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夕方になったら西門さんの仕事も終わって、日曜だというのに会食があるからって和真さんも現れた。
そして部屋にいる私の事を呆れたように見てる。この歳で足を捻挫したから?それともこうなるまで時間がかかりすぎだって思ってるのかしら。
何と言っても恋愛にかけてはこの人は私なんかより遙かに上級者。たとえゲイでも毎日恋愛してそうだもの・・・和真さん。

「・・・そう言えば牧野さんのお部屋がここに出来たそうですね。さっき家元夫人が大喜びで飛び跳ねておいででしたが・・・」
「そ、そうですか。なんか、そんなことになりまして。自分に素直になったらですね・・・まぁ、その、和真さんには大変申し訳ないんですけど・・・」

「ぷっ!別にいいですよ。総二郎様は私のことは恋愛対象に見てくださいませんから。それに本当言えば私としてももう少し歳は上の方が好みです。ちょっと7歳は離れすぎかな?」
「止めてくださいよ!そんなの真面目に言うの!・・・って、彼氏いるんですか?」

西門さんが外出用の着物に着替えているときにそんな話をしていた。
「お前ら、何をごちゃごちゃ言ってんだ!」って奥の方から怒鳴ってる。それを聞いて慌てて口を押さえたけど、和真さんの方は平気な顔してる。

「牧野さんが私に彼がいるのかって聞いたんですよ。で、答えは・・・今はフリーです。先月1年付き合った彼と別れましたので」
「はぁ・・・それはそれは」

・・・って、なんて言っていいのかわかんないじゃないのっ!

「和真!余計なことは言わなくていい。牧野の事、もうお袋から聞いたんだろ?」
「はい。婚約者候補だと」

そこで候補を強調するの、止めてよね。それにまだ私にだって実感は全然ないんだから!

西門さんは着替え終わってまた私の所に来て、それが当たり前みたいにひょいっと抱きかかえて和真さんの方に顔を向けた。流石、照れることなんてないのね。私はまだ慣れなくてすぐに顔が赤くなるのに。

「そういうことだから今度から俺の隣の部屋は牧野が使うから。お前はその部屋には立ち入り禁止だからな。一応男だから」
「・・・わかりました。私としても女性の部屋には興味がありませんので」

何だかよくわかんない会話をされて、私はそのまま隣の部屋に連れて行かれた。
ドアを開けたら彼の部屋ほど広くはないけど可愛らしく飾られてて、いつの間に運んだのかベッドやソファーやテーブルが明るめの色で統一されて置かれていた。
病院では断ったのにやっぱり松葉杖もあって、室内ではこれを使って移動しろって事なのかな?

「うわ・・・この家で初めて見た、こんな部屋。お袋、こういうのがしたかったのかな・・・」
「いつの間に、だよね。可愛いものばっかり。カーテンもフリフリ・・・ふふっ!窓から見える景色と似合わないね」

「だな!」

見る限りこの部屋にはシャワールームやミニキッチンはない。そりゃそうよね、そんなことしたら工事が必要だもの。西門さんに言うと、それは俺の部屋にあるからいいんじゃね?だって。
昨日いろんな事があってから1日しか経ってないのに、今日はもうここに部屋があるなんて。その動きの速さに気持ちの方がついていかなくてやっぱり不安・・・。

そんな私の気持ちが彼には伝わったんだろう。
西門さんがそっとソファーに座らせてくれて、おでこにキスしてきた。

「ちょっ・・・!和真さんが廊下にいるのに!」
「いいじゃん。別に見られたって。あいつは気にしねぇよ・・・じゃあ行ってくるから。心配すんなよ、早く帰ってくるから」

「・・・うん。行ってらっしゃい」

部屋を出るときはにっこり笑って手を振られたけど、パタンとドアが閉まると急にシーンとなる。


幸せになると不安も大きくなるのかな。
急に1人になると涙が出てきた。変なの・・・今までだって1人だったのにね。


*********


お夕食は初めて3人。
お家元と家元夫人。そして私・・・今まではお昼ご飯だったし西門さんが一緒に座っていたから笑っていたけど、この状況では流石に笑えない。お箸を持つ手も震えて、作法がどうだったかを思い出そうとすると余計に緊張して真っ白になった。
食べる順序、そのお料理の食べ方、箸の運び方、お茶碗の扱い・・・まだ、ほとんど教えてもらってなかったから全然わかんない。どうだったっけ?って考えたら箸が動かなくなった。

