FC2ブログ

plumeria

plumeria

俺が高等部を卒業するときのプロムナードのパートナーを牧野に申し込んだのは新しい年が明けたときだった。
初詣にみんなで行ったその帰り、あいつらがいる前で誘った。

「あのさ、3月の卒業プロムのパートナーになって欲しいんだけど。ダメかな、牧野」
「え?私が花沢類の?・・・え、えと、私なんかがパートナーだなんてやめた方がよくない?自慢じゃないけどダンスとか出来ないし。ホントに下手だからダメかも・・・」

「ダンスが出来る出来ないだけが問題なら全然気にしないで。俺もほとんど踊ったことがないし」
「そうなの?踊れそうなのに・・・」


わかってる・・・。
この時、牧野は少し離れたところで黙って聞いてる総二郎の反応を見てるんだ。そして総二郎は何も言わない・・・。
マフラーで顔の半分隠したフリしてるけど、多分すごく怒ってる。そんな目をしてるのなんて、子供の時から見てるんだから全部わかるのに。

2人だけの時に言えば牧野は多分、俺を傷つけない理由を考えて断ってしまうだろう。
こうやって誰かに聞かれてる状態で言えば申し込みを受けてくれそうな気がする・・・卑怯と言われても構わないけど、そのぐらいパートナーにしたい女性は牧野しか頭に浮かばなかった。

もし、これでダメなら行かなきゃいいこと・・・まるで賭けをしてるような気持ちで雪がチラつく中、牧野の前に立っていた。


「・・・他のみんなは誰を誘うの?」

牧野の質問に司は「決めてねぇし」の一言で終わった。
あきらは総二郎の方を見ながら「どうするよー?」なんて言ってるけど、総二郎はそっぽを向いて知らん顔をしていた。

「そうだなぁ・・・俺は誰もいいんだけど。見つからなかったら桜子でもいいし、何処かで適当に探してもいいし。どうせなら可愛い子がいいよな!総二郎」
「・・・そうだな。連れて歩くんならいい女の方がいい。そんな女、滅多にいねぇけどな」

牧野は2人の答えを視線を外したまま聞いていて、その後にほんの少し深呼吸してから俺の顔を見上げた。


「じゃ、花沢類。私でいいなら宜しく。ダンス、少しは練習しないといけないね」
「うん、ありがとう。あと2ヶ月あるからうちで練習しよう?その時はちゃんと迎えに行って送ってあげるね」

俺もわざと総二郎に聞こえるぐらいの声でこの先の予定を伝えた。
牧野が花沢に来る。ちゃんとした理由があって、俺は迎えに行くことが出来るんだ、それがすごく嬉しかった。

その声を聞いた途端、総二郎が向きを変えて先に歩き出した。
マフラーから微かに白い息を吐いて、コートのポケットに両手を突っ込んだまま・・・その手はポケットの中で固く拳を握ってるんだろうね。
牧野はそれを見て小さな声で「総ちゃん・・・」って言ったけど、足は動かなかった。

だからその肩に手を置いて、俺が微笑むしかなかった・・・総二郎の態度は俺のせいだよ。あんたのせいじゃないって・・・。
そんなに悲しそうな顔をしないで?牧野・・・2ヶ月間は俺の事を考えてよ。



それからダンスのレッスンが始まった。
レッスンっていっても牧野と俺の都合がいい時だけ。場所は花沢だけど、学校から直接行くことを躊躇う牧野は毎回西門に帰ってから俺の迎えを待っていた。

西門の使用人頭の志乃さんに「行って参ります」と、丁寧に頭を下げて玄関を出る。
花沢からの迎えだから誰も文句なんて言わないけど、志乃さんは毎回少し困ったような顔で送り出してくれた。この人は俺達の気持ちを全部知っているんだろうから、自分の子供のように心配してるんだろう。

総二郎のことも牧野の事も・・・もしかしたら俺の事も。


レッスンは花沢のホールを使って2人だけでやっていた。
別に競技大会に出るわけでも、誰かと比べるわけでもない・・・俺はただ純粋に牧野とこうして踊りたかっただけ。だから注意なんて殆どしなくてその時間を楽しむことだけを考えてた。

俺の腕の中に牧野がいる・・・俺がリードして彼女を踊らせてる。それだけで幸せな気がしたよ。
何度か聞きそうになった・・・「あんたはどうなの?」って。でも聞けなかった・・・答えがわかってる気がするから。

「随分上手になったね。俺みたいなリードでもなんとか踊れそう?」
「え?大丈夫だよ、花沢類は何やっても上手だもん!安心して任せてるよ?あっ・・・!」

「牧野・・・!」

レッスン中に話しかけたから牧野が少し躓いて俺の胸に倒れかかってきた。もちろんその身体は抱き留めたけど、牧野の手が俺の腕を掴んで丁度心臓の真上に彼女の顔が重なった。
危ない・・・そう思ったはずなのに、もうその次の瞬間には俺の腕は牧野を抱き締めてた。

離せない・・・このまま離さないで何処かに・・・!


