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plumeria

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飾り付けも終わって食事も終わって、双子ちゃん達が寝てしまうとリビングには7人だけが残った。
少しだけお酒も飲んで今までのこと、最近のこと、これからのことを話していたけど花沢類はソファーに膝を立てて踞るような格好で何も話さなかった。

ただ、時々私と目が合う…その時、私の心臓は喧しいほど鳴ってしまう。
それがみんなに聞かれたらどうしようって思うから、いつも私の方が目をそらしてしまうの。


「そろそろ帰ろうか。牧野、優紀ちゃんも一緒に送ってってやるよ。他の連中は迎えに来んのか?」

西門さんの言葉でみんなが席を立って帰り支度をする。
それぞれのお屋敷から迎えに来た車で美作さんの家の玄関前が明るくなっていた。


「あ…忘れ物しちゃった。西門さん、ちょっと待ってて、とってくる!優紀、先に車に乗っててね」
「あっ、うん…わかった」
「鈍くさいなー!急げよーっ!」

私は紙縒作りの時に使ったハンカチをテーブルに置きっぱなしだったのを思い出して急いでリビングに戻った。
その時、誰もいないと思ったそこから出てきたのは花沢類。

彼も少し驚いた顔で立ち止まった。


「どうしたの?総二郎と帰ったんじゃなかったの?」
「あ…今ね、車で待ってもらってるの。忘れ物したから」

「そう……じゃあね」
「うん、花沢類。またね…」


それ以外の言葉は何も交わさずに私の横を通り過ぎた。
5秒ぐらい経ってから振り向いたけど、彼はそのまま振り返らずに玄関の方に消えて行った。ちょっとだけ…寂しかった。


飾り付けに使った道具を置いていた所からハンカチを見つけて、手に持ってからもう一度窓の外の笹竹を見た。

綺麗に飾られて沢山の短冊が揺れてる。
その時にも思い出した……花沢類だけが書かなかったのは何故だろう。

私は西門さん達を待たせてるのに、またテラスに出てそれを見つめた。みんなが書いた短冊……。


『アマゾンでオオアナコンダに会う!』……これは絶対に滋さんだ。
『竹内君に告白します』……あはは!可愛らしいな。これは優紀だわ。
『世界最高の男を捕まえてみせます!』……あんたなら出来そうだよ、桜子。
『あと10年は遊ぶ』……西門さん、ただの現実逃避じゃん!
『双子からの解放を!』……そりゃ無理だわ、美作さん。

やっぱり花沢類のはなかった。
そして自分が書いたものはみんなに比べてなんて平凡なんだろうって思う。

『5年後、笑ってる』

「あはっ!よく考えたら意味わかんないね!これはお星様も叶えようがないかもね……あれ?」

私の短冊、裏に何かが書いてある?
黄色の折り紙に書いた私の文字の向こうに何かが見えたからそれを裏返した。

そこに書いてあったのは…

『Je voudrais être à côté de toi』


「これ、フランス語?なんて書いてあるのかわかんない……もしかして、花沢類?」

覚えることも出来ないその言葉を、ここで手離すことが出来なかった。
だから自分の短冊を笹から外して持っていたハンカチに包んだ。



それが数年前の七夕の夜。



**



♪ささのは さ~らさら、のきばに ゆれる~
お~ほしさま き~らきら きん ぎん すなご~♪

可愛らしい声が真下で聞こえる。
小さな手が七夕飾りを持って走り回ってる。

今年3歳になる双子の玲那レナ玲音レオンがつくしの横で笑ってる。

「ほら、もう少しおとなしくしないとパパが飾り付け出来ないわ。はい、玲音はこれをパパに渡して?玲那はママと下の方につけましょうか」
「マーマ、これね、これね、レナがチョキチョキしてつくったの~!」
「こっちはレオンが折ったお星さま!ママ、ぼくもがんばったんだよ?」

