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<side陽翔>
医者の息子になった俺は金銭的には困ってはいなかった。
要らないって言っても持たされた預金はかなりの額だったから生活するには困らない。バイトなんてせずに勉強して医者になれっていう無言の圧力みたいなものだ。
だからって訳じゃないけど現実から逃げたくて週に2日だけ居酒屋でバイトをしていた。

来るなって言っても不意に訪ねてくる由依も煩わしいし、分厚い教科書を見たくない時だってある。そんな時はザワザワして喧しい店内の方が落ち着く時もあった。ただそれだけの理由でバイトに出掛けた。


今日がその居酒屋に行く日だった。

女の子はあまり深夜まで働かないから遅くまで勤務出来る男は重宝されて、今日も12時まで働いた。くたくたにはなるけど息抜きになる。疲れてるのに気が晴れるだなんて自分でも変だと思うけど、そんな浮かれた気分で寮まで戻ってきた。

立ちっぱなしだから精神的には楽でも当然足は疲れる。そんな重い足で階段を上がって、自分の部屋の前まで行くと牧野の部屋のドアが嫌でも目に入る。

こんな時間に起きてるんだろうか・・・インターホン鳴らしたら出てくれるかな。
なんて思ったが鳴らして出てくれたところで話すことはない。昔話でもしようか?って誘う時間じゃないし、もしそんなことを言っても牧野が応じるはずはない。
牧野は俺と由依が「仲がいい」って思ってるから。

302号室の前で少しだけドアを見つめていたら301号室から数人の笑い声が微かに聞こえてきた。

「気楽なもんだな、寮で騒いでんのか。迷惑な奴らだ・・・牧野の部屋に聞こえるんじゃないのか?」

文句を言ってやろうかって思うけど、言ったところで相手は花沢だし、来てるのなら西門や美作だろう。
あいつらに何を言っても話にならない。むしろ寮なんかでトラブルを起こしたら大学に通報されて、父さんの時のように今度は俺が大学から消されるんだろう。
それが怖いわけじゃなかったけど、これ以上今の親父と母さんにそんなことで説教されたくなかった。

別に俺の部屋まで声が聞こえるわけじゃないし・・・そう思って向きを変えて自分の部屋に入った。


ドサッと荷物を床に投げ捨てるように放り投げてベッドの上に倒れ込んだ。
今までの騒々しさとは正反対にシーンとした部屋。スマホを見たらまた由依からの着信とメッセージが何通も来てる。それを確認もせずにポンッとそこら辺に投げた。

今度は起き上がってベッドの横の壁に寄りかかって座った。
こっちは302号室の方・・・この背中の向こうには牧野がいる。そう思ったらあいつの笑顔が浮かんだ。


何もかも父さんから奪った花沢・・・あの男が今度は牧野を連れて行くのか?

膝を抱えている両腕に自分で爪を立ててる。牧野の笑顔と花沢類の澄ました顔が何故か重なって見えた。

「何でもない関係」から「大切な存在」に変わるのは実はすごく簡単だ。
小さなきっかけさえあればあの2人は恋人になるんじゃないのかと思うと・・・グッと力を入れた爪の先が自分の腕に食い込んで、その痕を残した。


***********


「あ~あ、類のヤツ、爆睡してる」
「ははっ!仕方ないな、こいつは寝ることが1番好きだから」

「そうなの?そう言えばよく寝てるよね・・・バイト先に迎えに来てくれた時もほとんど寝て待ってるし」

作ったものはほとんどなくなってテーブルの上にはおつまみ程度しか残ってなかった。
私は殆どお酒を飲めないし、西門さんと美作さんは結構飲んでるけど強い方なのか酔ってるって感じはなかった。だから話し方も普通で、今でもワインを口にしながら会話してる。

「類が迎えに?へぇ・・・そんなことするんだ?」
「いつもじゃないよ。たまにね・・・何かがあったら来てくれるの。用事があるときとか、雨が降ったときとか」

「それでも凄いことだぜ?類が動くなんてさ。今までそんなことしたの、見たことも聞いたこともねぇと思うし」
「・・・そうなの?花沢類、あんまり自分のこと話さないからよく知らないの。でも、ここに入ってからの事なら結構知ってるよ?」

立ち上がってベッドの側まで行った。
何も掛けずにコロンとそこに寝ている花沢類・・・小さな寝息が聞こえてきて、あどけない寝顔はいつもの冷めた印象ではなくて穏やかだった。
寒くはないだろうけど足下に丸められてた掛け布団を身体に掛けてまた2人のところに戻った。


「こいつ、ホントにガキの時から何考えてるか分んないところがあってさ。今、この瞬間が楽しいのか悲しいのか、怒ってんのか呆れてんのか感情が読み取れないヤツだったんだ。朝もまともに学校に来ることもなくて、でも気がついたらそこにいてさ・・・。自分のことはあんまり話さないから、悩んでても助けてやれなかった時があったんじゃねぇかって思うんだよな」

西門さんが真面目な顔でそう言った。
もう過ぎてしまった時間の中で花沢類が凄く悩んでいた時があったってこと?時々見せる悲しそうな表情と何か関係があるんだろうか・・・。
固い殻の中に閉じこもってるんじゃないかって感じることはあった。でも、最近の彼はそこから出てきたような気がしてるんだけど。


西門さんの言葉の後に今度は美作さんが話し始めた。

「類の親父さんが厳しい人だからね。こいつにも小さい時から英才教育ってのかなぁ・・・俺達は全員がそうなんだけど、類は1番やらされてたんじゃないかな。だから5カ国語マスターしてるし理数系も強いし、コンピューターの簡単なプログラミングも出来るし。そんな環境だから当然大人に囲まれて育ってる上に独りっ子だろ?無表情にもなるよな」

