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花沢の家に戻ったらすぐに使用人頭の加代が心配そうな顔をして飛び出してきた。

唯一この屋敷で俺の味方になってくれる人。母さんの代わりに常に側にいてくれた人・・・だけど、律儀なこの人は両親に聞かれたら嘘はつけない正直な人だ。
だからすべてを話すことは出来なかった。

自分の中に揺れ動く感情をこの人にでさえ曝け出す事が出来ない。見せるのはいつも同じ笑顔・・・それを自分で作ってしまう癖がついてる。

「類様、お帰りなさいませ。やはり寮など難しかったのではありませんか?」
「いや、忘れ物を取りに来ただけだよ。母さんは?仕事?」

「はい、奥様は本社へご出勤ですわ。もうしばらくしたらアメリカとフランスに向かわれます。でも、それが終ればまたここにお戻りです。・・・気になりますか?」
「まさか。今更気になるわけないでしょ?何年間離れてたと思うの?いて欲しかった時にはいなかったじゃん、あの人」

「あの人だなんて・・・類様、奥様はとてもご心配されてるのですよ?子供染みた反抗はおやめ下さいませ」
「反抗なんてしてないよ。心配はしてるだろうね。俺はただ1人の後継者だから・・・それだけだよ」

随分な言い方してるなって・・・自分でもわかってる。
わかっているのに加代には甘えてこんな言葉を出す。子供染みた反抗・・・本当はその通りだ。


「そのような事はございません。お母様としての愛情もお持ちですわ。本当によく似ておられる・・・奥様も類様も。ご自分の事を素直にお出しにならない・・・」

「ごめんね、加代。しばらく俺の事は放っておいて?ちゃんと考えてるから・・・」

必要なものを手に持ったら、半分泣きそうな顔になっている加代に背中を向けてまたこの屋敷を出る。
バックミラー越しに顔を手で覆う彼女の姿を見たら・・・少しだけ胸が痛んだ。



寮に戻ったらさっき牧野と話した階段であの顔を思い出した。
流石にもうこの場所にはいなかったけどあれからどうしただろう。ちゃんと部屋に帰ったんだろうか・・・まさか、このぐらいで泣かないよね?
階段を上がりきってすぐそこにある牧野の部屋のドアを見つめた。

「・・・服の事ぐらいで泣くわけないか」

1度は足を止めたけれど、その部屋を訪ねることなんてせずに自分に部屋に戻った。

部屋に入って持って帰った荷物をその辺に投げてベッドに寝転んで・・・特にすることもないから目を閉じていた。
そしたら何処かから声が聞こえた。それは女の子の声で外から・・・って事はベランダから?

ムクッと起き上がって窓の方を見ると、やっぱりその辺から声が聞こえる。牧野の声?そう思って窓を静かに開けたら隣のベランダからその声が確かに聞こえた。

「どうにか出来ないかなぁ・・・なんでもするから!え?うん・・・3日ぐらいしか出来ないんだよ?それでも必要なのは3万円なの!そうそう・・・やっぱり無理だよね」

誰かと電話してるんだ。

その内容を聞きたかったわけじゃないけど、そうっと覗いてみたらベランダの手摺りに縋るようにして空を見上げながら話し込んでる彼女が見えた。俺の事には気が付いていない・・・その目は雲でも追いかけているのかずっと上を見たままだった。

金の話?3万円って?彼女から見えないところでその話の続きを聞いた。


「4月からのバイトは決まってるのよ。でもそのお給料は月末でしょ?すぐにいるの・・・うん、そうそう!でさ、優紀にも聞いたけどないって言うの。うん、無茶はわかってんのよ!・・・どうしようかなぁ・・・」

バイトの話?急いで3万円が要るってこと?・・・3万円で何をどうしようって言うんだろう。

「え?うんうん・・・・・・うそ!話すだけで?話すだけで2万円?2時間って事は時給にして1万円?そんなのがあるの?ヤバい仕事じゃないよね?ホントに話すだけ?何歳ぐらいの人?・・・えぇっ!50過ぎ?そんなおじさんなの?!」

・・・・・・そんなわけないじゃん。馬鹿なこと言って。そんなのヤバいに決まってるでしょ?

「何時に何処に行くの?それって恵子のバイトでしょ?私が横取りしてもいいの?・・・・・・え?今からすぐ?うん、わかった!それを2回やったら4万って事?ホントに大丈夫なのね?あんた、やったことあるのね?うん・・・すぐ行く!」

うそ・・・!受けたの、そんなもの!バカじゃないの?
牧野は俺が聞いてるだなんて思いもしないから、電話を切ったらすぐに中に入って窓はバタンと閉められた。

・・・・・・いや、俺には関係ないけど、誰が聞いてもおかしいだろ!そんなバイト!
すぐに行く!なんて言った牧野に唖然としてベランダに立ち竦んでいたけど、そのうちバタン!と玄関のドアが閉まる音がして牧野が出て行ったみたいだった。


関係ない・・・確かに関係ないけど。

自分も部屋に戻ってまたベッドに寝転がろうとしたら、昨日の饅頭の包みが目に入った。
全然美味しくない、甘ったるいだけの饅頭・・・それを持ってきた黒い目の、太陽と星に大声を出した牧野。


