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plumeria

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牧野に素直な気持ちを伝えたのは今年の夏の初め。
学生時代が過ぎても友達として過ごした数年間…もう好きだっていう気持ちを抑えること、そのものに限界を感じていたから。

「牧野のこれから先の時間、全部俺にくれない?」

牧野からの返事は涙声で何言ってんのかさっぱりわかんない。でも、自信があったんだ……牧野も想っててくれるって。
ホントに子供みたい……手で顔を覆ってるけど出てる耳が真っ赤なんだから。
震えてる身体を抱き締めて「いいよね?」って聞いたら俺の腕の中で1度だけ頷いてくれた。


「あのさ、毎年ある花火大会、今年は2人で行ける?浴衣着てさ、手を繋いでさ……類、連れてってくれる?」
「いいよ、そんなことでいいの?」

「うん、夢だったの。絶対だよ?約束だからね?」
「はいはい。俺の浴衣も準備してね?楽しみにしてるから」

そう話したばかりだったのに。


**


「だって!絶対に行くって約束したもん!」
「ごめんって……約束はしたけど決定事項だから変えられないんだって」

「やだやだ!行くって言ったから浴衣だって買ったんだもん!」
「わかってる。ね、来年は行けるから。今年は許してくれない?」

「絶対にやだ!類なんか嫌い!……嘘つき!」
「あのさ、嘘ついたわけじゃないんだって」

「もう知らないっ!」


それは花火大会の2日前。
牧野が新しい浴衣を買って浮かれていた時に、俺のフランス出張が明後日……つまり花火大会当日に急遽決められたからだった。
2人で行くことを楽しみにしてたから話した途端にこうなった。おまけにソファーに俯せになって寝転んで、俺に拗ねた顔すら見せてくれない。

「牧野、今年は無理だけど花火大会は最後じゃないだろ?」
「そうじゃないもん!今年が良かったの!だって初めての夏なんだもん。思い出、欲しいじゃない。海だってまだ2人で行ってないよ?いつもお仕事で忙しいからってこの他の予定は何もなかったんだよ?だから……!」

「帰ったら連れてってあげる。夏の終わりになるけど…」
「やだやだ!もう花火大会、他の人と行く!」


何を言っても機嫌は直りそうにない。
嘘つきって…そっちこそ嘘ばっかり。他の人と行く気なんてないくせに。


チラッと見たらタンクトップから出てる牧野の肩が赤くなってる。

「牧野、肩が赤くなってる。痒くない?蚊に刺されてるんじゃない?」
「蚊ぐらいどうでもいいもん!そんなの放ってたら治るし!」

「でも、結構ヒドいよ?」

指で触ったらビクッと肩を竦めた。その赤くなってるところにキスをしたら「ひゃっ!」って変な声出してる。
だって、たとえ蚊でも許せない。牧野の肌に触れたんでしょ?

「…そ、そんなことしても許さないもん」
「くすっ、じゃあさ、代わりに牧野の好きなだけ花火買って家の庭で2人で花火しよう?それもしたかったんでしょ?」

「……ほんと?」
「うん、ほんと。花火、買いに行こうか?」

「…今から?」
「うん、今から。今日はもう仕事終わってるし」

今度は勢いよくソファーから立ち上がって、急いで着替えて大慌てで化粧して……忙しいったらありゃしない。
俺は右に左に走る牧野を笑いながら見てた。

でも、ちゃんと見えてるよ?時々涙拭いてるの……あんた、演技が下手だから。
そして支度が出来たってニコニコして、さっきとは正反対。今度は俺の手を引っ張って買い物に行った。

両手で抱えてる花火セット。その店で1番大きなセットを3つも買って、大はしゃぎで屋敷に戻った。



暗くなってから2人で庭に出た。

花火が見えやすいようにって屋敷中の照明を落として真っ暗にして、手を繋いで庭の真ん中まで行ったんだ。
その掌は汗ばんでて熱を持ってて…ワクワクしてるの?1歩だけ俺の前を急いで歩いていた。