「どうかしたの?つくしちゃん」
「具合でも悪いのかな?足が痛いのかい?」

「・・・いえ、そうではないんですけど。どうやって食べていいかわかんなくなって・・・」

そう言うとクスクス笑って「ここでは自由にお食べなさい」って言われた。
確かに今まではそうしていたんだけど、この先もそれでいいわけがない。それを考えると胸が苦しくなって、気がついたら食べながら涙が溢れた。
そんな私を見てお二人は顔を見合わせた。情けない子だと思われたんだろうか。でも、だんだんこれが現実だって感じてきたら恐怖の方が強くなってきたんだもの。


「つくしちゃん、ごめんなさいね。私があなたに無理を言ったから・・・」
「・・・え?ど、どうしたんですか?」

いつも明るく笑わせてくださる家元夫人がすごく真面目な顔で、申し訳なさそうに話しかけてきた。それは初めてのことで、私は自分の箸を置いて、家元夫人の方を見た。
ご自分のお湯呑みを持って上品に口に運んでる。すこし俯いてる目は西門さんそっくり・・・こうしてみるとなんて綺麗な顔立ちの親子なんだろう。

お湯呑みをテーブルに戻してからゆっくりと息を吐いたあと、西門さんの昔話をしてくれた。

「総二郎さん、次男でしょう?子供の時からこんな立場になるって思わなかったと思うの。だから長男が家を飛び出て、自分がこの家を継がなくちゃいけないってなったとき、結構荒れてしまってね」
「お兄様・・・お医者様になったっていう?」

「そう。祥一郎さん・・・今は大学病院で医者をやってるわ。小さい時はね、祥一郎さんがいるんだから自分は自由にしていいんだろうって、総二郎さんは随分やんちゃだったのよ。それでもこの家に生まれた男の子だからって先代に厳しく躾けられてねぇ。立場的には次期家元にはならないだろうから講師って形でお仕事するんだと思ってたでしょうね。それでも息苦しい生活を強いられたのよ。そして先代が隠居されて、少し自由になった途端に祥一郎さんが茶道から離れて急に次期家元にさせられて・・・」

冷めたお茶を煎れ直して、新しいものをお二人に差し出したら「ありがとう・・・」って小さな声が聞こえた。お家元は何も言わずに黙ってお茶を口に運んだ。
私も自分の湯呑みを持って一口飲んだ・・・ちょっと、苦かった。

「祥一郎さんはね、自分で選んだ人と一緒になってるの。とても自由にしてるわ。それに比べて総二郎さんには手に入るはずだった自由がなくなって縛られることばかり。それが可哀想でね、つい夜遊びを止められなくて、いろんな噂が耳に入るようになって。でもそれを言うと『いつかは西門って檻の中に閉じ込められるんだろうが!』って怒鳴ってたわ・・・何年か前までね」

「そんな風に?今はそんな感じじゃないですけど?」

「うん、そうね。少しは大人になったからかしら。それに総二郎さんには早くから色んな所からの見合い話がたくさん来てたけど、最近は同級生にもそんな話が来るようになって自分だけじゃないって思い始めたのよ。でも夜遊びは続いたんだけどね。
ただねぇ・・・総二郎さんの夜遊びには何処にも本気がないの。その日の気分・・・っていうか逃げたかったんだと思うわ。この家から・・・」

「逃げる?・・・茶道から?」

「ううん、総二郎さんは茶道は好きなのよ。この”西門”が苦しいんだと思うの。お家元の前で言うのもなんだけど、煩いことが多いから。でも、これも守らなきゃいけないことなのよ。私ね、そんな人生を送らなきゃいけない総二郎さんには全然違う世界から相手を見つけて欲しいって思ってたの」

