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汲出しを出し終わったら詰客の方が「あとはお預かり致しましょう」・・・そう言うから私は1度部屋を下がる。
お客様達が寛いでる間、私の次の仕事は腰掛け待合という次の移動場所に向かうための草履を揃えること。

そして一定時間過ぎたら静かに声をかける。

「お召し上がりのうえ、腰掛け待合の方へどうぞ・・・」

私の言葉でお客様達は1人ずつ席を立ち待合を出て露地を進み、腰掛け待合に向かう。最後、詰のお客様は全員が出たことを知らせるために必ずわざと音を立てて扉を閉める。
その音が聞こえたら私たちは次の行程の準備に入る。

腰掛待合は総二郎がお客様を迎付するまでの間、露地の風情や景色を楽しむ時間。
ここからは亭主である総二郎の仕事が中心だから、私はすぐに懐石の支度にかかる。迎付というのは亭主が蹲踞を再度清めてからお客様を迎えること。

この時、主客総礼だけど言葉は交わさない。無言での礼が終わると総二郎だけが先に茶室に戻り、お客様はこのあとも自分達でタイミングを計り茶室へと進んでくる。

「つくし、もうすぐ客が入ってくる。このあとは自分で考えて動け。俺は自分の茶席に集中する・・・どうしても俺に聞きたいことがあれば急に声を掛けずに手でも目でもいいから合図してくれ」
「わかりました」

「先に伝えておくが懐石の間は待合の片付け、それが終わると順次出す椀を温めておいてくれ。焦らなくても客は掛け物の拝見時間とかがあるからすぐじゃない。躙戸を詰客が締めたのを確認してからだ。落ち着いて・・・静かにな」

「はい、頑張ります」


***********


つくしはさっきの失敗をもう忘れたようだ。
すごく真剣な顔で水屋での仕事をしながら茶室の動きをソワソワと確認している。落ち着きがないと言えばそれまでだけど、一生懸命茶事に取り組んでるんだと思うと嬉しかった。

それなら尚更俺がいい茶席を作るしかない。
ここからはつくしのことは本人に任せて俺は自分の仕事をするだけだ。


茶道口の手前に進み正座をして待つ・・・しばらくすると茶室の方から正客の爺さんが声を掛けてくる。

「どうぞお入りください」

俺が静かに襖を開けて席中に入るとまずは主客総礼・・・ここで茶事の作法に従い爺さんと俺が挨拶をする。

「本日はこのような茶事に招いていただき・・・まぁ、儂の家じゃがありがとうございます」

何故ここで余計な一言を添えるんだっ!このクソじじぃ!その言葉に次客も詰客もクスクス笑うが、このように茶化して俺の気を削ごうって魂胆か?アホか・・・誰がそんな手に乗るか!
そして、この次にまた余計な事を言いやがった。

「先ほどは待合でお湯を2回もいただき、ありがとうございましたな。久しぶりに待合で笑ってしもうての・・・お嬢さんは大丈夫かな?」
「はい、粗相があったようで申し訳ございません。なにぶん始めてて緊張しておりましたのでしょう。お許し下さいませ」

「いやいや、責めてはおらんよ?儂らもそういうのは初めてじゃからの。まさか2回も・・・いや、失礼した」
「・・・2回目の方の記憶だけ残してください」

なんでこんな挨拶になるんだ!絶対につくしじゃなくて俺で遊んでるな?・・・根性ワルな爺さんだ!
続いて今日の掛け物の質問や誰の書であるかなんて会話をしてから、初炭手前、香合の拝見と進んでいく。この時に正客である爺さんから道具についての説明を求められるとそれに答えなくてはならない。

で、普通は掛け物や香合の事を聞くことがほとんど。
だからこれについてはもちろん何を聞かれても問題なく答えられるものを選んだのに、このクソじじぃ、絶対に聞かねぇ事を聞きやがった!

「ご亭主、本日の羽箒はぼうきは何ですかな?」
「は?羽箒ですか?」

「そうそう、変わった羽箒ですな。ご亭主は変わったものがお好きなのですかな?」
「変わったものが好き・・・ですか?」

そりゃつくしのことを言ってるのか?マジ、ムカつく・・・!変わってて何処が悪い!
変わっていようが、慌てん坊だろうが、天然だろうがこの俺が気に入ったんだから仕方ねぇだろうが!


「・・・本日の羽箒は縞梟の双羽を使用しております。気になりますか?」
「いや、特に」

じゃあ聞くなよっ!!こんなもの聞く客なんて初めてだ!まだ何か言いたそうだったからこっちから声をかけてやった。

「本日の掃込はきこみは白鳥の右片羽を使用しております。因みに座箒には鷲の羽ですがご覧になりますか?」
「ほほぅ!白鳥の掃込ですか?そりゃ今では値が張る物をお持ちですなぁ・・・でも結構。儂も持っておりますのでな」

「・・・それでは勝手をみくつろいまして粗飯を差し上げます」


俺の茶席をどうにかして乱そうとしてんのか、この爺さんは!それが自分の跡を継いでいくって重責を背負ってる孫に対する態度か!
1度水屋に下がるとつくしがきちんと懐石の準備をしていて、すぐに茶席に出せるように揃えられていた。
飯と汁椀を出し、その後の煮物、焼き物と順調に懐石は進んでいきしばらく場が和んだのを見計らって亭主である俺はこの場を離れるのが基本。

「それでは私は水屋で相伴させていただきますので何かございましたらお手をお鳴らしくださいませ」

そう言って茶道口から出ようとしたらまた爺さんが声をかける。

「ご亭主もこちらにお持ち出しの上ご一緒にいかがかな?」
「申し訳ございません。私は用がございますので・・・」

ここで亭主が断るのも基本。それなのにっ!

