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総二郎とあきらが帰ったから1人でテレビを見ていたけど、隣の子の驚いた顔が頭から離れなくて内容が頭に入んない。
面白くなくなってテレビを消して、ベッドに寝転んだら今度は「太陽が最高」って言葉が聞こえてくる。

あんな目の前で大きな声を聞いたことも大きな目も見たことないかも・・・。もう一度見たいな・・・ってそう思った。
ホントに、それだけ。


ベッドから起きあがって玄関のドアを開けた。そしてすぐ左側にあるドアを見つめた。その距離僅かに3メートル。
この部屋の中にあの大きな目の子がいる。

自然と腕が動いて、指がそのインターホンを鳴らしてた。

「はーい!ちょっと待って下さいね-」ってやっぱり大きな声がしてバンッ!て開けられたドアからあの目が出てきた。
くすっ・・・やっぱりどっちも大きい。
その部屋からはいい匂いがしてた。あぁ、この子が料理したんだ。その匂いか・・・そんなことも不思議だった。
俺の家では部屋に料理の匂いがすることなんてほとんどない。いや、感じないだけかもしれない。


「あっ、あの、なんですか?何か用ですか?」
「うん・・・さっきのもらおうと思って。挨拶のヤツ?受け取るのが礼儀なんでしょ?だから・・・」

「・・・・・・」

今度はその大きな目が更に大きくなって、真っ青になった。あれ?・・・でも、俺に渡すためにってさっき、持ってたよね?
「ちょ・・・ちょっと待ってて!」そう言って彼女は奥の方に入って行った。

彼女が引っ込んだから一歩玄関の中に入ってそこで待っていた。


なんだ、こっちの部屋ってこんなに狭いんだ。これが1人分のスペースだったわけだ。
それにキッチンにはビニール袋に詰められた野菜なんかが置いてあるし、コシヒカリって書いてある袋もあった。確かこれって米の名前だよね?やたら小さなものがテーブルの上には無造作に置かれてて、如何にも引っ越しって感じだった。

数分後、彼女は眉間にすごい縦皺入れて戻ってきた。
その手の中にはお菓子の個包装のようなものがあってカサカサと音を立てている。さっきは箱だったのに・・・?

「ご、ごめんなさい!まさか取りに来るなんて思わなかったから箱を開けてしまったんです。でも、せっかくだからこれ!あの箱の中身はこれだから、バラバラで申し訳ないんですけど・・・どうぞ!」
「・・・・・・うん。ありがと。あのさ、名前なんだっけ?」

「・・・牧野つくしです。この度入学したばかりの1年です・・・宜しく」

つくし?人間なのに名前がつくし?・・・・・・変なの。
背が小さいから手も小さいんだな。これだけの量なのに両手で持つなんて。なんかすべてが子供みたい。


「俺は花沢類。あんたの1つ上になるのかな・・・宜しくね」

名前を聞いたんだからこっちも言うのが礼儀だろうと思ってそれだけは忘れずに伝えて、初めてみるお菓子を手に持って自分の部屋に戻った。

時計を見たら夕方の6時・・・あぁ、だからあの子の部屋から料理の匂いがしたんだって初めてわかった。
そのぐらい時間にも自分の身体にも興味がなかった。

「なんだろ・・・これ」

さっきもらったお菓子の包み紙をとったら饅頭のようなものが出てきた。初めてみる物体・・・のような気もする。
それを一口食べてみた。

「・・・・・・なに、この味。よくわかんない・・・」

結局それは開けたひとつの一口だけで後は食べなかった。でも、何となく捨てられなくてテーブルの隅に置いたまま。
俺はジャケットを羽織って車のキーを片手に寮の部屋を出た。


いつものようにとある喫茶店で独りだけの夕食をとるために。


***********


カランカランと乾いたドアベルの音が響いて、その小さな店の奥から優しそうな笑顔が現れた。
ここのマスターの橋本さんだ。


「いらっしゃいませ。あぁ、類君。どうぞ、いつもの席、空いてるよ」
「うん、ありがとう・・・今日のおすすめってなに?」

「今日は豚肉のチーズのせオーブン焼きとサラダにコンソメスープ。それにするかい?」
「ん、任せる。最後に珈琲ね」

「いつものブレンドだね。ゆっくりしてお行き」


ここは英徳大学からそんなに離れていない場所にある喫茶店、cantabile (カンタービレ)。”歌うように ”という意味の音楽用語だったから目に止まって通うようになった店だった。
店内はいたってシンプル。でも、毎日流れているのはクラシック・・・主にヴァイオリンメインのものだった。
その音楽と香り高い珈琲と・・・それに狭い店にはそこまで人が来ない。余計な音のない中でゆっくり本を読むことが好きだった。

*

橋本さんは日本を代表するヴァイオリニストだった。
日本音楽コンクール・ヴァイオリン部門で優勝、その後国際コンクールにも数回入賞し、サラサーテ国際ヴァイオリンコンクールで2位になった事をきっかけに海外で楽団に入ったそうだ。

