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西門さんが九州に行く日、散々門前で注意をされた。
1人で何処かに行かないこと、知らない人についていかないこと、誰からも物をもらっちゃいけないこと・・・って私は何歳だ?って思うような注意を家元達の前で車が出る直前まで言われ続けて恥ずかしいったらありゃしない!

「わかってんだろうな?絶対に1人で行くなよ?」
「わかりましたってば!もう、早く行きなさいよ、鬱陶しいっ!」

「心配して言ってるのに鬱陶しいってなんだ!志乃さん、任せたからよく見張っておいてよ!」
「はい、畏まりました。総二郎様、お時間ですのでもうお出になってくださいませ」

「お袋も親父もこいつのこと頼むから野放しにしないでくれよ?3日間、屋敷内に閉じ込めといてくれ!いいな!」
「はいはい、もういい加減になさい!早く車を出してちょうだい!喧しくて堪んないわ」

とうとう横にいた和真さんに襟元を引っ張られて車内に倒れ込む感じで押し込められて、そのまま車は西門からすごいスピードで遠離っていった。
呆れ顔の私たちは車が見えなくなってから屋敷内に戻った。やれやれだわ・・・!


午前中のお茶のお稽古は志乃さんにつけてもらって、その後は家元夫人とお花を生けた。
半東の復習は西門さんがいないと出来ないからってそれ以外の色んなお稽古のスケジュールがびっしり!でも堅苦しくならないようにと工夫してくださるし、お話は楽しくしてくれるからそこまで窮屈ではない。


「つくしちゃん、総二郎さんはあんなことを言ったけど気晴らしにお届け物、頼んでもいいかしら?」
「え?はい、いいですよ。何処に行くんですか?」

「この近くの杉林様のお屋敷にお渡ししたい物があるのよ。私は来客の予定があるからここを離れられないの。どうかしら?」

志乃さんはやめた方がよくないか、なんて焦っていたけど本当にこの歳で出歩くのを禁止するだなんて冗談じゃないわ!たまには私だって外をぶらぶらしたいもん。
家元夫人は私が稽古ばっかりでテンパってるからそう言ってくださったんだろう。だからお言葉に甘えて散歩がてら家を出ることにした。


「それじゃ、これが杉林様にお渡しするお土産のお菓子ね。お家元が一昨日まで仙台に行ってたからそこの有名なお菓子なの。杉林様はお孫さんが沢山いらっしゃるから皆様でどうぞと、一言添えてお渡ししてね」

「はい、わかりました。行って参ります」

5月の天気のいい日・・・今までは差したこともないのに日傘を差して西門の前の道を歩く。着物だから早くは歩けないけど、家元夫人からものんびり行ってらっしゃいと言われ、本当にのんびりしながら目的地を目指した。
多分普通に歩いたら15分ぐらい。でも、着物だからその倍かかるなぁ・・・なんて、他のお屋敷のお庭を楽しみながら歩いて行った。


************


「それでは失礼いたします」
「ご丁寧にありがとうございます。いつもお気遣いいただいて嬉しゅうございますと、お家元にも家元夫人にも宜しくお伝えくださいませ。また次回のお茶事を楽しみにしておりますわね」

「わかりました、お伝えいたしますね」

杉林様のお屋敷で問題なくお土産をお渡しして、お茶にケーキまでいただいてゆっくり過ごしてからの帰り道。
来た道と同じ道をクルクルと日傘を回しながら今度は身軽に歩いていた。
もう着物で歩くことにも慣れたなぁ・・・なんて、西門の白壁が見えるところまで来たら前方から1人のおじいちゃんが歩いてくるのが見えた。

随分と腰の曲がったおじいちゃんだこと・・・何処の人かしら?この辺で見掛けたことがない人だなぁ。
でも、身なりはきちんとしてるし着物って事はまさか西門に来た人なのかしら?そのおじいちゃんがヨボヨボと近づいてくるもんだから何となく気になって足を止めた。

そして私の横を通り過ぎようとしたら小石にでも躓いたのか、その場で蹌踉けて倒れそうになったので日傘を放り出しておじいちゃんの身体を支えた!

「お爺さん、大丈夫ですか?足は痛めなかった?」
「おお・・・これはこれは申し訳ない・・・あたた、少し腰が痛いぐらいでなんともないですわ。ありがとう、お嬢さん」

「腰を痛めたの?私の家はすぐそこですが休んでいかれませんか?」
「すぐそこ?」

「はい、ここの白壁のお屋敷の者です。あっ!大きいけど気にしなくていいですよ?休める場所はいくらでもあると思うから」
「・・・いや、大丈夫ですわ。色々と頼まれた土産物を買って、早めに帰らねばならんのでね。それではな、お嬢さん、どうもおおきに」

おじいちゃんは私の手を静かに離すとまたよろよろと歩き出したけど、数歩ほど進んだら立ち止まって腰を押さえてる。
こんな身体で何処まで行くんだろう。1人なのかしら?ご家族は何を考えてるのかしら、こんなおじいちゃんを1人で家から出して!

