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牧野の稽古が志乃さんに変わり、昼飯も食いに来なくなって数日。

お袋に言われて事務所に何度か皿を持っていくことはあっても、そこで会話が続くというわけでもなかった。お袋は自分の思惑が上手く進まないのが俺のせいのように思ってるのか睨みつけては溜息をついてる。

「はい!これを持って行ってちょうだい。それと出来たらここに来なさいってもう一度言ってみて?気になるわ」
「自分で言ったらどうだ?得意技の家元夫人命令出しゃいいじゃん。そうすりゃ来るだろ?」

「そうじゃないでしょ?もう・・・きっと総二郎さんが何かをしたのよ・・・勘違いなら訂正しないと元に戻れないわよ?」


今日も持たされた大皿を持って事務所に向かった。
勘違いされるような事なんてなかったよな?見合いの話も初めっから受ける気なんてないから言う必要もなかったし。
訂正しないと元に戻れないって・・・元に戻ったら喧嘩友だちじゃね?そこに戻ってもいいのかよ!

それでもお袋の言葉を伝えてやろうと思ってガチャっとドアを開けて事務所に入ったら、もう牧野は昼飯を済ませて食後の珈琲を飲んでいた。
一瞬、俺の方を見てすぐにカップに戻す視線。わざとらしくたってもいない湯気を吹き冷ます動作ってなんなんだ? 


「牧野、これ食えってさ。お袋からだ」

「ありがとう。今日も晩ご飯にしよっと!家元夫人にお礼言っといてね」
「あぁ・・・たまには食いに来ないのか?お袋が煩いから」

「ははっ!言ったでしょ?そんな立場じゃないのよ」

この会話の途中も牧野の視線は俺に向かなかった。
ここに来てから初めてかもしれない・・・会話の一つ一つに緊張して、その上目も合わさないだなんて。

しかも意図的に外しやがる、それもわかっていた。


午後の本邸でも少し前までの元気のいい牧野はいなかった。
やけに真面目な顔をしたあいつが静かに花を生けていたり、1人でポツンと茶碗の手入れをしたり、数人の使用人と庭掃除なんてのをしていても会話には入っていないようだった。

今は1人で露地の掃除・・・ピンク色の着物が薄暗いその場所で目立っていた。


「総二郎様、打ち合わせの時間が迫っておりますのでお支度を。今日は料亭を予約してあるそうですよ。帰りは遅くなると思いますが」

和真が声をかけてきた。

今日は木曜日。土曜日の集まりに誘うなら明日には話さないと牧野は休みに入る。
それなのに避けられ始めてから俺の方が声をかけられなくなってる?自分らしくない行動にイラッとしていた。

「・・・支度なんてこれでいいだろう。あとどのくらいで屋敷を出るんだ?」
「お着替えをされないのであれば30分ぐらいは大丈夫です。また牧野さんですか?・・・気になるのですか?」

「そんなわけないだろう!ただあいつが何考えてるかわかんねぇだけだ!」
「それを気になるって言うんですよ。たまにご自分の事だけ見えなくなる・・・総二郎様は素直ではありませんからね」

横からゴチャゴチャと煩い和真に「喧しい!30分後、出掛けるから車を回しておけ!」そう言って自分の部屋に戻った。


***********


露地の枯れ葉を掃除していたとき、後ろから誰かが近づいたと思ったら和真さんだった。
この人が私に近づくことはそんなになかったから少し驚いたし、西門さんの秘書だからすぐ近くに彼がいるのかと思って辺りを見回した。

「総二郎様をお捜しですか?」
「え?いいえ・・・そんなわけではないんですけど。どうかしたんですか?私に何か?」

箒を止めて和真さんの方を見た。
何度見てもこの人もすごく格好いい・・・普通にしていたら彼女なんてすぐに出来るだろうに。それにすべての男の人が自分の趣味を理解して合わせてくれるわけじゃないわ。
西門さんは理解はしてくれてるけど趣味には付き合えない、そういう人を好きになったらこの人はどうするんだろう。

絶対に報われない恋って・・・辛いだろうな。いや、ゲイの人の気持ちにはなれないけど。


「牧野さん、何かお悩みなんですか?」
「悩み?あるように見えますか?顔に出てます?」

「その答え方だとあるんですね?恋の悩み・・・ですか?」
「えっ!そっ、そんな、誰にですか?何処にもそんな人いませんよ。大体ここでそんな人、見つけられないでしょう?」

「ここって言ってませんけど?」


た・・・確かに。

私が変な答え方をするからなのかクスクス笑ってる。誤魔化すためにまた箒を持って落ち葉を集めていたけど和真さんはそこから動かなかった。じーっと私の方を見て顎に手なんか当てて考え事をしてるみたい。
それが凄く気になって掃除の手をまた止めた。