それも、もう随分前の事。
30歳を前に演奏家として名前が世界中に広まった時、ツアーのために訪れていたアメリカで交通事故により腕から指の腱を痛め頸椎ヘルニアも起こしたためにプロとしての演奏が出来なくなった。

ヴァイオリンが弾けなくなった時、橋本さんは絶望して命を絶とうと思ったらしい。
その彼を必死に支えたのが奥さんの沙耶香さん。ピアニストだった彼女は事故の車に同乗していて脊椎を損傷して歩けなくなった。車椅子での生活を余儀なくされて、当然ピアノから離れた。

それでも明るかった沙耶香さんは前向きに生きようとした。


「あなたのヴァイオリンの音色は私の宝物。毎日聞けなくてもいいわ。調子のいいときに5分間だけ・・・私のために弾いてくれない?」
「完全に弾けなくなったのならもう意味がないんだ!俺のヴァイオリンはもう死んでしまったのと同じだ。5分間だけの演奏なんて音楽じゃない!」


そう言って彼女を残して姿を消したのは2年間・・・行く当てもないまま彷徨って苦しんで、やっぱり忘れる事が出来なくてボロボロになってここに戻ってきたらしい。

その時、彼女は手にヴァイオリンを持っていたそうだ。弾き手がいなくなった彼のヴァイオリン・・・。
そしてこの先をどうしようかと悩んでいる橋本さんにまだ上手ではない演奏を聴かしてくれた。
ぎこちない指先で、震える腕で・・・それでも一曲弾き終わってから「中々でしょ?」って笑ったんだって。


「これも運命なのよ。私、今でもピアノは弾けるけどプロには戻れない。でも、あなたのためになら弾けるわ。あなたもそうじゃない?指は思うように動かないかもしれないけど、その中でも弾ける曲はあるでしょう?それを私のために弾いてくれない?失ったものをお互いに埋めながら、この先を生きましょう?」


橋本さんはその言葉で新しい光を見つけて、小さな教室を持って子供達に教える事を始めた。
それを車椅子の沙耶香さんはいつも嬉しそうに見ていたらしい。


その沙耶香さんも5年前に病気で他界した。

そしてこの喫茶店cantabileを始めた。
いつまでも沙耶香さんと「歌うように」過ごしたいとの願いを込めて、店の隅には小さなピアノと楽譜、その上に沙耶香さんの笑顔の写真がある。
今もここの2階でヴァイオリン教室もやっている。橋本さんを慕って熱心な子供が数人来るだけの小さな教室だった。
だから、その時間はこの店はCLOSE・・・売り上げが問題じゃないんだろう。


この話はいつも誰かにするわけじゃない。
俺がヴァイオリンを弾くと話したからそれで聞いた話だった。

*

「今日も弾いていくかい?弾くんなら鍵を渡すよ?」
「ん、ちょっとだけ・・・食事が終わったらね。ごめんね、あんなもの預けてさ。気にならない?」

「ははは!気にはなるさ!なんと言っても億・・・だからね。でも、ここにそんなヴァイオリンがあるだなんて誰も思わないだろ?類君こそ心配じゃないかね?俺が売りに出さないかって。保管庫の鍵は俺が持ってるんだからさ」

「くすっ、そうだね。その時はせめていい人に売ってよ。闇に流すとかナシだよ?」


花沢では弾く事を禁じられたヴァイオリン。
俺は今日もここで独り、その音色を響かせる・・・お婆さまに届けるために。




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2018/04/25 (Wed) 08:34 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ゆきたろう様、こんにちは!

はい、こういう場所がないと類が可哀想ですからね。
このお話は両親といまいち上手くいってない出だしなので理解者はいないとね(笑)

あと2話ぐらいがプロローグです。
なーんか、また長くなりそうな予感(笑)

宜しくお願いします。

2018/04/25 (Wed) 11:25 | EDIT | REPLY |   
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2018/04/25 (Wed) 13:36 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは~!

相変わらず面白い・・・すみませんが一つ採用させていただきます(笑)
気に入ったネタがありました。
そのうち使うんで覚えておいてね!ぷぷぷ!

私、白あんがだめなのでお饅頭で間違って白あんを口に入れた時、固まります。
口から出していいもんか、飲み込むか・・・類もきっとそんな感じなんですよ。
置きっぱなしで腐りそうだ(笑)

でっ!ここでそういちろう(笑)!!
そんなこと言って、この話でもそういちろうの番外編書くの?(笑)
この類は遊んでくれそうにないけどなぁ・・・

やっぱり最後は福江島に行ってヴァイオリンでも弾くか・・・って?
そのヴァイオリンの端っこにそういちろうが止まってて弦でも押さえるか?
妄想万歳ですね!

とどめが葉加瀬太郎かいっ!情熱大陸でも弾こうかっ!

2018/04/25 (Wed) 20:31 | EDIT | REPLY |   

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