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和真の冷たい顔が目の前にある。
お互いに腕組みしたまま睨み合っていたが、それを志乃さんとつくしがオロオロしながら見ていた。

「総二郎様のお気持ちはわかりますが、ご自分のお仕事はきちんとしていただかないと困ります。そんなに沢山の仕事を弟子に任せるだなんてとんでもない!予定通りに行っていただきたいのですが?」
「和真の言うことは分かるがある意味非常事態だ。つくしの稽古はあと1ヶ月が勝負。俺の半東だから俺がいないと稽古にならない。だから調節してくれって頼んでるんだ」

「だからって半年も前から決まっている九州訪問まで弟子に代行させるのはどうかと思いますが?たった3日間です。その間、他のお稽古も出来るでしょう?」
「人に任せたくないんだって。俺が出来るだけ見てやりたいって思ってんだ!」

「総二郎様が傍で見ていた方が集中できないかもしれません。それに毎回健全な稽古が出来ているんでしょうか?」
「・・・お前こそ仕事中、毎回俺に触ろうとしてるじゃねぇか!」

「お着物の埃を取るぐらいいいじゃないですか!」
「埃なんかつかねぇところにまで手を伸ばしてねぇか?!」


「論点がズレておりませんか?お2人とも・・・」
「和真さん、まだそんなコトしてるの?」

個人的感情丸出し・・・それはわかるがこの非協力的な秘書に頭にきて打ち合わせが進まなかった。
何も一生弟子に仕事を押しつけるわけじゃなし、この短期間に色んなものを詰め込まなきゃいけねぇから頼んでるのに。

テーブルに並べられた俺のスケジュールに「外せないもの」ってのにチェック入れていたらほとんどが外せねぇと来た!せめて地方回りは誰かにって頼んでるのにそれすら首を縦に振らない。
稽古しなくていいなら同行させたいところだけど、婚約者候補の状態じゃそこまで出来ないと親父に止められるし。


「総二郎さん、私ならこの九州に行ってる間はちゃんとお茶のお稽古するから大丈夫よ?志乃さんも家元夫人もいるし、それに古弟子の田中さんとか山田さんとかもいるし」
「男は絶対にダメ。親父ならまだしも田中でも山田でも2人で稽古とか許さねぇからな!」

「総二郎様、そこまで仰られてはこの先何も出来ませんわ。まぁ、私が何処かに行くと言うこともございませんからお任せくださいな」

志乃さんが呆れたように言うから仕方なく九州訪問は行くことにした。
だが、それ以外の関東外の仕事は無理矢理弟子に回させて、極力つくしの稽古に付き合うことにしたけど和真の機嫌はますます悪くなり、打ち合わせ終了の挨拶もそこそこに部屋を出て行かれた。

「なんだ!あいつ・・・そこまで怒らなくてもよくないか?マジ、ゲイの考えることはわかんねぇな!」
「総二郎様がご無理なことばかり仰るからですわ。和真さんは仕事熱心なだけです。牧野さんのことばかり言われましたら本邸から出られないじゃありませんか。仲が宜しいのはいいことですけど度が過ぎたら使用人にも示しがつきませんよ?」

「そ、そうだよ・・・まずは自分の仕事から!お家元にもそう言われたでしょ?」

「・・・わかったよ!」

そうは言うが半東するのも俺と何度も繰り返し茶事の稽古しなきゃ癖が掴めねぇし、タイミングも計れない。半東の一番大事な仕事はスムーズに茶事が進み、客に過ごしやすい空間を作ることと亭主が茶事に集中出来るようにサポートすること。
まぁ、初めてだから俺のサポートは気にしなくてもいいけど、俺が茶事に集中できなくなるようなドジだけは踏ませられねぇし。

その時間の流れが止まって客が戸惑うようじゃ台無しだ。
茶を点てるだけの茶会とは訳が違うからな。

「じゃ、今日は先週の続きからだな。奥の茶室で”待合”の動きから確認しようか」

「はい、宜しくお願いします」


************


「いいか?茶室の入り口もそうだが”寄付”や”待合”に進むときも準備が出来たことを知らせるのは言葉じゃねぇんだ。この”手掛かり”を少し開けておく。客はそれが開いていたら中に入ってくるって決まりだからな。で、末客が揃ったことを伝えてくるからその時、半東が”汲出し”を出す。汲出しは届けるだけであとは客達がすることになってるからまずはそこまで」

「はい、わかりました」

正式な茶事の流れをお復習いしていく。
順番や用語が難しかったけど毎晩のように部屋でも復習がてら話をしてもらってるから随分わかるようにはなってきた。でも、当日は総二郎の説明はないのだから自分で進めなきゃいけない。
何度も同じ事を繰り返して”席入り”までの流れは覚えた。

それからも総二郎の茶事の進め方を教えてもらって何処で半東が動くのかを確認。
この辺りはほとんどが「水屋」という裏の仕事だから小さな声でならアドバイスしてもらえる。私は兎に角彼の動きを覚えることに必死だった。

