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花沢類は陽翔の失礼な発言を怒ることもなく午後からの講義を受けに戻っていった。
私も「迎えに行くね」なんて言われて、今まで大声出してたのが一気にドキドキの方に変わっちゃって彼の後ろ姿を見ていた。

そして国際経済学部のある校舎に入っていくのを見届けたら自分も教室に行こうとして向きを変えた。
でも、そこにまだ陽翔が立っていて怖い顔は変わっていなかった。

「牧野、お前は甘いんだよ!企業の事なんてまだ無縁かもしれないけどそのうちわかる。あいつらとお前は違うんだ。だから近寄るな。本当に痛い目に遭うぞ!」
「何度も言うけど彼はそんな人じゃないし、私と花沢類は別に・・・そういう関係じゃないの。だから傷つくとかないし、痛い目にも遭わない。万が一、そ・・・そういう関係になったとしても陽翔が言うみたいに何でも思い通りにしようなんて、花沢類は思ったりしないよ。ちゃんと私の話も聞いてくれる人だと思う」

「・・・そんなわけないよ。あいつら自分たちが一番大事なんだから。もし牧野を恋人にしたとしても、お前は守ってもそのために他の人間を傷つける、そんな連中だからな!」
「人を傷つける前提で話すってどうなの?陽翔、あんた医学部なんでしょ?そんな考え方で患者さん看れるの?患者さんって平等でしょ?・・・偏った考えは自分自身を曇らせるわよ?」

お父さんの会社のことで「大企業経営者」を敵視してるのはわかるけど、親はともかく陽翔までが過去に縛られるのはこの「不運」をずっと引き摺りそうで嫌だった。
昔のやんちゃで面白かった陽翔に戻って欲しい・・・そんな風に人を睨む目じゃなくて、細くなって潰れるんじゃないかってぐらい笑ってた目に戻って欲しかった。


「そのうちわかるさ。あいつと恋なんてすんじゃねぇぞ・・・絶対に泣くから」
「陽翔!」

私の声なんて無視して陽翔は医学部の方に戻っていった。
せっかく試験結果が良くて嬉しかったのに・・・!そんな陽翔の後ろ姿を今度はイライラしながら見てしまった。


***********


「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

今日もいつものように大学が終わってからのバイトを頑張っていた。
ファミレスではほとんどがホールで厨房には入らない。注文を聞いて運んで片付けて、それが仕事の殆どを占めてたから夕方から8時までは大忙しだった。

今日も動き回っていたら他のバイトの子が入り口の案内スペース辺りで騒ぎ出した。
私はカウンターの後ろで出来上がった料理をトレーに乗せていたから見てなかったけど、凄く格好いい人が入ってきたらしい。モデルさんか俳優さんか、もしかしたら外人かって、そりゃもう声が大きいから店長の耳に入りそうで怖かった!
誰が注文を聞きに行くかでじゃんけんまで始まる始末・・・忙しいのになにやってるんだか!

「ちょっと、やめなさいよ、じゃんけんなんて!」
「いいのよ、こんなチャンス滅多にないんだから!あんな人、初めてだもん!」
「牧野さんは入らないの?じゃんけん!」

「私はいいわよ・・・」

自慢じゃないけどそんな人は見慣れたのよね、って思いながら、その子達の話は耳で聞くだけでわざわざ見るようなことはしなかった。
そしたら、そのうちの1人が戻ってきて私の肩を叩いた。

「牧野さん、あなたのこと呼んでるけど」
「・・・は?誰が?」

「さっきのモデルみたいな人。禁煙席の一番奥のテーブルにいるわよ」
「・・・私が行くの?」

みんながギャアギャア騒いでるけど、なんで私?って思いながら注文を聞くための端末を手に持って走って行くと・・・!

「・・・あれ?花沢類?どうしたの?」
「うん、迎えに来た。で、あと1時間あるから店内で待とうと思って」

「えっ!迎えに来たの?・・・そ、そうね!まだ7時だもんね。って早すぎでしょう!」
「だからご飯食べようと思って。でも、全然わかんないから牧野、選んでくれない?」

はい?私に選んでって・・・花沢類が何を好きなのか知らないんだけど?この人にこの店の何を選んだらいいのよっ!
家からのお届け品みても最高級品しか口にしたことないでしょ?こんなファミレスの料理、耐えられるのかしら・・・あっ!でも、私のご飯が食べられるって事は大丈夫なのかも?

「ファミレスの経験は?」
「初めて入った。人が多いんだね・・・さっきからあそこに人が行くんだよね。なんなの?」

「ドリンクバー・・・わかる?」
「全然」

「えーと、晩だから和食にしようか?」
「牧野の卵焼きがいい・・・ここにはないの?」
「それは寮専用だからここにはないわね・・・ってそんなメニューないでしょう!」

卵焼きがいいんならって、全然調理方法は違うけどここでは一番金額が高い特製オムライスとシーフードフライのセットにして、スープも野菜たっぷりのものにして生ハムのサラダをつけた。ドリンクは自分で行きそうになかったからドリンクバーからじゃなくてミネラルウォーターにした。

「どうぞ?お、美味しいと思うわよ?」
「牧野は何を作ったの?」

「・・・美味しくなるスパイス、足しといたから」
「ふーん・・・」

もう花沢類の事が気になって他のお客さんのことが出来ない!

