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嬉しそうに総二郎に頭を下げて蒼は我が家の門を入って行った。偉そうに・・・なんて隣を見たら、総二郎は穏やかな笑みを浮かべて自分の息子の後ろ姿を見ていた。
天邪鬼・・・牧野にだけじゃなく蒼にまで気持ちと反対の言葉をかけるんだね?

呆れたような顔で立ってた俺に気がついて、慌てたように厳しい顔を作ってるけどもう遅いから。


「あっ!蒼兄様だー!お母さーん、蒼兄様が帰ってきたよー!」
「蒼兄ちゃん、どうしたの?もうこっちに住むの?」

今度は俺の知らない子供達の声が聞こえた。あれが花衣と蓮?写真でしか見たことがない2人が目の前で走っていた。


そして庭の奥の方から出てきたのは・・・牧野だった。
着物じゃなくて涼しげなワンピース。30過ぎちゃっただなんて思えない、あの頃と同じ幼い表情と黒い髪。写真で見てたから知ってるけど本当に何も変わってない。


「え?蒼って、今日来るのはお父様のお友達の・・・」

「連絡しないでごめんなさい。花沢さんと一緒に帰って来ちゃった。でも家元の許可はちゃんともらってるよ?」
「蒼・・・!やだ、びっくりした!お帰り・・・お帰りなさい、蒼」

「うん、すぐに帰るけど・・・ただいま、お母さん!」

俺だけじゃなくて蒼までいたからすごく驚いてる。半年ぶりに会う息子を思いっきり抱き締めてる。

父親そっくりの最愛の息子・・・総二郎の名前を叫びながらこの世に送り出したあの日の事を思い出した。蒼も牧野の左手を撫でてる・・・ここを出るまでは母親を助けてきただろうから心配なんだろうね。
小さな弟妹達にはまだ自分の代わりは出来ないって思ってるのかな・・・。


「総二郎よりは素直だね。ああやって飛びついていけるなんてさ」
「馬鹿言え。親子じゃねぇか」

「くすっ・・・子供にヤキモチって焼くものなの?」
「そんな訳ねぇだろ。くだらねぇこと言ってないでさっさと入れ!」


蒼が牧野から離れたら、今度は俺の方に顔を向けて嬉しそうに笑ってくれた。何か言いたそうに口が動くけど言葉が出ない。
それは俺も同じ・・・でも、欲しいのは言葉じゃなかったんだ。

ごめん、総二郎。
出来たら我慢しようと思ってたけど無理みたい。

俺の足はゆっくりと牧野の方に向かって動き出し、少し歩いたら速度が速まって、気がついたら牧野に向かって駆け出してた!
牧野は動かずに待っててくれる・・・両手を前に出して俺を迎えてくれる。

ずっと自分のものにしたかったその手を俺の方に向けてくれてる!
そしてスピードも緩めないまま牧野の前まで走り寄って、その身体を思いっきり抱き締めた・・・!

相変わらず細い身体。懐かしい髪の匂い、欲しかった温かさ、忘れかけていた胸の高鳴り、その全部を自分の腕の中に閉じ込めてるんだ。
たとえ今だけだとしても・・・すごく嬉しかった。


「牧野・・・!会いたかった」
「・・・花沢類、私も会いたかったよ。お帰り・・・花沢類」

「うん・・・ただいま。ホント、あんたって変わんないね・・・びっくりしちゃうよ」
「あはは!そう言う花沢類も何も変わってないわ。少しも歳をとらないのね。相変わらず私の大好きな髪・・・綺麗だね」

牧野はそう言って俺の前髪をまた触ってくる。
あの6歳の時と同じ目で笑ってる・・・だから、俺も牧野の髪を撫でようかと思ったら後ろからグイッと引っ張られた!

「何するのさ、総二郎・・・痛いんだけど!」
「何するじゃねぇよ。俺の前でつくしに抱きつくな!相変わらずいい根性してるな・・・それ以上は許さねぇから離れろ!」

「いいじゃん、今日だけだよ?」
「ダメ!お前は油断ならねぇからな。ほら、つくしも中に入れ。花衣、蓮も紹介するから中に入れ」

「はーい、お父様」
「蒼兄ちゃん、早く入ろう!」
「蓮、お前、足から血が出てるじゃん!何やってんだよ・・・もう、仕方ないなぁ!」

総二郎の一声で子供達が全員駆け足で家の中に入って行く。これが父親ってものなんだね・・・総二郎は牧野に持っていたものを渡して、自分はすぐ傍の水道で手に持っていた花をバケツに入れていた。

