隣の部屋の彼 (63)
今までで一番酷い雷の音で牧野はまた悲鳴をあげて俺の胸に飛び込んで来た!
それはいいんだけど俺の身体がずぶ濡れで、そんなので牧野を抱き締めたらこの子が濡れてしまう・・・そう思ったけど牧野の方がすごい力でしがみついてて、思わず濡れた腕を牧野の背中に回した。
突然吹いた風が部屋の窓ガラスを割りそうな勢いで、その音にも驚いて耳を塞いだ。
そんなに怖いんだ・・・なんだか意外。
いつもの元気のいい牧野からは想像できない怯え方で、でもそれがすごく可愛くて離すことが出来なかった。
「やだやだ、雷嫌い・・・!ホントにやだ!怖いよぉ!」
「大丈夫だって。俺がいるから」
またピカッと光って部屋の中が明るくなると「きゃあぁっ!」って声を出しながら濡れてる俺の服に顔を埋めた。もう全身震えて可哀想なぐらい・・・だけどどうしてもこの服が濡れてることが気になる。
だから音が少し治まってから牧野の身体を離した。
「あのさ、悪いんだけど乾いたバスタオル・・・まだある?」
「え?あぁ・・・そうか、花沢類びしょびしょだよね、ごめん・・・私がしがみついてから。少し待って・・・でも、今は鳴らない?」
「うん、ちょっと静かになったね。でもまだ雨がすごいから鳴ると思うけど・・・」
「やだぁ!そんなこと言わないでよーっ!怖くて向こうに行けないーっ!」
「そんなバカな。いきなり落ちたりしないでしょ、部屋の中なんだから。・・・わかった、一緒に行くよ」
真っ暗な部屋の中を牧野の手を持ってバスルームの方に移動した。
何処かに懐中電灯はあるって言うけどそれを探すことの方が無理みたい。腰も曲げて俺に縋って泣きそうになって・・・いや、泣いてるのかも知れないけど、そのぐらい怖がってる。
やっとバスタオルが見つかって俺に渡してくれたけど、実は服が脱ぎたかっただけ。流石に全部は無理だけどせめて濡れ方が酷いTシャツはどうにかしないと・・・。
「牧野、悪いけど上を脱ぐから少し離れて?」
「・・・え、脱ぐ?」
「だってこれだけ濡れてるからさ。それにしがみついたらあんたも濡れるんだけど。わかってる?あんた、濡れてない?」
「え?あっ・・・ホントだ!気がつかなかった」
「・・・俺はここで脱ぐからあんたは向こうで着替えたら?暗いけどなんとか探せない?」
「わ、わかった・・・!」
牧野の部屋のバスルームで上着を脱いでバスタオルを羽織った。ジーンズも少しは濡れてるけど・・・そういうわけにもいかないし、玄関からも出られない。どういう風に調べてるかわからない以上、監視カメラに半裸で映るわけにはいかなかった。
牧野が何かゴソゴソしてるけど着替えがすんだのかどうかがよくわからなくて声を掛けてみた。
「もう着替えた?そっち・・・行っていい?」
「あっ!うん、えと・・・うん、大丈夫!」
「じゃあ部屋に入るよ?」
一応断りを入れてからゆっくり暗闇を歩いた。途中で何かガサガサと当たるものは何だろう・・・?
何かを踏んだかも?なんて思いながら慣れない部屋を歩いて牧野が踞ってる所まで行った。
まだ雨が酷い・・・意外と長い停電にビクビクしながら牧野は膝を抱えてたから「おいで」って言うとすぐ横まで寄ってきた。
***********
「雨・・・こんなに酷くなると思わなかった。一晩中かな・・・嫌だなぁ」
「鳴り止むまでここにいてあげるよ。1人じゃなかったら平気でしょ?」
私の右肩には花沢類の左腕が当たってる。
ベッドを背もたれにして2人で座ってて、まだ停電は回復してなかったから真っ暗なまま。肩からバスタオル羽織ってる彼が寒いんじゃないかと心配だったけど流石に男性用の着替えなんてない。
触れないけどジーンズも濡れてるなら冷たいんじゃないかしら・・・温かいものでもって思うけどオール電化みたいなこの寮では停電になると何の設備も使えない。
花沢類が来てくれて30分ぐらい経った時、またすごい雷が鳴って耳を塞いだ。
クスクス笑う隣の彼はそんな私を面白いって言う・・・こっちは真剣に怖がってるのに!
