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plumeria

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年が明けて、家元から話があったとおり後援会と支部の重役達が集まる席が設けられた。
前日から落ち着かなかったのは俺だけじゃない。家元も家元夫人もソワソワしていた。
牧野はと言えば、さすが今まで結構な修羅場を経験しているからか、一番落ち着いて見えた。

「お前、すげーな!なんで俺の方が緊張すんだよ!」

「え?緊張はしてるよ?失敗しないかなって・・・でもさ、もし失敗しても私の場合もともとこんな家に住む
立場じゃないんだから元に戻るだけだもん。でも、出来たら後援会の方に認めていただきたいな・・・って思うよ」

「そんな言い方すんなって・・・失敗なんかしねーから大丈夫だって」

「ふふっ・・・総二郎のが心配だよ。私の方ばっかり見てないでよね?」


クリスマスに起きたことも牧野は何も言わなかった。
あのバラを覚えているのかさえ俺は確かめるのが怖かった。
誕生日もあのドレスのことは話してはいない。お袋と帰ってきてからその後、牧野を外に連れ出した。

予定外の外泊に牧野は随分驚いてたけど・・・俺はただ夢中で牧野を抱いてた。
牧野の中の類を追い出すかのように、牧野の身体に俺だけを刻み込むかのように・・・

そして慌ただしく迎えた正月行事の数々・・・牧野は普通に見えた。


****


「総二郎、どうしたの?さっきから難しい顔してるのね?ちょっといいかな・・・帯がね?」

「ん?帯?まだ解く時間じゃねーぞ?それは後でな!」

「違うってば!今日は自分でやったから後ろ確認してよっ!どう?大丈夫?」

「大丈夫。綺麗に出来てんじゃん」

ドヤ顔して見せる牧野。本当に着物がよく似合ってる・・・こいつを見て反対する奴なんているんだろうか。
どんな女がこいつと並んだって負けないと思うんだけど。そのくらいこの一年で綺麗になった。
こいつを変えたのが俺っていうんならいいんだけどな。


新年恒例の会食が始まった。

正面に座るのはもちろん家元と家元夫人。
家元の横に俺が座りその隣の席に牧野が座った・・・少し会場から声が漏れる。
家元夫人の横には弟の幸三郎が座った。

俺は横目で牧野の方を見たが、さすが牧野。俺よりも凜とした表情で会場を見ていた。
その表情に迷いも弱さも感じなかった。なんだ?俺の方がもしかしたら情けねー顔してたのか?

「皆様、あけましておめでとうございます。今年は・・・」

家元の挨拶が進む中、この後に牧野に対しての異議が出ないかどうかだけが気になった。
もちろん言われても言い返す覚悟は出来ていたが、何も起きなければそれが一番だ・・・

色々な挨拶が終わると雑談に入る。誰かが口を挟むとすればこのタイミングだろう。


「お家元、お尋ねしてもよろしいかな?」

関西の方の重臣の1人が声を上げた。やっぱりきたか・・・。

「そちらのお嬢さんのご紹介はないのですかな?そこにお座りと言うことは若宗匠のお相手でしょう?
なんの紹介もないというのはいかがなものかと?」

「そうでしたな。申し上げるのが遅くなりました。こちらは総二郎の学生時代からの後輩に当たるお嬢さんで
牧野つくしさんと言いましてな。総二郎といずれは一緒にさせようと思っているのですよ」

会場がざわついた。それでも牧野は家元の紹介のあとに美しくお辞儀をして、また表面を見据えていた。
牧野がそうなら俺がビビってるわけにもいかねーからな。
2人で少し顔を見合わせて笑顔を作った・・・いや、自然とそうなった。

「牧野さんとは・・・どちらのご令嬢でしょうかな?あまり存じ上げませんが?」

「牧野さんは一般家庭の方ですよ。何か問題でもありますかな?これからはこのような縁組みがあってもいいと思いましてね。
総二郎の方がこの方でないと上手く動きませんのでな。ご理解いただけませんか?」

なんて事いうんだ!この親父!
事実でももう少し言い方がなかったのか?見ろよ!何人か笑ってんじゃねーか!

