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後座は濃茶点前、薄茶点前と茶の時間。
今まで懐石をしていた茶室を一新する。そのために客達は1度腰掛け待合まで戻り、亭主が銅鑼を鳴らして合図するまで待つ。
この間に俺は掛け物を外し、茶花に変える。

爺さんが気にしていた座箒で畳を清め、点前座に水差し、茶入れを準備して銅鑼を鳴らす。
頃合いを見計らって爺さん達が入ってくるから、ここでも躙戸に手掛かりを開けて水屋に下がる。

「つくし、詰が入ったら腰掛待合にあるものを全部下げろ。そのあとに蹲踞に水をはって柄杓は水屋に戻せ。わかるか?」
「はい、大丈夫です。そのあとは御簾上げね?」

「そうだ。濃茶点前が始まってすぐに・・・任せたぞ」
「はい。わかりました」


その後始まった後座の濃茶点前。
ここは常日頃からやっていることだから慌てることもなく静かに点前は進んだ。

爺さんが食い入るような目で俺の手先を見つめてる・・・ここは流石に前家元だから後継者の所作は気になる所だろう。その目に負けないように冷静に、誰も言葉を出さない時間が流れた。

正客の爺さんが茶を口にして次客に回したところで会話が始まる。
今度は何を聞いてくる気かと少々ドキドキしていた。絶対に真面目なことを聞いてきそうにない・・・また、俺をイラッとさせる言葉が出るんじゃないかと思うと表に出さないつもりでも眉間に皺が寄ってる気がした。

「本日の茶碗は何処のものでしょうかな?」
「はい。本日は初代長次郎の黒楽茶碗でございます。どうぞ後でご覧下さいませ」

「ほう・・・初代作を。なかなか良い服加減じゃった」
「・・・は?」

慌てて爺さんから視線を外してしまった!まさかここで褒め言葉のようなものが出るとは思わずに、何か粗探ししてくると思ったからだ。今度はそういう手に出たのか!・・・チラッと爺さんをみたらニヤッと笑いやがった。
そしてここで茶花について説明を求められ、夏椿の話を少しだけする。

「これはまた涼しげな花じゃ。良い感じで生けられましたな・・・葉が多過ぎるわけでもなく、少ないわけでもなく・・・自然の庭で見ているような枝振り、見事です」
「ありがとうございます。この時期は花も宜しいが蕾の多い時期・・・こちらのお庭で綺麗に咲いておりました故」

「この花入れは何じゃな?」
「こちらは辻村先生作の信楽筒でございます」


なんとか濃茶点前を終え、後炭手前も終わり最後の薄茶点前・・・ここに入る前に水屋ではつくしが干菓子の準備を進めていた。
今日の干菓子は菖蒲と空豆を象ったもの。この時期の茶席の干菓子の代表だ。

つくしはそれを綺麗に器に盛り付けて待機していた。

濃茶の時と違い薄茶では柄物の茶碗を使うことが多い。今日は京焼のもので紫陽花の絵が施されているものを用意していた。
それについても少しだけ話をしたがこの席では至って真面目、爺さんが茶化してくることはなかった。
全員の茶が終わり、希望があれば続けて点てていく。亭主の方から茶の終わりを告げることをしないのがルールだ。正客のみがこの茶席の最後を決めることが出来る。

「それではどうぞお仕舞い下さい」
「はい、お仕舞いに致します」


これが茶事最後の挨拶。
この後退出時には1人1人と簡単な言葉を交わす。

「・・・なかなか良く修行されておられる様子、いい茶席でしたな」
「恐れ入ります。幾分粗相がございましたがお許しくださいませ」

「これからも精進し、良い茶を点てられよ」
「はい、努力致します。これからもご指導くださいませ」

「うむ、お見送りはご無用じゃ」
「都合によりまして・・・」

普段の茶事ならない会話だがここではいきなり師匠から弟子への言葉に変わった。
それでも茶席の方は満足したのか?気持ち悪いが嬉しそうに笑った気がするのは気のせいか?

3人共が躙戸から出て外に立っているときに、亭主の俺は躙戸の手前でその姿が見えなくなるまで見送る。そして見えなくなってから全身の力がその場で抜けた・・・。


「・・・終わった。マジ・・・疲れた」

急いで水屋に行くとそこではつくしも疲れて座り込んでいた。道具類は全部綺麗に片付けられていて俺は何もしなくて良さそうだ。つくしの場合は精神的緊張によるものだろうが、実はこの茶席の真横で超静かに作業をするのはすげぇ疲れる。表に出ないだけでその疲労はかなりなものだ。

座り込んでる真横に行って、俺もしゃがみ込んでつくしと目線を合わせた。

「お疲れさん、大丈夫か?」
「うん・・・ねぇ、上手くいったの?」

「あぁ、もちろん!茶の方は爺さんも満足したらしいぜ?そこはほら、俺だから!」
「・・・ははっ、そうなんだ。良かった・・・」

それだけ言うと俺の胸にポスッと倒れてきた。


初めての茶事がいきなり半東だなんてこいつだけだろうな。
しかも西門流前家元が客・・・ある意味では最高の舞台だけどそんなことはつくしにはまだ理解出来ないだろう。

「ありがとう、つくし。助かったよ」
「ホント?でも色々とやっちゃったからね・・・家元夫人に怒られるかな?」

「ははっ!ありゃ爺さん達が悪いんだ。俺が説明してやるよ」
「頼むわ・・・」


************


この後、俺達は竹中さんにだけ挨拶して爺さんには会わずに一乗寺の屋敷を出て別邸に戻った。
迎えに来た和真にでさえもう言葉をかける元気がなかったつくしは車に乗り込んだ途端倒れ込んで、俺はこいつの頭を膝の上に乗せて支えてやった。

