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俺が大学1年のクリスマスイブ・・・この日、父さんに何度目かの反抗をした。
花沢で盛大に行われるクリスマスパーティーへの出席の拒否・・・母さんを真ん中に挟んで睨み合いが続いた。

「どういう事だ!出席したくないだと?それが跡取りとしての発言か!類・・・あの日から一切の行事をキャンセルしておるようだがそれも高校生だったから許しただけのことだ。大学生なら社会人と同じ、社交界に進んで顔を出して当たり前だろう!」

「それなら1人でもいいのでは?何故、何処かの令嬢のエスコートをしなくてはならないのです?」

「それもこの世界に生きるものとしては当たり前のこと。なにもこの度の令嬢と結婚しろと言っているわけではない!そのぐらいわかるだろう!」

「そうだとしてもその人の事を何も知らないのに腕を差し出すなどしたくない。俺がいなくても問題なくパーティーは出来るでしょう?」
「類!いい加減にしないか!」

「あなた・・・!類もお止めなさい!争い事など起こさないで・・・!使用人にも聞かれてしまうのよ?どんな噂が流れるかわかったもんじゃないわ」

俺の胸ぐらを掴もうとした父さんを母さんが飛び掛かるようにして止めた。
でも、それは親子の話し合いを止めるものではなくて、花沢の家庭内の不和を世間に広めないための行為であり、俺の意見を聞くというよりただその場を鎮めるための応急処置のようなもの。

「類はどうしたいの?」なんて言葉は期待するだけ無駄だった。


毎年行われるクリスマスパーティーは花沢物産の関係者で埋め尽くされ、2年前までは俺も出席していた。必ず何処かの社長と名乗る人物が高校生の俺の前に着飾った娘を連れて来ては紹介していき、ダンスを強要される。
実に不愉快なものだった。

『類様・・・もう何方かお決めになった方がいらっしゃいますの?あの噂の方との事は本当ですの?』

ダンスの最中に聞かれる質問も大抵は同じ・・・少し前まで日本にいた幼馴染みの静と俺の事を、この世界では恋人のように噂されてるから。

『彼女は自分の道を進んでいきましたので。それに特別な関係ではありません』
『それでは、今は何方も類様のお心の中にはいないという事ですの?私・・・そこには入れないのかしら』

『・・・私の心は私の物ですから。誰も入る予定などないですよ・・・そういうお話しでしたら興味はありません。失礼』
『あ、類様・・・あの!』

こうやって手を離した女性が何人いただろう。



それに参加しなかった去年。酷く嫌な顔を向けられたがここまで怒鳴ることもなかった父さんが、大学生になった俺が命令に従わないことに腹を立てた、つまらない親子喧嘩だ。
クリスマスパーティーに加え、花沢物産の新年の祝賀パーティー、自分の誕生日パーティーをすべて学生のうちは辞退すると申し出たからでもある。

これは俺から大事なものを奪った父さんへの細やかな抵抗だった。



母さんの説得で何とか興奮を抑えた父さんがいきなり吐き捨てるように言った。

「わかった。それなら大学生の間、この家を出るがいい。家のために動かない息子など顔も見たくない!」
「あなた!なんて事を仰るの?この家を出すって・・・どうなさるの?」

「・・・・・・出していただけるんですか?」

「お前は屋敷の連中に身の回りのことをしてもらわねば何も出来ない人間だ。他の学生のように普通の暮らしは出来ないだろうから花沢のマンションを貸してやる。好きなように使うがいい。そこで残りの3年間1人になって考えてみるのだな!自分の立場というものを・・・そのうちお前は何万人という社員のトップに立たなくてはならないんだ。何を学んで、何をすべきか・・・3年もあれば答えがわかるだろう」

そんなもの、とっくにわかっている。
経済学も経営学も語学もすべて強制的に叩き込まれている。
花沢物産という会社の規模がわかってないとでも思うの?経営状態なんて毎日チェック済み・・・後継者としての心構えは理屈ではわかってるつもりだった。

