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今朝、俺は英徳大学の学生寮に入った。

学生の間だけ自由にすればいいって父さんの言葉に従ったまで。
しばらく花沢って場所から解放されたくてうちが寄付した学生寮を選んだ。

母さんが余計な気を回して寮を改装し、俺の入る部屋を普通の学生が入る部屋、3部屋分を繋げて特別仕様にした。そのことでまた口論となり、更に口をきかなくなったのは1月の終わりだったっけ。

『少しでも類が暮らしやすいようにと思ったのよ?あなた、家のことなんて何も出来ないでしょう?絶対に困るのに、その上狭い部屋であなたが1人でいるなんて考えただけで私が不安なのよ!』

一人では何も出来ないくせに?そう言ったあなた達は俺に何をしてくれた?

母さんが俺に食事を作ってくれたことがあるかと言えばそんなことは一度もない。父さんが工作を一緒にしてくれたことがあるかと言えば記憶がない。
甘えたかった幼少期、甘えていいはずの両親は常に家にはいなかった。兄弟姉妹のいない俺は子供でも主人として接する使用人しか側にいなかった。

感情のない大人に囲まれた毎日・・・ほとんど笑わない日々。
俺が欲しかったのは広い部屋でも、豪華な食事でも、整いすぎた環境でもない。欲しかったのは・・・そんなものじゃない。


英徳に入ってからできた幼馴染み達は全員が同じような境遇のヤツらで、俺はそこまで話し込んだり騒いだりって事はなかったけど、それでも自分の素を出せる仲間だった。
生活環境から考えても経済的に困ることはない。だから悩み事の相談なんてものはなかった・・・ただ、全員が自分たちの将来に希望ってものをこの時点では持ってはいなかった。

自分たちの将来は家のためにある。自分の意思は二の次。
それを受け入れられるようになるのはもう少し先だろう、4人共がそう思ってると思う。


**


インターホンが鳴ってドアを開けたら、目の前に立っていたのは幼馴染みの総二郎とあきら。
「よっ!」って軽く手を上げたすぐ後には俺の返事も待たずにさっさと部屋の中に入ってきた。
暇人なんだから・・・そう思って一番最後に部屋に戻ったのは俺。二人はジロジロと室内を見回して、やけに楽しそうだった。

「本当に寮に入るんだな!飯ってどうすんの?まさか作るのか?」
「・・・出来ると思うの?」

「類、お前洗濯とかするのか?全自動洗濯乾燥機・・・最新なんだろうな、これ。使い方知ってるのか?」
「・・・知ってると思うの?」

「うわっ!バスルーム狭いじゃんっ!これってお前の部屋のシャワールームの10分の1ぐらい?誰も連れ込めねぇな!」
「・・・連れ込む予定なんてないし」

「しっかし類の家もすげぇ事するよなぁ!お前をこんなとこに入れるなんて。煩くないのはいいけど狭くね?」
「・・・テレビとベッドがあったらいい」

「ベッドだけはキングサイズにしたんだ!お前、寝るの好きだもんな」
「そこは譲れなかったんだ」


全く何しに来てんの?絶対何かあったときの避難場所にする気だよね?
自分たちのマンションだと親にバレるから。


「こんな部屋に入ってどうすんだよ。お前、何したいんだ?今更家に逆らうなよ?どうせ無駄だぞ?」
「・・・わかってるよ。逆らってるわけじゃない・・・探したいだけ」

自分の乾いた心を癒やしてくれるもの・・・自分にはない「何か」を、自分に欠けてる「何か」を与えてくれるもの。ほとんど期待してないけどそれを探したいんだ。
何か1つでも変わったことが起きるかな・・・なんて思ってベランダに出たら、隣の部屋の子の大きな独り言を聞いた。

「うーーん!気持ちいいーーっ!!いいことありそう・・・っ!太陽って最高っ!」

何それ・・・思わずクスッと笑ってしまった。
それに気が付いたみたいだから慌てて部屋に引っ込んだ。髪が長い女の子・・・隣は女の子なんだ、関係ないけど。


太陽が最高なんて意味がわからない。
太陽なんてただの恒星だよ。地球を含む太陽系の物理的中心。推測年齢約46億年の太陽系の中心の恒星、それだけだよ。
それが輝いてるのは核融合反応起こしてるからであって、それが見えるのはただ単に雲がないから・・・それが最高なの?天気だって気象現象の1つに過ぎないよ。

俺に欠けてるのはそういう「感情」・・・なんだろうと思う。


しばらく総二郎とあきらが雑談なんかして、好き勝手に飲み物出して部屋の真ん中でくつろいでた。俺はベッドに寝転んでたらウトウトして半分意識がなかった。
そんな時、またインターホンが鳴って、チラッと見たらあきらが「はいはい」と言いながら出てくれた。
まさか母さん?いや、そんなわけないか。出るときに一応話はしたんだ。追いかけてまで来るはずがない。


