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「小次郎お爺ちゃん?」

つくしがそう言って固まった。
俺と爺さんはそんなつくしを見て固まった。

小次郎爺ちゃんって誰だ?この人は佐々木武蔵って天澤家縁の人だけど。何処から小次郎爺ちゃんって名前が出たんだ?

・・・って、それよりも今は茶会の挨拶だろうがーっ!
早く我に返れ!って睨むのにつくしは両手をついたまま詰客の佐々木さんの顔から目が離せないようだ。どうでもいいが、これから爺さんが挨拶するんだから正客の方を向けーっ!

「コホン!」と俺が咳払いをしたらハッとつくしが我に返って俺を見た。俺じゃない!爺さんを見ろーーっ!!


「お話ししても宜しいかの?お嬢さん」
「はっ!あ・・・はい、申し訳ございません!どうぞ!」

『どうぞ』ってなんだ!既にここでテンパってどうする!・・・落ち着け、落ち着くんだっ!つくしーっ!

「その前に・・・総二郎、少し落ち着かんかい!鬱陶しい・・・その目をバチバチさせるのは気になるからやめんか!」
「は・・・申し訳ございません」

なんてこと・・・次客の俺はこんな場面で口を開くことなんてないはずなのに・・・!
慌てて爺さんの方に身体を向けてるけどまだ目が泳いでる。俺も知らないこの佐々木さんを見て、なんでつくしが反応するんだ?チラッと横目で佐々木さんを見たけど何食わぬ顔で極普通に前を向いてるだけ・・・この人は特につくしを見て驚いてる風ではなかった。

「本日は貴女の初めての茶会とお聞き致しましたが、それにお招きいただいてありがとうございます」
「はい、本日は足をお運びいただきありがとうございます」

「して・・・本日の掛け物、どうぞお読み上げを」
「は、はい・・・お読み上げ・・・はい!」

このジジィ!よく使う代表的な掛け物をわざわざ読み上げなくてもいいだろう!わざとつくしを試してるんだろうが、こっちはそれ1本で練習してきたんだから問題ねぇよ!・・・って、あれ?

つくしが正座したまま膝の上に拳をつくって掛け物を睨んでる・・・まさかと思うが忘れたとか言うなよ?

「やま・・・これやま、みずこれ・・・みず、でございます」

「どういう意味ですかな?」

「・・・はい、山はどう頑張っても山でしかなくて、水もやっぱり水以外のものになれなくて、でもこの2つが仲良く自然界には存在していて上手く成り立っております。なので人間も同じく、みんな違ってみんないい・・・じゃなくて、人を羨ましく思ったりしないで自分は自分、他人は他人、そのままの存在を認めあってこそ幸せになれます・・・という意味で・・・ございます」

・・・いや、そうだけどよ。そこは練習と随分違うんじゃねぇか?
言わんとすることはわかるけど言葉遣いがヘンテコになってるのはなんでだ?!

「ありがとう。なかなか面白い解釈ですな。では、本日の花は何ですかな?」

「はい、本日の花は・・・鷹の羽ススキと鷺草、それに紫陽花でございます」
「梅雨時ですからなぁ。で、花入れは?」

「花入れは・・・島田先生作の透かし籠になります」

「この紫陽花の名は何でしょうな?優しい色合いで美しいですな」
「こ・・・これは額紫陽花の・・・伊予柑、じゃなくて伊予桜でございます」

「おや?伊予桜は山紫陽花の薄桃色の花と思いますが・・・伊予絞りですかな?」
「あ、そうそう!そうでございます」


がっくり・・・どうして質問した客側に答えを言わせるんだ!あれだけ教えたのに・・・。
そしてやはり詰の佐々木さんはまったく表情を変えない・・・すげぇ気になるんだけど。

そしてこの後に茶菓子を出したが、爺さんには問題なく出しだしたくせに俺には変に緊張して菓子器を傾けたもんだから危うく菓子が器から落っこちる所だった!
慌てて器を支えたらつくしの手に触れてしまって、それに驚いて手を引っ込めるから菓子が器の上をぴょん!と飛んだ。

遊んでんじゃねぇからな・・・?ジロッとつくしを睨むと真っ青な顔して下がりやがった!
そして佐々木さんの前に出すときにはやっぱり不思議そうな顔をしてる。佐々木さんは涼しい顔して菓子器を受け取ってたけど。

そして薄茶運び点前が始まった。


**********


なんで?どうして小次郎お爺ちゃんがそんな所に座ってんの?

東京で会ったときも確かに本邸前だったけど西門に来ただなんて言わなかったよね?この前京都駅で会った時も西門流は知ってるって言ったけどこの茶会に出るだなんて言わなかったよね?
茶道は大変でしょう?なんて聞いてたけど、この家の関係者だなんて一言も言わなかったよね?

私は小次郎お爺ちゃんが末席にいるってだけでパニックになり、それまで覚えたことが全部吹き飛んだ。
掛け物のこともお花のことも・・・薄茶点前のことも。

だから総二郎がすごく怒ってるのがわかるけどどうしようもなかったの・・・だって、何が起きたかわかんないんだもの!