「そう、2人とも上手だねぇ!綺麗に出来たわね。お願い事はどうしたの?加代さんに頼んで書いてもらった?」
「「うん!もってくるーっ」」

まだ字が書けないから教育係の加代に短冊を書いてもらったらしい。
小さな身体が転げるように部屋に入って行って、すぐに可愛らしい色の短冊を抱えてきた。

「はい、ママ、これね、レナの!」
「こっちがレオンの!よく見えるところにかざってね!」

「…あら、これは…。ふふっ!はいはい、パパに頼もうね」

どうしたんだろう、つくしが俺の顔を見て笑ってる。
2人の短冊に紙縒をつけて持ってくると小さな声で「笑っちゃダメよ?」って言った。

渡された短冊を見て……キョトンとしてしまったけど、すぐに可笑しくなって口を押さえたよ。
希望通りよく見えるところに飾ってから笹竹をみんなで見上げた。

あの時と同じように七夕飾りは風に揺れて、俺達の願い事を天に向けて靡かせた。


♪ごしきの た~んざく かよさんが かいた~
お~ほしさま き~らきら そらから みてる~♪


確かに!加代が書いたんだから間違ってないけどね。


全部の飾り付けが終わってから家族4人でささやかな七夕祭り。小さな双子は元気よく庭を駆け回った。
つくしが作った星のデザートは何処かで見たようなブルーハワイのゼリーに白い星が鏤められたもの。それを双子用のデザート皿に入れて手渡したら芝生に座ったままじゃれ合って食べてる。


「さっきまで思い出してたの……」
「何を?」

「10年前の美作さんの家でやった七夕祭り。類、ホントに無口だったなぁって…」
「そうだっけ?あんたを見てたからだよ」

「あら、そうなの?睨んでたわよ?」
「あんたが俺を見ないからだよ」

「ふふっ…見てたよ、ずっと……」



子供達が夢の中に入った頃、つくしと2人で笹の下に座って星空を眺めてた。今日は晴れてるから星がよく見える。

現在の日本では光害のせいで殆ど天の川は見えないから”夏の大三角形”を探すことにした。
午後11時頃、そいつらは北の空に現れる。俺が”こと座のベガ”を見つけたら、つくしが一生懸命”わし座のアルタイル”を探してた。

「ねぇ、あれじゃない?類、あそこ!」
「ホント?あんた昔から適当に見つけるからね。あ、でも当たってるかも」

「適当って何よ。失礼だなぁ…」
「”白鳥座のデネブ”、あったよ、ほら、あれ。今年は全部見つけられたね」

くっつきそうなほど顔を寄せて2人で星探し。
それを真横で笹竹が笑ってる。


「私ね……あの日の短冊、持って帰ったのよ」
「あの日の短冊?さっき話したあきらの家の?」

「そう。忘れ物を取りに戻ったときにね…もう1回探したの、類の短冊。やっぱりなかったけど…」
「……くすっ、でもバレた?」

「うん。だから持って帰ってその日のうちに”お焚き上げ”したの。願い事、星に届けなきゃいけなかったから。大変だったのよ?だってフランス語、読めないんだもん」
「お焚き上げ?燃やしちゃったの?」

「そうだよ。そうするとね、白い煙になって天に昇って、お星さまが願い事叶えてくれるんだって。西門さんが言ってたから」


『Je voudrais être à côté de toi』・・・あなたの傍にいたい

つくしの短冊の裏にそんなこと書いたっけ。
まさかそれを見つけられて燃やされたとは思わなかったよ。でも願いって叶うもんなんだね…それから色々あったけど、あんたの書いたとおり5年後『花沢』になったんだから。


「廊下で擦れ違ったとき、私のこと無視したでしょ?振り向いたのに知らん顔して出て行ってさ……言葉と反対だったね」
「あんたが知らないだけだよ。擦れ違ってすぐにあんたを見たけど振り向かなかったのはそっちだよ?」

「うそっ!見てくれてたの?」
「うん、すぐにね。俺の方が一途だったんだよ」

「……わかりにくい人」


そう言いながら俺の肩に頭を乗せてクスクス笑ってる。
風がさわさわと吹いて双子の短冊が”お焚き上げ”を強請ってる。

「そろそろしようかな……類、短冊を外して?」
「ん、わかった」

つくしが用意した真っ白な紙にみんなの短冊を包んでから、その端っこに火をつけて燃やした。
すぐに白い煙は風に乗って天に昇り、俺達の願い事は星に届けられた。


「でもさ、双子の願い事は無理じゃない?」
「あはは!そうだね。でもいいんじゃない?」


『パパのお嫁さんになる』
『ママをお嫁さんにもらう』


この願い事は星も笑ってくれるだろうか。
あと何年かしたらそんな日が来て、俺達は喜ぶのか寂しく思うのか…そんなことをつくしの肩を抱いて考えてた。


「そろそろ私たちもやすみましょうか…」
「そうだね」


俺達が書いた願い事は何かって?
それは2人だけの秘密……。




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