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京都に行く前のお稽古は毎日厳しかった。
総二郎がいるときには彼がついてくれて、そうじゃないときは志乃さんというより家元夫人が積極的に稽古をつけてくれた。

いつもはお茶目な家元夫人だけどお稽古の時は人が変わったようになる。
特に表千家では男性の場合と女性の場合では動きにほんの少し違いがあるらしくて、その部分を徹底的に直された。

今日もまず茶室に入った瞬間に動きを止められた。

「つくしちゃんは今まで気にしたことがないから畳の縁を時々無視するみたいだけど絶対にいけませんよ?これにも意味があるのですからね」
「はい、気をつけます」

「昔から畳縁にはその畳に座られる方の身分によって色や柄が決められていましたの。公家や貴族が座られるものと天皇や上皇がお座りになるものはそれぞれ織りが違っていたりね。そうやって相手を敬うために分けているものなのですよ。そして家紋を畳縁に使っている場合もありますでしょう?その家の顔を潰すと言うことになります。ですから、何処のお屋敷に行っても和室の場合には踏んではなりません。そして茶室の場合は修行僧の黒染めの衣を表しておりますので黒と決まっています。これはお客様と点前側を区別するものですから当然踏んではなりませんよ」

そう言えばここに入った頃に総二郎に畳にも意味があるって言われた気がする。その時は関係ないって思っていたけど、まさか本当にこの意味を知らなくちゃいけなくなっただなんて。

気にもしなかった事が沢山ある。
何故これが必要なのかって聞かれたらまだ答えられないけど、それが「伝統」なんだろう。

総二郎が語り継がなくてはいけないもの・・・無くしてはいけない西門の、茶道の心・・・。
私が手助けできるのかどうか毎回不安になるけど、それでも必死に勉強した。


時には家元夫人について外出もした。
老舗の呉服屋さんに茶道具のお店。書の専門店に古くから付き合いのある和菓子屋さん。

後援会の幹部の方のお屋敷や婦人会の主要メンバーによる昼食会や華道の展示会に歌舞伎の観劇。よくも毎日こんなに行事があるもんだと思いながら、行けるときにはお供をした。
総二郎があまり行き過ぎると私が疲れるからって注意してくれるけど、家元夫人はこのお出掛けが嬉しいらしくてやめることはなかった。

「お袋!わかってんだろうけど歌舞伎とか見てる場合じゃねぇんだって!毎日絶対に茶だけは点てねぇと向こう行ったときに緊張して手順がぶっ飛ぶかもしれねぇだろうが!」
「あら!これも重要な事なのよ?無事にお爺さまが認めてくださればすぐにこちらの幹部の皆様にご紹介でしょ?あぁ、あの時の方ね?ってすぐにわかっていただけたら楽じゃないの!」

「その前に必要なのが茶の稽古だって!もし何か質問でもされたら詰まらずに喋んないといけねぇんだから!」
「やぁねぇ!ちょっと自分が留守の時に私が連れて出たからって親にまで嫉妬するってどうなの?」

「そんなんじゃねぇって!」
「・・・ケチ!」

よくわかんない親子げんかの横で毎回私と志乃さんは黙って聞いていた。

**

晩ご飯はあれから毎日お作法を兼ねた「会席料理のお稽古」が続いてるから、はっきり言って食べた気がしない。
「懐石料理」とはお腹の空いた状態でお茶を飲んで身体に負担を掛けてはいけないからいただく茶席のための軽食。これについては今回は私がやらないだろうということで省いたけれど、所謂大勢による食事会の「会席」は逃れられない。

普段からそんな料理を食べない私にはお腹が空いてるのにお稽古という拷問だった。

「いいか?会席料理は一品ずつ運ばれてくるから出てきた順に食えばいい。それぞれの料理の食べ方を説明しとくから覚えろよ?もしかしたら京都の連中がわざと俺達の席を離す可能性もあるから隣で真似するとか出来ない場合もあるからな」
「えっ!そんな意地悪するの?」

「わかんねぇ・・・一乗寺の爺さんはよくそんな悪戯をして楽しむ人だからな」
「意地悪じゃなくて悪戯なんだ・・・」

会席料理はまず、先付から出てくる。
先付をいただく前にお茶かお酒を先に一口いただくのが基本で、このとき、一口で飲み干さず何回かに分けて飲み干すようにするらしい。多くは肴の盛り合わせだから手前から食べ進めて盛り付けを保つんだって。

「つくしちゃん、お吸い物は箸洗いとも呼ばれていて、本格的な料理の前にお箸と口の中をきれいにするためのものなの。ふたを開けたらまずは香りを楽しんで、次に汁をいただいて、その次に具をいただくのよ」
「は、はぁ・・・いきなり飲んだらダメなんですね?」

「そう!香りをいただくの。ちゃんとそういう所のチェックが入るわ。私も1回失敗したのよ・・・つい、お腹が空いててグイッと飲んでね、先の家元夫人に叱られたってもんじゃないわ!」

・・・そこまでのことなの?お吸い物が?
目の前の澄まし汁の方が私のことを馬鹿にしてる気がしてきた。そしてすでに味がわかんない・・・。

このあとも、お造りは淡白な白身や貝類からいただいて、味の濃い赤身は最後の方にいただくのが基本だとか、わさびはお魚に直接つけてそのお魚を醤油に軽くつけていただくのが正しいとか、しょうゆ皿を手に持つのが基本だとか?もうパニックだ!

煮物は「煮物」とは呼ばず「炊き合わせ」と言うらしい。焼き物の主流は旬の魚介類を焼いたもの。たまにはお肉の時もあるけど、西門では基本お魚だそうだ。
あとは天ぷらが出たらやっぱり盛り付けを崩さないようにするらしい。

「1番失敗しそうなのが茶碗蒸し。吹き冷ましたりすんなよ?混ぜるのもダメ。音も立てるなよ」
「・・・食べないほうが楽だよ・・・」

「バカ言え!そんなわけいくか!」

最後のお食事にはご飯とお味噌汁、お漬物。
多分この頃には精神的疲労が大きくて何も食べられないと思う・・・すっごい溜息をついたら笑われながら「今は普通に食べなさい」と言ってもらえたけど、やっぱり喉を通らなかった。

会席料理の最後には「水菓子」と呼ばれるデザート。
デザートってぐらいだから和菓子が出るのかと思ったら本来の意味は「果物」らしい。会席料理の場合ほとんどが季節のフルーツが綺麗に盛り付けられて出されるんだって。でも、それも決まり事ではなくて地方によって多少の違いがあるとかないとか・・・。

「たまに関西では”羊羹”とか出るんだけど、京都は”わらび餅”の可能性も高い。東京ではほとんどが果物だ。江戸時代以降は菓子ってのは人が手を加えた甘い物って意味に変わって、フルーツのことを”水菓子”っていうようになったわけ」

「チョコバナナが出てきたら?」
「出ねぇよ、そんなもん!!」

総二郎の最後の一言は「とにかく綺麗に食え!」だった。


*********


「悪いな・・・本当ならもっとゆっくり教えるのに。疲れんだろ?」
「うん・・・もう、くたくただよ。ご飯で疲れるとは思わなかった・・・」

こう話すのは俺の部屋の風呂の中。

1度そうなってからはちょっと慣れてくれたのか少し強請れば一緒に風呂に入ってくれるようになった。
しっかりとタオルで隠されてはいるけど、そんなものすぐに役に立たなくなるのに・・・それでも恥ずかしがるから最初は見逃してやってるわけだ。

しかもわざわざバスミルクまで入れて見えなくしてやがる。
そんな照れ屋なところも可愛らしくて許してやってる。でもつくしの身体が見えないって事は俺の手足も見えないって事だから、手を伸ばしてつくしの腰を掴まえた途端に大声を上げる。

「もう、またぁ!ちょっと、何処触ってんのよ!お風呂はのんびり入りたいってば!」
「いいじゃん、気楽にすれば。ほら・・・もっと寄れって。離れても追い詰めるだけだから」

「だから一緒に入るの嫌だって言うのに・・・もう、ホントにエロだよね?」
「エロとか言うな。惚れてるんだって・・・疲れをとってやるからさ。そのためにはこれが1番なんだって」

「え?何が・・・きゃっ・・・」


小さくて細いつくしの身体を丸ごと抱え込んで抱き締める。
身動きできないほど腕の中に閉じ込めたら・・・甘いキスをする。


お疲れさん・・・。

明日も・・・頑張れ。




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またまた参考までに♥
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これが茶懐石。ご飯はホントにちょっとだけですね。


yjimagekaiseki2.jpg
こっちが宴会の会席料理
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Comments 6

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2018/05/30 (Wed) 15:56 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/30 (Wed) 19:19 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

私もねぇ、懐石と懐石、今まで勘違いしてたんですよ(笑)
多分過去のお話で懐石料理って書いた気がする・・・茶懐石ってとんでもない粗食なんですよ!

念のため画像付けたから見てみて?茶懐石は・・・意味あるのか?って量ですね。
そもそも食事って意味じゃないのか!(笑)

会食のマナーって私も言葉では知ってても実践出来ないです。
天ぷらもね、前の方から食べて盛り付けを崩さないって言うけど、一番下の方にたまに大葉の天ぷらがあるんだけど、それから食べちゃう(笑)
だから総崩れ・・・ははは!総ちゃんから嫌われちゃう!

バナナ1本をナイフとフォークで食べたことがあるんですが、難しかったです。
いいじゃん!手で持って剥いたらさぁ!って叫んでました。


頑張れ!つくしちゃん!応援してるからねーーーっ!

2018/05/31 (Thu) 00:00 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは。

コメントありがとうございます。

ははっ!覚えなくてもいいですよ~!
何となく流れで書いてるだけですから、「そうなのねぇ・・・」って思っていただけたら十分です。
書いてる私でも毎回お茶の本を横に置かないと手順なんて覚えられません。

随分言葉だけは覚えましたけど、流派によって手順も変るって聞いて驚きました。
一番驚いたのは今まで愛読していたお茶の本が、実は裏千家だったと言うことでしょうか・・・。

最近知ってびっくりしました。

総ちゃん・・・何処か違ってたらごめんね(笑)今は表千家の本、読んでるからね!


この後はもうLastに向けて総ちゃんとつくしが頑張るだけでございます。
ほんの少し事件・・・?を起こしますが笑っていただけたらいいかな?って感じです。

もう少しだけ、このお話にお付き合いくださいね。
宜しくお願い致します。

2018/05/31 (Thu) 00:07 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/31 (Thu) 11:41 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんにちは。

あはは!お勉強したんですね?難しいでしょう?
そうそう、一文字のと丸めるのとあるんですって!
画像がね、いいヤツが一文字のしかなかったんです。

え?あれを何と想像したかって?・・・チョコかけたものでしょ?(笑)


でね、会席料理は爺さん達や支部の連中との宴席が絶対にあるから練習してるの。
お茶席ではあんな豪華なものは出ないらしいですよ。

帛紗もね、どうやら使い方が表と裏では違うんですって。

この話を表千家の方が読んでないことを願っています・・・。
てか、茶道の心得のある人が読みませんように・・・(笑)

2018/05/31 (Thu) 11:55 | EDIT | REPLY |   

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