「あの、なんでしょう?気になるんですけど?」
「あぁ!ごめん・・・いや、牧野さんの印象が初めの頃と変わったなぁって思ってつい・・・見てしまったんですよ」

「は?私の印象・・・そんなに変わったところがあります?髪の毛切ったくらいですけど?あとは残念ですが何にも変わっていません。相変わらず子供っぽくて態度が悪い!そんな感じでしょ?」

和真さんは私の言葉に今度は呆れたように首を振って、顎から手を外すと今度は腕組みをしてお屋敷の壁にもたれ掛かった。さっきは笑っていたのに今度は機嫌が悪そう?
ただの庭掃除で仕事らしい仕事はしてなかったけど、そんな態度でそこにいられたら気になって仕方ないんだって!

わざと足元でも掃いてやろうかと箒をそっちに向けたら急に真面目な声を出してきた。


「牧野さんは自分で言うほど子供っぽくはないですよ。十分大人の女性です。あなたもご自分の事だけ見えてないんですねぇ。よく似ていらっしゃる・・・」

「・・・・・・和真さん?」
「その髪も幼くなんてないですよ?着物には似合わないかもしれませんけどね。要は髪型も服装もただの付属品、そう考えれば磨くのって自分の心だと思いませんか?」


「内面を変えたいのならお化粧は邪魔じゃないかね?」・・・最近、事務長に言われた言葉を思い出した。
私だって自分の中身を変えたいよ・・・でも、その変え方がわかんないんだもの。

「どうやったら自分の内面っていうか心を磨けますか?・・・それって、答えはどうやったらわかるんでしょう」
「まずは正直になることじゃないですか?嘘はすべてを曇らせる・・・牧野さんの心も瞳も表情も全部です。自分に素直に生きればいいんだと思いますけどね。私がそうだから」

「・・・あの、隠さずに生きてるから?その・・・好きな人が男ってことを?」

「ははっ!そうですね。若い時は人にどう思われるかで悩んで苦しんだことがありますけどね。同種の人と付き合うようになって自分はこれでいいんだって思うようになりました。そうですね・・・子孫は残せませんけど、そういう厳しい家に生まれていませんし長男でもないし。オープンにしていることで去る人もいますが理解してくれる人もいる。総二郎様は理解してくれているから秘書として置いてくれてるんですよ。そういう人が数人いてくれれば楽しく生きていけます」

「それでも報われないことの方が多いでしょう?その時は?・・・叶わない恋って辛くないですか?」

一体誰の事を言ってるんだろうって思う質問じゃない?
これって自分?それとも・・・彼のこと?いや、彼の方は叶ったってことでしょう?


「もちろん辛いですよ。でも愛したことを否定するよりは、すべてを受け入れた事の方がスッキリします。人を愛せないよりはずっといいんだって思わないと同性愛者はやってられません。ははっ!」

「女の人を好きになったらいいのに・・・絶対にモテますよ?」
「それだと自分に嘘をつくんです。好きなフリをされた方も傷つくでしょう?だから私はこのままで・・・それで十分です」


西門さんの外出の時間になったからって和真さんは露地から出て行った。
「今日は会食付きだから帰るのは夜の10時ぐらいです」って聞いてもないのに予定を教えてくれた。


「自分に正直に?心を磨くって?どうしろって言うのよーっ!全然わっかんないよ・・・私が素直になったらあのお嬢さんに勝てるの?・・・え、なんで勝たなきゃいけないの?」

完全に自分の気持ちが迷子になってる・・・誰か抜け道を教えて欲しいわ!って思いながら箒を振り回したら集めた落ち葉がまた全部飛んでいった・・・。

今飛んでいった落ち葉・・・なんだか私の心みたいだ。
掻き集めてくれるこの箒、これが「彼」の腕だったらいいのにね・・・。



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↓  文中の露地はこれです。茶室に向かう途中の道のことです。

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2018/04/24 (Tue) 00:01 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

ゲイにお褒めの言葉、ありがとうございます。
ゲイにはもう怖いものなどないのですよ。

素直じゃない二人・・・さて、どちらから告白させようかなぁ♥
って事が今1番悩むとこ。その場面は決まってるんですがどっちでもいい感じになってるんで!
どっちがいいと思う?やっぱり総ちゃんかなぁ!わくわく!

土曜日の飲み会シーンだけで10話ぐらいいくから(笑)
頑張るぞーっ!!

2018/04/24 (Tue) 12:04 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/24 (Tue) 14:36 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

やっぱり?

そうかぁ・・・でもすんなりいかないと思うけど。
この2人だからキュンキュンじゃないかもですが待っててね!

あっはは!4人は出るけど1人ほど苦手さんがいるからその人はほとんど・・・ごめんよ!

2018/04/24 (Tue) 20:04 | EDIT | REPLY |   

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