「何の用があおりかな?水屋ではあまり賑やかなことはせん方が宜しいぞ?我々もここに居りにくくなりますからなぁ・・・」
「・・・そのような事はございませんよ。まだ酒もお出ししておりませんがもしや既にお飲みですか?」

「いやいや、そのような事はしておりませんよ!酒を飲んでから茶席に来るような無粋なことは致しません。それとも、儂をそのような人間だとお思いか?」
「・・・これは失礼致しました。では、しばらくの間お寛ぎくださいませ」

「やはり儂の誘いを断って水屋に引き籠もりますかな?」
「私にはこの後の用がございます、と申し上げました。お許し下さいませ」


つくしに落ち着けと言った手前、俺がキレる訳にはいかない・・・必死に感情を抑えて静かに襖を閉めたあとで畳の上についていた手で拳を作った!殴れるもんなら殴りたい・・・!

「総二郎・・・どうかしたの?」

ハッとして振り向いたら不安そうな顔したつくしが立ってる。
今まで露地と蹲踞の掃除に行ってたのか・・・手には待合で使った盆を持っていた。

「いや、大丈夫だ。この後も懐石の後半だから最後の菓子の準備だ。頼んだぞ・・・つくし」
「はい、わかりました」

懐石後半、酒を酌み交わして一通りの食事は終わり。
最後に縁高に黒文字を添え、出した菓子はこの季節の花、紫陽花の形をしたもので同じく紫陽花の葉に乗せて出した。


「どうぞお召し上がりのうえ、腰掛け待合へ・・・」
「後座のご用意がととのいましたら鳴り物にてお知らせ下さるかの?」

「そのように・・・」


これで初座終了・・・爺さんの少々羽目を外した質問には頭にきたが俺がこのぐらいで怒って席を立つとでも思ったのか!
俺はこの茶事に自分の将来賭けてるんだからな・・・!

誰が爺さんの手に乗るかってんだ!


「総二郎、お疲れ様でした。大丈夫だったの?思ったより説明が多かったわね」
「・・・いや、それほどでもない。俺がどのぐらい落ち着いて茶席を進められるか観察してんだよ。・・・ってか、俺の師匠は爺さんだから俺の茶席が不味かったら恥をかくのは爺さんだけどな!」

「うん、この後も頑張ろうね!」
「・・・その前に元気分けて?」


こんな事してる場合じゃねぇっての!
誰もいない水屋の隅でつくしを抱き締めてキスして・・・少し自分の気持ちを鎮めてた。



sadou20.jpg


今日は面白かったので羽箒について。
↓これが縞梟の羽箒です。釜の蓋や風炉を清めるときに使います。
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↓これが白鳥の掃込。畳の上とかの座掃きです。
yjimageW9CY9MMV.jpg

↓これが座箒の鷲の羽。これも座掃き。このように真ん中に中心の筋があるものを双羽と言います。
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↓これが最高級品と言われてる青鸞せいらんの羽箒・・・1本40万ぐらいですって(笑)
yjimageF079UNQL.jpg

↓右側と左側が幅の違うものは右羽、左羽と区別します。
yjimageCNPB6GFM.jpg

↓羽箒使用中
yjimageYH9E7T6H.jpg

↓座箒使用中
yjimage78PERVWB.jpg


本文中の”鳴り物”とは銅鑼です。これを鳴らして後座が準備できたことを知らせます。
yjimageRJPNVDGJ.jpg
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2018/06/20 (Wed) 12:49 | EDIT | REPLY |   
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2018/06/20 (Wed) 17:01 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

総ちゃんの茶事、始まりました!
とことん遊ばれておりますが。爺さんねぇ・・・この爺さんも最後はちょっと変わるかもよ?楽しみにしててくださいね。

あの羽はね、「せいらん」って読むんですって。ふりがな打てば良かった。ごめんなさいね。
1本約40万。2本で80万・・・流石の桐箱入りです。でも、掃除道具です(笑)

なんだかなー・・・茶道って感じですよね。
雑巾じゃいかんのかいっ!っておもうよね。

うん、ここで既に茶道に向いてないってわかりますよね。

で?夜の充電は・・・ないって!
言われたら書くって思ってるな?(笑)・・・どうしよう。

2018/06/21 (Thu) 00:23 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

わんこ様、こんばんは。

えーと(笑)
昨日の総二郎がカッコ良かったのは認めます。はい、格好良かったですね!
で、私の話の総ちゃんとの・・・(笑)すみません、我が家の総ちゃん、かっこ悪くて(笑)
今の総ちゃん、ギャグですから比べてやらないで・・(笑)

色んなお部屋で格好良く、色気バリバリで書かれてるからいいんですよ。
我が家の総ちゃんは3枚目で♥

あぁ・・・類も3枚目によくなりますよねぇ。


はははっ!格好いいのは確かに苦手です。
書いてみたいんですけどねぇ、どうしてもギャグ系になるんですよね。

次回はめっちゃシリアスにしたくて頑張ってるんですが・・・出来るのかしら?


茶事のシーンは長いんで面白くないとは思うんですがもう少しでエンドです。
どうぞ宜しくお願いします。

2018/06/21 (Thu) 00:30 | EDIT | REPLY |   

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