「・・・マンションはお断りします。大学の寮に入ってもいいですか?花沢が寄付したでしょう?学生寮・・・そこに行きますよ」
「類!学生寮って・・・この花沢の人間がそんなところになんて前代未聞だわ!ダメよ・・・絶対に!」

「どうしてです?一人でよく考えるにはいいと思いますが・・・?それに自分でもわかってますよ。俺に足りないのは人付き合いでしょうから。それには学生の中に入る方がいいでしょう?」


「いいだろう。好きにしろ!・・・わかっているだろうが学生の間だけだ。その後、即戦力で経営陣の中に入れるように学んでおくんだな!」
「あなた!待って下さいな、あなた・・・!」


大きな音を立てて閉められたドア。
両親のいなくなった部屋は急にシーンと静まりかえった。

窓から外を見たら雪が降ってる・・・風がないからフワフワと、今の騒動なんて忘れさせるかのようだった。

密かにかける音楽は「アヴェマリア」・・・目を閉じると幼い頃の俺がヴァイオリンを初めて持った日のことが浮かんでくる。
優しいお婆さまの顔と共に・・・。



そうやって新しい年がきて、慌ただしく日にちが過ぎていく。
父さんがフランスに戻り、母さん1人が屋敷に残っていた・・・そんな冷たい冬ももうすぐ終わろうとしていた。


*************


『類、お誕生日おめでとう・・・今日は素敵な曲をプレゼントするわね。トロイメライ・・・あなた、好きだったでしょう?』


その優しい声が何処かから聞こえて、俺の頭の中に緩やかで儚げなあの曲が流れた。
本当に耳で聞いているかのような・・・でも、やはり夢だとわかるようなそのヴァイオリンの音は目を開けると自然と消えた。

「なんだ・・・やっぱり夢か。お婆さま・・・覚えててくれたんだ」


今日は3月30日。俺の19歳の誕生日だ。
穏やかに晴れた日で、もうすっかり春の風が吹いていた。
ゆっくりベッドから起き上がって窓を見たら庭の奥の方、桜なんかが咲いてて風に花びらが飛んでいた。

普段は誰も来ないのに今日だけは流石に部屋をノックされた。返事をしなくてもドアが開いた・・・ってことは母さんだ。
それがわかっても振り向きもしなかった。

静かに近寄ってくる足音・・・それが俺の真後ろで止まった。


「類・・・あなた、本当にいいの?ここを出て1人で暮らしていけるの?不安なら私からお父様に言ってあげるわよ?」
「・・・いいえ、その必要はありません。少しの間1人にさせていただけるのならその方がいい・・・ご心配なく。花沢家に迷惑なんてかけませんよ」

「そんなことは言ってないわ。あなたが花沢を捨てるなんて思ってもないし、出来ないでしょう?あなたの気持ちもわからなくもないけど、お父様のことももう少し理解してあげてくれないかしら。何しろこの家にはあなたしか跡継ぎがいないのですもの。あれは仕方がなかったのよ。お婆さまには申し訳なかったけれど・・・」

「理解はしていますよ。考えても仕方のないことだから・・・でも、たった一つの夢だったんですよ。俺が見ることが出来るたった一つのね。何故、両方を選んではいけなかったのか・・・いや、もういい。忘れて下さい」

「・・・そう。でも、気が変わったらいつでも戻っていらっしゃい。私は待っているわ」


またバタンと音がして部屋に1人になった。


今日、俺は花沢を出て行く。
大学の間だけ・・・この息苦しい場所から離れて自由になる。


『私の大事な類・・・いつかあなたに大事な人が現われたら一番に私に報告してね?あなたの選んだ人を私も愛せる自信があるの。その時のお祝いの曲も決めてあるのよ?類・・・愛してるわ。いつまでもその瞳の輝きを失わないでね・・・』