「そうだな。思うんだけど最近の類が1番楽しそうに見えるけどな」
「かもな。出会った頃は兎に角類の声を聞くことが珍しかったからな」

そう言って私たちはベッドで寝てる花沢類を見た。
声を聞くことが珍しい?そうかな・・・私にはよく話してくれるんだけど。

「4人の幼馴染みが集まってもさ、最後まで自分の意思とか希望とかってのは言わねぇんだよ。で、あそこに行こうとかこれをしようとかって話になってさ、それが嫌だったら『帰る』って一言だけ言ってホントに向き変えてさっさと帰んの」
「そうそう!で、女の話とかになったら露骨に嫌な顔して無視して逃げるとかな!そうかと思えばガキみたいに可愛い顔してじーっと見るからこっちはドキッとするんだよ。ほんと・・・よくわかんないヤツだから」

「よくわかんない部分があるってのはわかる気がするなぁ。この前もね、音楽堂でヴァイオリン弾いてたんだけど・・・」

そういった時、2人が驚いた顔をして私の方を見た。
それにびっくりして私もなんて言おうとしたのか忘れてしまって言葉が止まってしまった。

「類がヴァイオリン弾いてたって?」
「・・・ホントに?」

「え?えぇ・・・そうそう、音楽堂でね、たまたま通りかかったら誰かが弾いてて、それがすごく素敵だったから覗いてみたの、そしたら弾いてたのが花沢類でね・・・って、何かおかしいの?彼が弾いてたら?」


ちょっとだけ顔を見合わせたけどすぐに普通に戻った。
そしてまた話を続けてくれた。時々、ワイングラスを口に運びながら。

「類は何年か前に親父さんからヴァイオリンを弾くことを禁じられたんだよ。あいつの唯一の趣味だったのにな・・・」

「別にプロになりたかったわけでもないし、弾いてることで精神的に落ち着くって言ってたの聞いたことがあるんだ。でも、家業を継ぐのには不必要って言われて楽器を弾く環境を奪われたはずなんだ」
「あの時だけだよな・・・類が俺達と夜に出歩いて酒飲んだの。すげぇ荒れてさ・・・でも、終わりの方は店の隅っこで膝抱えて座ってて誰も声をかけられなかったんだ。あん時の類の顔は忘れねぇな・・・」

感情をあまり出さない彼が悔しそうな目で、小さく丸まってたって・・・。


その後は話も途切れ途切れになって、時計を見たらとっくに1時を回っていた。
自分の部屋に帰ろうと思ったけど私にもすごい睡魔が来てその場でウトウトしたみたい。何処か遠いところで西門さんと美作さんが何か喋ってるみたい。
その言葉がもう頭には入って来なかった。

「あ~あ、牧野もダウンか?あきら、あれって壁面収納ベッドだよな?そこに寝かせようか?」
「そうだな。総二郎、そいつ倒してくれよ。どっかに掛けるものがあるかな・・・」

そんな声が聞こえてきて2人が何かしてる。
ほんの少ししか口にしなかったワインなのに酔ってしまったのかな・・・。


気がついたらふかふかのお布団の中で、小さな子供に戻った花沢類の夢を見ていた。



小さな花沢類が嬉しそうにヴァイオリンを弾いていて、そこには沢山の星が光ってて、弾いてる曲が”きらきら星変奏曲”

「それはピアノ曲だよ」って・・・小さな私が笑ってるの。
そしたら花沢類が指さしてくれた所にグランドピアノが置いてあって、私が弾いた曲は”猫踏んじゃった”

最後の1音を間違えたら花沢類がヴァイオリンを抱えたまま大笑いしたのよ。

すぐ近くの椅子に座っていたのは優しいそうなお婆さん。
何も喋らなかったけど、その笑顔はどことなく花沢類に似ていた。




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2018/05/26 (Sat) 07:44 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

ゆきたろう様、こんにちは。

ふふふ、夢の世界で会ってるかもですね!
そういうの、運命って感じで素敵かも?

つくしちゃんがお婆さまの話を類君から少し聞いたので夢に出てきたんでしょうね。

応援コメント、いつもありがとうございます。


2018/05/26 (Sat) 14:35 | EDIT | REPLY |   
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2018/05/26 (Sat) 17:54 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、おはようございます。

お婆さんの霊じゃないから(笑)
誰がオカルト作家ですのん!生き霊1回書いただけ!

流石ですねぇっ!毎回驚くわ!
ここで彼らの声を陽翔に聞かせたかったんですが、そもそも類の部屋から聞こえるのか?って事でしょ?
私も防音工事してることにしてたから調べたんですが・・・。

どうもね、防音扉と、防音壁ってのは別工事らしいの。

防音壁は消音材とかを足すらしいけど、ドアに防音工事する場合は普通のドアじゃダメらしいのでドアそのものが変わってしまう。
初めからそんなことを書いてなかったのでラッキー!

結果、類君の部屋は室内のヤバい声・・・もとい騒音は隣には聞こえないけど、ドアにはその効果がない!ってことにしました!

ははは!なんて都合がいいんだ!妄想万歳!


壁面収納ベッド・・・なかなか面白いものがありますでしょ?検索したら出てきますよ。
壁に引き出すための金具があるはずなので知ってる人がいたら気がつくんだと思う。
初めは類君の隣に寝かせてあげようかと思ったけど・・・いきなり抱き枕にしそうだったからやめました(笑)

「なんだこれ・・・あぁ、牧野か。まぁいいや、抱いとこ」

こんな感じ(笑)

2018/05/27 (Sun) 07:56 | EDIT | REPLY |   

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