同僚はソワソワして私の代わりに行きたがるけど、少しでも近づいたらチロッと睨まれて帰ってくる。それがまたいいらしくて、厨房横のカウンター内できゃあきゃあ大騒ぎ・・・。あの冷たい視線がいいってどういうこと?

「ねぇ!あの人、牧野さんの彼氏?あんなに格好いい人見たことないんだけど!」
「彼氏?そんなんじゃないよ。お隣さんなの」

「えっ!彼氏じゃないのに迎えに来てるの?普通お隣さんは迎えに来ないでしょ?牧野さんの事が好きなんじゃないの?」
「はっ?ちょっと待ってよ、私と彼って似合わないでしょ?冗談やめてよ!」

「あぁ、確かにね。男の方が綺麗って嫌だよね~!それにあれだけ素敵なら当然彼女いるだろうし!」
「・・・・・・」

納得されるのも不本意だけどその通り。
だけど花沢類に彼女がいないのは本当なのよ。じゃなきゃもう少し冷蔵庫が片付くと思うもの。
「普通お隣さんのお迎えなんてしないよ」・・・その言葉には少し戸惑うけど。


「牧野さん、彼がこっち見てる!」
「え?ドリンクなくなったのかな?行ってくるね!」

花沢類のテーブルに行くとちゃんと全部食べてて、さすが育ちがいいから食べ終わったあとの食器も綺麗だった。
周りに座ってる人も女性は赤くなって彼を見てるし、中にはこっそりスマホ向けてる人もいる。そんな中で上品に口元を拭きながらボソッと一言。

「あと10分だね。珈琲ぐらい飲める?」
「えっ?!もうそんな時間?ホントだ・・・で、珈琲?でもここの珈琲は花沢類には無理かも・・・」

「そうなの?じゃ、帰ってから珈琲飲もうか?」
「え?帰ってから・・・花沢類の部屋で?」

「うん、そう。じゃ、もう車に行っとくね。早く出てきてね」
「う、うん!わかった・・・」

にっこり笑って席を立ったけど、よく見たら伝票置いて行ってる!
なんか渡しにくいけどこのまま帰ったら無銭飲食だからーっ!って慌てて伝票持って追いかけた。
もちろん現金なんて持ってないからカードを出して、そのカードが私にはわかんないけど高級すぎて店長がビビってた。

そしてバイトが終わって急いで外で待ってる車に向かって走って行く。
今日は花沢類が外に立ったまま待っててくれて、私が行くと助手席のドアを開けてくれた。そんなことも初めて・・・なんか調子狂っちゃうけど小さく手を振って迎えてくれる彼にドキドキしながら乗り込んだ。

「お疲れ様。あんた、よく動くんだね」
「え?今日は花沢類にかかりっきりだったから動かなかった方だよ?いつもはもっと凄いよ?」

「ははっ!俺、邪魔だった?」
「いや!そんなことはないよ!でも・・・他の子が騒ぐから・・・」

クスクス笑いながら初めてのファミレスの感想なんてものを聞きながら寮まで帰った。
そこに着くとやっぱり先に降ろされて時間差で入って行く。もう何回も使ってるこの手口を守衛さんが気づかないはずはないと思うけど、それでも知らん顔して先に部屋に戻っていった。

部屋の電気をつけて荷物を置いて、洗濯物を取り込んだら汗をかいた服を着替えた。
もうお風呂に入って寝るだけなのに「珈琲飲もうか」の言葉が頭の中に浮かんでるから・・・。

そしたらスマホが光ってメッセージを伝えてくれた。

『出ておいで』

急いでベランダに行ったら花沢類が両手を差し出してくれる。だから何も言わずにその手を掴んで彼の部屋に飛び移った。
その時にポスッと当たってしまう胸に今日は特にドキッとする。

「夜に飲んでも大丈夫?」
「うん!もう少し勉強するから」

「俺、珈琲だけは煎れられるから待ってて」
「あはは!珈琲だけね!」

今でも全く使われないキッチンで花沢類が珈琲を煎れてくれてる。
普段インスタントしか飲まない私にはすごくいい香り・・・花沢類は珈琲には拘りがあるんだって。良かった、ファミレスの珈琲なんて出さなくて。そう思いながら彼の姿を目で追っていた。

そして綺麗な珈琲カップが2つ並んで、その後に冷蔵庫から可愛らしいケーキが出された。
クリームが薔薇の花の形をしててその周りにフルーツが沢山・・・食べるのが勿体ないぐらいのケーキ!

「うわあっ!こんなの初めて見た!可愛い・・・って私だけ?」
「そう。試験頑張ってAクラスに入れたお祝い」

「ホントに?花沢類からの・・・お祝い?」
「そうだよ。食べな、こんな時間だけど」


今まで試験を頑張ったからってケーキなんて買ってもらったことがない。大学に合格した時の晩ご飯だってアジの煮付けと味噌汁だったもの。
それなのにこんな可愛いケーキが目の前に・・・それに感動して涙が出ちゃう。

「え!どうしたの?なんで泣くの!」
「・・・だって嬉しいんだもん。こんなことされたことないし・・・ケーキなんて1年で1回食べるかどうか・・・」

「そうなの?じゃ、今度からご褒美の時には買ってあげるね」
「花沢類、これカメラで撮って?」

「えっ?!ケーキを撮るの?」

いきなりの私の要求に驚いたようだったけど、どうしても記念に残したかったの。スマホは部屋に置きっぱなしだったから彼に撮ってもらってメールで転送してもらった。

「じゃ、いただきまーす!」
「・・・女の子って変なの。ケーキなんてまた頼めば作ってもらえるよ?」

「・・・ふふっ!いいのいいの!この瞬間を残したいのよ」
「よくわかんない・・・」


何年ぶりかのお祝いのケーキは最高に美味しかった。
花沢類の笑顔と、いい香りの珈琲と、2人っきりの部屋・・・ちょっと勘違いしそうなこの時間が止まればいいのに、なんて思いながらケーキを口に運んでいた。




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2018/05/21 (Mon) 12:51 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

私、さとぴょん様のコメント読んでから気がついたんですが・・・。
類君、cantabileでは払ってんのかな(笑)

伝票システムを知らないって事で皆さん、納得してくれるかな?
実は橋本さんが「払って」って言えずに類君が毎回黙って帰ってたら驚きですね。

凄いカードで払ってるのか?
cantabile、カード払いが出来る店にすればいいのか!!ははは!


まぁ、いいか。(いいのか?)


さとぴょん様、贅沢ですよ!
うちの旦那は誕生日に「フルーツたっぷりヨーグルト」って100円ぐらいので終わったんですよ?!
私がケーキを食べないってのもあるんですが、それにしてももう少しお金掛けても良くないですか?

びっくりするのがホワイトデー!
ういろうだったんですよ?ういろう1本!!

あのね・・・どんどん金額が下がってるんですよ。

1年目とかはダイヤの指輪買ってくれたんです。
3年目はネックレス
10年目はなんとミシン!これ8万ぐらいのヤツ。
それからはどんどん下がってとうとう今年は100円よ!!

どーなのっ!!これはっ!来年は50円か?!

2018/05/21 (Mon) 18:15 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/23 (Wed) 13:38 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

あはは!なんだか熱が入ってましたね!
えーと、なんて言ったらいいのかなぁ(笑)

ヨーグルトでも外郎でも文句言っちゃダメなのね?


あの、人ってとんでもないことが起きたときに本性がわかると思うんですけど、
うちの旦那が交通事故で死にかけたのが3年前なんですよ。丁度6月なのでホントに3年経つんですがね。

書いたことあるかなぁ・・・初めに電話もらって病院教えてもらって、深夜に駆けつけたんですよ。
看護師さんや先生達が凄い数集められててそりゃもうドラマみたいでね。

でも、何が起きたかわかってなくて、旦那が被害者なのか加害者なのかもわかんなかったんです。
ただ、看護師さんから「奇跡的に命は助かってますからね!」って言われて手術前に会ったんですよ。
血まみれの旦那に・・・。

その時の私の1番初めの一言。うなされて目も開いてない旦那に(笑)

「どっちが加害者なん?」
「俺は被害者・・・」

「・・・・・・大丈夫ーっ?!頑張ってねっ!!」

一部始終見てた子供に後で「お母さん酷い」って言われました(笑)

だってねぇ!加害者だったら看病どころじゃないですもん!


これでもラブラブって言うの?

2018/05/23 (Wed) 23:31 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/24 (Thu) 12:32 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

えー?だって(笑)
その時ですね、実は娘の受験2日前だったんですよ。
それなのに金曜日の夜に事故に遭って、緊急手術が真夜中から朝の5時まで。
それから帰って1度子供を寝かせてまた病院に会社に身内に連絡でしょ?

それが加害者ならもっと大変じゃないですか(笑)

日曜には早朝から子供を現地に向かわせ、また病院。で、その後も大手術が計3回。
一番長いときで9時間の手術でした。



それなのに3年経ったら外郎?!冗談じゃないわよーーっ!!

2018/05/24 (Thu) 22:20 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/25 (Fri) 10:24 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

ははは・・・さとぴょん様、この案、もらった!!
使わせてもらいます!

ふふふ・・・何処で使うか楽しみにしててね!

2018/05/25 (Fri) 18:41 | EDIT | REPLY |   

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