お婆さまとの最後のやりとりが・・・今でも耳に残っている。




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新しく始まりました類君のお話です。なんて暗い出だしでしょう(笑)
7話目ぐらいまでがプロローグ的お話しで、少し類君の昔話が途中に入るのでややこしいかもしれません。ごめんなさいね。

今まで書いたことがないのですが「ヴァイオリン」に絡めたお話しです。
実は超苦手ですが(笑)
イメージ画像はヴァイオリンとマーガレット。

クールな類君・・・のつもりです。どんな恋が生まれるのかお楽しみに~!
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2018/04/21 (Sat) 00:26 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/21 (Sat) 07:10 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/21 (Sat) 07:16 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/21 (Sat) 11:33 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんにちは!

いやいや・・・待たないで(笑)
実は今までで1番苦手意識を持ったままスタートしています。
なぜなら音楽ものは難しいから・・・「音」の世界なので「文字」にはしにくいんですよね。

今回はヴァイオリンを絡めてはいますが基本はラブストーリーです。
音楽のシーンが出ることはそこまでないんですけどね。
でも、悩み続けた結果・・・とうとう公開してしまった(笑)

と、言うことなのでなんとかほんわかゴールに向けて突っ走りたいと思います。

悩みすぎて休憩挟んだらごめんなさいね💦あはは~!
応援、よろしくお願いします。


2018/04/21 (Sat) 12:30 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: No title

ないない様、こんにちは!

ははは・・・どうなるんでしょうか。
見切り発車もいいとこです(笑)エンドは頭にありますが・・・大丈夫かしら?

今回は音楽が中心のお話ではないのですがそれでも書かないといけない場面は多いので
ヴァイオリンのCDを購入、ヴァイオリンの本を横に置いての打ち込みです。
音楽をされている人は多いでしょうから間違ったことは書けないので焦る~!

私はエレクトーンの経験しかなくて、実は学校の音楽でギターを弾くときも弦楽器が苦手でリタイアしたんですよ。

でも、公開したからにはいつか終わらせなくては(笑)
頑張りますっ!(自信ないんだけど)


今晩ですか?
何でこんなことになったんだろう・・・💦
これも類の更新と被っているのに(笑)出来るんだろうか・・・?

2018/04/21 (Sat) 12:37 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ミキッp様 こんにちは!

始まりましたねぇ・・・。今回は離ればなれはないけど知らない者同士の設定なので前置きが長いです。
そして私はクールな類君を書いたことがほとんどないので難しい(笑)

すぐにつくしちゃんと仲良くしそうで、ツンデレ状態って何日あるんだろうって思いますが。ははは!

そうですね、親子関係にも触れていきますがそれはまだまだ先ですね。
いずれ闘う時が来るんでしょうけど、その時にはつくしちゃんの援護射撃があると思います。
ふふふ、待っててくださいね。

何話になるかもわかりませんが長いと思います。
ゆっくりのんびり・・・気長にお付き合いくださいませ。

2018/04/21 (Sat) 12:45 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

クール・・・(笑)
クールになればいいんだけど。

とても暴走類君を書いた人間とは思えない出だし(笑)
今はとにかく脱線して話が長くならないようにとそればっかり考えています。

もちろん・・・あれもね。
あっはは!いつの事やら~!!

総ちゃんが先か?この類が先か・・・
総ちゃんのが早いよね。あっちはもうすぐ終わるしね(笑)

頑張ります~!応援宜しくです♥

2018/04/21 (Sat) 12:50 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/21 (Sat) 14:36 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

でた!「待て」・・・(爆)

で、お願いだから1話目からそんな話し出すのやめて(笑)
全然待てないのね?面白すぎる!!

その漢字見ただけで?もうダメじゃん!
私もねー・・・この話でそれはいつ?ってそこを考えて作るようになったのよ。
これはさとぴょんさんのせいだと思う。

どうしよう・・・変態作家の仲間入りしたら(笑)

2018/04/21 (Sat) 18:48 | EDIT | REPLY |   

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