玄関であきらの話し声がする・・・誰だろう?なんてぼんやり考えていたらあきらが戻ってきた。

「類、隣の子が挨拶だと!なんか持ってきたぜ?」
「え・・・挨拶?・・・なんで?」

「知らねぇけど、一般人ってのはそういう事するんじゃないの?俺達のこと、知らないらしいから」

あきらがそう言って総二郎に目配せしたら「あぁ、さっきの子?」なんて、わけのわかんない事を言ってる。
仕方ないからベッドから起き上がって玄関まで行って、ドアを開けたらさっきの「太陽」の子が立っていた。

クセのないストレートの黒髪に真っ黒な目・・・吸い込まれそうなぐらいその目を大きくして真っ赤な顔で俺に小さな箱を差し出した。

「隣に入った牧野つくしと言います!宜しくお願いします。これ、つまんないものですけど食べて下さい!」

え・・・俺に・・・これを?なんで・・・?
全然意味がわかんなくて咄嗟に言ってしまった一言。

「ごめん・・・要らない」

その時の彼女のびっくりした顔に俺までびっくりしてドアを閉めた。
バタンと閉めたのはいいけどしばらくその場で彼女の足音を聞いていた。まだそこにいるんだろうか・・・何も音がしないんだけど。
もう一度開けて見ようか、なんて思ってドアに手をかけたら靴の音が聞こえて隣の部屋のドアが閉まる音が聞こえた。

なんだったんだろ・・・。なんのための挨拶?でも、あの子は普通の子だよね?
パーティーで寄ってくるあいつらとは意味が違うってこと?それなのに挨拶・・・なんのために?


「あれ?彼女何しに来たんだ?入れてやれば良かったのに」
「・・・帰った。菓子箱持ってたけど」

「菓子箱?・・・まさか類にプレゼントが菓子箱?そりゃ相当ズレてんな!」
「さぁ、知らない。もらってないし。知らないヤツだし」

そう・・・知らない子。
この壁の向こうにいるってだけで関係ない子。共通事項は同じ寮生、それだけ。


「悪いことしたのかな・・・」
「あ?何がだ?」

「さっきの子。追い返したみたいになったから」
「今更だろ?気にすんな!どうせ向こうもこの部屋には近づくなって管理人から忠告受けてると思うぜ?もう関わってこないさ。俺達に深入りしてくる子なんていねぇよ・・・それこそ花沢が出てくるぞ?放っとけよ」

急に総二郎が冷めた声で言った。


俺達に深入りする子なんていない・・・そうだろうね。
騒ぐのは外見とバックグランドだけ。多分、どちらかが欠けたら誰も側には残らない。あの子も知ったら・・・そうなのかな。


「驚いた顔してた・・・名前、なんて言ったっけ。忘れた・・・」


***********


すごく、すごく格好いい人なのに・・・なんて人なの!

「そりゃ本当に大したもんじゃないわよ?普通のお菓子だもん!だけどこれって気持ちでしょ?差し出してるのに”要らない”ってドア締めるってどういう事よ!親の顔が見てみたいわ!育て方間違ってんのよ!頭にきちゃう!」

持って行ったお菓子の箱を2つともテーブルに置いてさっさと自分で開けた!
だって受け取らないんだもん!くれって言われてももうあげないんだから!今日はもうこれが晩ご飯でいいや、なんて思いながらお茶を入れて自分で持ってきたお菓子を自分で食べた。

確かに・・・安物だけにそこまで美味しくない。

「やっぱり1人暮らしだからって怠けちゃいけないわね。ちゃんとご飯、作ろうっと!」

キッチンに立ってエプロンつけて、1人分のご飯を作っていた。
お味噌汁を作って、今日は簡単に野菜炒め。酢の物も少しだけ作って小さなテーブルに運んだ。
使うのはピンクのお茶碗の方・・・水色のお茶碗は食器棚の奥の方にこっそりしまってある。いつか使う日が来るのかどうかわかんないけど。

「いただきまーす!」

両手を合わせて「さぁ!食べよう」っていう時にインターホンが鳴った。
誰だろう。まだここに来る予定の人なんてないんだけど?

