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花沢類のヴァイオリンを聴いたのは初めてだった。っていうか弾けることを知らなかったから驚いた。
この前聞いた「トロイメライ」もこの人だったんだ。

すごく温かみのある綺麗な音・・・涙が出そうなのを必死で堪えたけど最後の方は泣いていた。


「今日は講義が早かったの?こんな時間に珍しいね」
「うん。いつもはこの時間にイタリア語があるんだけど教授の都合で中止になったの。今度振り返られるんだって」

「そう・・・それでここに避難してきたの?くすっ、誰にもバレてない?」
「誰にも言ってない。ここで珈琲飲もうと思って買ってきたの。花沢類のも買ってくればよかったな。ヴァイオリンのお礼に・・・」

「お礼?あはは、あんたのために弾いてたんじゃないよ?勝手に弾いてるんだ・・・時々だけどね」

花沢類はそう言ってヴァイオリンをしまおうとしたから慌ててその腕を止めた!

「あっ、ごめん!あの、じゃあさ、何か弾いてくれない?もう少し聴きたいの。リクエストしたいけどヴァイオリンの曲はわかんないから任せる!もう一曲だけ・・・!だめ?」
「・・・ぷっ!ホントに聴きたいの?そうだな・・・じゃ、優しい曲ね。あんた、悲しそうな顔してるから」


このあと弾いてくれたのはシューマンの”ロマンス”っていう曲。
スローテンポで穏やかな、言われたとおり優しい曲だった。今度はちゃんと私の方を向いてくれてる・・・花沢類の顔を見ながらこの曲を聴いていた。

あの薄茶の瞳が少しだけ伏せ気味になって、綺麗な指先が私に魔法を掛けてるみたい。流れてくる音は耳からだけじゃなくて直接心の中に染み込んでくる。
普通の教室なのに背景が違うように感じる。森の中とか・・・湖の畔とか。花沢類の魔法に掛かって、私たちはそんな自然の中に入り込んでるような錯覚を起こしてた。

こんなに近くで聞いたことがないから?それとも・・・弾いてるのが彼だから?


誰かのことを想ってるんだろうか・・・とても大事な人を思い浮かべて弾いているような気がして切なくなった。
もしかしたら花沢類、好きな人がいるのかしら。今、その人の事考えてる?
どうしてそんな目をしてるの?・・・って疑問が沢山湧いてきて止まんない。それが涙になってポロポロ溢れだしたから花沢類が演奏をやめた。

「・・・どうしたの?涙出てる。そこまで悲しかった?」
「違うの。なんか、切なくなっちゃった。花沢類があんまりにも優しい顔して弾いてるから」

「え?ホント?・・・じゃ、お婆さまの事、考えてたからかな?」
「えっ!お婆さま?」

「うん・・・俺のヴァイオリンの先生はお婆さまだから。もう亡くなってるんだけどね。弾く時にはいつも思い出すんだ」

・・・お、お婆さまか!びっくりした・・・。
意外な返事にそれまで流れていたものがぴったり止まった。ホント・・・この人は何考えてるんだか。


ここは音楽堂の中にある弦楽器の部屋らしい。鍵盤楽器や管楽器別にレッスン出来るように分けられてるんだとか。そしてどの部屋にも伴奏用のグランドピアノが準備されていた。
さすがセレブ大学・・・音楽科はほとんど生徒がいないのに設備だけは一流なんだ。私がそのピアノの方に目を向けていると花沢類がクスクス笑った。

「この前のあんたの”キラキラ星”・・・すごく驚いた。あんな風に弾くだなんて思わなくてさ。勿体ないね、音楽続けなかっただなんて。ここでもサークルとかあるでしょ?考えないの?趣味でも自由に演奏できるって幸せだよ?」

「ううん。バイトしなきゃいけないし、そんな余裕が時間的にも金銭的にもないの。ピアノはね・・・触ると弾きたくなるからいい。あの時は久しぶりで楽しかったー!いつもね、あのラストの部分で躓くの・・・指が短いから上手く回らないのよね!」

「でも、すごく良かったよ。俺ももう一度聴きたい・・・今度cantabileで弾いてよ。実はあそこの2階にもピアノがあるんだよ」
「そうなの?うん!じゃあ・・・また今度連れてってね!」

「ん、今度ね」

本当は弾いてみたかったけど、今ここで私のピアノなんて聴いたら今までの彼の演奏が何処かに消えてしまいそうなんだもの。
もう少しの間、自分の胸の中であのヴァイオリンの音を思い出したいじゃない。だから弾かなかった。それに私のピアノの音を誰かに聴かれるのも恥ずかしい。自己流で飛び跳ねた演奏しか出来ないから。


ここで買ってきた珈琲のことを思い出して鞄から取り出し、花沢類にスッと差し出した。


「あの、これ・・・やっぱりお礼したい!弾いてくれてありがとう。すごく嬉しかった!」
「え?いいよ。牧野が飲んだらいいじゃん、飲みたかったんでしょ?」

「そ、そうだけど・・・」
「変なの。俺は片付けるからその間に飲んどきな。バイトは間に合うの?」

「う、うん!大丈夫・・・じゃ、いただきます!」

あげるって言っておきながら結局自分で飲んでる珈琲。でも、味なんてわかんなかった。
目の前でヴァイオリンを拭きながらケースにしまう花沢類の手の動きをずっと見てしまう。さっきまでその手があの音を出していたかと思うと、やっぱり魔法使いの手なのよ!なんて思いながらストローを咥えてた。

ケースにしまわれたヴァイオリンが保管庫に入れられたら、クルッと向きを変えて私の目の前に来た。そしてじっと見られてる・・・何を見てるんだろうって思ったらとんでもないことを言われた!