これまでに起きたこと、全然覚えてないけどお菓子まで出したら1度水屋に下がって道具運びの準備。だけど、まだドキドキしてて手が震える。
このままだと大失敗してこれまでのお稽古が無駄になる。それだけはダメだ・・・!って気合いを入れ直そうと自分の顔をパンパン叩いた!

「コホン!」・・・あっ、総二郎が咳払いした。この音が茶室に聞こえたのね?・・・当たり前か!

よし・・・これ以上失敗するわけにはいかない。
襖を前にして深呼吸してから静かに開けた。


まずは一礼、次に水指の下のほうを指をそろえて両手で持つ。
一畳を六歩で歩いて、道具畳にきたら両手で静かに水指を風炉の真横に置く。立って右回りで水屋に戻る。
次に右手で茶器を、左手に茶碗の左横を持ち、茶器は茶碗よりもやや高め。茶碗を帯の高さに持って左足から入り、水指の前に座って、茶器・茶碗を水指の前にそろえて置く。
最後に建水と柄杓を持ち、茶道口の前に斜めに座って客にお尻を見せないように建水をひざ前において襖を閉める。

なんとか運び出しは止まらずに動けた。
時々総二郎が覗き込むように見てる気がするけど、目が合ったらまた全部忘れちゃうから無視した。

居ずまいを正して、これから道具を清める。
帯から帛紗をとって、帛紗捌きをしようとしたら緊張して勢いを付けすぎ、帛紗がぽん!と飛んだ。あれ・・・?
「コホン!」と総二郎の何回目かの咳払い。それも無視して何もなかったかのように帛紗を拾ってもう1回帛紗捌きをした。今度は上手くいったからよっしゃ!とばかりに手をグッと握ったら何処かからプッ!と笑い声が・・・!

はっ?とお客様側を見たけど引き攣ってる総二郎の両隣は特別変な顔はしてなかった・・・誰が笑ったの?

茶筅通しは難なく進んで茶碗を清める所にいくとここではお湯を使う。
万が一ここで失敗したら大声が出るかもしれない・・・だから慎重に進めていたらお湯を茶碗に入れたときにお爺さまが「ハックション!」とくしゃみをして、それに驚いて柄杓を持つ手が緩んで中のお湯がボトッ!と畳に落ちた!!

「うわあっ!」
「コホン!」

今日1番の咳払い・・・怖くて総二郎の方に向けない・・・。


とにかくお茶碗を拭いてお茶を点てる所まで来た。

右手で茶杓をとって右ひざ上でもち、左手で棗を取る。
棗の蓋を開けて茶杓を持ち直し、右手の茶杓でお茶を向こう側から手前に掬って一杓半、つまり2度掬って茶碗にいれる。

お湯を一杓ほど汲んで、半分ほど茶碗にいれ、残りのお湯は釜に戻す。柄杓は置き柄杓で釜の口に乗せ、茶せんをとって茶碗の中に入れると同時に、左手を茶碗に添える。茶碗の中の抹茶を手先でなく腕を動かす気持ちで縦に振ってお茶を点て、最後に「の」の字を書いて茶せんを引き上げ、棗の横に戻す。

はぁ・・・1人分出来た。

思わず背中がぐにゃっと曲がったんだろう、総二郎がまた「コホン!」と・・・。


「風邪でも引いておるのかの?総二郎。一昨日芸者と遊びすぎたんじゃないのかい?朝までじゃったからのぉ」

「・・・なんですって?」
「お爺さま!そのような根も葉もない話を茶席でするのはおやめください!」

今度は私が総二郎を睨んだら、小さくお茶碗を指さして「早く出せ!」って言った。



芸者の話・・・後で聞こうじゃないの、総二郎。




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↓帛紗使用中。表千家は男性は紫色、女性は緋色。(サイズは縦27.5センチ、横28.4センチ・・・微妙の差はなに?)
  女性は茶席に入るときに帯に挟んでいます。

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2018/06/25 (Mon) 12:28 | EDIT | REPLY |   
plumeria  
Re: タイトルなし

さとぴょん様、こんばんは。

緊張の中にもギャグしかない茶会となっております。
ははは、つくしちゃんらしいでしょ?

でも、こういうことってありますよね?
すっごく練習したのに驚くことがあって全部吹っ飛んじゃうこと。

私、これとよく似たことがあったんですよ。

随分前の会社の昇格試験で、5分間スピーチしなきゃいけなかったんです。
その時、とある電機メーカーの住宅設備関連商品部門にいたので、オール電化についてって言うお題で文章考えて毎日スピーチの練習したのね。
当日紙を見て話せなかったから暗記しなくちゃいけなくて。

それなのに試験会場に入って試験官を見たら、その前の日にどんちゃん騒ぎして飲んだ人だったんですよ。
その飲んだ経緯を忘れたんだけど(今となっては)、まさかその人が目の前に座ると思わないから覚えたこと殆ど忘れてね。
しどろもどろで終わったって言う・・・。

でも、完全に落ちたと思ったけど合格してた♥

だから、きっとつくしちゃんもこのぐらいじゃ大丈夫!

総ちゃんの方が心配です・・・落ち着け、総ちゃん!

2018/06/25 (Mon) 22:34 | EDIT | REPLY |   

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