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「つくし、急いで準備するから手伝ってくれ」
「はい。まずは何処から・・・?」

「俺は蹲踞つくばいを清めてくる。お前は待合の拭き掃除と枝折戸を拭いてくれ。そのあとに躙戸もな」
「はい、わかりました」

本来昨日しておくべき露地周りの掃除から急がなくちゃいけない。ここは茶事の時に1番初めに客が目にするところだ。
この屋敷では普段から頻繁に茶事をするわけではないから荒れているわけではないが掃除が行き届いてるかと言えばそうじゃない。茶事は茶を点てる時間だけが重要じゃない。
むしろこういう部分に気を配って、客が清々しい気分で茶室に向かえるようにすることは大事だと爺さんに厳しく教えられた。

その爺さんが正客なわけだから当然細かい所まで見られるだろう。


「つくし、蹲踞柄杓は新しいものが出てるか?」
「えっと・・・ううん、そうじゃないみたい。すぐに準備して来ます」

「頼むな」

露地の掃除が終わったら下水をうち、蹲踞には水を張り柄杓を置く。腰掛け待合には蕨箒を掛け、待合には客が身なりを整えるための乱れ箱を置き、敷物を敷いて掛け物を掛ける。

亭主が汲出しを出すなら掛け物の説明も求められるかもしれないが、半東のつくしには何も聞かないはず。
念のため、つくしにも説明のしやすいように「雲収山嶽青」(くもおさまって さんがくあおし)というものを掛けた。
梅雨に入り鬱陶しい気分になるこの時期。雲が晴れると、青々とした山が現れるという意味で、煩悩が晴れれば、すがすがしい心が現れるという解釈になる。

「多分、何も聞かれないはずだ。だけど爺さんのことだから何を言い出すかわかんねぇからな。一応頭に入れとけ」
「晴れた日は気持ちいいね!ってことだよね」

「ま・・・そうだけどよ」

無邪気な一言に笑ってやりたいが時間がない・・・。
また少し不安が過ぎったのは俺だけか?


「水屋で汲出しの用意をしておけ。ここはつくしの仕事だから準備をしながら手順の確認。わからなかったら聞きに来い。俺は茶室の花を準備する。この奥の庭に行くから」
「はい、わかりました」

今日の茶事の花には夏椿を選んだ。
夏椿は一日花であるが故にその一刻の美しさは格別。多くの茶人がこの花を好むと言われている。

奥の庭に入り、夏椿の枝で今日の花入れに相応しいものを選ぶ。この木は花も葉も茂ってるからいくつか選んだものを花入れに入れたあとで余分な葉を切り落としていく。残った葉は奇数・・・今日は半分だけ開いた状態の一輪にまだ固い蕾がついている枝を添え、信楽筒に生けた。

ただし、茶花の登場は後座の時だから今はまだ水屋に置いておく。
そして懐石時の掛け物の準備。茶室の掛け物は「白雲自去来(はくうんおのずからきょらいす)」

これは元々「青山元不動 白雲自去来(せいざんもとうごかず、はくうんおのずからきょらいす)」の一部分。
山は雨が降ろうが、風が吹こうが、堂々として動ずるところがない・・・と言う前者の意味と、そこに湧き上がる白雲はその山にも遮られることはなく、上下左右、東西南北と自由自在に去来する、という後者の意味。
いつ、どこで、何をするにしても、周囲のいろいろな現象に心をとらわれて右往左往することなく、山のように少しも動ずることなく、泰然としてわが道を貫き通せ、という意味だ。


一通りの掃除が終わったら控え室に戻り、自分たちの着替えをする。
俺ももちろんだがつくしは半東だからもっと色味を抑えた地味なものにする。ただし、24という歳に似合うぐらいのもの。志乃さんが準備してくれた淡いブルーグレーの着物に着替えて帯も今締めてる高級なものから少し抑えたものに変える。

当然紋が掘られてる帯留なんてものは外さなくてはならない。髪に挿していた簪も抜いて兎に角飾り気のない支度にやり直した。


「もうすぐ始まるんだね・・・総二郎、落ち着いてね?」
「は?俺の心配か?」

「だって亭主は総二郎だもん。何かあったら怒られるの総二郎だもん」
「ははっ!まぁ、そのぐらいの気持ちでいいや。お前も落ち着いて動けよ?転けて足を挫いても俺は茶席から逃げられないからな」

「うん!頑張る!」


あぁ・・・頑張ってくれよ。これまでの努力を無駄にしないようにな。

「さっきの怪我は?見せてみろ」
「え?・・・あぁ、これ?まだ少し血が滲むね。絆創膏貼ろうか?」

「茶席に絆創膏・・・笑えるな!」

茶事開始まで1時間・・・30分前になったら手掛かりを開けて準備完了の合図をしなくてはならない。俺達がのんびり出来るのはこの30分だけ。

心を落ち着けようかって話になり、2人で並んで控え室から見える庭園を眺めていた。
一言も言葉を交わさずに・・・ただ手を繋ぐだけで。


************


「時間だな・・・つくし、行こうか」
「はい。宜しくお願いします」

時間になって2人で茶室横の水屋に入った。
私はすぐに汲出しの準備をして待合の隣で待機。ここでつめと呼ばれる末客の方からお客様が揃ったことを伝えられる。

今日のお客様は正客にお爺さま、次客に関西西門の後援会会長さん、詰に京都支部の支部長さんという大御所揃い。
少しドキドキしながら襖が開けられるのを待っていた。

そして定刻通り、襖がすーっと開いたら、上品なお爺さんが「皆、揃いましたので・・・」と伝えてきた。
私は1度深呼吸してから汲出し盆を持ち、お客様の前に出て行った。

そして深く礼をしたあとで汲出しを3人の前に出した。今日の汲出しは白湯に紫蘇の香煎、それを両手で持ち配っていると、お爺さまが急に声をかけてきた。

「お嬢さん、お怪我をされてるのかな?」
「・・・はい?」

「手の指に・・・」
「あっ、申し訳ございません。先ほどこちらのお屋敷内で・・・ご無礼致しました」

総二郎に断りを入れて絆創膏を貼ったけれど、それでも少し血が滲んでいた。今、汲出しを準備するために手を濡らしたからだろう、貼り変えるのを忘れたために汚れた部分を見せてしまった。
お茶室は昔から武士でさえ刀を外に出して入るという「穢れ」を忌み嫌うものだと総二郎に言われたことがある・・・だから、総二郎も手だけは怪我しないようにと言われ続けたと・・・それなのに、私がこんな血の滲んだ指を見せるだなんて。

慌てて押さえようとしたら詰の方にお出しする汲出しに手が当たって溢してしまった!

「ああっ!申し訳ございません!すぐに準備し直しますので」
「慌てん坊さんですなぁ、この半東さんは。大丈夫やろか?今日のお茶事は滞りなく進むんでしょうな?」

次客の後援会長さんがクスクス笑って、お爺さまも「流石石庭で寝転ぶだけのことはあるのぉ!」と茶化した。
すっかりパニックになった私はとにかくやり直すしかないと思って頭を下げ、詰の方のお湯のみを下げた。手が・・・震える!
立ち上がろうとしたけど緊張して自分の着物の裾を少しだけ踏んでしまって蹌踉けたり、絶対に失敗しないようにとイメージトレーニングしてきたのに一気に全部が吹き飛んでしまった。


そして1度水屋に戻るとその様子を見て総二郎が驚き、自分の手を止めて私を見た。

「どうした・・・なんでそんな顔で戻ってきたんだ?汲出し、出したんだろ?」
「ごめんなさい!あの・・・と、とにかく1つ・・・もう1つお出ししないといけないの!すぐに支度を・・・!」

「落ち着け!つくし、焦るなって!」
「やだ、だってお爺さまが笑ったんだもん!知らない人も私の事慌てん坊って!今日の茶事は大丈夫かって・・・!」

「つくし、大丈夫だから声を荒げるな。まずは静かにしろ・・・心配ないから」
「・・・総二郎、ごめんなさい」

興奮してる私を総二郎がふわっと抱き締めてくれた。


「き、着物が皺になるよ?」
「いいからこのまま話せ、聞いてやるから。何があった?」

抱き締められたまま、すごく簡単に今の話をしたらすぐに絆創膏を貼り替えろと言われ急いで張り替えた。その間に総二郎が新しく汲出しの準備をしてくれて、別の盆に入れて渡してくれた。