難しいのは懐石だったけど、これも半東の出番はない。
裏で準備するだけだけど、タイミングさえ覚えればなんとかなりそうだった。


後座席入り・・・ここから濃茶点前、薄茶点前とお茶をいただく時間に移る。

「初座、所謂懐石の時は『陰』、後座の茶の時は『陽』を示すから、後座になったら静かに御簾をあげるように。音は立てちゃダメだからな。場が白けるから」
「この時のタイミングは?」

「半東が行う時は濃茶が始まってからでいい。その時、同時に蹲踞つくばいから柄杓を下げるようにな」

これが済むと炭手前と薄茶は亭主に任せて半東は水屋の片付けを静かに行う。

懐石やお茶の作法を省いて何度も手順の確認をする総二郎は私よりも必死に見えた。
それだけ本気で考えてくれてるんだと思うと嬉しかった。すごく難しくてこんがらがるんだけど、この人に追いつくために私も一生懸命頭に叩き込んだ。

それなのにたまにお稽古中に横道に逸れることもしばしば・・・。

「いいか?何があっても足が痺れたって転けるなよ?お前が一番苦手な『静かにする』ってのが重要だからな。いきなり水屋で叫び声があがっても俺は助けに行けないから。茶室にも飛び込んでくるなよ?客の前で抱きつかれても受け止めてやれるかどうかわかんねぇし」

「・・・私をなんだと思ってんの?総二郎こそお茶事の最中に水屋で襲わないでよ?!」
「そこは・・・なんとか我慢しようか」

「何する気なのよ!真面目にやって、真面目に!」
「ははっ!真面目だって。結構長い時間正座してるから足が痛むんじゃないかって思って和ませたんだろ?優しいよな、俺!」


まだ少し痛む足・・・総二郎の手の傷もまだ完治はしてないけど、あの時の事を思い出す。

『守ってやるから』・・・でも、守られてばかりじゃダメなんだって思う。
総二郎の支えにならなきゃいけない。彼が伸び伸びと茶席を楽しめるように・・・そのために私がいるんだと思いたい。


総二郎が講演のために本邸を出る時間になった。
和真さんが茶室まで呼びに来て「お着替えを・・・」って言うと静かに立ち上がった。

「つくしはこのままここで志乃さんに茶の稽古をつけてもらえ。毎日しないと京都行きまで日にちがないからな。考えて動いてちゃ爺さん達はすぐに見抜くから、覚えたかもしれないが手順の確認は毎回しておけよ」

「はい、わかりました。行ってらっしゃいませ」

恥ずかしいんだけど志乃さんに言われたように仕事で本邸から出るときにはきちんと挨拶をする。
今日も茶室に座っていたから両手をついて挨拶したら、いきなりパタンと扉を閉めた。

「あれ?和真さんがそこにいたのに・・・」
「ばーか!なんで見せなきゃいけねぇんだよ」

急に普段と変わんない言葉に戻ったかと思えば、座ってる私の横に来てふわっと抱き締めてくれる。

微かに鼻を擽るサンダルウッドの香り・・・大好きな彼の香り。
私の肩に顎なんて乗せて、頭の後ろ側から聞こえてくる声・・・「頑張れよ」って。


「うん、頑張るよ。総二郎も頑張れ!」
「くくっ・・・俺に言うとはたいしたもんだな」

必ず行く前には優しいキスが来る。

私を安心させるために。
私に勇気をくれるために。


「行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」



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本日も難しい部分がございますね。
お茶室に入る前にこのような入り口がございます。
この画像ではわかりにくいのですが、この木戸を5㎝ぐらい開けておくことを「手掛かり」と、言います。
こうしておくとお客様は黙って入ってくるわけです。初めに行くのは「寄付・待合」です。


yjimageI0286AYA.jpg

これは躙り口。
少し開いてるのがわかりますでしょうか?これが「手掛かり」です。


yjimage5ZDD1FIH.jpg

こちらは茶室の隣にある「水屋」です。
茶懐石の時はここで準備をします・・・料理は作りませんけどね(笑)


yjimageNJHAWZMC.jpg

「汲出し」はこちら。
白湯に桜の塩漬けやあられなんかを入れたものらしいです。


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2018/05/29 (Tue) 13:09 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

もう自分のものにしたら嫉妬の塊です(笑)
相手が古弟子のおっさんでもダメ。男は厳禁ですっ!和真はいいみたいよ?

もうあんまり茶道の詳しいところは出ないと思うんですけどねぇ・・・。
書いてて絶対に経験者以外はわかんないだろうな!って思うところだけ参考資料付けました。

総ちゃん、よくこんなコトするよねーーっ!!
私、総ちゃんのことが好きになったから本気で茶道しようと思ったんですが、本を読んで諦めました。

無理だよ・・・こんなの。足が痺れるよりもお茶点てる前に死んでしまう・・・。


ふふふ、この程度のプチ甘エロなら全然平気!何回でも入れますともっ!
頑張りまーす!

2018/05/30 (Wed) 00:49 | EDIT | REPLY |   

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