上手くやれよって、柄にもなく心の中で応援してる自分に笑ってしまう。
それよりも自分のことだ・・・このモヤモヤしたものが本当に「それ」なのか?


「ほら、総二郎さん!変な笑い方しないでこれを事務所に持って行って?お昼が足りてるんならお夕飯にしなさいって伝えてちょうだい」
「・・・わかったよ!」

仕方なくお袋から大皿を受け取って席を立った。
てか、この量はなんだ?24の女の食う量じゃねぇぞ?・・・5人分ぐらいあるんじゃね?


事務所に入ろうとしたら少しドアが開いていて、中を覗いたら牧野が1人で化粧を直していた。
こいつが昼に化粧直し?そんなこと、初めて見るような気がする。

そして、鏡を見ながら薄い色のルージュを引くその姿が妙に色っぽくて驚いた。
じっと鏡の中の自分を見つめてため息ついて・・・何をしているんだろうかと思って部屋の中に入れずにそれを見ていたら、牧野の独り言が聞こえた。

「・・・やっぱり私は私か!背伸びは無意味・・・。なんかわかる気がするわ!」

背伸び?・・・なんのために?
私は私かって・・・?誰と比べてるんだろう。髪を切ったことと何か関係でもあるんだろうか。


ドアをノックして、返事も待たずにわざと勢いよく開けた。

「牧野!ほら、これお袋が食えってさ。お前が来ないのはいいけどまた俺がこんな役目になっちまったじゃねぇか!」
「あっ・・・ごめん!」

牧野は鏡をサッと隠して俺の方に顔を向けた。
そして少しぎこちなく笑って皿を受け取った。

「あはは!すごい量だね。食べられないよ、こんなに」
「昼に食えなかったら晩飯にしろってさ。今食えねぇなら持って帰れ。で・・・気が向いたらまた向こうに来い。お袋が煩いから」

「・・・ん、気が向いたらね」


それ以上の会話は続かなかった。
ただ少し視線を外されて笑うだけ・・・今日は牧野の方が仮面を被って息苦しそうだった。

張り付いた笑顔なんてお前には似合わねぇよ。
そう言いたかったのに、俺の方もその言葉が出ない。

「それじゃな、俺は今日は講師で出掛けてくるからもう遅くまでいないから」
「うん、知ってる。お稽古は志乃さんに変わったからちゃんとやってるよ。大丈夫・・・いってらっしゃい」


時間がないのに足が動かない。

「・・・牧野、あのさ」
「おや!若宗匠、ここにおいででしたか!和真さんが探しておいででしたよ?時間がないって」

事務所に戻ってきた事務長に話を遮られて、仕方なく踵を返した。
声をかけた俺の事を泣きそうな顔で見てる気がしたのは気のせいだろうか。


本邸の方に戻ったら機嫌のいい和真を見つけた。

「なんだ、探してたって聞いたのに何でお前が嬉しそうに笑ってんだよ。気持ち悪ぃな!」
「あっ!総二郎様、時間が押してるのは本当ですよ!ただ、先ほど隼人様がいらっしゃったのでお話ししたんです」

「隼人が?また来てんのか!」
「はい!今日も素敵でした!」

「そんなことは聞いてねぇよ!隼人は俺より女好きだぞ?諦めろ!」


ゲイの戯言はどうでもいい。

隼人が来たって特に問題はないが、牧野に会わせたくなかった。
あいつが初めて牧野を見てから結構な日にちが経つ・・・牧野はその間に随分変わったから。

嫌な予感がしたけど、そのまま和真を連れて西門を出た。



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2018/04/20 (Fri) 13:41 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: こんにちは!

えみりん様、こんにちは!

そうね、つくしちゃんは厚化粧、似合いそうにないですもんね!

・・・というか最近の若い子はメイク、上手ですよね~!
しかも昔みたいにブルーのアイシャドーとか見ないことないですか?この辺だけ?
会社の若い子はどっちかというとオレンジとかブラウン系が多くて口紅もヌードカラーでしたね。
私は自分が若い頃から選んでいたからどうしても濃い色を選ぶんですけどね。
よく若い子から「魔女みたい」って言われました(笑)

で、アイラインは全然引けない・・・目がデカいから気にしないんですけどマスカラも付け睫毛もしたことがありません。
そうそう、私もピアスはあけてないです。怖くてねぇ!

あはは!惣菜ねぇ!
私も会社にいたときにいつも買ってたスーパーに行かなくなったので、たまに行きたくなるときがあります。
揚げ出し豆腐が好きだったなぁ・・・あぁ、食べたくなった。

春限定の「タラの芽の天ぷら」これも揚げたてに出くわせば買ってました。
うちの旦那は絶対にスーパーのお惣菜は食べない人なので私だけのお楽しみです♥

ふふふ、早くオープンしてくれればいいですね!

2018/04/20 (Fri) 17:15 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/21 (Sat) 11:22 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

「それ」なのか?・・・「わかんねぇのか?」って言ってやりたいでしょ?はははっ!
膝カックンですね!

走って行って後ろ頭を「ペシッ!」ってしたくないですか?
あああーーっ!もどかしい、この二人!と、書きながら思っています。

でもねぇ・・・そろそろキューピッドが出てくるの。
もう自分たちじゃどうしようも出来ないから、周りがお世話してあげないと。
こんな世話のかかる総ちゃん、見たことないわぁ(笑)

お楽しみに~!
もうすぐ・・・終わるからねん!
(そう言って長引くのが私)

2018/04/21 (Sat) 13:02 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/21 (Sat) 14:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

あっはは!そんなにショックですか?あと100話って・・・向日葵並みじゃないですか!
そりゃないわー!
50話かぁ・・・行くかな?どうだろう。

終わるったって急に4月で!とかじゃないですけどね!
ヘタレなのに好きですか?好きねぇ・・・さとぴょん様も。

5月には終わりそうです。次回作・・・どうしようかなぁ(笑)

2018/04/21 (Sat) 16:01 | EDIT | REPLY |   

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