「そうは申されましても、西門流は昔から縁組みに関しては異例などございませんよ?然るべきお家柄の
ご令嬢が選ばれておりますよね?」

「我々になんの下話もせずにその席に座らせるとは・・・お家元もなかなか・・・」

家元も家元夫人も苦笑いをしている。俺も何か言えと言われれば話すが家元の許可なくそうすることは
出来ない。

そのうちに古くから西門の後援を仕切っている京都の高城という人が声をあげた。

「よろしいんじゃないですかな?みなさん、このお嬢さんは去年の夏にも若宗匠について京都にいらっしゃいましたが、
非常に気の利くいいお嬢さんでしたよ?今時には珍しいと感心しておりましたが、このようなお立場のお嬢さんとは
知りませんでしたな。よく考えたら若宗匠が変わられたのもお嬢さんのおかげですか?」

「おぉ、高城さん。そうなのですよ、京都ではお世話になりましたね。総二郎が真剣になりましたのも牧野さんの
お陰なのですよ。皆さんもご存じの通り総二郎は落ち着きませんでしたから、私も今は安心できるのですよ」

いや、そんな話しはしなくてもいいんじゃねーか?
親父と会場を交互に見ながら口を出そうかと考えてたら婦人会の幹部から声があがった。

「わたくしも反対はございませんわ。確かにお家柄はあるに超したことはございませんけど・・・こちらのお嬢様は
家元夫人がよくご指導されていらっしゃるから、何度かご一緒しましたけど明るくていいお嬢さんですわ。
婦人会も中々まとめるのは大変な世界ですからね。このお嬢さんなら問題なさそうですわ」

家元夫人がよく連れ出してたけどすでに婦人会にも連れてったのか?俺より手が早いとは・・・。

「では、牧野さん本人からお話ししていただきたいですな。西門に入る覚悟が出来ておいでかどうか・・・」

・・・・・・!!
なんて事を言い出すんだ!こんな席で牧野に発言なんて、そんな事は打ち合わせてもないのに!
それを言い出した重臣の方を睨み付けた。思わず身体が前に出た・・・!

「それは・・・!」
「若宗匠・・・!お座り下さい」

俺を止めたのは牧野だった。
家元が牧野を見て頷いた・・・牧野に発言させるのか?


「皆様、このような場所から失礼いたします。先ほどお家元からご紹介いただきました牧野つくしと申します」

まるでリハーサルでもしたかのように牧野は話し始めた。

「私がこのような場所におりますことをご懸念されることはご尤もと思います。正直なところ私も西門流について
また、茶道というものについて宗家の皆様からご指導いただくようになったのはつい最近のことでございます。
とても、皆様が納得されるような人間ではございません。よく承知しております。
でも、一つだけ持っているものがあるとしたら若宗匠をお支えしたいという気持ちでございます。これだけはどの
方よりも強く思っているという自信があります。出来ましたら今の私ではなく、今後の若宗匠のご活躍を見て頂き
そこに私が関わっておりましたら、その時にご評価頂けたらと思います」

しっかりとした口調で丁寧に話をした牧野にその後何か言い出すヤツはいなかった。

「とりあえずそういう事です。皆様のご意見もありましょうがここは総二郎がこの西門を立派に継いで行くために
このお嬢さんの存在が欠かせんと言うことですから、ご理解頂きたい」

この後は雑談も交えた会食・・・牧野は家元夫人に付いて席を回っている。


「若宗匠・・・そのように心配そうに見てたらまた何言われるかわかりませんよ?」

気の合う後援会の人間から茶化されて・・・それでも牧野をずっと見ていた。
いつの間にあんなこと言えるようになったんだろうな・・・秋頃は怖がってたくせに・・・!
女ってのは強いんだな。お袋もそうだけど・・・。


******


「つ・・・疲れたよ」

会食の席が終わって俺の部屋に戻った牧野は、着物のままソファーに倒れた。

「よく頑張ったな。これで正月の大きな行事は終わったから今日はゆっくりしろよ?なにか飲むか?」

「うん。総二郎が大事にしてるワイン飲もうよ」

「・・・いいけど」

部屋着に着替えて、牧野の希望どおり俺のとっておきのワインを開けた。

「それにしても、お前やっぱりすげーな。いきなりあんな連中前にして良く喋ったな!」

「そう?道明寺のお母さんに比べたら可愛いもんよ?」

「あぁ、司の母ちゃんね・・・そりゃそうだ。だから平気なんだな。でも、俺は嬉しかったな・・・お前が言ってくれた言葉!
でも、よく考えたらお前、俺の仕事っぷりに話すり替えたよな?」

「当たり前でしょ?おば様がそう言えって言ったんだもん」

俺に黙って打ち合わせ済みか?
まぁ、それでもいい。今日の大仕事は終わった。まだ揉めるだろうけど少しずつ片付けていくさ!


*******


牧野のポジションが変わったところで、もう一つの問題もどうにかしないといけなかった。
次はどんな手を使ってくるかわからない。

必ず近いうちに類が出てくるはずだ。

牧野が西門に入るという話をどこかから必ず聞くからな・・・


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