「どうしたんですか?具合が悪いのですか?」
「いや、疲れただけだ。心配ねぇよ。一晩寝たら良くなるだろう」

「総二郎様が寝かせてあげないからでは?」
「・・・今日は寝かせるから黙って運転しろ」


別邸に戻ったら志乃さんが心配そうに門の前に立っていて、車を見るなりすぐ横に走り寄って来た。そして車内で倒れてるつくしを見て驚いていた。

「まぁ、牧野さん!どうしたんです?何があったの?」
「・・・ただいま帰りました。すみません・・・」

「え?なんでいきなり謝るの?総二郎様、何があったんですか?」
「いや、緊張しすぎたんだろう。特別何も起きちゃいねぇから大丈夫。志乃さん、1度つくしを横にさせるから床の準備してやって?」

「わかりましたわ!」

車から降りたらすぐに俺が抱きかかえてやって、つくしは片腕だけ俺の首に回して完全ダウン。そのまま俺達の部屋に連れて行った。志乃さんがすぐに布団を敷いてくれていたから1度そこに降ろしてから着物を脱がせてやる。

「おい、着物脱ぐから少しの間立っとけ。お前は何もしなくていいから」
「ふん・・・わかった・・・」

「倒れんなよ?まだ明日があるんだからな。今度はお前の番だからな、つくし」
「うん・・・お腹空いた」

「は?腹減ったのか!」
「・・・だってお昼ご飯食べてないもん」

なんだ、そんなことか!って思ったけど、とにかく急いで帯を緩めて着物を脱がせた。そして楽にさせるためにワンピースを着せてやったらすぐにバタン!と布団の上に倒れ込んだ。
腹も減ってるんだろうけどそれほど本番は疲れたか・・・そう思うと申し訳ないような気がしてくる。

西門って家に入るためとは言えこんな辛い思いをさせて・・・。


すーっと寝てしまったからそのままにして、俺も着物を着替えた。
志乃さんに夕食は俺達の部屋で2人でとると伝えたが、その時「本当に何もなかったのか」と心配するから「俺の茶席だから問題ないって」、そう言うと納得はしていた。

そして本邸にも連絡を入れた。
親父は外出してたからお袋と話したが、ここではつくしに起きたことを少しだけ説明したら激怒してやがった。

『ホントに意地が悪いんだから!昔からそうなのよね、ちょっと失敗したらすぐにそこをつついてくるの!そして何年もよ?あの時はあの時はって・・・こっちはどの時かわかんないってのよ!』
「お袋・・・俺、疲れてるからその話は今度でいいか?つくしも倒れてるから側にいたいし」

『ああっ!そうね、そうそう・・・総二郎さん、今日はお止めなさいよ?明日、お爺さまの前で欠伸でもしたらいけないから』
「・・・1回なら・・・」

『我慢なさい!』

報告したんだか注意されたんだかわかんない電話はとっとと切って、また自分たちの部屋に戻った。


子供みたいな顔で寝息たてて・・・ハリエンジュで刺した指が赤くなってる。明日、この傷が痛まなきゃいいけどな、って思いながらそこにキスした。

それから数時間・・・どうやら俺までがつくしの布団の横で居眠りしてたみたいで気がついたら身体の上にブランケットが掛けられていた。つくしも同時に目が覚めたみたいでぼーっとした目で俺のことを見てる。

「どうだ?少しは疲れがとれたか?」
「あれ?私・・・寝ちゃったの?」

「くくっ!・・・あぁ、車の中でダウンしたよ。腹が空いてるんだろ?飯、食おうか?」
「・・・うん。お腹空いた。総二郎・・・起こして?」

甘えたように手を伸ばすから、それを掴んで身体を起こしてやる。
起き上がったら「うーん!」と大きく背伸びしてニコッと笑った。くくっ・・・元に戻りやがったな!


この後飯食って、風呂に入って、明日のお復習いをして・・・布団に入ったのは随分早かった。
2人分敷かれた布団だけどもちろん使うのは1つだけ。


「手だけ繋ぐ夜も久しぶりだな・・・」
「ふふっ、そうだね。だって許したら明日起きられないもん」

「違いねぇな・・・」


明日は今日のお前のように俺が緊張すんだろうな。
楽しみのような、怖いような・・・ただ、わかってるのは何があってもこの手を離さないって事だけだ。




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2018/06/21 (Thu) 14:43 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

総ちゃんは終わりましたねぇ・・・今からはつくしちゃんです。
これは結構大変かもです!応援宜しく!

家元夫人(笑)あの時あの時ってどの時よっ!・・・お気に入りです(笑)

あはは!消されちゃったの?リアルで見なきゃ!
って言う私は類の時と総ちゃんの時しか見ていません。

松田君、スローでしたねぇ(笑)総ちゃん、あんなイメージだっけ?
私もね、類の話で弓道書いたでしょ?その後だったからびっくりしてねー(笑)弓道、格好いいよね・・・総ちゃんは射手座だし。
あ、肌抜きのことね?ぎゃーっ!!って思いました。

出してるよーっ!!でも、着るのも早かった。まぁ、いいけど。

髪はどうなんでしょう・・・前の方より後ろから見たらタラちゃん思い出させるほど刈り上げてませんでした?
いや、いいんだけど(笑)

壁トン(笑)確かにそんな感じ。

まぁ全体的にスローモーションでしたね・・・私の総ちゃんはめっちゃ早く走ってつくしを探しますがね。
比べるな?はい、すみません(笑)


2018/06/22 (Fri) 00:11 | EDIT | REPLY |   

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