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plumeria

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「もうすぐ10時だよ?帰ってこないじゃん・・・」

そう言いながらマンションの窓にもたれ掛かって本邸の正門を見ていた。
10時になったって車は戻って来ないし、庭園灯がついてるから廊下も少しは見えるんだけど誰も通らないし。
そしてこんな時間に双眼鏡持ってるなんて犯罪者みたいで最低だし。

それでも私は本邸の中を覗いていた。もしかしたら正門から帰らずに駐車場から入るかもしれない。


そのうち正門に1台の車が停まってそこから二人連れの男性が出てきた。その一人は着物を着てる・・・って事は西門さんだ!
途端に心臓がバクバク言い出して双眼鏡を握る手に力が入る。何となく汗ばんでてガラスが曇ってるんじゃないの?って何度も確認した。

「あっ!ちょっと外してたらわかんなくなった!」

もう一度あちこちを見ていたら廊下をブラブラ歩いている彼を見つけた。片手で首をさすってる・・・首が痛いのかな?それとも疲れちゃったのかしら。
そのうち慣れてるはずの廊下を軽く滑って蹌踉けた!慌てて周りをキョロキョロ見てる。そしてまた何食わぬ顔して歩きだした。

「ぷっ!何してんの?人のこと言えないじゃん・・・酔ってるのかな?」

普段は見せないその姿に思わず独り言が出て、クスクス笑ってしまった。
なんだ・・・10分遅れだけど予定通り帰ったんだ。今日は何処にも寄らずに、誰にも会わずに帰ったんだね。

なんとなく気が抜けて、ホッとしたらやっと双眼鏡をローボードの上に戻せた。

「何やってるんだろ、私。バカみたい・・・西門さんにはあの人がいるのに」


それでも帰ってきたんだ思ったら今度は睡魔に襲われた。最近、ずっと寝不足だったから。
まだ10時半っていう早い時間だったけどベッドに潜り込んだらいつの間にか眠ってしまった。


**


次の日の朝、勝手口から入ったらすぐ目の前に西門さんが立っていた。
朝早くから思いがけず出会ってしまって、慌てて背中を向けて木戸を閉めたけど振り向くことが出来ない。まさか覗いてたのがバレたわけじゃないよね?木戸の木目を睨み付けて何か言われるのかとドキドキしていた。

「なんでそんな態度だ?朝の挨拶・・・忘れてねぇか?」
「へ?あ、あぁ!おはよう・・・ございます。昨日は遅くまでお疲れ様でした」

「おはよう・・・ってなんで知ってんだ?俺が遅かったの」
「えっ!あの、えと・・・和真さんが昨日の夕方教えてくれたのよ。いや、なんで私に言うのかとは思ったんだけどね?西門さんが会食で10時頃じゃないと戻らないって!そうそう、和真さんに聞いたのよ!」

「で?ホントにその時間に帰ったって知ってるのか?」
「はい?・・・えとね、ううん、知らない。それは知らない。ホントに知らない!」

「・・・・・・」

この時、自分でも嘘が下手だなぁって思ったわ。振り向けないけどこの沈黙も怖い・・・それにタイムレコーダーにも出勤を記録しないと遅刻になる。
思い切って振り向いたら西門さんの顔が50㎝ぐらいのところにあって、びっくりして退いたら木戸の出っ張りに思いっきり頭をぶつけた!

「いっ・・・たぁ!!やだ、なんでこんなとこに出っ張りがあんのよ!」
「アホか!お前がいきなり後ろに動くからだろうが!・・・ったく、ドジなんだから、頭見せてみろ!」

「え?頭?・・・うわぁっ!何すんのよ!」
「喧しい!いいから来い!」

私が頭を抱え込んでいたから西門さんが急に片手を伸ばして髪の中に手を入れた!
そして自分の方にグイッと倒して私の頭のてっぺんを覗きこんでる!そのせいで私は西門さんの胸に当たるぐらいの距離で、その着物の襟元が顔を掠めた。

フワッと香るサンダルウッドの微かなフレグランス・・・それが鼻を擽って、どうしていいかわかんなくなった。
ヤバい・・・絶対に耳まで赤いわ!髪の中を彼の指が滑っていく度に背中がゾクッとした。