俺はベッドから飛び降りて急いで外に飛び出していった。


*************


『どうしてもって言うなら私のバイトやってみる?代わってあげてもいいよ?2回やればつくしの希望の金額にはなるし。やることって簡単なのよ。寂しいおじさんの話を聞いてあげればいいの。おじさん達は話を聞いてくれれば嬉しいんだから。ヤバい事なんてないって!普通の喫茶店で待ち合わせだし、そこで話を聞けばいいんだから!基本料金が2時間で2万円だから』

恵子が変わってくれるって言ったバイト・・・話聞くだけで2万円ってどんなバイトなの?基本料金・・・何が基本なの?
それに、このバイト三昧の私が知らないなんておかしくない?って思いながら支度をして、急いで寮を飛び出た。

待ち合わせはあと1時間後・・・指定された喫茶店まではバスで行けるけど時間はギリギリだったから急いでバス停まで走っていた。条件はスカートで来ること・・・おじさんはスカートが好みらしいけど話を聞くのに何でスカート?
テーブルで隠れて見えないでしょうに!そうは思ったけど時間もないし考えてる場合じゃなかったからとにかく走った。

スカートがヒラヒラして誰かに見られるんじゃないかって思って気になって仕方ない。それを片手で押えながら、もう少しでバス停ってところで私の真横で真っ白な車が急に停まった!

しかも窓が開いて中から出てきた顔は・・・花沢さん?何これ、外車?左ハンドル・・・あのガレージの車?
でも、その顔がすごく怖くて言葉も出せずに立ち止まったら、車の中から不機嫌な声で話しかけてきた。

「あんた、何処行くの?さっきの電話、どう考えてもおかしいだろ!・・・乗って」
「は?なによ、盗み聞き?大丈夫よ!友だちがそう言うんだから!」

「いいから乗って!」
「えっ、でも・・・」

「乗れって!」

だんだん強くなる言葉にビクッとして、私は助手席に回って車に乗り込んだ。
乗ってすぐに花沢さんは車を発進させて、私は無言でそこに座っていた。すごく・・・気まずい雰囲気。だけど、恵子には約束したし、喫茶店には行かなきゃいけないし。どうしようかとモジモジしていたら彼の方が言葉を出した。


「聞いたのは偶然だよ。あんた、ベランダで話していたからね。だけど、あの話でどうして行くかな・・・おかしいだろ?」
「どうしてって・・・だって、ヤバくないって言うんだもん」

「そう言わないと来ないからでしょ?」
「そんな!だって同級生だよ?わざわざそんなヤバいバイト、紹介する?」

「その子、親友?幼馴染みとか?仲良いの?」
「特別仲いいわけじゃない。中学の時の友だちで遊んだことはほとんどないけど・・・でも、友だちでしょ?」

「信用できる?絶対に裏切らないって自信ある?」
「・・・そう言われるとわかんないよ。最近は会ってないし。でも、あの子もバイトに詳しい子だから」

「なんで3万円が3日間のうちに要るのさ」
「・・・スーツ代よ。やっぱりちゃんと新しいスタートを切りたいから。普段着じゃこの4年間に立ち向かえないって思っただけ。特別な日にしたかったんだもん」


はぁ・・・って深い溜息をついた花沢さん。
窓ガラスに片肘ついて呆れたような顔で、急にハンドルを切って方向を変えた!

「あの・・・何処に行くの?私、やっぱり約束の場所に行かなきゃ。たとえ断わるにしてもちゃんと会わなきゃダメじゃない?」
「大丈夫だよ。向こうは自分のしてることが違法だって知ってるんだから絶対に何も言ってこない。あんたの友だちも同じだよ」

「違法?・・・なんでそんなこと」
「意外と世間知らずなんだね。そういうとこ、もう少し考えな!」


なんかムカつく・・・昨日も変な行動して私を悩ませるし、変な話して変な夢は見させるし。

なんだろう、この人。
さっきは冷たくしたくせに今度はお節介?


「あの、だから何処に行くんですか?このバイトがダメなら他を探したいんだけど!」
「スーツ、いるんでしょ?今から買いに行くんだよ」


・・・・・・だからお金がないんだってば!!
そう言ってるのに花沢さんはどんどん車を都内の中心部に向けて走って行った。



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2018/04/29 (Sun) 18:04 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは~!

いやーん(*ノωノ)♡♡♡って・・・とんでもないこと書きましたね(笑)
それってまさか2時間じゃないですよね?(笑)

2時間するんなら30万よりもう少し上がいいです。
体力的にキツいわ・・・しかも、それだけじゃなかったら更に上乗せしていただかないと。
スーツじゃなくウエディングドレス買っていただきます。

え?ダメ?普通でも2時間は・・・お話が1時間50分でお仕事が10分?それなら可能ですかねぇ。
え?それも違う?(笑)

世間知らずなつくし(笑)生活能力0で非常識な類(笑)
先が思いやられますね、この2人!

恋愛しない方がいいんじゃないかなぁ・・・って思ってきました。あはは!

2018/04/29 (Sun) 21:18 | EDIT | REPLY |   

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