「そんなに嫌いなんだ。光る方?それともこの音?」
「両方・・・子供の時の怖い思い出が今でも頭にあるから・・・」
「子供の時の怖い思い出?何かあったの?」
「うん・・・私の家、貧乏だったから小さい頃はボロボロのアパートに住んでたの。そこはね、こういう天気の時は風と雨の音がこんなもんじゃないの・・・壊れるか吹き飛ぶんじゃないかってぐらい揺れたりするのよ。それが怖くていつもお母さんにしがみついてたんだけど・・・」
「へぇ・・・そうなんだ」
「私が5歳ぐらいの時かなぁ・・・目の前の家の木に雷が落ちてね、火事になったことがあってさ。雨が降ってるのになかなか消えなくてどんどん火が強くなってね・・・目の前が真っ赤になって怖かった。それを思い出すのよ」
家が燃えるだなんてテレビの中の話のような気がしてて現実感がなかったのに、目の前でそれを見てしまったショック。
家の中の人が泣き叫んで飛び出てきて、消防車がすごい音で何台もやってきて、その家の人達をうちの両親が慰めて・・・その時の光景が雷を見る度に蘇ってくる。
「まだ風がすごいね・・・」
「ほんとだね。そろそろ電気が回復しても良さそうなのに・・・」
そう言った時、同時にやってきた稲光とドーン!という雷の音!!
「きゃああぁーっ!また来たーっ!!」
「牧野!」
気が付いたら花沢類の胸にしがみついてたけど・・・よく考えたらこの人、脱いでるんだった!
素肌の彼の胸に自分の顔が当たってる・・・雷も怖かったけどこの状況に驚いて離れようとした。だけど花沢類の手が急に私の身体を包んで逃げられなかった。
「あっ!あの・・・ごめんなさい!つい、ホント・・・ごめん!」
「・・・いいからこのままで」
「でも、あの・・・」
「大丈夫、こうしてたら怖くないから」
羽織ってたバスタオルが床に落ちたのがわかった。どうしよう・・・私、こんな状態の彼に抱かれてるんだけど!
耳が彼の胸に当たってるから心臓の音が聞こえる。その規則正しい音は私を安心させてくれるんだけど、同時に自分の心臓はすごい速さで高鳴った。
あれ?・・・なんだか力が強くなってる?
花沢類に恋してるって気がついたばかりだったからこのシチュエーションはかなりの威力がある。それなのにこんなにも強く抱き締められたら勘違いしちゃうよ?
「花沢類・・・少し痛い・・・」
「そう?このぐらいがいいと思うんだけど」
「いいと思うって、どうして?」
「どうしてだろ。俺がこうしたいから?」
「バスタオル・・・掛けなきゃ寒いよ?」
「寒くない。あんたがここにいるから・・・」
少し見上げたら彼の目が私を見てるのがわかった・・・真っ暗だったけど、外からの稲光でその目が光ったから。
そしてゆっくり私に近づいてきて、私は動けなくなった。
次の雷が鳴ったとき、彼の手が私の頬を優しく抱え込んで・・・花沢類が私にキスをした。

それはいいんだけど俺の身体がずぶ濡れで、そんなので牧野を抱き締めたらこの子が濡れてしまう・・・そう思ったけど牧野の方がすごい力でしがみついてて、思わず濡れた腕を牧野の背中に回した。
突然吹いた風が部屋の窓ガラスを割りそうな勢いで、その音にも驚いて耳を塞いだ。
そんなに怖いんだ・・・なんだか意外。
いつもの元気のいい牧野からは想像できない怯え方で、でもそれがすごく可愛くて離すことが出来なかった。
「やだやだ、雷嫌い・・・!ホントにやだ!怖いよぉ!」
「大丈夫だって。俺がいるから」
またピカッと光って部屋の中が明るくなると「きゃあぁっ!」って声を出しながら濡れてる俺の服に顔を埋めた。もう全身震えて可哀想なぐらい・・・だけどどうしてもこの服が濡れてることが気になる。
だから音が少し治まってから牧野の身体を離した。
「あのさ、悪いんだけど乾いたバスタオル・・・まだある?」
「え?あぁ・・・そうか、花沢類びしょびしょだよね、ごめん・・・私がしがみついてから。少し待って・・・でも、今は鳴らない?」
「うん、ちょっと静かになったね。でもまだ雨がすごいから鳴ると思うけど・・・」
「やだぁ!そんなこと言わないでよーっ!怖くて向こうに行けないーっ!」
「そんなバカな。いきなり落ちたりしないでしょ、部屋の中なんだから。・・・わかった、一緒に行くよ」
真っ暗な部屋の中を牧野の手を持ってバスルームの方に移動した。
何処かに懐中電灯はあるって言うけどそれを探すことの方が無理みたい。腰も曲げて俺に縋って泣きそうになって・・・いや、泣いてるのかも知れないけど、そのぐらい怖がってる。
やっとバスタオルが見つかって俺に渡してくれたけど、実は服が脱ぎたかっただけ。流石に全部は無理だけどせめて濡れ方が酷いTシャツはどうにかしないと・・・。
「牧野、悪いけど上を脱ぐから少し離れて?」
「・・・え、脱ぐ?」
「だってこれだけ濡れてるからさ。それにしがみついたらあんたも濡れるんだけど。わかってる?あんた、濡れてない?」
「え?あっ・・・ホントだ!気がつかなかった」
「・・・俺はここで脱ぐからあんたは向こうで着替えたら?暗いけどなんとか探せない?」
「わ、わかった・・・!」
牧野の部屋のバスルームで上着を脱いでバスタオルを羽織った。ジーンズも少しは濡れてるけど・・・そういうわけにもいかないし、玄関からも出られない。どういう風に調べてるかわからない以上、監視カメラに半裸で映るわけにはいかなかった。
牧野が何かゴソゴソしてるけど着替えがすんだのかどうかがよくわからなくて声を掛けてみた。
「もう着替えた?そっち・・・行っていい?」
「あっ!うん、えと・・・うん、大丈夫!」
「じゃあ部屋に入るよ?」
一応断りを入れてからゆっくり暗闇を歩いた。途中で何かガサガサと当たるものは何だろう・・・?