そんな言葉が頭を過ぎった。

「花沢類・・・?あの、痛いよ?」
「あ、ごめん・・・つい、ね」

「ううん、躓いた私が悪いのよ。ごめんなさい」

少し力を緩めたらあっという間に俺の腕から出て行ってしまう。最後に俺の腕から牧野の指が離れたとき、ズキッと心が悲鳴をあげた。

嬉しいのに悲しくて、触れてるのに離れていくような、手を伸ばして引き寄せたくて、引き寄せたくて・・・もう一度俺の胸で抱き締めたくて堪らなかった。



そうしてる間に卒業式は来て、式典が終わった後のプロムに総二郎の姿はなかった。
あきらに聞いたら式典が終わった後、1人で帰ったらしい。今日は飲みに行くんだと・・・いつものように張り付いた笑顔でそう言ってたと。

俺が準備したピンク色のフォーマルドレス。牧野はそれに身を包んで俺の腕を取っていた。
総二郎が帰ったことを聞いたらすごく驚いてて、だけどすぐにクスクス笑い出したんだ。

「どうしたの?総二郎のこと、気になるの?」
「ううん、総ちゃんらしいって思っただけ。ほら、こんな所嫌いなのよ。堅苦しいって・・・思ってるんじゃない?」

「牧野・・・すごく綺麗。そのドレス、よく似合ってるよ」
「あはは!じゃあ花沢類のセンスがいいんだわ。だって全部任せたんだもん。私は着てるだけよ?ありがとう、花沢類」

「どういたしまして。今日は宜しくね?」
「こちらこそ。足を踏んだらごめんね?」


牧野はすごく嬉しそうに笑ったんだ。その理由はね・・・総二郎が誰とも踊らなかったからだよ。

それをすぐに察してしまう自分がすごく嫌だった。
だけど、牧野の手を離すのはもっと嫌だったんだ・・・。


その日の行事が全部終わった夜に、俺は西門まで牧野を送った。
厳つい正面の門で牧野を降ろして玄関まで送り、手を振るだけの別れ方・・・少し寂しかったけどね。

「おやすみ、牧野。今日はありがとう」
「花沢類、卒業おめでとう。でも、4月からは大学生だから学校も近いよね。また会えるよね?」

「うん。フランスに行くこともあるけどね・・・いつでも会えるよ」


そう・・・あんたが望んでくれたらいつだって飛んでくるよ。
たとえそれが世界の果てからだって、俺の名前を呼んでくれたら絶対に駆けつけるよ・・・あんたのためならさ。

最後までいつも出せないその一言。
今日も自分の心に押し込んでこの屋敷を出た。


振り向いたらもう牧野は何処にもいなかった。
急いでドレスを脱ぐの?総二郎に見られないように・・・?俺の香りも残さないように、あんたはすぐに”この家の人間”に戻ろうとするんだろうね。


俺の高校最後の1日は、そんな少し切ない想い出。
だけど、同時にすごく大事な宝物を抱き締めてた1日だったんだ。



**



名寄の別荘の庭・・・牧野が洗濯物を干してる。
左手が上がらないから物干し竿は少し低い位置にあって、長いものを干すときには一苦労してる。
それでも俺を頼ることもなく自分1人で頑張ってる。

自分1人になっても蒼を育てないといけないから、余程のことがない限り俺の名前は呼ばない。

俺もそれがわかってるから声をかけない。
呼んでくれたらすぐに飛び出していくけど、そうじゃないのなら部屋から彼女を見守っていた。


それでも泣き出したら抱き締めたい。
倒れそうなら支えたい。

何かが必要なら俺が全部用意してあげる・・・誰かの命が必要なら俺の命を差し出してもいいって思うぐらい・・・。


しばらくぼんやり外の景色を眺めた後に洗濯物を入れていた籠を手に持って戻ってきた。
カラカラと窓を開けてサンダルを脱いで部屋に足を踏み入れたとき、その籠がカーテンに引っかかって牧野の身体がグラッと傾いた!
「あっ・・・!」って小さな声を上げてその場に倒れそうになったのを咄嗟に抱き留めて俺の胸の中に閉じ込めてしまった。

あのレッスンの時のように俺の心臓の真上に牧野の顔がある。
同時に背中に回した手に力が入った。

「あ・・・花沢類、ごめんね・・・びっくりした!転けるかと思ったわ」
「・・・いや、大丈夫?籠がカーテンに引っかかったんだよ。驚いたね」

「ふふ・・・よく助けてくれるよね」
「え・・・そう?」

「うん、私が転けそうになったらいつも助けてくれる。すごく助かってる・・・ホントにありがとう、花沢類」
「いいよ。そのためにここにいるんだから」


今日は自分から出て行こうとはしないんだね。
そんな風に甘えられたらこのまま連れ去ってしまうよ?・・・それでもいいの?

よくは・・・ないよね。


ほら、蒼が泣き出した。
牧野は俺の手を静かに離して”ライバル”の方に行ってしまう。


俺の腕の中に優しい香りだけ残して・・・。




14985461520.jpeg
5話で終わるはずが8話になりました(笑)
関連記事
Posted by

Comments 2

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/06/02 (Sat) 17:51 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

ふふっ!今回はそこまで切なくなかったでしょ?

前回のリオンが私の中では1番切なかった(笑)

一応5話の予定だったんですが、それが6話に延びましてね。
でも、ふと・・・ある場面を書きたくなって2話追加したんです。

だから最後の2話は特別編です。
どちらかというと泣かずにすむ感じ?


ふふふ、お楽しみに~!

2018/06/03 (Sun) 00:02 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply