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「花沢類・・・!あのね、これは誰かの嫌がらせだから!ホントじゃないから!」

私は周りの生徒の顔なんてもう見えなかった。
ただ正面からゆっくり近づいてくる花沢類の顔しか見えない・・・でも、この張り紙をこの人には見せたくなくて掲示板の前に立ち塞がった。

「おはよ、牧野。どうかしたの?」
「え?あ、お・・・おはよう。あのね・・・その」

「・・・どうしてそんなところに立ってんの?」

花沢類は掲示板なんて見ないで私の方にニコッと笑顔を向けてくれてる。その目がいつ、この張り紙を捉えるのかと思うと身体が動かなかった。
信じるだなんて思わなかったけど、たとえ嘘っぱちで合成されたものでも私の顔なんだもの!一瞬でもこの人の記憶に残したくはなかった。


「花沢様、彼女の私生活がそこに張り出されてるんですわ。よくご覧になって?面白いですわよ?」
「そうそう!おとなしそうな顔してやることは大胆って事ですわ。ほら!あんたも退きなさいよ!花沢様に見てもらったら?」

何処かからそんな声が聞こえてきて、一斉にみんなが笑い出した。
でも花沢類の表情は変わらなくて、じっと私の顔を見下ろしてる・・・すごく優しい顔で。

「何かあったの?そこ、退いてくれる?」
「あの・・・!でも、これは違うの!」

「うん、わかった。あんたがそう言うなら違うんでしょ?気にしなくていいから退いて?」
「花沢類・・・」

私が張り紙の前から身体を動かしたら、その紙を少しだけ見てた。でも何も言わずにガラッとそのガラス戸を開けて私のことが書いてある張り紙を片手で剥がし、くしゃくしゃっと丸めた。
それを何故か片手で持って、また私の方に顔を向けて真顔で言葉を出した。そう・・・何もなかったみたいに。

「じゃ、行こうか。もうすぐ講義始まるでしょ?」
「え?あ、あの・・・花沢類、えっと・・・」

「ほら、特待の子は欠課しちゃダメなんだから急ぎな」
「でも、その張り紙・・・私の顔が・・・でもね!」


「だってあんなの合成でしょ?誰がしたのかわかんないけど事実じゃないんだから堂々としてていいんじゃない?」
「でも、みんなが・・・」

私の肩に手を置いて校舎の方に行こうとするけど、それを見てその辺りにいる人達がザワザワと騒ぎ出した。中には「なによ、あれ!いつの間に花沢様に取り入ったの?」なんて怒り出す女生徒もいるぐらい。
「可哀想に、花沢様ったら騙されてるんじゃないの?」・・・その声が聞こえた時、彼の足が止まった。

振り向いて辺りにいる生徒を睨み付け、同時に声を出したと思われる女子生徒は自分の口を押さえて顔を背けた。

「・・・誰が言ったのかは知らないけど俺は牧野に騙されてないから。お前らこそデタラメな紙1枚に騙されて変な噂を流さないようにね。今この瞬間に忘れた方がいいと思うよ・・・それがお前らのためだと思うから。わかってるよね?」


その時の顔はすごく怖かった。

花沢類がこんなに怖い顔するなんて思わなくて私までビクッとしたぐらい・・・そのぐらい掲示板の前にいる連中を睨み付けていた。こんなに綺麗な顔が刃物みたいな目をしてる。
今までザワザワしていた人達はもう誰も何も言わなくなった。


「牧野、行くよ」
「あっ!うん!ごめんね、花沢類・・・ありがと!」

「なにが?別に何もしてない。紙を1枚剥がしただけだよ」
「うん・・・でも、ありがと」

だって、すごく嬉しかったんだもん。
他の誰が疑ったって、花沢類が信じてくれたらそれでいいって・・・彼の少し後ろを歩きながらそう思った。
今、どうして私に色んな嫌がらせがあるのかもわからないけど、すぐ傍で守ってくれる人がいる・・・それだけで逆に嬉しくなるって変かな・・・。


「何笑ってんの?もう機嫌直ったの?」
「ふふっ・・・うん!花沢類がここにいるから!」

「・・・変なの。よくわかんないね、女の子って」


人のこと言えないよ。
あなたもかなり変わり者だよ?だって今も笑ってる・・・こんな騒ぎがあったばかりなのに。



*************



「あきら、これ・・・この前話したヤツ。一緒に頼んでもいい?」
「あ?あぁ、例の張り紙か」

あきらに袋ごと渡したのは牧野からもらったドアへの張り紙。それにさっきの掲示板の紙もその中に入れようとした。

「それは?また何かあったのか?」
「・・・見せたくないけど」
「見せねぇとわかんねぇだろ?子供じゃねぇんだから!」

横から総二郎まで口出しするから仕方なく、さっき掲示板に貼られた牧野の写真付きの紙を広げて見せた。2人とも驚いてマジマジと見てるけど、こんなものよく見たら合成ってわかる。