ライターで火をつけて、1番初めの花火は牧野お気に入りの7色変化のススキ花火。
薬筒の先についた炎が牧野の顔を少し照らした。いつ火花が飛び出すかを待ってる顔は真剣そのもの。そんなに真面目な顔でするものなの?って思うと可笑しくなってくる。
そして紙の筒から鮮やかな色の光が放たれて、凄い音と煙を吐き出して辺りは火薬の匂いで噎せ返るほど。

一気に笑顔になって、慌ててもう次の花火を探してる。
1本の輝きはあっという間に終わるから次から次へと火を移して、牧野の顔を赤や黄色や緑色に染めていく。

「うわあぁーっ!ねぇ、この花火綺麗だよ!類もやらなきゃ、私ばっかりやってるもん。ほら、早く!」
「だって牧野見てる方が面白いんだもん」

「あはは!そうなの?ダメだよ、ちゃんと2人でやるんだよ?」
「じゃあ、牧野が持ってるのから火をちょうだい?」

「うん、待ってね!」

そんなことを言いながら、1人でくるくる回ってる。右手で1本、左手には次のを3本ぐらい持って庭を飛び跳ねるから、俺はそんな牧野を見て笑ってた。
少し長めの花火に自分で火をつけたら、先端から飛び出す火花は鮮やかな赤…それを牧野に向けてさりげなくハートマークなんてのにしてみる。くすっ、全然見てくれないけど。


「今度はドラゴン、やろうよ!たくさんあったでしょ?」
「1度にやるの?」

「うん!横に並べて一気にやるの」

噴出し花火を数個、横一列に並べて導火線に素早く点火していく。そしたら俺が立ってる方とは反対側に牧野は走っていった。

そのうちに凄い音と光が一斉に地面に置いた花火から吹き出して辺りは昼間のように明るくなった。黄金色の光がそこら中にシャワーのように、舞い上がる煙は靄のようになって…その隙間から目を拭う牧野の姿が見えた。

馬鹿だね…また泣いてる。

俺は雨のように降りそそぐ火花の向こうにいる、小さな子供のような牧野だけを見ていた。花火が……消えてしまうまで。


「もうこれで最後だね。線香花火…これは流石に走ってちゃダメだよね」
「そうなの?」

「うん…並んでしようか?」
「…うん」

やっと初めて隣に来てくれた牧野はその小さな花火を俺の手に持たせてくれた。
自分の手にも1本…凄く細い持ち手の先に黒い火薬。今までの花火とは全然違うこの存在感の無さ。なのに牧野の顔は嬉しそうだった。地面に蹲るようにして肩を寄せ合って、ライターで火をつけてって俺を急かす。

「こんなに近寄ってていいの?」
「うん、このくらいでいいの。私ね、実はこれが1番好きなの」

「そうなんだ。こんなに小さいのに?」
「類もきっと好きだよ。45度の角度にすると長持ちするんだよ」

「へぇ…じゃ、つけるね」

火をつけるとオレンジ色の細い火花がパチパチと音を立てて2人の間に広がった。
今までのと違って辺りも照らさない儚い光…でも、すごく暖かい感じがする。そしてだんだん火花が小さくなるとそこに赤い玉が出来た。

そこから最後の力を振り絞るかのように時々出てくる火花がジジッ…と小さな音を出してる。

「これで最後?すごい終わり方だね」
「ふふ…これからも長いんだよ?最後にこの玉が落ちちゃうの。だから今のうちにここから新しいのにつけなきゃ。類、次の出して?」

もう1本出したら赤い玉に近づけて新しいのに火をつけた。その繰り返し…。
動かずに黙って線香花火が花咲かせるのを2人で見ていた。


最後の1本になって牧野が「これで終わりだね」って寂しそうに言った。

「類、もうちょっと近づけて?火が移んないよ?」
「こう?」

「もう少し…もう少し寄って?」
「このぐらい?」

「あと少し……あっ、ついたかも!…る…」


ほら…あんたがもう少しって言ったんだよ?

最後の線香花火が光を放って玉になって…ポトンと下に落ちたら庭から全部の光が消えた。
それと同時に牧野の唇を自由にしてあげた。


「……楽しかった?花火」
「うん、楽しかった……」

「じゃあ、来年の花火の約束しようか?」
「今から?」


「そう……今から」





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