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plumeria

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そろそろバイトから戻ってくると思ってベランダでその姿を待っていたら、見えたのは真っ赤な総二郎の車だった。

あれ、なんであいつの車が?って不思議に思って見ていたらそれは随分手前で停まってそこでドアが開き、牧野らしい女の子が降りてきた。もちろんあの様子じゃあきらも乗ってると思うけど。

会話なんて全然聞こえないけど、牧野は手を振って見送ってる。そして向きを変えて寮の方に歩いてきた。
暗くてよくは見えないけど今度は俺の部屋を確認して手を振ってるみたい。だけど何となく面白くなくて手を振り返さなかった。


「なんで総二郎達と帰ってくるのさ・・・バイト、だったんだろ?」

数分後、牧野は部屋に戻ってきたようでパタパタと足音が聞こえた。そしてすぐに窓の鍵を開けてベランダに姿を見せて、何もなかったかのようにニコッと笑った。

「さっき見えなかった?私、手を振ったんだよ?」
「見えたよ」
「え?そうなの?無視したから見えなかったのかと思った」
「・・・総二郎の車に乗ったんだね」

そう言うと一瞬驚いたように目を大きくして「・・・え?」 って呟いた。いや、そんなの俺に言われなくてもいいことなんだけど。
自分でもなんでそう言ったのか分からなくなって少し焦ったんだ・・・だから、バツが悪くてその場を逃げた。

「・・・おやすみ」

「花沢類?どうしたの?ねぇ!花沢類?」

牧野が俺の名前を呼んだのを聞いてるクセに窓を閉めてカーテンを引いた。
早く牧野の部屋からも窓を閉める音が聞こえればいい、そう思って窓際から離れられなかったのにいつまで経ってもその音がしない。

牧野はまだベランダにいるんだろうか。
俺があんな態度をとったから・・・意味がわかんなくてそこにまだいるんだろうか。

知らん顔すればいいのに、俺はまた向きを変えてベランダに出てみた。そしたら牧野はやっぱり手摺りに縋って星を見上げたまま動いていなかった。
そして、もう一度出てきた俺の方をチラッと見てニコッと笑ってくれた。

どうして笑ってくれるんだろう・・・俺はあんな態度をとったのに。


「ごめん・・・変な言い方して」
「ううん、いいよ。でも、どうしたのかと思った」

「何でもない・・・ホントにごめん」
「ふふっ・・・もういいよ。花沢類が怒ってないなら私は大丈夫。わざわざ言いに来てくれたの?ありがとう」

ありがとうだなんて、この状況で言う言葉じゃないのに・・・。

牧野は後ろを振り向いて303号室を気にしてる。だから両手を差し出したら一瞬躊躇ったけど、すぐに俺の腕を掴んだ。そしてもうすっかり慣れた感じで俺の部屋のベランダに飛び込んで来た。


「向こうが気になったんでしょ?おいで・・・」
「うん、お邪魔しまーす」

「・・・ぷっ!変なの」
「だって黙って入りにくいんだもん!」

牧野は真ん中にあるラグの上にチョコンと座って俺の方を見てるから「何か飲む?」って聞いたら「カフェオレ」って答えた。
珈琲を入れてる間に急に立ち上がってキッチンに来ると「冷蔵庫、大丈夫だよね?」って確認しにきた。

「あはは!開けてみたらいいじゃん。この前からは増えてないよ」
「ホント?絶対に腐らせちゃダメだからね?今度もらったらまた作ってあげるから言うんだよ?」

「はいはい。あれから1回はゴミ出しに行ったんだよ?」
「えっ!たったの1回?それで大丈夫なの?」

「だってゴミが出ないんだもん。でもさ、ちゃんと指定のゴミ袋って言うの?あれ、買ったんだよ」
「あはは!やれば出来るじゃん!」

急に会話が楽しくなる。さっきまでイライラしてたのに、ここに2人でいるって思うとそれだけで嬉しくなる。
自分でも可笑しいって思うけど、確かに俺の中で変化が起きてるんだ。自分以外の誰かにすごく興味がある・・・それが不思議だった。