「血は出てないか・・・マジでこっちが焦ったわ!大丈夫みたいだな」
「・・・う、うん!ありがとう。ごめん、タイムレコーダー、してくるね!」

軽く片手で西門さんの胸を押したら、急にその手をガシッと掴まれてた!
不意に感じる体温・・・さっきの髪の毛の中とは違う感覚に身体が固まった。


「なぁ・・・最近、俺を避けてねぇか?」
「えっ!そんなことない・・・よ。言ったじゃん、立場ってものを考えてるんだって。それだけだから」

「俺がそれを気にするなって言ったら元のように戻れるのか?」
「・・・そういうわけにもいかないって最近わかってきたのよ。ほら、やっと家元とか次期家元とかっていうのが雲の上の人なんだって思うようになったっていうか・・・この世界がすごく大変なんだって知ったっていうか。そんなところかな」

私の言葉にすごく機嫌が悪そうな顔になった。
何処に腹が立ったのかなんてわからないけど、明らかに遠ざけようとしているのがわかったから?今まであれだけ近くで喧嘩してたのに、自分でもこの変わり様は激しすぎるとは思うけど。


西門さんが持ってる手首が熱い・・・「離して」そう言いたいのに私の口からは何も言えなかった。
逆にさっきまで目の前にあった着物の襟元に戻りたいような気さえする。

朝からこんなに心臓が五月蠅いなんて・・・喉の奥に何かが詰まってるのかと思うぐらい苦しくなった。


***********


雲の上の人・・・ってなんだ?
牧野だけはそんな風に見ないと思っていただけにすげぇ腹が立った。

俺を特別な目で見ない女だから・・・めちゃくちゃ失礼なヤツだけど、自然体でそこにいるってヤツだったから俺もこいつの前だと楽に過ごせていたのに!


でも、牧野が本心で話してないことはすぐにわかった。
何かに怯えてんのか?すげぇ震えてる・・・泣きそうな顔になってる。掴まえた手を固く握ってるけど振りほどくわけでもない。
何故そんな苦しそうな顔になる?お前を苦しめてるものって・・・なんだ?

ゆっくり手を離したら牧野は俺の横を通り過ぎて屋敷内に入って、すぐ横の部屋でタイムレコーダーに社員カードを翳し、ホッと溜息をついた。別に遅刻ギリギリでもないのに。

「はぁ!もう、西門さんが脅かすから遅刻になるかと思ったよ。じゃあ、事務所に行くね」
「牧野、話があるんだ」

ピタッとその場で止まり、半分だけ顔を後ろに向けた。


「明日、予定ないだろ?飲みに・・・って言うか、飯食いに行かないか?」
「明日?夜に?」

「あぁ、俺の幼馴染みが揃うんだ。良かったらお前も来ないかって・・・女が1人だけだからさ、人数合わせ・・・ってヤツかな」
「人数合わせ・・・か。うん、それでも嬉しいけど、実はこの私にも予定があるの。ごめんね」

「予定?誰かと・・・飯か?」
「・・・西門さんには関係ないよ」


最後の方、牧野は俺の方を見なかった。
牧野が誰かと夜に予定を入れた?

追いかけて問い詰めたかったけどこの時は牧野の後ろ姿を見ることしか出来なかった。
ちょっとしか揺れない短い髪の毛。それが項垂れてる牧野を余計小さく感じさせた。



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2018/04/24 (Tue) 12:18 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

ここっ!ここいいでしょ?髪の中に手を入れて怪我してないか探るの!
いいよねぇっ!「してもらいたい事ランキング」の上の方にあるんですよ!

え?何が1番か?そりゃ聞いちゃいかんでしょ。

妄想っていいよね~!!抱き寄せられて髪触られて・・・♥
って血が出てたら怖いよね💦

総ちゃん慌てて引っ抱えて車に乗せて病院に行くかも(笑)

ちなみに廊下を滑る総ちゃんは個人的に好きです。
転けて倒れちゃダメ!あくまでもツルッと滑って慌てて周囲確認!ホッとする総ちゃんが好きです。

「はぁ~やべぇ!誰も見てねぇよな?・・・ったく、誰だよ、磨き過ぎてんの!」

これが隠された台詞です(笑)

2018/04/24 (Tue) 20:26 | EDIT | REPLY |   

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