東京では考えられなかったこいつのこんな姿。
すっかりここの生活に慣れて、家族を守って、仕事をして・・・総二郎はここで生きてるんだなって思った。



「蒼はもう自己紹介が終わってんだろ?それなら花衣、挨拶しなさい。蓮は自分の名前ぐらいは言えるな?」

東京の西門邸に比べたら狭い屋敷。だけどここには温かい空気が流れてた。
総二郎が俺の前に子供達を並べて作ったような厳しい顔してる。可笑しくなってクスって笑うと子供達じゃなくて総二郎が少し照れてた。

花衣は総二郎にそっくりな女の子で綺麗な顔をしてる。将来は総二郎を悩ませそうだね。
蓮はなかなかやんちゃ坊主みたい。あちこちに傷があって絆創膏だらけで、この子は牧野を悩ませそうだ。
そして牧野が奥の部屋から年末に生まれたっていう4番目の子供を抱いて来た。

「ふふ・・・まだ寝てるから。はい、この子が毬莉っていうの・・・どう?私に似てるらしいよ」
「あはっ!ホントだ・・・小さい牧野だ。ね、抱いてもいい?」
「・・・持って帰るなよ」

・・・何言ってるんだろうね、総二郎は。
呆れて牧野と振り向いたけど、総二郎は真面目な顔して腕組みして俺を睨んでた。

「持って帰らないよ。ちょっと抱きたいだけ・・・だって牧野にそっくりだもん」
「子供の前でそういうこと言うなって!ここから追い出すぞ、類!」


その子は本当に牧野にそっくりだった。黒い瞳も黒い髪も唇の形も・・・。
柔らかいほっぺたに俺の頬をくっつけたらキャッキャッって声を出して笑って、少し離したら俺の前髪を触った。
「私みたい!」って牧野が言ったら「お前、そんなことしてたのか!」って総二郎が牧野を睨んでる。

わざと毬莉にキスしたら総二郎が本気で怒って俺の襟を掴んで引き離したんだ。


「そこまで怒らなくてもいいじゃん!相手は子供でしょ?俺の一方的な思いなんだからさ。大人気ないなぁ・・・総二郎」
「何言ってんだ!たとえ0歳児でもダメなものはダメだ!もう返せ!つくし、毬莉を取り上げろ!」

「総二郎、そこまで言わないの!花沢類が可哀想だよ。総二郎こそ手を離しなさいよ!」

牧野に怒られて渋々俺から手を離したけど、振り向いたらすごく機嫌の悪い顔して俺を睨んだ。きっと小さな「牧野」を盗られそうな気がしてるんだね。


その日の夕食は牧野の手料理がテーブルの上にぎっしり並べられて、総二郎はまた偉そうに真ん中に座った。
その隣が俺で、牧野は蒼と並んだ。小さな子供達はおかずを取り合ったりして大騒ぎしては総二郎に怒られる、そんな賑やかな食卓だった。
蒼は久しぶりに牧野の料理を食べるから嬉しそうに、でも流石西門で稽古してるだけあって品があった。

牧野が何かを取りに行こうとすると「僕が行くよ」ってすぐに席を立つ母親思いの優しい子。
俺が彼を知ってる時は生まれたばかりだったから、ここまでの成長を何故か父親みたいな気分で見ていた。


「どうだ・・・仕事。順調か?」
「あぁ、まずまず・・・かな?この前は司と一緒に仕事したよ。くすっ・・・あいつ、少しは大人になったから怒鳴らなかったけど」

「ふん!・・・危なげなくやってんならいいさ」
「総二郎は?こっちの支部は少しは大きくなったの?」

「どうだろ・・・俺もまずまず、だな。食うには困んねぇよ」

お互いに目も見ずに言葉だけ・・・俺達はこれで十分だった。
総二郎が黙ったまま空になったグラスに新しく酒を注ぐ、その途中にたまに話す仕事のこと。昔話なんてしない・・・これからの事も話さない。
どちらからともなくクスッと笑えば、フッと笑い返すだけ。「美味いな」って言えば「牧野の自信作だね」・・・その程度の会話。

「花沢のおじ様はどこに住んでるの?」
「・・・おじ様?え、えっとね、フランスって所だよ。日本じゃないんだ。わかるかな?」

いきなり言われた”おじ様”・・・これには総二郎も牧野も大笑い。初めて俺の方がムッとしてしまった。いや、花衣にじゃないけど。

「知ってる!エッフェル塔があるところでしょ?テレビでお母さんがエッフェル塔見てた時に大騒ぎしたことがあるもん。『この国に大好きな人が住んでるの』って言ってた。それって花沢のおじ様のこと?お母さんと仲良し?お父様よりも?」
「やだ!花衣、その話はやめてよ!」

急に牧野が赤くなって慌てて花衣の話を止めようとした。
『大好きな人』・・・子供達にそう言ってくれてたんだと思うと嬉しくて、チラッと横を見たら総二郎が驚いた顔してた。