「ねぇ、さっきなんで機嫌悪かったの?」
「悪くなんかなかったよ?そう見えた?」

「見えたから聞いたんじゃん・・・だって、絶対に私のこと分かったクセに無視したでしょ?」
「・・・くすっ、バレてる」

向かい合ってカフェオレ飲んでる時、少し怒ったように顔を赤くしてさっきの俺の態度を責め始めた。
飲みながら喋るなんで行儀悪い・・・でも、それが心地いいって何だろう。笑いながら怒る彼女を見ていたら呆れて怒るのをやめた。


「ねぇ、俺も聞いていい?なんで総二郎の車に乗ってたの?バイト・・・行ったんでしょ?」
「あぁ、あっはは!あれねぇ・・・花沢類が聞いたら怒るかも!」

「なんで?何したの?」

牧野は俺にイタリア語の授業中の話と、そのあと偶然会ってバイト先まで送ってもらう時にあきらにレポートをやってもらったことを話して大笑いしていた。
俺と同じようにあのファミレスの珈琲を2人が不味そうに飲んでたって。それで帰りも送ってもらっただけだって。

「ダメなんじゃないの?それ・・・あんた、また試験でイタリア語で苦労するよ?」
「だから言ったじゃん、花沢類が聞いたら怒るって。だっていきなりのレポートだったんだもん!家に帰ってからじゃ朝までかかっても1人じゃ無理!フランス語より分かんないんだもん」

「それじゃ今度の試験はイタリア語もだね。俺の方が倒れそう・・・」
「え?花沢類も美作さんみたいにイタリア語完璧なの?」

「前にも言ったでしょ?5カ国語は完璧だって」
「やだ、じゃあここですれば良かった!って、もう終わったけど」

「あきらが書いたんじゃん!」

その後は今日のバイト先での話や学校での話を少しだけして「もう帰るね」って言ったのは11時を回っていた。
またいつものように俺が牧野の部屋のベランダに移って彼女を引っ張ると、そこで何かに気がついたように小さな声で「あ!」って言った。

「花沢類、少し待ってて」
「ん?なに?」

隣の部屋の電気を気にしながら部屋に入って、鞄から何かを出してる。
その間に俺は自分の部屋のベランダに戻っていたけど、静かに牧野は出てきて前と同じように茶封筒をくれた。

「これ、今月の1万円。ファミレスが今日お給料日だったから」
「・・・あぁ、いいのに・・・」

「いいのにじゃないわよ!あと1万円は6月にお返しします!」

さっきまで良かったのに・・・牧野との距離がまた少し出来たみたいで気分が悪くなってしまった。


************


陽翔に偶然会ったのはあの日から数日が過ぎた講義終了後だった。

医学部の校舎から出てきた陽翔と移動教室から戻る私が渡り廊下のど真ん中でばったり。お互いに足が止まって、陽翔は少し怖い顔してる。
あれからは私が陽翔を避けていたから寮では会わなかったけど、やっぱり誤解してるのならそれを正したいと思って声をかけた。

「陽翔、少し時間ある?話したいことがあるんだけど」
「・・・何を?あいつらとの関係?そんなもん聞かなくてもいいけど」

「何か誤解してるでしょ?あのね、そういう関係じゃないし何もされてないし・・・あぁ!もういいから大学の外で少し話さない?」
「その方があいつらに勘違いされんじゃないの?また俺が殴られたりして!」

「・・・陽翔!いい加減にしなって!」


大学で話してもよかったけど、こんな所を花沢類に見られたくなかった。
待ち合わせたのは大学の裏門から出てすぐ近くにある喫茶店。私はほとんど行ったことはなかったけど、そこなら花沢類は絶対に来ないって思ったから。
陽翔はもう帰る時間だったらしいけど、私はまだ帰り支度をしていなかったから先に行くように伝えて、急いで荷物を纏めてそこまで走って行った。