「はーい!ちょっと待って下さいね-」って言いながらドアを開けたら、目の前に立っていたのはさっきの男の人だった。

301号室の・・・薄茶の瞳の彼!
その人が無表情のまま目の前に立ってて私の顔をジッと見ていた。


「あっ、あの、なんですか?何か用ですか?」
「うん・・・さっきのもらおうと思って」

「・・・・・・はい?」
「さっきの・・・挨拶のヤツ?受け取るのが礼儀なんでしょ?だから」

「・・・・・・」


えええーーーっ!そんなバカな!!
さっき包装紙破って中身出して半分食べたわよっ!今更何言ってんの?

「ちょ・・・ちょっと待ってて!」そう言って部屋に戻って、お菓子の箱を見たけど結構派手に破ってる・・・しかも2つとも。
仕方がないから個包装のお菓子を5個、手に持って玄関に向かった。

彼は狭い玄関をじーっと見ながらそこに立っていて、少し不思議そうな顔をしていた。

「ご、ごめんなさい!まさか取りに来るなんて思わなかったから箱を開けてしまったんです。でも、せっかくだからこれ!中身はこれだからバラバラで申し訳ないんですけど、どうぞ!」
「・・・・・・うん。ありがと。あのさ」

「はい?まだなにか?」
「名前、なんだっけ?」

「・・・牧野つくしです。この度入学したばかりの1年です・・・宜しく」

なんなの?さっき話したのに。まぁ、覚えられてないとは思ったけど。
この人は綺麗な手でお菓子の個包装を受け取った。
私が両手で持つものを片手で持てるんだ・・・やっぱり綺麗だけど男の人の手なのね。


「俺は花沢類。あんたの1つ上になるのかな・・・宜しくね」


感情はないのかもしれないけど、ニコッと笑ってくれた。


さっきはすごく失礼な態度されて頭にきてたのに、今度はその笑顔にドキン!と心臓が飛び跳ねた。
なに?なんなの、この人!


花沢類・・・とても不思議な、魔法使いのような人・・・。
その瞳に吸い込まれるかと思った。





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2018/04/24 (Tue) 00:14 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/24 (Tue) 05:49 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/24 (Tue) 08:32 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ゆきたろう様、こんにちは!

ふふふ、ね?意外な行動でしょ?
一人暮らしの類がいろんな新しいことしますんで
楽しんでください。

結局そこまでクールになれないのかなぁ(笑)
いや!私にしてはクールな類のはず・・・頑張ります!

2018/04/24 (Tue) 12:06 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: おはようございます!

えみりん様、こんにちは!

あはは!意外でしょう?取りに来るのよ(笑)
ある意味世間知らず・・・ってことですよね!

そして個包装をあげるつくしちゃん(笑)これにも驚き!普通はあげないでしょう(笑)
へんな出だしで申し訳ないです。ふふふっ!

家のことは徐々に覚えていくんですよ。
花沢から人は来ません(笑)そのうちベランダにお布団干す類が見られるかもよ?ははっ!やだーーっ!

あ!昨日のコメント面白かったですね。
私、完全に素直じゃないです!一つぐらいしか当てはまらなかったぞ?


私の所は雨なんですがもう午前中で止むみたい。
古傷が痛むので雨の日はつらいんですが好きなんですよね~。
落ち着くというか雨の音が好きなのか。土砂降りは嫌だけどしとしと降るのが好きです。

梅雨は好きなんですが、梅雨明けとともにくる夏が・・・はぁ。
それを考えたら今からもううんざり・・・。

2018/04/24 (Tue) 12:16 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

そうそう、ウケるでしょ?
・・・・・・は?ですよね!
そして5個持って帰る(笑)

自分でもなんて事書いてるんだ?って笑ってしまいました。
まぁ、その後のリアクションは多分想像通りです。

ふふふ、その食器、総二郎が使ったら笑えるのにねぇ!
気がついたら部屋に入り浸っている総ちゃん♥激怒する類・・・。
めでたい桜狩りの逆パターンみたいな感じで(笑)

いかんいかん!クールな類の物語だったわ・・・またコメディに走るところだった!

2018/04/24 (Tue) 12:22 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/24 (Tue) 12:42 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは。

可愛いでしょう?どうしても取りに来させたかったんですよ(笑)
なに?この人?みたいな・・・。

もうねぇ・・・類に一人暮らしさせる時点でアウトですよね。
家事できないのにどうして一人暮らしの話を書くやら・・・。
どうしましょうねぇ・・・お風呂掃除とかすんのかな?あきらにでもさせようかな?言えばしてくれそう(笑)

ドジはしそうですが「なんでいけないの?」とか言いそうですよね。
つくしちゃんがドン引きすることが結構あったりして。
ふふふ、基本シリアスな、真面目な話ですがたまにはギャグを入れますからねっ!

緩く進んでいきますがお付き合いくださいませ。


2018/04/24 (Tue) 20:16 | EDIT | REPLY |   

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