牧野の顔や髪のラインがちょっと不自然だし、牧野の首に男が腕を回してるように細工してるけど微妙に身体と顔の比率が変。背景の明るさと牧野の顔色も合ってないような気がするし。
ほんの少し写真合成の経験があれば誰だって出来そうなものだ。


「こりゃまた・・・あいつ、相当逆恨みされてんな?」
「・・・はぁ、幼稚な悪戯だけどこの大学じゃ追い出すにはいい材料だもんな。自分の男の周りから消したいって所か?」

「・・・やっぱりそうなの?結果、出た?」

あきらの言葉で俺の予想は的中・・・犯人は『彼女』しかいない。


「あぁ、昨日指紋照合の結果報告があった。あの寮の裏口のドアについてた指紋のことなんだけど、数名分とれたんだ。そして清掃会社の方に確かめたら全員が作業中は手袋してるらしくて素手で触ることはないらしい。一応全員のも採取したけどな。
で、昼間の誰もいないときに各部屋のドアノブから指紋とって、管理人からも守衛からもとって照合したら、ある部屋から同じ指紋が検出された」

「何処だ?それ」
「303号室でしょ?あきら」

「そう。303号室・・・齋藤の部屋だ。だけど、おそらく齋藤のものじゃない」

「なんでだよ・・・どうしてわかったんだ?」
「齋藤の部屋のドアからいくつかの指紋が採取されてるけど、一致した指紋はその中で1つか2つしかなかった。つまりそこには住んでなくてたまに来る人間って可能性が高い」

「それに齋藤には牧野に出て行って欲しい理由はないかもね。どっちかって言えば俺が出ていけばいいって思ってるだろうから。で、裏口から出入りしなきゃいけない理由もないし、生ゴミって独り暮らしの男には無縁だからね」

「そう・・・それに張り紙って”泥棒”だっけ?密告電話も同じように万引き・・・つまり牧野に何かを盗られたって意識が強いんだと思う。そういう人間は・・・ってことだろ?」
「なるほどね・・・間違いねぇな」

この2つの紙から同じ指紋が出て、それが303号室のものと一致したら犯人は齋藤の彼女しかいない。
牧野は会ったことあるらしいけど俺は顔も知らない。だけどあの日、わざと隣にまで聞こえるように声を出して自分の存在をアピールするような子ならこのやり方も頷ける。


齋藤に近寄るなって言う警告。
そのために寮を出て行くように仕向けてるか、大学をやめなきゃいけない状況を作るか。
どっちにしても余り利口な手段じゃない・・・ただの思いつきで実に幼稚なやり方だ。

「類・・・気をつけないとここまでする女はもっとエスカレートするぞ?」
「・・・ん、わかってる」

「そろそろ考えたらどうだ?・・・大事にしてんだろ?でも、大事にしすぎると捕まえるチャンスを逃すぞ?」


総二郎の言葉にはすぐに答えられなかった。
すごく大事だけど花沢のことを考えたら、彼女に辛い思いをさせそうな気がする。

牧野から笑顔が消えるようなことはしたくない。それに花沢が・・・両親が牧野を認めるとは思えなかった。
そして1番問題なのは自分の気持ち・・・人を好きになることに不器用な俺はこの感情が本当に”それ”なのか・・・まだ言い切ることが出来なかった。


「類、難しく考えるな。守りたいものが出来たんなら離すなよ?」
「そうだな・・・それが見つけられたってのなら羨ましいぐらいだ。ま、悔しいが応援してやるよ!」

ポンと俺の肩を叩いてあきらは袋を手に持って教室を出ていった。
すぐにそれは美作の鑑識に回されて照合が始まるんだろう・・・その結果を待ってから直接話し合う、そこから始めるしかなかった。


これ以上牧野に悲しい思いをさせるわけにはいかないから。





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2018/06/12 (Tue) 09:50 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは!

あはは!私が鞭でピシーッとしてあげましょうか?何処がいい?やっぱりお尻かな・・・?
類は激怒しても静かそうじゃないですか?

すんごく怒ってる時ほど真顔・・・みたいな。
で、すごーく寒いブリザードが吹くの。一瞬で皆が凍るような。(ロイヤルブルー参考にしてください)

えっとね、さとぴょん様が萌えた台詞は両方とも総ちゃんです。
ごめん、あきら・・・比較的美味しい台詞は総ちゃんに回してしまって。

そうねぇ、人を好きになれない類君なので頭よくてもここだけは超鈍いみたい(笑)
誰か教えてやって。

あれ?・・・じゃあさ、この2人お初同士?


そんな馬鹿な!どうやって書くのさっ!!


2018/06/12 (Tue) 23:31 | EDIT | REPLY |   
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2018/06/13 (Wed) 00:01 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、本気?

「牧野・・・何処にどうしたらいいの?」
「えっとね・・・確かこの辺に・・・自分でしてよ!見えないもん!」

「え?ここに?いいの?」
「多分・・・?」

こんなのでいい?

2018/06/13 (Wed) 00:05 | EDIT | REPLY |   

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