店に近づいたら窓際の席に陽翔が見えた。
機嫌が悪そう・・・何かの本を睨み付けるようにして読んでる陽翔には中学生の時の面影がなかった。


「お待たせ!ごめんね、忙しいのに」
「・・・いや。帰っても勉強するしかないから」

「医学部、大変だもんね」
「何だよ、話って」

この間に1度も私の顔を見ない。陽翔は読んでいた医学書から目を離さなかった。でも、意識はこっちにあるみたいだからそれに構わず話すことにした。

「あのさ、この前の事なんだけど、確かに泊まったんだけど本当に彼らとは何でもないのよ?西門さんの噂も美作さんの噂も知ってるけど、だからって私は何もされてないし、私がしてたことは料理なの。でね、ほんの少しお酒もらって初めて飲んだからダウンしちゃってさ、それだけなの。触られてもないし、からかわれてもいない。家の経済問題なんて一言出なかったわ」

「・・・それって無防備ってんじゃないのか?あいつらが3人で襲ってきたらどうすんだよ。逃げられないだろう?」

「だってそんな心配してなかったんだもん。それが無防備って言われたらそうかもしれないけど、私はあの人達のこと信用してるから。今までも何度も助けてもらったし、分かんないこと教えてもらってるし・・・勉強も見てくれてるの。それにあの人達は自分の事もちゃんと話してくれてるよ?陽翔が思ってるような傲慢な考え持ってるわけじゃないのよ」

何度同じ言葉を繰り返しても陽翔は表情も変えずに片肘ついて本をパラパラ捲ってて、面倒くさそうに溜息しかつかない。

その時、カランカランと音がして女の子の2人連れが入ってきた。
少しこっちを見られたような気がしたけど気にせずに陽翔に話しかけていた。


「ねぇ、陽翔。私にはわかんない大変なことがあったんだろうけど、昔みたいに笑って話せる友だちに戻れないかな。悲しいんだよね、陽翔のそんな顔見るの。ほら、昔は私が泣いてばっかりなのを慰めてくれたじゃん。あんた、優しかったじゃん!」

「馬鹿言ってんじゃないっての。昔に戻れるんなら戻りたいよ。でも、もう無理だな。俺の人生狂ったんだよ」
「何言ってんの!狂ったんならそれこそ戻しなさいよ!人生死ぬまで修正可能って言うじゃない!」

「・・・誰の言葉だよ」
「知らないけど」

初めて陽翔がくすって笑った。
それが嬉しくて私も笑いながらジュースのストローに口をつけた。


でも、この時にさっき入ってきた女の子達が後ろで何かを撮影してるシャッター音が聞こえた。
振り向いたら慌ててスマホを隠されたけど、その子達は私の知らない子・・・もしかして陽翔のファンなのかしら?なんて勝手に思い込んでさほど気にもしなかった。

「ね、少しずつでいいからさ、前向きになろうよ。家は家、親は親・・・自分は自分だよ?陽翔の人生は陽翔が決めていいんだからね?」

「わかったよ!声がデカいって・・・ホント、昔っから貧乏なクセに自由なんだからな、牧野って」
「仕方ないじゃん。私の場合は親と一緒の人生だと悲惨でしょうが!だから自分で切り開くのよ!」


バイトの時間になったから喫茶店を出て、その店の前で陽翔とは別れた。
「じゃあね!陽翔」なんて明るく手を振った時も店の中で女の子がスマホを手に持って私に向けてる。

何だろう?感じ悪いなぁ・・・ってぶつぶつ言いながら今日のバイト先、レンタルビデオ屋に向かって走っていた。



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2018/05/30 (Wed) 15:51 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

あはは!2ヶ月生活してゴミ出し2回!類君・・・大丈夫でしょうか?
お掃除ロボも掃除のし甲斐がなくて嫌でしょうね!

そのうち・・・ティッシュのゴミがすごかったらどうよ・・・(笑)

はっ!ダメダメ・・・想像してしまった!(笑)
さとぴょん様の罠にはまるとこでした・・・危ないわ!

まだ言葉にしてないだけで完全に恋人っぽくなってきましたねー!!
ここが「喧仲」との違いでしょうか?

同じように言葉にしてないのに何故か甘い感じ・・・流石ツンデレとはいえ王子様ですな!
総ちゃんは武士だからねぇ・・・不器用なのよね。

うんうん、これから少しプルが事件を起こしていきますのでね・・・
一気にラブがサスペンスにっ?!


そこまではないか!(笑)あはは~!

2018/05/30 (Wed) 23:53 | EDIT | REPLY |   

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