plumeria

plumeria

あの雨の日の別れから数年、私は英徳大学に特待生として入学していた。今は国文科の2年生だ。

道明寺はあの後すぐにアメリカに渡った。
そしてもう殆ど日本で暮らすことはないらしい・・・美作さんや西門さんが時々情報をくれるけど、私にはもう関係がない。
自分から手を離した恋だもの・・・考えても仕方がないことだから「そうなんだね」って軽めに返事だけして記憶に留めないようにしていた。

それでも雨が降る日には思い出す。土砂降りの雨の日は特に・・・。
あの時の雨の音と道路の匂いとあいつの鋭く光った目と・・・優しく差し出された青い傘を。



今日も天気は曇りのち雨。
もうすぐ降るのかな?ってぐらい空が暗かった。まだお昼過ぎなのに校内の外灯が点灯しそうなぐらいの暗さ。
そんな窓の外を眺めながら大学のカフェでお茶を飲んでいた。読みもしない参考書を広げて・・・。

「牧野、やっぱりここにいた」
「花沢類・・・くすっ、私はそんなに行く場所なんてないわよ?いつもここにいるじゃない」

「そうだっけ?何してるの?あぁ、試験勉強?」
「試験勉強かぁ・・・どうだろう。もう少し先じゃない?」

晴れた日ならそうでもないクセに、雨が降りそうになると私の側に来る。あの日からずっと・・・。
花沢類は美作さん達みたいに何も言わない。あいつのことも話さないし、私の心の傷が癒えたのかどうかなんて何も聞かない。
ただ、側にいてくれるだけ。

空気みたいに、そこにいて当たり前みたいに・・・静かに座って同じ時間を過ごすの。


「あ・・・降り始めた。やだなぁ・・・まだあと2つも講義が残ってるのに」
「一緒に帰ろうか?終わったらまたここにいてよ。俺もまだこの後に講義があるからさ」

「そうね・・・うん、待ってる」
「ん、この席ね」

国際経済学部の彼とは全然校舎も違うし、スケジュールなんて少しも合せられない。だけど何故か私たちはいつも一緒にいた。周りの学生が色々と噂するけど気にもしないで。
道明寺と別れたあとは「今度は花沢さんなの?」なんて言葉は毎日のように何処かから飛んできて、それが矢のように私の心臓を射貫いたけど、花沢類はそれまでと何も変わらない態度で接してくれた。

程よい距離感・・・触れそうで触れない腕の間。
目を見つめてもそれが気持ちを揺さぶる前にそらされてしまう、友達じゃない友達・・・彼氏じゃない彼氏。

助けてって言えば助けてくれる。大丈夫って言えば遠くから見守ってる。


それはいつまでだろう・・・。



講義が全部終わってカフェに行ったけど、まだ花沢類はここに来ていなかった。
だからお昼と同じ場所で待っていた。あんまり飲めないくせにブラックの珈琲なんて頼んで。

雨が酷くなってる・・・もう向こうの景色が見えにくくなるぐらい。
真っ白な糸のような雨が真っ直ぐに落ちていてアスファルトを叩き付けてる。そこに沢山の飛沫が飛んで、白く煙ってるみたい。

あの日のようだ・・・瞬間、頭に過ぎるあの時のあいつの目。
前髪から落ちてくる雫で鋭い瞳が余計に光って怖かった。臆病になった私を責めてるようで、裏切り者だと叫ばれてるようで。


急に身体が震えた。
室内だから濡れてるわけじゃないのに寒くなった。自分の腕を自分で抱きかかえるようにして小さくなって顔を伏せた。

嫌だ・・・雨の音が怖い。怖い・・・怖くて堪らない!

誰か・・・誰か私を助けて!!



「牧野、お待たせ・・・どうした?」

急に聞こえた花沢類の声・・・私はその声にホッとする。
今まで力が入っていた身体が緩む。そして笑う事が出来る・・・それまで心の中で蠢いていた嫌な記憶が何処かに行ってしまった。

「ううん、何でもない。これじゃあ外に出られないなって思ってたの」
「もう少し待ってみようか。それまで勉強みてあげる・・・はい、教科書出して?」

「あはは!教授より厳しいんだから!でもさ、私は国文科だよ?国際経済学部の花沢類が何を教えてくれるの?」
「馬鹿にして。いいから出してみな?わかるって!」

「ホント?じゃあお礼に珈琲買ってくる!今度の試験に出そうな所、見つけといて?」
「・・・うん、任せて。そういうの得意」


わざと気分を雨から離してくれる。
それが花沢類の優しさ。


でも、雨は止まなかった。
余計に強く降ってきてこれ以上は大学に残れない。だから仕方なく花沢類の傘に入って車まで行くことにした。

「ホントにあんた、傘持たないんだね」
「うん・・・傘キライだから」

「そっか・・・じゃあ仕方ないね」
「うん・・・ごめん」


傘ぐらい持てよって言わない。
花沢類は知ってるから。私が傘を嫌いな理由・・・。


もの凄い音で雨が傘に落ちてくる。まるで小さな爆弾みたい・・・今にも私に当たって破裂するんじゃないかって気さえする。

男性用の大きな傘に入っていても外側の肩は濡れてしまうほどの雨。
花沢類は私が濡れないようにって肩を抱き寄せて中の方に入れてくれた。でも、その時・・・私は急に耳が痛くなって動けなくなった。
大きな金属音のようなものがキーン!と聞こえてきて頭の中に凄い痛みを感じる!眩しくもないのに目が開けられない!
突然襲ってきた身体の異変に私は立ち止まって両耳を塞いだ。

「牧野?・・・どうした?牧野!」
「・・・イヤだ、何これ・・・!」

「牧野?おい、しっかりしろ!」

「いやあぁーっ!耳が・・・耳が聞こえない!」


今まであれだけ喧しく私の周りで落ちていた雨の音が急に無音になった。
花沢類の声も聞こえなくなった。


私の周りのすべての音が消えた・・・。


私はその場に倒れてしまった事は覚えてる。
花沢類が傘を放り投げて私を抱きかかえてくれて、私たちはあの時と同じようにずぶ濡れだったから・・・。


ただ大きな口を開けて何かを叫んでいる花沢類が雨の向こう側に微かに見えた。




nature-2060511__340.jpg
関連記事
Posted by

Comments 4

There are no comments yet.
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/06/19 (Tue) 14:55 | EDIT | REPLY |   
-  
管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/06/19 (Tue) 15:27 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

あっはは!
とうとう短編まで事件を起こすようになりました!

つくしちゃんのピンチです。
いつものようにこれも実体験です(笑)

お楽しみに~!

2018/06/19 (Tue) 23:35 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さゆ様、こんばんは。

もちろん覚えてますよ~♥今日もありがとうございます。

はい、様子のおかしくなったつくしちゃんですが王子がついててくれるのでご安心ください。
見守ることに関しては宇宙一ですから!え?・・・もう少し積極的に?

そこは類君、時間のかかる人でして。
それにつくしちゃんが笑ってくれればいつまでも待ってくれますから(笑)我慢強いお人です。

今日の総二郎、めっちゃ長かったですねーーっ!!
あまりに長いのでパソコンのキーボードに手を置いたまま固まりましたよ。で、首が痛くなりました。

もう1回、類君が出ないかなぁ・・・。

2018/06/19 (Tue) 23:45 | EDIT | REPLY |   

Leave a reply