「牧野の飲んでる珈琲、ちょうだい?」
「・・・はっ?」

「やっぱり喉渇いた。ひと口ちょうだい?」
「・・・・・・」

私は紙パックの珈琲をストロー刺したまま無言で花沢類に渡した・・・多分、頭は真っ白だったと思う。
そしてそのストローで彼が本当にひと口飲んで、また「はい、ありがと」って返してくれた!・・・えええーーーっ!!

この残った珈琲!どうやって飲んだらいいのっ?!花沢類が・・・花沢類がここに口つけたんだけどっ!
そのストローの先が気になって仕方ない・・・もう一度ここを自分の口に入れる勇気が出ないーーっ!アタフタしてるうちに彼の方が「じゃあね!」って言って音楽堂を出て行ってしまった。

「うそ・・・ど、どうしよう!このまま飲んだら、このまま飲んだら・・・所謂、間接・・・」


でも・・・まぁ、直接じゃないし?このぐらいでドキドキするのも変じゃない?子供じゃあるまいし!
なんて言いながらそれを思い切ってパクッと咥えて残りの珈琲を飲んだ。


・・・・・・気のせいかしら。甘さが倍増した感じがする。


************


お婆さま以来2人目だ。
俺の演奏を聴いて涙してくれた人・・・もう一度聴きたいと言ってくれた人。橋本さんと牧野だけ・・・いや、他の人の前では弾けないだけだけど。『自由に演奏できる場所』をcantabileとあの部屋以外、持っていないから。

優しい顔で演奏してるだなんて言われたのもお婆さま以来。
何故か嬉しくて気恥ずかしくて、牧野の顔をまともに見ることが出来なかった。

だから先に部屋を出てしまった。
ごめんね、って下まで降りてからあの教室を見上げた。まだあそこに1人でいるのかな・・・あの珈琲飲みながら。


今日は頼んでおいた楽譜が入ったっていう連絡が楽器屋からあってそれを取りに行く予定だった。

その店も俺の素性は知ってるけど屋敷には内緒にしてる。言えばこの店にも何か仕掛けるかもしれないから。自分が出入りするだけでその店の経営に影響が出るなんて考えたくもなかったけど、事実俺にヴァイオリンを教えていた先生は日本での演奏は出来なくなっている。

店内に入ると白髪の男性がにこやかに出てきて頼んでいたものを用意してくれた。

「花沢様、ご依頼のヴィターリの”シャコンヌ”です。難しい曲をお選びですが何かコンクールでも?ご趣味でこの曲をお選びですか?」
「コンクールなんて全然考えてないから。ただの趣味・・・たまにはバロックもいいかと思ってね」

「さようですか。いつか聴いてみたいものですねぇ。また何か弾いてみたい曲がありましたらお申し付けくださいませ」

「ありがとう」


楽譜を手に入れて店を出ようとした時に、ふと目に入ったピアノの楽譜。
そこにあったのはサン=サーンスの”白鳥”・・・それを手に取ってパラパラと捲った。

あの”キラキラ星”を弾けるのならこれは全然問題ないんじゃないだろうか・・・そう思ったらこの楽譜も買ってしまった。ついでに「トロイメライ」の楽譜も。

「おや、ピアノもお弾きになりましたか?」
「・・・いや、弾かないけどね」

「花沢様は芸術的センスがおありだから今からの挑戦でもすぐに弾けますよ」


自分で演奏しようなんて思わない。

そうじゃなくて・・・いつか牧野と弾きたい。
俺のヴァイオリンの伴奏を彼女に頼みたい・・・。同じ時間を過ごしたい、そう思うようになっていた。




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2018/05/23 (Wed) 14:14 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

ほほほ、音楽聴きながらとは流石ですね!
私はモーツアルトピアノ全集ってのをこの度追加購入しましたぁ!

そこにはきらきら星変奏曲があったんですよね♥
前持ってたのは傷が入ったのか綺麗に聴けなくなってしまったので。

いつか協奏させてあげたいですねぇ・・・ってつくしちゃんがピアノってイメージが全然ないですけどね(笑)
お嬢様になってしまうわ(笑)

アジの煮付けを食べてるお嬢様・・・私なら鯖にしたい。
アジは南蛮漬けがいい・・・あ、そういう話じゃなかったか!(笑)

忘れてたでしょうがこのお話の花沢パパはイマイチのおっさんです。
お婆さまに頼まれて類君に数年間ヴァイオリンを教えた先生は外国に逃げたようです(笑)怖い~💦
何したんだろうね・・・ってここは書かないですけどね。


全然関係ないですが類君が買った楽譜ですが「毎探偵コナン」映画で使われた曲です(笑)
聴いたときに「あれ?この曲何処かで・・・」って思って記憶を辿ったら、「戦慄の楽譜(フルスコア)」ってヤツでした。

2018/05/24 (Thu) 00:22 | EDIT | REPLY |   

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