「うん、仲良しだよ。俺もお母さんの事が大好きだけど、お父さんが邪魔ばっかりしたんだよ」
「類!子供に変な説明すんな!記憶に残ったらどうすんだ!」

「だって事実だもん。ね、牧野」
「え?あの・・・そ、そうね。邪魔・・・ははっ・・・うん、そうなのかな?」
「つくしまで適当に答えるな。邪魔はしてねぇよ。横からごちゃごちゃ煩かったのは類の方だろうが!」

「・・・そうだったんですね。花沢さん、辛かったんだ・・・」

蒼の言葉に3人が止まった。
そのあと蒼は慌てて俺達から視線を外して目の前の料理に箸をつけた。よくわかってない花衣も蓮も、もう俺達の事なんて無視して母親の手料理を頬張ってた。



そして夕食が終わったら子供達は早々に休んだ。
蒼も気を利かしたのか牧野と話したかっただろうけど懐かしい自分の部屋に戻っていった。


縁側に座るのは俺と牧野。
総二郎は自分の書斎に行った。きっとすごく機嫌が悪いと思うけど。


「本当によく来てくれたね。花沢類・・・会えて嬉しいよ」
「うん、俺も。ホントは迷ったんだけどさ。10年前に日本を出ていくとき、2度と牧野には会わないって決めてたから」

「・・・私、甘えすぎたもんね。ごめん・・・今でもあの頃の自分が許せないときがあるわ」
「俺はそんな風に思ってないよ?牧野の支えになれて嬉しかったんだから」


少し涼しい風が吹いてて牧野と俺の髪を靡かせた。
俺の右側に座ってる牧野の左手に触れてみた・・・今はどのぐらい動くのかが気になったから。

「どう?左腕、少しは良くなった?」
「ふふっ・・・それがね、10年経っても変らないの。相変わらず頭より上には上がらないし茶碗も持つと震えるわ。でもね、みんながいるから大丈夫なの。重いものは総二郎が持ってくれるし、高い所にあるものも取ってくれる。洗濯物は花衣も干してくれるし蓮だって時々荷物を持ってくれるわ。私ね・・・みんなに助けてもらってるの。あの時に花沢類が助けてくれたみたいに」

「そう・・・それなら大丈夫だね」
「うん、大丈夫。すごく幸せだから」

照れた顔してるでしょ?
部屋の照明が背中から来てるから顔は暗いんだけど俺にはわかるよ・・・あんた、真っ赤になってるって。



「花沢類は?結婚・・・考えないの?」
「うん、このままでいいから」

「幸せなの?」
「幸せだよ。あんたが笑ってるから」

「でもさ・・・そうじゃなくて、寂しくないの?」
「これでいいんだ。寂しくはないよ」


俺達は一晩中縁側で話してた。
もうその肩も抱かないし、手も握らないし、背中も支えられないけど、心だけは牧野と繋がってる・・・俺はそう思ってる。


牧野の笑顔だけが何年経ってもたった1つの俺の宝物。





rui21.jpg
すみません…次回がラストです(笑)
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2018/06/08 (Fri) 13:40 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: ウルウル…

まーこ様、こんばんは。

あらら!すみません(笑)
切なかったですか?次回はお別れシーンですが大丈夫ですか?ハンカチ・・・準備してくださいね。

どうしてもこの話の類君は書きたかったんですよね。
うんうん、わかります・・・何故か切ないのにトキメキますよね♥

そういうのはやっぱり花沢類ですね。
総ちゃん書いてるけど、そこは少し違うって思いますもん・・・。

最終回、待っててくださいね!(書きながら泣いた人です)

2018/06/08 (Fri) 22:11 | EDIT | REPLY |   
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2018/06/09 (Sat) 18:50 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

総ちゃん、すっかり田舎のお父さんです(笑)
モデルはですね・・・やっぱり磯野波平さんです!!

テーブルは真ん中に座り、子供達に厳しい。そして着物(笑)何処から見ても波平さんでしょうっ!
そのうち髪の毛が3本になるんですよ。どっひゃーっ!!

ハゲネタはあきらだけじゃないのね・・・。


この時の類は35歳辺りなので流石にお兄さんではないですよね。でも「おじさん」は嫌だったのよ。
せめておじ様で・・・花衣からみたら立派なおじ様ですもんね!(似合わないけど)

嫉妬心丸出しでイライラしてる総ちゃんが可愛いでしょ?
多分縁側も覗いて見てると思います。襖が3㎝ぐらい開いててね・・・(笑)

いよいよLastですねぇ・・・。
楽しいかどうかはわかりませんが待っててくださいませ。

切なさマックスの類君、お届けします!

2018/06/09 (Sat) 23:12 | EDIT | REPLY |   

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