10月の向日葵~番外編 類の想い~再会~・LastStory
蒼はもう1日、家元から許可をもらって総二郎に稽古をつけてもらう事になっている。そういう理由を付けた家族水入らずの時間なんだ。
「写真撮ろうよ!花沢類が真ん中ね。毬莉抱っこする?」
「うん、じゃあ牧野は俺の隣ね。総二郎は後ろで」
「なんで俺が後ろなんだよ!」
「じゃあ端っこで」
こうして撮った写真は結局牧野と俺が真ん中で、総二郎は怒った顔して端っこに立ってた。
「お父様に勝つなんてすごい!」って花衣が驚いてたっけ。毬莉を抱っこした俺が牧野と寄り添ってるから、そこだけ見たら俺達が夫婦みたい。
今ならこれを穏やかな気持ちで見ることが出来る。
時の流れってすごいよね・・・辛いことは薄れていって、優しい気持ちだけ変わらずに残るんじゃないかって思ったよ。
毬莉がいるから牧野とはここで別れる。
空港には総二郎が1人で送ってくれることになった。
「それじゃあ、お元気で。花沢類、また会える?」
「どうだろうね。約束は出来ない・・・元気でね、牧野」
「・・・私はいつでも花沢類の幸せを祈ってる。あなたのこと、忘れないから」
「うん、ありがとう。俺も忘れないよ。ずっと覚えてる・・・あんたの声も髪も・・・手の温かさも、全部ね・・・」
そんな顔しないでよ、行けなくなるじゃん。
総二郎が睨んでるから行かなきゃいけないのに・・・涙なんて流さないで?悲しくなんてないんだから。
「じゃ、ホントに行くね」
「うん・・・フランスについたら連絡してね?心配だから」
「あはは!俺は子供じゃないって。でも、わかったよ、必ず連絡する・・・」
まだ何か言いたそうな牧野に最後の笑顔を向ける。
本当は牧野に触れたかったけど、抱いてる毬莉の髪を触って「ホントにあんたそっくり。元気に育てよ?」って声をかけた。
蒼、花衣、蓮にも手を振って北の地の西門家を後にした。
総二郎が少し呆れた顔で車の運転席に座ってる。その助手席に乗り込んだら無言でエンジンをかけてアクセルを踏み込んだ。
最後までそんなに怒らなくてもいいのに・・・って可笑しくて笑ったら、後ろからすごく大きな牧野の声が聞こえてきた。
あんな声・・・まるで子供の頃みたい。俺の名前を叫んでるけど振り向かなかった。
今振り向いたら動き出してる車から飛び降りてしまうかもしれない。そうなったら総二郎の目の前で・・・子供達の目の前で牧野を奪ってしまうかもしれない。
そのぐらい・・・本当はまだ俺の中には未練があるから。
何度も聞こえる牧野の声・・・それが聞こえないフリをして目を閉じた。
急に総二郎が車を停めた。
それに驚いて運転席を見たら、真っ直ぐ前を向いたまま険しい顔してる。それなのに出した言葉は・・・。
「1度だけ見逃してやる。行ってこい・・・あいつが止まらねぇから」
「・・・え?」
その言葉に後ろを振り向いたら、牧野が右手だけを振りながら車に向かって走ってた。黒い髪を揺らして、今にも転けそうなぐらい必死な顔してこっちに向かって走っていた。
もう総二郎を見ずに車から飛び降りて、俺も牧野に向かって走って行った。
もう少しっていうところで俺の方が立ち止まって両手を広げたら、今度は牧野が俺の腕の中に飛び込んで来た。その反動で倒れそうになるぐらいの勢い・・・そんな牧野を思いっきり抱き締めてその髪の中に顔を埋めた。
「バカだね・・・転けたらどうするの?あんた、もう母親なんだから・・・」
「どうしてももう1回花沢類にお礼言いたかったの・・・あなたがいてくれて私がどれだけ助かったか・・・あなたがいなかったら私、頑張れなかったかもしれない。そのぐらい助けてもらったから。ありがと、花沢類・・・本当にありがとう」
「・・・うん、俺がそうしたかったんだからいいんだよ。俺は牧野のために生きてきたんだから」
もう、これで最後だね。
この手があんたを離したら、もう2度と触れることはないと思う。
ゆっくりと俺の手は彼女の背中を・・・まるでスローモーションの映像でも見てるかのように離れていく。
「またね、牧野」
「うん!またね、花沢類」
もう来ない「またね」の時間・・・それでもその言葉を残して俺達は別れた。
車の中ではハンドルに伏せたままの幼馴染みが無表情で待ってた。
「行くぞ」って小さな声で呟いて、再び車は動き出した。
もう・・・牧野の声は聞こえなかった。
空港に着いたら来なくていいのに総二郎がロビーまでついてくる。
蒼じゃないんだから1人で帰れるのに・・・もちろんそんな理由じゃないことも知ってるけど。数歩だけ俺の後ろを歩きながら搭乗ゲート前まで行くと、そこで俺達は立ち止まった。
そして小さな包みをくれた。中身はあの時と同じおにぎりと卵焼き。
「機内で食えってさ。朝早くに起きて何してるのかと思ったら・・・」
「ありがとう。総二郎、お前にこれから先のこと全部任せたからね。牧野を幸せに・・・してやって」
「あぁ。心配すんな。お前も・・・」
お前も・・・って言った後の言葉は出せなかったみたい。
「俺の事も心配しなくていいよ。俺はこれからも同じ気持ちで生きてくから。じゃあね、総二郎」
「・・・じゃあな、類」
いつものように片手だけ上げて総二郎と別れて、1人で飛行機に乗った。
あの時と同じように小さくて不格好なおにぎり・・・それを口に運んだ瞬間、牧野の声が聞こえた気がした。
「ねぇ、これからずーっとつくしのお友達になってくれる?」
「いいよ。友だちになるよ」
「ほんと?”ゆびきり”出来る?あのね、”ゆびきり”したら約束破っちゃいけないんだよ?」
「いいよ。じゃあ”ゆびきり”しようか?」
「うん!するーっ!」
「うん。じゃ、これからずっと友だちだね」
牧野・・・あんたに会えて最高に幸せだったよ。
俺はこれからもあんたのことを愛してる・・・変わらずにずっと。
この命が終わるまで・・・俺の恋人はあんただけだよ。
「うん!つくしはね、”牧野つくし”って言うの。あんたは?なんてお名前?」
「俺は花沢類・・・」
お付き合いいただきましてありがとうございました。
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