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明後日には京都に向かうっていう日、家元と家元夫人が時間を作ってつくしの茶の相手をしてくれた。
正客に家元、詰に家元夫人、次客に俺が入って一通りの流れを口を挟まずに進めてみる。

1度手を止めて考え込んだぐらいで手順は覚えたようだ。
このぐらいなら所作に問題はないだろうって事で家元からはOK!が出た。家元夫人からは女性ならではの立ち居振る舞いについて再度いくつかの注意があったが、それもつくしにはすぐに理解が出来たようで2人で頷き合ってたからいいんだろう。

とにかく俺の方がドキドキしてこいつが茶を点ててる間、ずっと息が出来なかった。
湯でも水でも抹茶でも、入れるものすべてを溢しそうで不安でたまらない・・・だけど、それを顔に出したらつくしが不安がるだろうから必死で平静を装ってた。

「なによ!総二郎さん、あなたがそんなに怖い顔してどうするの?つくしちゃんが困ったら安心させてあげるような表情にしなさいよ。顔しかいい所がないんだから!」
「・・・え?俺、顔に出てた?」

「総二郎・・・何回言ったらわかるんだ。お前がそんなのでどうする?お爺さまはどちらかというとお前の成長ぶりの方が気になると思うんだが?」
「マジで?俺の茶の方が心配なのか!」

「お前は次期家元なのだから当然だろう?お前の茶が美味くなかったら、それをつくしさんのせいにされる可能性もある。しっかりするのはお前の方だぞ?」
「しっかりしてよね、総二郎さん!私よりそっちが家元にお稽古してもらったら?」

「馬鹿言え!俺の事は問題ねぇよ!」


「そうかしらねぇ・・・お爺さま相手に茶席でキレるんじゃないかって思うのは私だけ?」

家元夫人の一言に軽く頷く家元とつくし・・・実は俺が一番心配だとは声に出せなかった。


この後つくしの茶席にどんな掛け物と茶花を使うかで4人が話し合ったが、どっちもちんぷんかんぷんのつくしは俺達の顔を見ながら泣きそうになってる。
とにかく一番簡単なものにしようと言ったが、今度はどれが簡単なのか慣れてる俺達にはさっぱり・・・。

「お花は京都にも咲いてるはずのものにしなきゃ!初風炉の花ですものね・・・草花がいいんだけど、つくしちゃんは何がわかるかしらねぇ」
「草花ですか?・・・タンポポとかシロツメクサとか・・・」
「黙っとけ、つくし」

6月にタンポポとか・・・ってか、タンポポとか生けねぇし!

結局、透かし籠を花器に選んで額紫陽花と鷹の羽すすき、それに鷺草を生けて出そうと言うことになった。
とにかくこの3点を京都の庭で摘み取り、自分で生けるわけだ。そこは俺が立ち会えるから問題ないとして花の説明だけ家元夫人がしてくれていた。

このぐらい花の形が違えば流石にこいつでも間違わないだろう、選んだ理由はただそれだけ。

「いいわね、つくしちゃん。鷹の羽ススキはこの長いヤツ!ススキの葉に白っぽい段斑が入るの。その様子が矢羽のように見えることから名前がついてるのよ。鷺草はこの白くて羽を広げた鳥みたいでしょ?額紫陽花はこれ・・・わかるかしら?」

まるで子供に説明するみたいに家元夫人も必死。つくしは何となくわかったのか自分で何度も生けてみてはバランスを確かめていた。華道はとにかくその生けてある花の空間を感じさせて、気が流れるようにするのが基本。

それに茶花は千利休の「花は野にあるように」という言葉通り、自然を感じられるように生けるものだ。華美にならず人工的にならず、でも詰めすぎたり高さのバランスを崩すと趣が無くなる。特に年寄り連中はそういうところに目がいくんだ。

そして掛け物は本邸から持参することにした。
選んだのは「山是山水是水」・・・やまはこれやまなり みずはこれみずなり。

修業を重ね、余計なことを捨て去って到達した結果、やはり山は山であり、水は水であるという境地を意味するものだ。
何か聞かれてもこの程度なら答えられるだろうからと3人が寄って集ってつくしに覚えさせた。

「大丈夫だな?覚えたな?間違えんなよ?」
「大丈夫よねぇ!これだけ覚えたらいいんですもの。なんとかなるわ!」
「これが一番説明しやすいしな。総二郎・・・行ってからもよく教えてあげるのだぞ」