おじいちゃんはすぐ傍にあった余所の家の門前の石に腰掛けて額の汗を拭きながら溜息ついてる。お土産を買うって事は東京の人じゃないのね?
何処で何を買うのかわかんないけど大丈夫なのかしら・・・気にはなったけど私もお使いの途中だからそのまま本邸に向かって歩き出した。

少し歩いて振り向いたらまだ座ってる・・・立ち上がろうとしたけど腰が痛そうだし、なんだか放っておけない・・・。
私は着物の裾を押さえながら急ぎ足で本邸に戻った。


「ただいま戻りました!志乃さん、志乃さん!」
「はい、どうなさいました?そのように大きな声をお出しになってはいけませんよ」

「あっ!はい、ごめんなさい!でも、あの・・・すみません、ちょっと出掛けてきます!」
「え、何処に?今からですか?」

「ごめんなさい!すぐに戻りますから!」
「え?ちょっと待って、牧野さんっ!」

「大丈夫、ほんのちょっとですから!」

びっくりしてる志乃さんに頭だけ下げて、急いで自分の部屋に戻って着物を脱いで普段着に着替えた。とにかく動きやすい服装・・・ジーンズでいいや!って思ってTシャツにジーンズとスニーカーで、ダッシュで裏口から飛び出した!

これなら思いっきり動けるもん!ってさっきのおじいちゃんが座っていたところに行ったら、もうそこにはいなかった。
だからその道の先、何処に行ったのかわかんないけら適当に走っていたら見つけた!
まだ遠くには行ってなくてヨボヨボとさっきと変わらない姿勢で歩いていた。

「おじいちゃーん!待って、おじいちゃーん!」

そう叫んだらおじいちゃんは腰を押さえながらゆっくりと振り向いて少し顔を上げた。驚いた顔が何となく可愛い・・・昔はイケメンだったんだろうなって想像しちゃった。

「・・・おや?あんたはさっきの?」

「はい、息苦しかったから着替えてきたの。おじいちゃん、送っていくわ。何処まで行くの?この辺の人じゃないんでしょ?」
「・・・え?儂を送ってくださるのかい?でも、これから買い物せんといかんので時間がかかるんじゃが・・・」

「何を買うの?もう決まってるんなら付き合うわよ。おじいちゃん何処の人なの?」
「儂は関西の人間でな、家の者から沢山頼まれておるんじゃよ。それが何処にあるのかわからなくてねぇ。でも、タクシーは嫌いなもんだからどうしようかと思っててのぉ・・・」

関西の人?そりゃまたなんでこんな閑静な住宅街に1人で?
確かによく聞いたら関西弁が入ってるみたいだけど、本当に上品なおじいちゃん。話し方もしっかりしてるから呆けてるわけでもなさそうだし。

「おじいちゃんはこの辺の家に用があって来てるの?そこの人に案内は頼めなかったの?」
「ほほほ、こう見えても仕事で来たもんだからねぇ。訪ねた家の人に買い物まで頼めないのじゃよ。それに1人で東京を探検したかったんじゃが・・・やっぱり難しいなぁ、儂は田舎暮らしなもんで人も車も多くて訳がわからんようになってしもうて・・・」

ん?この辺は人も車もすごく少ないんだけど・・・?あぁ、途中の話なのかな?

「あら、まだお仕事してるのね?それはご苦労様です。ふふっ、元気なんだね。じゃ、やっぱり私が連れて行ってあげるよ」
「お嬢さんはいいのかい?あんな大きなお屋敷の人なら戻らないと心配されるんじゃないのかい?」

「ちゃんと出掛けてきますって言ってきたから大丈夫。さぁ、急ぎましょう?まずは何から買うの?」
「えっと・・・そうじゃな。浅草って所に行きたいんじゃよ。そこに芋ようかんの店があるらしいから・・・ん~と”芋ようかんとあんこ玉”っていうものがセットになってるのを2箱・・・と頼まれとるんじゃ」

着物の懐部分から何やら小さな字で沢山書いてあるメモみたいなものを見ながらおじいちゃんは眉を顰めてる。そんなんじゃ何時になってもお買い物終わらないわよ?
ホントに1人なのかしら?ってキョロキョロと周りを見たけどやっぱり誰もいないし・・・。

「いきなりの浅草?この辺のお店じゃないのね・・・わかったわ、行きましょう!」
「すまないねぇ、お嬢さん」

「いいのよ。擦れ違ったのも何かの縁よ。気にしないでね、おじいちゃん!」



そう・・・この時にはまだ、このおじいちゃんに付き合ったがためにとんでもない事になるとは思っていなかった。




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2018/05/31 (Thu) 12:36 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/31 (Thu) 22:06 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

あっはは!謎の爺さん・・・この爺さん、もう少ししたら正体がわかります。
すみません・・・どうしてもここを書きたかったんです。

芋ようかんはそうそう、そのお店です。
働いていたときは本社が東京でしたから、よく本社の人が来るときはお土産で東京のお菓子をいただいてました。
で、もう要らないって思うほどみんなが買ってくるのは「東京バナナ」でした。

出来たら他がいいなぁ・・・っていつも思ってました。

そうね・・・総ちゃん、激怒ですね!
ふふふ、楽しみだ!

2018/05/31 (Thu) 23:03 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは。

謎の爺さんです。
つくしちゃん、今から大変なんですよ(笑)
お人好しですからねぇ・・・まぁ、私は「茶と華と・春の番外編」を考えたときに同時にこれを考えました。

ふふふ、わかったかな?

つくしちゃんが事件を呼んでるんでしょうね。
決して私が楽しんで事件を作ってるわけではありません。

総ちゃーーん!九州とか行ってる場合じゃないぞーーっ!
つくしちゃんが野放しにされてるぞーーっ!


聞こえたかな?(笑)

2018/05/31 (Thu) 23:08 | EDIT | REPLY |   

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