「いいか?部屋に入ったら一言詫びを入れて、全員の汲出しを渡し直せ。そのあとさっきの汲出し茶碗を集めて下げろ。詰客のものだけ変えるなよ?全員のだ・・・わかったな?」
「は、はい・・・行ってきます」

「このぐらいどうって事ねぇよ。心配しなくても茶事は滞りなく俺が終わらせてやるから。ほら、行ってこい」


総二郎は全然怒らなかった。
バカか!お前はって・・・絶対にそう言われると思ったのに。

逆に笑ってくれた・・・「想い出に残る待合だろうよ」って。


だから、もう一度気持ちを切り替えて待合に向かった。今度は・・・大丈夫!

「失礼致します。先ほどは取り乱しまして申し訳ございませんでした。新たなものをご用意致しましたのでどうぞ・・・」


「ほな、いただきましょうか。お嬢さん」
「おおきに・・・気を遣わせましたな」


一番初めの私の仕事は出来映え点15点ぐらいか?
この先は表には出ないけど精一杯総二郎の茶席が上手くいくように頑張らなきゃ!



yjimageTG52RLMG.jpg
↑これが夏椿です。


↓これは枝折戸。茶室がある場所の1番初めの扉です。

yjimagePTPWOBTB.jpg

↓これが待合。普通の和室です。つくしちゃんはここに汲出し(お白湯)を持っていくんですね。

yjimageD1AXXXGP.jpg

↓これが腰掛け待合。茶室に入る直前にお客様が待つ場所です。

yjimage3KAY0MO4.jpg

↓これが腰掛け待合に掛けてる蕨箒。なんにするんでしょうね・・・魔女の宅急便みたい。

yjimage1WZYKVGW.jpg
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2018/06/19 (Tue) 15:26 | EDIT | REPLY |   
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2018/06/19 (Tue) 15:30 | EDIT | REPLY |   
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2018/06/19 (Tue) 21:55 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

緊張しないでくださいよ(笑)
始まっちゃったねぇ・・・初めは総ちゃんの茶事ですからつくしちゃんの出番はほぼ終わり。

詳しく書きすぎると訳わかんないですが、今回は少々真面目に書きました。
総ちゃん対爺さんを半分真面目に、半分楽しんでください。

もうねぇ・・・調べたら余計にわかんなくなるんですよ。
でも、茶会って亭主側、この場合総ちゃんの思いで進めていいらしいので、絶対的な決まり事さえ押さえてれば意外と自由らしいです。

やってみたいと思うけど、多分無理・・・1回体験したら2度としないと思います。

蕨箒(笑)

なんで掛けるんだろう?確かに謎ですが、これもする人としない人がいるみたい。
あはは!つくしが跨がるとか想像しませんでしたよ!怖いわ~💦

しばらくお茶のシーンが続きますが、頑張ってついてきてくださいね!

2018/06/19 (Tue) 23:53 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは。

母の気持ち(笑)それはありがとうございます。心強い・・・。

そうですね、出だしで少し躓きましたがこれから先は頑張りますよ!
でも、今回は総ちゃんの茶事です。つくしちゃんの茶会は・・・ははは!色々とあるようです。

総ちゃんが失敗したら洒落にならないので明日は真面目に行きます!
また少し難しい言葉があるかもです。

出来るだけ参考写真は載せておきますね。

総ちゃんがつくしをフォローしながら頑張るんで応援宜しくです!

2018/06/19 (Tue) 23:57 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

まりぽん様、こんばんは。

あら、気になりました?ふふふ、そうなんです。
夏椿は別名沙羅と言います。

何でも仏教で聖木とされる沙羅双樹(さらそうじゅ)にちなんだ名前らしいですが、夏椿と沙羅双樹は全然別物だそうです。

私の実家にはこれがあるので昔から知っておりました。
ただ、茶花で好まれるとは総ちゃんのお話を書くようになってから知りました。

普通の家では花瓶とかに生けないんですよね。一日花ですから。
出来たら自然の中で密かに咲いてる方が風情があっていいと思います。

何気に入れた画像からそこまで感じていただけて嬉しいですね♥
わざわざ教えてくださってありがとうございます。

2018/06/20 (Wed) 00:07 | EDIT | REPLY |   

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