「・・・が、頑張ります!なんだかんだ言っても山はやっぱり山だよ!って事ですよね?」
「ま・・・そうだけどよ」

もし爺さんに意味を聞かれてそう答えたら完全アウト。
山には山の存在価値があり、水には水の存在価値がある、それらは比較して優劣を決めるようなものではない。
それぞれに役割があり、それぞれが大自然を形成するうえで重要な構成要素なんだってのを修行を重ねるうちに気がつく、ってな感じの説明になるんだけど。
これを人間社会にも当てはめて、この世に生を受けた者は何らかの業を背負いつつ無意識のうちにそれぞれ社会的な役割を担ってる・・・そこに辿り着く話なんだが。

「あー!じゃあさ、アレに似てない?金子みすゞの”みんな違ってみんないい”・・・ね?そうだよね?」
「ま・・・そうだけどよ」


どうして2日前になってこんなに不安になるんだろう・・・。
横を見たら同じような顔になってる家元と家元夫人。3人で何故が溜息をついた。


************


家元夫人が京都で着るようにと用意してくださった着物やお爺さまにお渡しするお土産なんかを箱詰めしたものが西門邸を出発したのはその日の夜だった。

これらは特別便で東京から京都に向かい、現家元つまり総二郎のお父様の所有する京都の別荘に届けるらしい。私たちも京都に行けばそこに滞在して、後はお爺さまの指示に従う・・・っていうスケジュールみたい。
当然今回も和真さんは同行するけど家元も家元夫人も仕事の都合で東京に残らなくてはならない。

だから、私のことは志乃さんが付き添ってくれることになった。
だけどまだ正式な婚約者でもないから付き人さんを連れて歩くわけにもいかず、志乃さんは別荘の中だけって事になった。


総二郎はベッドに寝転んでスマホで何かを見てる。
私はベッドサイドに座って京都の関西西門の組織図みたいなものを眺めていた。それに西門の分家筋の家系図みたいなもの。
そこに天澤家があった。

総二郎の叔父さんの奥様のお姉様の嫁ぎ先・・・そこの旦那様と叔父さんが共同で事業をしてるみたい。
ややこしいけど総二郎と穂華さんは親戚っていうほど近い関係でもないじゃない。って事は、やっぱり結婚しようと思えば出来るわけね・・・確か従姉妹でも結婚は出来るはずだし。

そこに「佐々木武蔵」って名前があった。
ん?・・・最近、これに関係する名前をどっかで聞いたような気がするんだけど・・・?


「大丈夫かなぁ・・・」
「ははっ!今更悩むな。まぁ・・・俺も不安はあるけどさ。なんとかなるだろ」

「ねぇ、穂華さんって本当に京都で会うの?私、もし会ったらなんて言ったらいいのかな」
「穂華?あぁ・・・どうだろうな。でも、あいつはどっちかって言うと四王司の気を惹くためにこの俺を利用したんだと思うから気にしなくていいと思うけど?」

「・・・四王司さんはどうなのかな?穂華さんの事、好きなのかな?」
「さぁ?興味ねぇし。俺は自分の事だけで精一杯だ・・・ほら、お前も他人の事なんて考えるな。来いよ・・・」

総二郎もスマホをサイドテーブルに戻して私に手を伸ばした。
私も持っていた資料をテーブルに置いて総二郎の手を取る・・・そしたらあっという間に彼の胸の中。


「くすっ・・・総二郎の匂いがする・・・」
「は?そりゃそうだろ、俺なんだから。そういうお前だって髪から同じ匂いがする・・・いつも一緒にいるからな」

「ホント?うつっちゃった?」
「あぁ、ホント。もう全部俺のモンだから・・・」


沢山の不安があるけど、ここに抱かれてたら全部忘れる。
総二郎も同じだったらいいな・・・なんて思いながら今日もこの腕の中で眠った。



     
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2018/06/09 (Sat) 19:00 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

なんかですね・・・こういうお茶会のシーンって省いてもいいような気がするんだけど、何故か書きたいんですよね。
禅語なんて興味ないとは思うんですが(私もわかんないんですよ・笑)総ちゃんの話では茶道も入れたいのでね・・・。

しかも禅語って月によっても変わるらしいですよ?
マジで本読んでも意味わかんなくて寝そうでした・・・。
この山は山なり・・・っての、つくしちゃんに優しいんじゃなくて私がこれぐらいしか理解出来なかったの。

やれやれですわ・・・頑張れ、つくしちゃん!


プチLOVE・・・(笑)

プチなら任せて。プチなら!
本格的なのは半年に1回がいい・・・(笑)

で、生きる力をこんな所で見つけちゃダメ・・・!
もっと家の中で見つけてください(笑)

2018/06/09 (Sat) 23:24 | EDIT | REPLY |   

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