何かを踏んだかも?なんて思いながら慣れない部屋を歩いて牧野が踞ってる所まで行った。
まだ雨が酷い・・・意外と長い停電にビクビクしながら牧野は膝を抱えてたから「おいで」って言うとすぐ横まで寄ってきた。
***********
「雨・・・こんなに酷くなると思わなかった。一晩中かな・・・嫌だなぁ」
「鳴り止むまでここにいてあげるよ。1人じゃなかったら平気でしょ?」
私の右肩には花沢類の左腕が当たってる。
ベッドを背もたれにして2人で座ってて、まだ停電は回復してなかったから真っ暗なまま。肩からバスタオル羽織ってる彼が寒いんじゃないかと心配だったけど流石に男性用の着替えなんてない。
触れないけどジーンズも濡れてるなら冷たいんじゃないかしら・・・温かいものでもって思うけどオール電化みたいなこの寮では停電になると何の設備も使えない。
花沢類が来てくれて30分ぐらい経った時、またすごい雷が鳴って耳を塞いだ。
クスクス笑う隣の彼はそんな私を面白いって言う・・・こっちは真剣に怖がってるのに!
「そんなに嫌いなんだ。光る方?それともこの音?」
「両方・・・子供の時の怖い思い出が今でも頭にあるから・・・」
「子供の時の怖い思い出?何かあったの?」
「うん・・・私の家、貧乏だったから小さい頃はボロボロのアパートに住んでたの。そこはね、こういう天気の時は風と雨の音がこんなもんじゃないの・・・壊れるか吹き飛ぶんじゃないかってぐらい揺れたりするのよ。それが怖くていつもお母さんにしがみついてたんだけど・・・」
「へぇ・・・そうなんだ」
「私が5歳ぐらいの時かなぁ・・・目の前の家の木に雷が落ちてね、火事になったことがあってさ。雨が降ってるのになかなか消えなくてどんどん火が強くなってね・・・目の前が真っ赤になって怖かった。それを思い出すのよ」
家が燃えるだなんてテレビの中の話のような気がしてて現実感がなかったのに、目の前でそれを見てしまったショック。
家の中の人が泣き叫んで飛び出てきて、消防車がすごい音で何台もやってきて、その家の人達をうちの両親が慰めて・・・その時の光景が雷を見る度に蘇ってくる。
「まだ風がすごいね・・・」
「ほんとだね。そろそろ電気が回復しても良さそうなのに・・・」
そう言った時、同時にやってきた稲光とドーン!という雷の音!!
「きゃああぁーっ!また来たーっ!!」
「牧野!」
気が付いたら花沢類の胸にしがみついてたけど・・・よく考えたらこの人、脱いでるんだった!
素肌の彼の胸に自分の顔が当たってる・・・雷も怖かったけどこの状況に驚いて離れようとした。だけど花沢類の手が急に私の身体を包んで逃げられなかった。
「あっ!あの・・・ごめんなさい!つい、ホント・・・ごめん!」
「・・・いいからこのままで」
「でも、あの・・・」
「大丈夫、こうしてたら怖くないから」
羽織ってたバスタオルが床に落ちたのがわかった。どうしよう・・・私、こんな状態の彼に抱かれてるんだけど!
耳が彼の胸に当たってるから心臓の音が聞こえる。その規則正しい音は私を安心させてくれるんだけど、同時に自分の心臓はすごい速さで高鳴った。
あれ?・・・なんだか力が強くなってる?
花沢類に恋してるって気がついたばかりだったからこのシチュエーションはかなりの威力がある。それなのにこんなにも強く抱き締められたら勘違いしちゃうよ?
「花沢類・・・少し痛い・・・」
「そう?このぐらいがいいと思うんだけど」
「いいと思うって、どうして?」
「どうしてだろ。俺がこうしたいから?」
「バスタオル・・・掛けなきゃ寒いよ?」
「寒くない。あんたがここにいるから・・・」
少し見上げたら彼の目が私を見てるのがわかった・・・真っ暗だったけど、外からの稲光でその目が光ったから。
そしてゆっくり私に近づいてきて、私は動けなくなった。
次の雷が鳴ったとき、彼の手が私の頬を優しく抱え込んで・・・花沢類が私にキスをした。