「え?普通は同じ世界からじゃないんですか?その方が・・・」

その方が教え込まなくても何でも出来そうじゃない?何にも知らない素人よりこの世界を知ってる人なら礼儀作法だけでもすぐにクリアしそう。それに小さい時から染み付いてて、私にはどうしても手に入れられない「気品」だってあるし。間違っても殴らないだろうし。

でも、家元夫人は小さく首を振った。

「あなたみたいな・・・太陽みたいに明るくて、総二郎さんを特別視しない人。そこにいるだけで笑顔にしてくれるような人・・・つくしちゃんを見たときにね、何故か全部が当てはまっちゃったの。だから、半分強制的にここに来てもらって総二郎さんに興味持ってもらえないかなぁって。だって、総二郎さんも早い内からあなたの前では自然体だったから、絶対に上手くいくって思ったのよ。同じような家から来た人にはあの子、自分の本当の姿は見せないと思うの・・・身構える癖がついてるから。」

「喧嘩しかしてないですよ?」
「喧嘩が出来るからいいのよ。それも仲直りできる喧嘩でしょ?ふふふ、総二郎さん、自分でも気がついてないみたいだけどお茶が美味しくなったわ。なんて言うのかしら・・・安らげるような、優しいお茶になったわ」


「これからはつくしさんにも覚えてもらわないといけないことがある。どうか総二郎の心の支えになって、この西門にまずは新しい風を入れて欲しい。急な変化ではなく、穏やかにこの先変わっていけるようにね」

最後に家元が私にそう言ってくれて、初めての3人の食事は終わった。
ほんの少し、私がここにいてもいいんだって思えた。

こんな自分でも彼の支えになれるのかもしれない・・・西門さんの「本来の姿」を引き出せるのが私なら、それで彼の茶道がすばらしいものになるのなら、この家で頑張れるかも。

最後に飲んだお茶は、冷めていたけど美味しかった。


**


その日の夜、自分の部屋で揃えていただいたものを片付けていたら、ドタバタと誰かが走ってくる足音が聞こえた。
この屋敷で私以外の人が走るなんて?って思ったら、バタンッ!とドアが開いて西門さんが飛び込んできた!

「きゃああーっ!なになに!どうしたのっ!そんなに走って!」
「遅くなったから・・・ただいま!」

飛び込んだと思ったら、同時に抱きしめてくる強い腕・・・少しお酒の匂いがする。少し顔が冷たい・・・着物も冷たい。
でも、耳元にかかる息はすごく熱かった。

「・・・は?あ、お帰り・・・」
「はぁ、良かった・・・ちゃんといた」

「えっ?帰ると思ったの?いるわよ、ちゃんと・・・」


急に1人ではいられなくなった子供みたい。
私たちはクスクス笑いながら抱きしめ合って、その後に今日何回目かのキスをした。




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2018/05/14 (Mon) 00:06 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

あはは唯一家元夫人が真面目なシーンですね!
1回ぐらい書いておこうと思って書いてみた(笑)

そしてここでも存在感の超薄い家元・・・たまには書こうかってぐらい私も忘れてしまいます💦
家元夫人で遊ぶのが楽しいもんですから(笑)


そうね、ぶっ飛んで帰ってくる総ちゃんですが・・・このあとのいきなり変わるのよ・・・(笑)
とことん甘くなっていく総ちゃんですが楽しんでいただけたら嬉しいなっ!

今日は1日中子供についてて疲れました・・・。
舞台に出る前の緊張の強い子なのでヒステリーがねぇ・・・もう私に八つ当たりもいいところですよ。

終わった途端に笑うんだけど、出来たら朝から笑ってて欲しい。
マジで疲れました・・・そして夜に帰ってから休まず類のチェックに走ったけど頭が回らず・・・。

子供が家に戻ってきたらサイトは続けられないなぁ・・・って思った1日でした。
今日も1日後片付けです・・・。とほほ!

2018/05/14 (Mon) 09:26 | EDIT | REPLY |   

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